第167話 救出作戦
誤字報告ありがとうございます。
いっその事、歴史に残るくらいの誤字を生み出してみたい。
インド人を右に!
オーフェと俺の肩に乗ったストレアさんの3人でリザードマンの住処に転移して、一直線に長老の部屋に走っていった。そこにはリクとカイに加えて数人のリザードマンと、腰に剣をつけた人も居る。
「もしかしてクウさん?」
「ひさしぶり、だな」
「ダイ殿、ここまで慌てて来たようだが、一体どうしたんじゃね」
「長老様、突然申し訳ありません、今日はお願いがあって来ました」
そうして王都で発生した異常事態と、中に閉じ込められている人の事、一刻を争うので状態異常耐性を持ったリザードマンに協力して欲しいと伝えていく。
「我らも喜んで協力しよう、リク、カイ行ってくれるか」
「わかった」
「まかせろ」
「オレも、行く」
「クウさん、構わないんですか?」
「お前、オレたちの、仲間、助けて、くれた、だから、助ける」
「わかりました、よろしくお願いします」
クウはこの部族で病気が蔓延していたと聞いて、様子を見に来てくれたらしい。そこで話を聞いていた所に、俺が訪ねてきて再会できたとの事だ。リザードマンは集団戦をあまりしないが、連携に長けたこの3人なら狭いダンジョンでも存分にその力を発揮できると長老が教えてくれた。
◇◆◇
長老にお礼を言ってオーフェに再び転移門を開いてもらい、一時的に憶えてくれたダンジョンの近くに戻ってきた。
「「「リッ、リザードマン!?」」」
ダンジョンの近くに居た冒険者や兵士たちに緊張が走る、中には剣に手をかけている者も居るが、こんな場所に突然リザードマンが現れたら仕方がないだろう。
「隊長さん、彼らにも協力してもらえることになりました」
「まさか、リザードマンに知り合いが居たのか?」
「ダイは、オレたちの、恩人、だから、その仲間、助ける」
「彼らは部族の中でも最強の戦士たちです、この非常事態には大きな助けになります」
「凄いな、俺リザードマンは初めて見た」
「俺は以前、遠目で見たことあるが、こんな近くで見られるとは思わなかった」
リクが自分の言葉で説明してくれたおかげで、近くに居た冒険者や兵士たちの緊張状態も解け、口々にその容姿や体の大きさの話をしている。
「リザードマンは状態異常に高い耐性を持っていますので、協力をお願いしました」
「わかった、戦力は多いほどいいので、よろしくお願いする」
「それから全員でこれを身につけて下さい」
俺は精霊のカバンから、午前中にペアリングを済ませた結びの宝珠を取り出して、全員に配っていく。リクとカイとクウにも念のために渡し、腰につけた袋に入れておいてもらう。
「こっ、これだけの数の結びの宝珠が一度に……」
「俺にも聖女様の加護が」
「勇者様や聖女様と同じパーティーに憧れてたんだ、俺」
麻衣が元聖女候補だと知っていた兵士の何人かが、そんな事を言っている。本人は少し恥ずかしそうな顔をしているが、時間も無いしここは我慢してもらう。
少しだけ打ち合わせをして、火力の高い俺たちが進行方向の攻撃担当、近衛隊長の率いる部隊は脇道に居る魔物の討伐と、退路の確保に動いてもらう。逃げ出した冒険者の話だと、教授たちとは最下層で別れているので、邪魔になる範囲の魔物を殲滅して一気に進んでいき、救出後にダンジョン全体をクリアにしていく。
「ダイ、前衛、俺たちが、やる」
「まずは魔法で進路を確保しますので、道が開いたらお願いします」
「わかった、まかせろ」
「アイナ、エリナ、オーフェは、攻撃や防御が手薄な所の支援を頼む」
「わかりました」「……わかった」「了解だよ」
「俺は最高火力の武器を使うから、ウミは風の断層で音を遮断してもらえるか」
「わかったのです、それから怪我の治療と通路を塞ぐ壁も作るのです」
「麻衣も障壁の用意と、通路の遮断を頼む」
「わかりました、ダイ先輩」
「キリエ、ユリーさんとヤチさんを助けるために、その力を使ってくれ」
「うん、キリエがんばる!」
「メイニアさんもお願いします」
「今回は手加減無しでいくよ」
「イーシャ、出し惜しみは無しで行こう」
「もちろんよ」
「シロはユリーさんとヤチさんの気配を全力で探ってくれ」
「わうんっ!」
「ストレアさんも気になる事は何でも言って下さい」
「私のわかる事は全て教えてさしあげますね」
俺は万が一の時のために、魔族界から帰った後に回路魔法で作り直した、4並列ストーンバレットの杖を取り出す。岩の銃弾が音速に近い速度で飛び出すが、ウミが風の精霊魔法で音を遮断してくれるので、ダンジョン内で使っても大丈夫だ。他にも回路魔法で作り直した広域スタンの杖や、時限爆弾の杖を腰に挿しておく。
イーシャは2並列と3並列の杖を取り出し、両手に握る。アイナは疾風を鞘から抜き、エリナは氷雪と氷雨を両手に構え、オーフェは紅炎を腕に装着する。
麻衣は壁魔法と4並列の障壁魔法の杖を取り出し、腰に挿している。いつもは俺の頭の上に乗っているウミも、今回ばかりは少し高い位置に浮いて、全体を見てくれる事になった。
「よし、みんな行こう!」
俺たちのパーティーとリザードマンの3人、そして近衛隊長率いる部隊がダンジョンへと進入して行く。
◇◆◇
入口から見える広場にも魔物が多数いるので、俺は広域スタンの杖を取り出し、その場所から発動する。回路魔法でより効果の高くなった雷が広範囲に降り注ぎ、部屋に居た多数の魔物を気絶させた。
それを確認するとリザードマンの3人が飛び込み、まだ意識がある魔物を次々と倒していく。彼らは手に持った槍や剣だけでなく、強靭な尻尾を大きく振って武器にしている。
「リザードマンがこうして全力で戦っている姿は初めて見たけど、凄いな」
「私たちが見たのは、ダイやアイナちゃんを抱えて移動しながら戦う姿だったものね」
前衛組の3人も部屋に飛び込んで、気絶した魔物を次々と青い光に変え、近衛隊長率いる部隊も脇道から出て来る魔物を切り伏せていく。
複数ある通路を麻衣の壁魔法と、ウミが土の精霊魔法で塞ぎ、進行方向の通路にキリエとメイニアさんが竜の息吹を放って一掃する。
俺は壁魔法を解除してもらった通路にストーンバレットの魔法を撃ち込み、撃ち漏らしをイーシャが氷の矢を2本の杖から発射して倒していく。
「わんっ!」
「ご主人様、この先に魔物溜まりです」
「進行方向だし潰すぞ」
俺は杖を時限爆弾に持ち替え、部屋の前に行く。後ろを飛んで付いて来てくれるウミと一緒に部屋の中を見ると、多数の魔物がうごめいていた。あまり大きくない部屋だし、これなら問題なく殲滅できる。
中央を狙って時限爆弾をセットし、急いで麻衣の近くに戻り障壁を展開してもらう。回路魔法でさらに威力を上げた爆弾が部屋の中で炸裂し、地響きと閃光が入り口から漏れ出し、遅れて砂塵が吹き出してくる。
「殲滅完了だ、次に行こう」
後ろからざわめきが聞こえるが、今は先に進むほうが重要だ。見える範囲の魔物を次々と倒していき、下の階層へと進んでいく。時々叫び声のような耳障りな音が聞こえるが、あれが状態異常を発生させているんだろう。麻衣の耐性スキルと結びの宝珠のおかげで、誰一人として怯えたり不調を訴える様子はない。
次の階層にいくと少し広めの部屋があり、そこには火山ダンジョンで見たカメの突然変異種が居た。あれはかなり硬い甲羅で覆われていて、オーフェのキックでもヒビが入るだけだったな。
「ダイ兄さん、また蹴ろうか?」
「今の俺たちなら、魔法と竜の息吹を集中させたら倒せると思う」
俺とイーシャとキリエとメイニアさんが並んで、一斉に攻撃を開始する。俺の石の弾丸が甲羅を貫き、イーシャの氷の矢も甲羅に深く突き刺さる、キリエの黒い球体とメイニアさんの白い球体も甲羅に穴を開け、その魔物は青い光になって消えた。
残った魔物はリザードマンの3人と、アイナ、エリナ、オーフェ、シロの前衛組が次々と倒していき、広場の確保が終了した。
○○○
近衛隊長に率いられた部隊は、ここまで見てきた光景に唖然となっている。
「隊長、彼らはあんなに強かったのですか?」
「俺も戦っている姿を初めて見たが、これ程とは思っていなかった」
「家にいる時は楽しそうに笑ったり、美味しそうにお菓子を食べている姿しか見てませんが、本気になるとここまで強いとは」
国王の護衛で彼らの家に来た事のある近衛兵の驚きは特に強い。笑顔といつも楽しそうな声であふれる、とても温かい雰囲気の家に住んでいる子供や女性が、圧倒的な戦力を彼らに見せているのだ。
「獣人族の2人が持っている剣には魔法回路が刻まれているみたいだが、一向にマナ酔いする気配が無いなんて信じられない」
「それに、騎士団に1人しか居ない魔法の同時発動が出来るメンバーが2人も……」
「リザードマンがあれほど強かったとは思いませんでした、彼らを見たら刺激しないように立ち去れという意味がやっとわかりました」
「前衛を務める少女や狼の連携や間合いの取り方も、経験豊富な冒険者を彷彿とさせますね」
短時間だがプラチナ冒険者パーティー五輪の煌めきの指導を受け、乾いた砂が水を吸う様にその技術を自分たちのものにしていったが、それを見た兵士たちを唸らせていた。
騎士団や近衛兵に採用される人間は、対人・対魔物の戦闘においても優秀な者達だ、アダマンタイト冒険者と比較しても見劣りしない、戦闘経験や訓練を積んでいる。
その彼らが通路の一つを掃討する間に、ダイたちは部屋や複数の通路から魔物を排除してしまう。火力の高い武器や身体能力、その全てが国家の最高戦力である彼らを凌駕している、これは驚くなという方が無理な話だろう。
「空を飛んでいる精霊の女性は、土や水に風の精霊魔法まで使っています、複数属性を使える精霊なんて、自分は聞いた事がありません」
「壁で通路を塞ぐなんて戦い方は、初めての経験だ」
「俺、怪我の治療してもらったけど、切り傷が一瞬で治ってしまいました」
「あの人は女神様です……」
ウミに治療してもらった数人の兵士は、熱い視線を彼女に送っている。大きくなってより魅力が増したウミに優しくしてもらって、かなり心が動かされてしまったようだ。
「小さな女の子と、背の高い女性の攻撃も見た事の無いものです」
「しかも杖から出る魔法も、剣や籠手から発生している魔法も、ありえない威力ですよ」
「いったい何者なんですか、あの冒険者たちは」
「彼らは我が国に多大な貢献をした冒険者だ、それに国王様も大切にされている者達だから、噂話などにして迷惑をかけないように気をつけろ」
「「「「「わかりました、隊長」」」」」
隊長の言葉に兵士たち全員が返事をする。疑問の答えは返って来ていないが、国王の名前を持ち出されると納得するしかない、騎士や近衛兵にとって王命は絶対なのだ。
会談の場に居た隊長は彼らの功績や、2人が竜族だという事も知っているが、他の者には当然話してはいないし、魔族の少女の事も秘密にしている。
それに隊長自身もかなり驚いている、竜族の2人が突出して強いだけかと思っていたが、ダイの使う魔法も異質の強さがある。白い煙を発生させて飛び出す小さな塊が、進路上の魔物を次々貫いていき、魔物溜まりで使った爆発魔法は、一撃で部屋の中にいた魔物を殲滅してしまった。
獣人族の2人や魔族の少女が使う武器も、異様な切れ味と攻撃力を持っているし、エルフの女性が使う武器も同様だ。更に、聖女候補だった当時の麻衣を知っているだけに、障壁魔法の持続力が大幅に上がった事に目を疑った。訓練や何かの要因でマナ耐性が向上する事はないので、考えられるのは魔法回路の工夫だろう。
一体どんな方法でそれを実現しているのか、全く想像すらできない。彼らのこんな姿を国王は知らないが、貴族や一部の金持ちに利用されるような事は、絶対に避けねばならない。国王にはこの事を話して、改めて相談しようと決心した。