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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 回路魔法編
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第155話 魔鉄

 薄明かりの見える場所に近づいていくと、ハーフリング族より更に小柄な男性が何かの鉱石を運んでいる。体が濡れているので、水の中で作業をしていたみたいだ。近くの壁が大きく崩れていて、それが水源と思われる浅くて広い水溜りの一部を埋めていた。



「ルーイさんですよね?」


「おめえたちは、おらの怪我を治してくれた連中じゃねえか、こんな所に何しに来たんだ?」


「俺たちはこの近くの水が汚れた原因を探しに来たんです」


「そらあ、こいつのせいだ」



 そう言ってルーイさんが、運んでいた石の塊を見せてくれる。ウミが動かしてくれた光源の光が当たったそれは、錆びたような赤い色をしていているが、俺にはこれがどんな物なのかわからない。



「これは一体なんですか?」


「これは魔鉄って言うんだ、ミスリルには負けるけども、こいつもマナを通しやすい金属なんだ」


「その魔鉄がここの水を汚していたんですか?」


「魔鉄は長い時間水につけておくと、こんな色になって体に悪い物を出すんだ。だから、おらはここで水の中に入った物を取り出してる所だ」



 そうだったのか、ルーイさんは汚染の原因を取り除こうとしてくれていたんだ。もしかして水を汚した犯人がこの中にいると思ったが、壁の崩れ方を見ると自然崩壊したみたいだし、この人がいなければ汚染の原因を突き止めるのに時間がかかったかもしれない。



「ありがとうございます、ルーイさんのおかげで、ここから流れている水で暮らしている人が助かります」


「こんな珍しい鉱石がここには大量にあるんだ、おらはそれを採掘できて嬉しいから気にするでねえ」


「それは触っても大丈夫なんですか?」


「ここの水を飲んだりしない限り問題ねえし、長い時間飲み続けねえと病気にはならねえから大丈夫だ」


「それなら俺たちも手伝います」


「そら助かるだよ、それに明るくて作業しやすくなるだ」



 メンバーも増えたのでまずは自己紹介をしたが、魔族や竜族が居るパーティーだと判っても、面白い奴らが居るなという感想だった。最初にイーシャを見た時も同じように言っていたし、この人も種族とかこだわりが無い人らしい、その辺りはとても親近感が湧く。


 そして、水の中の作業で思うように進まないという言っていたので、ウミが水流操作で崩落部分の水を取り除いてくれた。その後、ルーイさんと2人で協力して土の精霊魔法を使って堤防を作り、水が侵入しないよう()き止めてくれる。



「1人だと無理だったんだが、これでもう水が汚れる心配はねえ」


「ウミにお任せなのです!」


「あん時のちっこい精霊がこんなに大きくなって、全属性の精霊魔法を使えるようになっただなんて、おらびっくりしただ」


「ウミはダイくんを守るために生まれ変わったのです」



 ノーム族は精霊に近い種族と言われるだけあって、ウミの事はあの時会った小さい姿と同じ人物だというのは、何となく判っていたみたいだ。しかし、色々な種族が居ると聞いた時と違い、全属性の精霊魔法が使えるというのには驚いていた。


 ここからは手作業で、鉱石や土砂の選別と回収を進めていく。水が汚染される心配は無くなったので、この付近もウミが一度浄化してくれた。これで体に悪い水が、これ以上リザードマンの住処に流れなくなるだろう。


 作業をしながら魔鉄の事を聞いたが、時々少量出てきたりするが、これほど一度に出てくる事は無いそうだ。珍しい鉱石を採掘し放題ということで、ルーイさんもご機嫌で作業を進めている。水源の近くに眠っている魔鉄は全て採掘すると言っているので、今日はここに泊まって明日も作業に付き合うことにした。


 精霊魔法で水を堰き止めながらの作業だし、この先同じような事が起きる心配が無くなるというのは、非常にありがたい。



◇◆◇



「やっぱり、おめえたちの作る飯はうめえな」


「お代わりもあるのでいっぱい食べて下さいね」


「おら、あん時もらったスープの味が忘れられなくてな、またこうして食べられるとは思わなかっただ」


「こちらも、あの時ミスリル鉱石をいただいてありがとうございました」


「ルーイさんにもらったミスリルで、この剣を作ってもらったんです」


「……私も2本作ってもらった」


「ボクもこんなかっこいい籠手(こて)を作ってもらったんだよ」



 アイナとエリナとオーフェが、それぞれミスリル製の武器をルーイさんに見せる。あれはかなり上質な鉱石だったので、余った材料で製作代金も無料にしてもらえたのが嬉しかった。



「こりゃ有名な鍛冶屋の印でねえか、こんな所に使ってもらえたんなら、おらも本望だ」


「上質なミスリル鉱石だったので、凄くいい武器が出来ました」


「ルーイおにーちゃん、魔鉄ってどんな武器ができるの?」


「魔鉄は盾や防具にするのが向いてるんだ、しなやかで粘りがある金属なんだが、加工が難しいのが難点だな」



 マナを通しやすい金属という性質があるので、盾や防具に魔法回路を仕込んで防御の補助に使うのがおすすめらしい。ただ産出量が極端に少ないので、ほとんど市場に出回らない上、加工が難しくて扱える鍛冶屋がほとんど無いそうだ。更に、長時間水にさらされても有害な物質を出さないように無毒化する処理が厄介で、魔鉄を扱う難易度を上げていると話してくれた。



「それならミスリル武器を作った鍛冶屋にお願いしてみましょうか」


「ほんとか! もし魔鉄を扱えるんなら、ここで採れたものは全部渡してえ」


「水源の近くにある魔鉄を掘り終えたら、ヴェルンダーまで行ってみましょう」


「行くのは構わねえけど、ヴェルンダーにはすげえ時間がかかるぞ」


「ボクが転移魔法を使えるから、ここからすぐ行けるよ」


「そいつはすげえな。おら、しばらくここで採掘してえから、また近くまで送ってもらえるなら一緒に行くだ」


「近くにあるリザードマンの住処に戻ってくる予定なので、そこからまたここまで送りますよ」


「この水が流れていく先だったな、そこまで送ってくれたら一人でもここに戻れるから問題ねえだよ」



 明日は引き続き水源の近くにある魔鉄を掘って、それが終わり次第ヴェルンダーに行って、レオンさんの工房を訪ねる事が決まった。




―――――・―――――・―――――




 翌日、水源の近くにある魔鉄をすべて採掘し終わったので、ルーイさんの精霊魔法で魔鉄の取り残しがないか調べてもらい、堤防を崩して元の水溜り状態に戻した。そしてオーフェの転移魔法で、ヴェルンダーに移動する。



「ほんとに一瞬で来られるんだな、ここに来るのはずいぶん久しぶりだ」


「ボクの覚えられる場所ならどこでも行けるよ」


「おらにもそんな能力があったら、もっと色々な場所に採掘に行けるのにな」



 どんな力があっても全て採掘に向けてしまうのが、実にルーイさんらしい。何があっても甘いものに結びつけるウミに似た部分があるのは、種族が近いからだろうが。



「とりあえず鍛冶屋に行きましょうか」


「おう、おらも会った事ねえ人だから楽しみだ」


「レオンおじーちゃんに会うの、久しぶりだからキリエも楽しみ」



 キリエの冒険者登録をした時にヨークさんと一緒に会いに行ったきりだから、ずいぶん久しぶりになるな。あの時はレオンさんもキリエの可愛さにやられてしまい、ヨークさんと大いに盛り上がっていたのは懐かしい思い出だ。


 オーフェが工房のすぐ近くに転移してくれたので、少し移動するだけで見覚えのあるロゴマークの看板が目に入る。



「こんにちは、レオじいさんは居るかしら」


「おうイーシャの嬢ちゃん、キリエちゃんもよく来たな、見慣れないやつも居るがまあ入ってこい」


「レオンおじーちゃん、おじゃまします」



 この辺りはまだ肌寒いが、工房の中に入るとかなり暖かい。寒さに弱いエリナがホッとした顔をしているのが可愛い。



「兄さんの頭の上に乗ってるのは、まさかあの小さかった精霊か?」


「そうなのです、ウミはダイくんの守護精霊になって成長したのです」


「そっちの背の高いお嬢さんは人族とは違うようだが、キリエちゃんと感じが似とるな」


「さすが話に聞いていたとおりだね、私は古竜族のメイニアと言うんだ、よろしくね」


「そっちのノーム族の兄さんも初めてだな」


「おらルーイっていうんだ、有名な鍛冶屋に会えて嬉しいよ」


「この人が以前渡したミスリル鉱石を採掘した人なんですよ」


「なにっ!? そうだったのか、あれは実に素晴らしい鉱石だった、儂が取り扱った中でも一番の品質だったな」


「そんなに喜んでもらえたのなら、掘った甲斐があるだよ」


「しかしお前たちは、来るたびに面白いやつを連れてくるな。まさか二人目の竜族や成長した精霊に、各地を放浪するノームに会えるとは思わなんだわい」



 そう言ってレオンさんはおかしそうに笑い声を上げる。



「ところでレオじいさんは魔鉄の加工ってできるのかしら」


「師匠に仕込まれたから精錬から加工まで一通り出来るが、まさかあるのか?」


「山の中にあった水源を汚してたから、全部掘ってきたんだ」



 ルーイさんが自分の精霊のカバンから魔鉄の鉱石を取り出して、次々と並べていく。それを見ているレオンさんの顔は驚きの表情から、次第に嬉しそうな顔に変わっていった。やはり滅多に手に入らないものが目の前に積まれていくのは、鍛冶屋として興奮するんだろう。



「こいつは凄いぞ、こんなに一度に手に入る事なんてまずありえん。これは若い連中も集めて、魔鉄加工の技術を継承せんといかんな」


「見つけられた分は全部掘ってきただが、同じ山にしばらく()もる予定だ。また見つかったら持ってきてもいいか?」


「おう、いくらでも買い取らせてもらうぞ、他にも何かあったらぜひ買わせてくれ」



 レオンさんとルーイさんは、取り出した色々な鉱石を手にして盛り上がっている。共通の話題だけあって、2人ともすごく生き生きとした表情をしている。



「レオンおじーちゃん楽しそうだね」


「ルーイさんも色々なものを買い取ってもらえて嬉しそうにしてるな」


「ご主人様、今回の冒険では懐かしい人に次々会えるから凄く楽しいです」


「ボクも色々な人に会えて楽しいよ」


「ダイ君たちと一緒に居ると、本当に退屈しないね」


「流れてくる水もきれいになってるでしょうから、帰ってみんなに報告しないといけないですね」


「ウミがもう一度浄化魔法をかけたら、もう大丈夫なのです」


「……みんなきっと喜ぶ」


「わうっ!」



 確かに今回の冒険では懐かしい人、お世話になった人に会うことが出来て嬉しい。リザードマンの人たちが苦しんでいたのは不幸な出来事だったが、誰も犠牲にならずこうして解決に導けた今だからそう思える。水源を浄化して時間も経っているし、湖に流れ込む水もきれいになっているだろう。


 帰ったら報告や事後処理をして、安全が確認できたら一度王都に引き上げよう。あとは拠点から通いながら遺跡探索をして、様子を見てあげれば良いだろう。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
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