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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 回路魔法編
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第159話 スコール

 その日は朝から天気が悪かった、すぐに降ってくる感じではないが、空一面に曇り空が広がっていると、テンションも少し下がってくる。


 いつもはリザードマンの住処に寄ってから素材収集の依頼をこなしたりしつつ、遺跡のある場所までピクニックのように歩いたりしているが、今日は(ちょく)で遺跡に転移する事にした。探索中止でも良かったが、昨日は中途半端な所で終わってしまったので、そこだけでも調べきってしまおうと、みんなで出かける事に決めた。


 この世界では雨の日に傘を使う人はあまり居ない、特に冒険者は片手が塞がるのを嫌って、カッパのような雨具を使うのが一般的だ。傘は実用的な道具というより、おしゃれの一つとして日除けのアイテムに使われているのを時々見かける。


 俺たちも全員分のカッパを用意しているが、あまりにも激しく降ってくるようなら、途中で帰って来る事にしよう。


 オーフェの開いてくれた転移門をくぐって、三日月湖のほとりに移動する。王都からそれなりの距離があるためか、こちらの方が雲が厚く今にも泣き出しそうな空模様だ。



「こっちは天気が悪いですね」


「直接ここに来たのは正解だったわ」


「今日探す所は形の残ってる建物もあったから、雨が降ってきたらそこで雨宿りしようね」



 麻衣が空を見上げながら天気の心配をしているが、オーフェの言う通り雨宿りできそうな場所もあったので、止みそうにない雨ならそこに逃げ込んだり、転移魔法で帰れば何とかなるだろう。



◇◆◇



 その場所は他より大きい広場になっていて、石畳も比較的きれいに残っていた。数カ所に円盤のようなものが置かれていて、かなり厚いのか叩いてみても硬質な音がするだけだった。もしかしたら、相当深くまで埋まっていて、高層建築物を支える土台のような役目をしていたのかもしれない。


 周りに瓦礫が散乱していないので、何かを建てる前にここが放棄されてしまったのか。昨日はそんな事を話しながら広場を探索しただけで終わったので、今日は周りの建物を調べて回る予定だ。



「また冷たくなる道具とか見つかるといーね」


「暖かくなる道具だったら、料理にも使えそうですよねマイさん」


「火と同じくらい熱くなるなら、元いた世界で使っていた調理器具とか再現できるかも」


「……熱くならなかったら私が寒い時に使う」


「俺たちの世界には“懐炉(かいろ)”っていう、持ち運びのできる暖房器具があったから、そんな道具が見つかったら作れそうだな」


「魔法回路の“回路”と同じ名前なのに、ぜんぜん違う物なんだね」


「元いた世界には袋から出して揉むと暖かい状態がしばらく持続する、使い捨ての道具なんかもあったんですよ」


「やっぱりダイ君やマイちゃんのいた世界っていうのは面白そうだね」


「……私、あるじ様のいた世界で暮らしたい」


「でもエリナちゃん、私たちの居た世界は冬になると氷ができるくらい寒くて、夏になると暑すぎて人が死んじゃうくらいですよ」


「前にも聞いたですが、そんな過酷な世界でダイくんたちはよく生きていけたのです」


「ボクの住んでた所も、夏になると泳げるくらいだったけど、暑すぎて転生した話とか聞いたこと無いよ」


「……やっぱり王都の家がいい」



 エリナが俺たちの世界に来たら、冬になるとコタツから出てこなくなりそうだな。コタツで温々(ぬくぬく)と過ごしている姿はかなり可愛いと思うから、中途半端に暖まる道具なんかがあれば、カヤにお願いして作ってもらおう。


 そんな話をしながら建物の中を探していたが、とうとう雨が降り出してきたみたいだ。天井が崩落している場所から、雨粒が降り注いできた。



「雨が降り出してしまったわね」


「おとーさん、あっちの家の中に入る?」


「向こうの方の空は明るくなってるし、すぐ止むかもしれないから少し様子を見ようか」



 みんなで天井が残っている家の中に避難して窓から外を眺めていたが、雨脚(あまあし)はどんどん強くなって、やがてスコールのように激しく降り始めた。



「凄く降ってきましたね、ご主人様」


「そんなに長い時間は降り続かないと思うけど、確かにこれは凄いな」


「外は水浸しになっちゃったね」


「……あるじ様」


「ん? どうしたエリナ」



 エリナが俺の服の(すそ)を引っ張って注意を(そく)してくるが、その視線は外に向けられている。



「……あの土台の所に水がどんどん吸い込まれてる」



 俺もその方向を見てみたが、激しい雨で出来た水たまりに、雨粒が打ち付けられているようにしか見えない。しかし、エリナの鋭い感覚が違和感を感じているからには、そこに何かあるのは間違いないだろう。



「もしかして小さな隙間が空いていて、そこから地下に流れ込んでるのかもしれないな」


「じゃぁ、あの土台を引き抜いたら、下に何かあるかもしれないって事?」


「排水設備みたいな地下空洞しか無いかもしれないが、あの場所にだけ水が流れ込んでるなら、特別なものに繋がってる可能性は高いと思う」


「さすがエリナおかーさんなの」



 石畳の下には砂利が敷き詰められて排水性を良くしているが、そこから流れ込んでくる水をどこかに逃がしているのかもしれない。しかし本当に流石はエリナだ、流れる水の微妙な違いを感じ取って、その場所を見つけてしまった。



「雨が上がったら、あの辺りを重点的に調べてみようか」



 ただの排水設備なのか、あるいは部屋が存在したり通路が伸びていて、どこかに繋がっているのか。これまで発見された事の無いものだから、あるとすれば地下だろうと思っていたが、大きな手がかりが発見できた。



◇◆◇



 雨が上がった後に、円形の土台の周りに敷かれている石畳をめくり砂利を掘り返してみたが、その下は硬い岩盤が広がっていた。円柱の土台はその岩盤をくり抜いて下に伸びているみたいだが、確かに微妙な隙間が空いていて動かせそうな雰囲気はある。



「きれいに下の岩盤をくり抜いて挿し込んであるみたいだけど、引き抜けそうな隙間は開いてるよな」


「これだけの大きさの柱とぴったり合わせて加工する古代の技術はすごいですね」


「土や砂で目詰まりしないように、周りの砂利もそれらの侵入を防ぐ役割をしてたみたいだ」


「この下の部分に扉があって、持ち上げると内部に入れるようになってたりしないでしょうか」


「床が持ち上がると部屋が出てきて、そこに乗り込んだら地下に行ける映画があったけど、それと同じ感じかな」


「動かすにしても、スイッチの様な物は無いですね」


「遠隔地で操作してたのなら、この周りにある建物のどれかに操作盤があったかもしれない」



 俺と麻衣はあれこれ考察してみるが、これを見ただけでは答えは見つけられない。



「ご主人様もマイさんも凄いですね」


「ボクはこれを見ただけだと、どんな物なのか想像もできないよ」


「やっぱり異世界の知識なのかい?」


「私たちの世界だと、こんな円形の柱の中に小さな部屋があって、それが上がったり下がったりする“エレベーター(昇降機)”っていう乗り物もあったんですよ」


「他に四角い形もあったんですが、それと同じ様に動くものなのか、内部が階段とか梯子(はしご)になっているのか、あるいは単に栓をしてるだけなのか、この状態では何とも言えませんね」


「動かすにしても、その操作はやっぱり魔法なのかしら」


「この世界だとそうだと思うよ、何か手がかりがあるかもしれないから、この石柱の見えてる所をきれいに掃除してみようか」


「それならウミにお任せなのですよ」



 そう言ってウミが手を軽く振ると、(こけ)に覆われていた部分や汚れがきれいに落ちていく。経年劣化で所々欠けたりひび割れていたりするが、長い年月が経過している割に大きな損傷はないみたいだ。



「……あるじ様、ここだけちょっと色が違う」


「ほんとだねエリナおかーさん」


「丸い形に色が濃くなってるね」



 エリナとキリエとオーフェが見つけてくれた場所に行くと、確かに周りと少し色が違っていて、材質も異なる感じだ。俺はそこに指を当てて、魔法回路の起動をやってみる。



「魔法回路が欠けてしまってるけど、これは“(じゅつ)”の起動と同じ物みたいだ」


「それなら君が狐人(こじん)族の村でやったように修理できるね」


「えぇ、やってみます」



 俺は円柱に刻まれていた魔法回路を全消去して、隠伏(いんぷく)の術の道具を取り出し、そこの回路をコピー&ペーストで移植する。これで握った時と同じ様に、強めに押さえれば起動するはずだ。



「本体が生きていたらこれで起動すると思うけど、みんな少し離れてもらえるか」


「ダイくんはウミが守るのです、大丈夫なのです」



 その言葉でみんなが少し離れてくれたので、魔法回路を移植した部分を強く押してみる。鈍い動作音が地中から響いてきて地面が小刻みに振動しだしたので、俺もみんなの近くに移動して円柱を見守った。



「おとーさん、地面が震えてる」


「柱が少しづつ回りだしたわね」


「回りながら下から出てきてますよ」



 円柱が回転しながら少しずつ上昇していくが、岩で出来た部分はかなり厚みがあるようだ。これだと上から叩いても、中に空洞があるかどうかはわからないだろう。



「少し色の違う部分が見えてきたね」


「あれは人工物でしょうか」



 更に上昇すると、岩とは材質の異なる黒い部分が見えてきた。古いものの割にその表面はきれいだが、地脈の流れを遮っていた杭も同じ様に汚れが無かったので、そんな表面処理をしているのだろう。



「……穴が開いてる」


「内部が空洞になってるみたいだね、あそこが入り口なのかな」



 やがて円柱の回転が止まり、俺たちの前には大きく口を開けた空洞が姿を表した。中は手すりのついた螺旋階段になっているようで、下へとそれは続いている。



「これは大発見だな」


「ウミが(あか)りを作るです、入ってみるのです」


「アイナ、シロ、中になにか気配は感じないか?」


「ここからだと感じませんね、変な音もしていないみたいです」


「わうっ!」



 入り口から下を覗き込んでいたアイナとシロに聞いてみたが、ここから分かる範囲に誰か居たりはしないようだ。まさかこの下でずっと暮らしている人はいないと思うが、2人が何も感じないのなら安心して降りていける。


 ウミが精霊魔法で作ってくれた青白い炎を光源にして、全員で階段を降りていく。一体どんな場所につながっているのか、とても楽しみだ。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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