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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 回路魔法編
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第163話 古代文明

 朝からみんなを驚かせてしまったが、全員で食堂に移動してご飯を食べることにする。ストレアさんはずっとニコニコとした顔で、俺の隣に浮かんで家のあちこちを興味深そうに眺めている。



「こうして外の世界が直接見られるというのは、とても素晴らしいですね」


「元の状態の時はこうして外の世界を見られなかったんですか?」


「見えるというより、この世界で起きた事が情報として感じられる、という感覚でしたね」


「こうして姿を表したり何かを見たり出来るのは、その指輪のおかげなのよね」


「そうですよ、イーシャさん。先程もお話しましたが、この指輪には人の意識を宿らせようとしていましたから、同じ様な感覚を再現するための機能が組み込まれているんです」


「それなら、ご飯も食べられるんでしょうか」


「何か食べたいものがあったら作りますので、何でも言ってください」


「ありがとうございます、アイナさん、マイさん。こうして私の事も人と同じ様に接してくれる、この家の皆さんの気持ちはとても嬉しいです。ですがこの体は擬似的なものなので、食事はできないのです」


「……それは残念」


「きっとおとーさんが、ストレアおねーちゃんもご飯を食べられるようにしてくれると思うの」


「それは楽しみですね、期待しておきます」



 希望に満ちた目をこちらに向けて微笑んでくれるが、さすがに食事ともなると人工的な生命体で体を再現するか、アンドロイドのような機械ボディーにそんな機能をもたせるかしないと無理そうだ。とはいえ、これだけ不思議にあふれた世界なので、もっと別の解決策があるかもしれない。これからも色々な冒険をして、知識と経験を蓄えていこう。



◇◆◇



 食後はヨークさんにプレゼントする冷蔵庫の材料を買いに家族全員で出かけているが、ここでもストレアさんはとても楽しそうにしている。世界の情報を受け取るという感覚はわからないが、デジタルデータや電気信号みたいな感じで受信していたのだとすると、きっと味気ない思いをしてたんだろうと想像はできる。


 パソコンのようにデジタルデータを復号して映像としたり、ラジオのように電波や電気信号を復調して音として感じられるなら良かったのだろうけど、こうして色々な物に目を向けて喜んでいる姿を見ると、そんな処理はしてなかったんじゃないかと思う。



「ストレアさん、今から資材を運んだり組み立てたりするんですが、この指輪をつけたまま作業しても大丈夫なんでしょうか」


「問題ありませんよ、ダイさん。今の状態の指輪を破壊するには、黒竜族が成竜の姿で放つ全力の竜の息吹(ドラゴンブレス)程度の力が必要ですから、普通の使い方で壊れたり傷んだりする事はありません」


「そんなものを放ったら、この大陸に大穴が開いてしまうよ」


「キリエはそんな事しないから、この指輪は安全だね」



 黒竜族最後の生き残りのキリエがここに居る以上、この指輪は実質的に非破壊オブジェクトとして、この世界に存在している事になるな。



「他に壊す方法はないんですか?」


「私がここに宿るのをやめたら、これは普通の指輪になってしまいますので、その状態でなら壊せますね」


「せっかくご主人様になでなでしてもらって、こんな姿になれたんですから、すぐ居なくならないで下さい」


「……ずっと一緒がいい」


「ボクもせっかく出来た友達が居なくなるのは嫌だよ」


「ふふふ、やはりこの指輪に宿ってよかったです、こんな感情は初めてですが、これが幸せという気持ちだと思います」



 ストレアさんは俺の肩の上に座って、体ごとそっと俺の頭にもたれかかってくる。こうやって外の世界に出る事が出来たんだから、これからも色々な体験して欲しいと思う。


 それに一方通行ではあるものの、指輪に宿ったストレアさんが体験したことは、彼女の本体にも流れていくらしい。ここで暮らしていく事は、ストレアさんの本体にも楽しんでもらえるだろう。


 指輪に宿った状態のストレアさんは本体の一部(サブセット)なので、これまで蓄えてきたデータを全て網羅している訳ではないそうだが、圧倒的な知識を持っている事は間違いない。何でもかんでも答えを教えてもらうのは控えたいと思っているけど、これからもずっと一緒に生活して、お互いの事はもっと知りたい。



◇◆◇



 お昼ご飯を食べた後に、全員でエルフの里に転移してきた。王都とは全く違う家や里の風景に、ストレアさんの目も輝いている。家に入ってヨークさんの部屋に向うと、今日も机に座って本を読んでいた。



「大きなおじーちゃん、こんにちは!」


「キリエちゃんよく来たの」



 キリエが元気に挨拶してヨークさんのもとに走り寄ると、いつもの様に抱っこして膝の上に乗せてくれる。



「ヨークさんこんにちは、今お時間大丈夫ですか?」


「構わんよダイ君。お主らは遺跡の探索に出ておったはずじゃが、何か見つかったかの?」


「古代の遺物が色々見つかったから、お祖父様にも使ってもらおうと思って渡しに来たのよ」


「それはありがたい事じゃが、そんな貴重なものを渡してしまって構わんのか?」


「地下シェルターって所にいっぱいあったから大丈夫だよ、大きなおじーちゃん」


「昔の避難場所だったみたいなんだけど、地面の下にあった入り口をエリナちゃんが見つけてくれたんだ」


「……動かせたのは、あるじ様のおかげ」


「それは大発見じゃな。それにダイくんの肩に乗っておる人は初めて会うが、その人も遺跡で見つけたのか?」


「始めまして、西のエルフの長老ヨークさん。私は彼が身につけている指輪に宿っている存在なの、ダイさんにストレアという素敵な名前を付けてもらったから、そう呼んで下さい」



 挨拶を返したヨークさんは、俺の左手にはまっている指輪と、肩の上に座っているストレアさんを交互に見ているが、かなり好奇心を刺激してしまったらしく、その目は真剣そのものだ。



「しかし、これはまた凄いものを見つけてきたの」


「見つけたのはこれだけじゃないのよ、お祖父様」


「ヨーク様にも冷蔵庫をお作りしたのですが、こちらで使っていただけますか?」


「それはありがたいの、冷蔵庫はミーシアも喜ぶはずじゃ」



 ヨークさんと厨房に行き、家の冷蔵庫より大きめに作ったものを設置する。早速エルフの里で採れた果物を入れてくれたが、ウミとキリエがとても嬉しそうな顔をしていた。中に入れたものが冷えるのを待つ間に、他の道具も色々と渡してしまおう。



◇◆◇



 複数のランタンと、扇風機や暖かくなる道具、それに厨房にコンロも設置してきた。ヨークさんはそれを一つ一つ手に取って、あらゆる方向から見つめながら起動したり停止したりを繰り返し、熱心に調べている。



「これだけの物が一度に、それも全て動く状態で見つかるなど、少なくともこの国が出来てからは無いはずじゃ」


「地下に密閉された場所だったのと、そこにあった更に気密性の高い部屋に保管されていたので、これだけ良い状態で発見することが出来ました」


「それを売ったりせずに、こうして生活の役に立てようとするのは、実にお主達らしいの」


「お兄ちゃんやみんなのおかげで、王都の家もさらに住みやすくなったんですよ」


「今度はアーキンドの別荘も住みやすくするのです」


「別荘まで手に入れておったのか」


「……私の宝物を売ってもらえた」


「今度は大きなおじーちゃんも一緒に行こうね」



 ベッドが大きくなって、みんなで泊まれるようになったら、イーシャの家族を誘ってアーキンドにも行きたい。遺跡の近くにある湖も行きたいし、やりたいことがたくさん出来たな。ストレアさんにも色々な場所を見せてあげたいし、一つ一つゆっくり消化していこう。



「それでヨークさん、これを見て欲しいんですが」



 俺は精霊のカバンから、マスターパーツの入ったケースを取り出してヨークさんに渡す。それを手に取って確かめているが、プレートに刻まれた文字には反応していない。



「これは魔法回路のマスターパーツじゃな、こんなものまで保管されておったとは」


「その入れ物のフタに板が貼り付けてあるんですが、それに見覚えはないですか?」


「この線が組み合わさった模様の事かの、儂も初めて見るがダイ君はこれが何かわかるんじゃな?」


「はい、それは俺たちの世界で使われていた言語の一つで、マスター(Master)パーツ(Parts)と書いています」


「それはつまり、魔法回路の開発にダイ君たちと同じ世界から来た、異世界人が関わっているかもしれんということかの」


「全く新しい技術として生み出したのか、既存の技術を体系化して魔法回路として定義したのかはわかりませんが、俺もその可能性が高いと思っています」



 そこまで話をした所で、そろそろ果物が冷えてきただろうと麻衣たちが切り分けてくれたので、それを食べるために少し中断する。冷えたエルフの里の果物はとても美味しく、ウミやキリエはもちろんメイニアさんも嬉しそうに頬張っている。


 ヨークさんならマスターパーツに関する事で、何かヒントになりそうな情報を持っているかもしれないと思ったが、名称が伝わっているだけで文字に関しては知らないみたいだった。こうなるともうストレアさんに聞いてみるしかない、魔法回路に関する事を伝えに来てくれているのだし、ここは素直に教えてもらおう。



「ストレアさん、魔法回路にまつわる事を教えてもらっても良いですか」


「ええ、もちろんですよダイさん、私はその為にこの指輪に宿ったのですから」



 ストレアさんは俺の肩からテーブルの上に移動して、周囲をぐるりと見渡した。他のメンバーも普通は聞くことが出来ない話に興味があるみたいで、テーブルの上に立つストレアさんに注目している。



「ヨークさんも居ますし、まずは古代の人達が作った道具に関するお話をしましょう」


「それはありがたい、ぜひ聞かせてもらえるかの」


「それらの道具は大きく分けて2種類あります、一つは地脈の力を利用するもの、もう一つはマナを利用するものです」



 地脈を利用するものは大規模なシステム、例えば魔物よけの結界や街中に張り巡らされたインフラの稼働に使われたいた。マナはもっと小規模な道具で利用され、個人で使うものや大規模システムの制御部分としても使われていたようだ。


 マナを使う道具の仕組みは、(おおむ)ね俺の予想通りだった。コアとなる部分が、マナを集めてエネルギーにするフィルターの役目をしていたけど、あまり変換効率は高くなかったみたいだ。そして、その製法は既に失われており、特殊な製造設備が必要なため、今の時代に復元することは不可能らしい。



「じゃぁ、見つけた道具は大事に使わないとだめだね」


「そうだねオーフェちゃん、私もうっかり落としたりしないように気をつけなきゃ」



 オーフェとクレアの言葉にみんなの表情も引き締まるが、古代の道具は割と丈夫にできている。それでも使っているうちに壊れてしまうのは、どんなものでも避けようがない。家族全員が物を粗末に扱う事はないし、あまり神経質になる必要もないだろう。



「しかし、それだけ高度な技術を持っていた文明が、なぜ滅んでしまったんじゃ?」


「俺はマナを使いすぎて、枯渇(こかつ)してしまったんじゃないかと思ってるんですが」


「ダイさんの言う通り、世界中にあったマナの総量がどんどん減っていき、ある時期に突然消失するという出来事が起きました」


「私たちの世界でもありましたけど、この世界でも資源問題が発生したんですね」


「マナで制御していた装置も動かなくなり、数々の道具も使えなくなりました。そして、それに依存していた当時の人々は、生活基盤を失い衰退して数を減らしてしまったのです」


「いま私達が魔法を使ったり、発見した道具を使い続けるのは問題ないのかしら」


「それくらいなら問題ありませんよ、今のこの世界のマナは、ほぼ飽和状態ですから」



 それだけ古代文明の時代はマナの消費量が桁違いに多く、その技術に頼り切った生活をしていたんだろう。魔法回路がスイッチになっていて、マナを動力に開閉するような扉や(ふた)があると、出入りできなくなったり、中身を取り出せなくなってしまう。


 強引に開けようとして壊してしまった物も多いだろうし、ちょっと勿体無い気がしてしまうが、当時はそんな事なんか構ってられなかっただろうな。それに地下シェルターが手付かずで放置されていたのも、そこに入るための魔法回路が使えなくなったからか。



「マナが消えた状態って、どれ位続いたんですか?」


「私のいま持っている記憶だと、数百年続いているはずです」


「それが文明の断絶になってしまったんじゃな」



 やがて街に住んでいた人たちは、そこを捨てて住みやすい場所を求めてバラバラに散っていった。一部の人は使えなくなった道具を持ち出していて、そうした物の中のいくつかが現代まで受け継がれている。


 狐人(こじん)族のように、当時の技術だけに依存せず暮らしていた人も(わず)かながら居て、そのお陰で住んでいた場所を捨てずに生活を続けられた。その辺りも古代人の末裔と呼ばれている要因の一つなんだろう。






 少し話が脱線してしまったが、古代文明滅亡の謎という誰も知らなかった話を、当時の記憶を持った人から聞けるというのは、かなり刺激的な体験だ。ヨークさんを始め、全員が熱心にストレアさんの話に耳を傾けている。


マナが消えると魔物も出なくなりますから、古代人は絶滅せずに済みました(裏話)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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