第14話 着替え
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執筆のストックはまだあるので、暫くは連続で更新できると思います。
一気に数話アップすることもあるので、最新部分だけでなく小説のトップページもご確認いただけると幸いです。
俺達は今、川の字になって寝ている。俺が床で寝るという案は2人によって否決された。そして何故か俺が真ん中だ。アイナはまだ妹みたいで一緒に寝ることの抵抗は薄いが、イーシャは俺と同じくらいか少し上の年齢に見えるが、可愛いさと綺麗さの両方の魅力を持った顔立ちで、そんな彼女がすぐ横で寝ているのは正直かなりドキドキする。
アイナは日課のブラッシングを終えた後に、夢の中に旅立っていってる。イーシャはまだ起きているようだが、俺は緊張してしまって身じろぎひとつ出来ずに黙って横になっていた。
「里を出てからずっと一人で旅をしてきたから、こんな風に他の人と一緒に寝るのって新鮮でいいわね」
イーシャがそう言いながら、こちらを向くように寝返りを打つ。俺もイーシャの方に顔を向けて、緊張を隠しながら話をする。
「なんでずっと一人だったんだ? エルフの仲間とか他の人とパーティーとか組まなかったのか?」
「エルフってね、里から出る人はあまり居ないのよ。長く生きられるせいかしら、好奇心が弱いんだと思うわ。それにエルフは魔法以外の特技を持ってる人もいるから、それを利用しようと近づいてくる人も居て、それが嫌で一人旅を続けていたってのが理由かしら」
魔法以外の特技ってのは気になるけど、利用されるのが嫌と言ってるくらいだし、いま聞くのはやめておこう。パーティーメンバーとして一緒に行動していたら、わかる時が来るかもしれない。
「じゃぁ、イーシャは好奇心が強いんだ」
「そうよ、かなり強いわよ。だからあなた達を見て一緒に行きたいと思ったの。どうしてダイはアイナちゃんとそんなに仲がいいの? それにアイナちゃんのその懐きっぷり、ちょっと信じられないわね」
そう言ってイーシャは俺の隣で寝ているアイナの方に視線を向けた。アイナはいつものように、俺の胸元に顔を寄せて幸せそうに眠っている。
この世界の人間の獣人に対する遺恨は結構根深い理由があるみたいだし、俺の獣人への振る舞い方が他の人とは違う事に納得できる説明をするため、イーシャにも自分が異世界人だと話すことにした、好奇心の強い彼女なら違う世界の人間と言っても変な目で見ることはないだろうし、それに今は大事なパーティーメンバーだ。
◇◆◇
「そう、そんな事があったのね。でもなんだか納得できたわ、獣人族への偏見の無さや、他の人とはちょっと違う雰囲気に、この大陸ではあまり見ない黒色の髪の毛。やっぱり私の直感は当たってたわ、あなたたち本当に興味深い」
「そうか? 自分の雰囲気の事とかはよくわからないが、獣人は俺たちの居た世界では物語の中にしか登場しないような存在だから、実際にこうして一緒に居られるとか楽しくて仕方ないぞ」
「人族はね、獣人の耳とかしっぽは呪いが原因で生まれたと思ってる人も割といるのよ。だからダイがアイナちゃんの頭を撫でたり、しっぽをブラッシングしてあげたりするのは、かなり珍しい光景なの」
「むしろ耳とかしっぽとか可愛いと思ってるくらいだ」
「うふふふふ、アイナちゃんがこれだけ懐いてるのも納得だわ。危ない所を助けてくれたり、優しくしてくれて、耳やしっぽを触ったり手入れしてくれたりする。これはアイナちゃんじゃなくてもコロッと恋に落ちるわね」
「アイナは妹みたいなもんだぞ?」
アイナが俺の事をどこまで想ってくれているかはわからないが、俺にとっては妹みたいな存在であり、守ってあげたくなる女の子だ。
「そうかしら? そう思ってるのはダイだけかもよ」
イーシャはそんな事を言って「そろそろ寝ましょうか」と、こちらに向けていた体を戻した。しばらく2人で話をしていて、俺も緊張がほぐれてきたので目を閉じて眠ることにした。
―――――・―――――・―――――
「今日はアイナちゃんの服を買いに行きましょう!」
朝起きると、イーシャがそんな事を言いだした。
「ご主人様、なんでそんな話になったんでしょうか?」
「いや、俺にもわからん」
イーシャはこう力説する、アイナちゃんは可愛いんだからそんな格好じゃダメ、アイナちゃんの可愛さの1割も引き出せてないわ、私は裁縫ができるから可愛い服を買ってアイナちゃんが着られるように改造しましょう。
拳を握りしめながら話すイーシャの姿に、俺もアイナも若干引き気味だ。
「それに私の毒を治すために、状態異常解除のポーションを飲ませてくれたんでしょ? あれ、結構高いものだし、そのお礼も兼ねて服をプレゼントしたいの」
イーシャも興奮しすぎたと思ったのか、少し照れくさそうにお礼だからと言ってくれた。
「ご主人様、どうしましょうか?」
「そういう事ならいいんじゃないかな」
◇◆◇
女の子の服選びってことで、男の俺はいたたまれない気分になりそうなので、なんとか理由をつけて別行動を取ることにした。この街に来てからは、いつもアイナと一緒だったので、一人で街を歩くのはなんだか新鮮な気分だ。
お昼くらいに宿屋で待ち合わせる約束をして、俺は冒険者ギルドや魔法回路屋に行って時間を潰した。
◇◆◇
宿屋に戻って部屋のドアをノックすると、中から「入っていいわよー」とイーシャの声が聞こえた。
「じゃぁ~ん! どうかしら?」
ドアを開けると謎の擬音と共に、イーシャは後ろに居たアイナを俺の前に差し出した。
アイナは赤いふわりとした膝上丈のスカート、そして白い長袖のブラウス、その上から紺色のジャケットを羽織っている。その場でくるりと回ってくれたが、スカートの裾がふわっと広がってとても可愛い。しっぽの部分もうまく加工してあり、動きの邪魔にならず穴の部分も目立たないように細工されている。足には膝が隠れる長さの黒い靴下を履いていて、スカートと靴下の間からわずかに見える肌がとてもキュートだ。
可愛さだけでなくスポーティーさもあって、アイナの魅力を引き出している。この世界は服の色やデザインの種類が少ないけど、うまく組み合わせてるんじゃないかと思う。
じっと見つめたまま黙っていると、アイナは不安そうにこちらを見た、恥ずかしいのか頬が少し赤くなっている。
「あの、ご主人様……どうでしょうか?」
「あ、うん、とっても似合ってる、可愛いよ。いつもズボンでいることが多かったから、すごく新鮮だ」
アイナは頬を更に赤く染めて、「本当ですか、良かったです」としっぽをぶんぶん振りながら喜んでいた。
「イーシャさん、ありがとうございました、ご主人様にも褒めてもらえて嬉しいです」
「良かったわねアイナちゃん、これでご主人様もイチコロよ」
イーシャが何か言っているが聞き流す。
「さて、アイナちゃんも更に可愛くなったことだし、食事に行きましょうか。お昼も私がごちそうするわ」
そう言ってイーシャは俺とアイナを宿屋の外に連れて行った。
アイナの服を買ってもらったばかりだし、イーシャの歓迎会にしたいので食事代は俺が出すと言ったが「これはダイの分のお礼だから」と言われて、素直におごられることにした。
◇◆◇
お昼はイーシャの勧めで、酒場と食堂が一緒になっている店に行くことになった。夜は冒険者たちがお酒を飲んで騒いでいるが、昼間は落ち着いて食事が出来るんだそうだ。イーシャは他の街でもよく利用していたそうだが、俺もアイナも行ったことがない場所だ。アイナは新しい格好と酒場が一緒になった店に行く不安からか、俺の服の裾を掴んで歩いている。それを見たイーシャはニコニコと微笑みながら歩いていた。
お店に着いて、おすすめ料理や単品料理をいくつか注文した。店に着いてからも隣りに座ったアイナは俺の服の裾を掴んだままだったが、料理が次々運ばれてくるとそっちに意識が行ったのか、手を放して料理に見入っている。
イーシャは果実酒、俺とアイナは果物を搾った飲み物が入ったコップを持って乾杯する。この世界の成人年齢は15歳らしく、イーシャは俺にも酒を飲まないか聞いてきたが、日本の習慣からまだ抜け出せないので遠慮しておいた。
「それじゃぁ、この出会いに感謝して、乾杯!」
「「乾杯!」」
料理はどれも美味しかった、焼いたお肉や茹でた野菜、炒め物や煮込み料理、次々と3人の腹に収まっていく。
みんなが美味しそうに食べる姿を見ながら、俺はちょっとした疑問をイーシャに投げてみた。
「エルフって野菜中心のイメージがあるんだけど、イーシャはお肉とか結構食べるよな、その辺どうなんだ?」
「んー、確かに野菜の方が好きな人は多いけれど、お肉も普通に食べるわよ。里の人達も近くの森で狩ってきた動物も食べるし、それに私みたいに冒険者をやってると、旅の途中で仕留めた動物のお肉とか食べられないと困るしね。お肉を食べないと力が出ないし、私は大好きよ」
旅を続けてるだけあって、なかなかサバイバルな経験をしてきてるようだ。
「村に居た頃、お肉は滅多に食べられないごちそうでしたけど、時々食べるお肉は味があまりしなくて。でも、ご主人様と一緒になってから食べるお肉は、どれも味がちゃんと付いてすごく美味しいのでびっくりしました。私もお肉大好きです!」
イーシャの肉好き宣言に釣られるように、アイナも肉と野菜を炒めたものを食べながら、お肉大好き声明を発表する。村では生活が苦しくて、香辛料とか調味料に手が出なかったんだろうな。
「アイナちゃんも苦労してきたのね、ほら、これも食べなさい」
イーシャは自分の皿にあったお肉をアイナの口に運んで食べさせている。口いっぱいに頬張ったアイナが、もきゅもきゅと咀嚼する姿はリスみたいで可愛い。
◇◆◇
そうして、イーシャの歓迎会を兼ねた食事が終わった。
イーシャも始終楽しそうにしていて、俺たちに出会えたことを喜んでいた。アイナも食べたことのない料理が出てくるたびに、これはこんな風に美味しい、それはこの部分が好きと、嬉しそうに話しながら食事を堪能していた。途中で軽く異世界転移のことも聞いてみたが、はるか昔にそんな事があったような無かったようなと、よく知らないみたいだった。少し残念だが、今はその事より仲間たちと仲良く出来る方が大切だ。
おいしい食事と楽しい時間を過ごした3人は、全員笑顔でお店を後にした。
筆者のファッションセンスが壊滅的なので、あまり突っ込まないでください(汁;