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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 回路魔法編
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第153話 応急処置

 全員に薬を飲ませた後に、もう一度外に行って下級精霊たちと話をしていたウミと、長老の部屋で合流する。水の精霊魔法で洗浄と浄化をするが、リザードマン達の体や衣類や寝具と一緒に、土の精霊魔法も併用して住処(すみか)全体の土壌もきれいにし、そこに風の精霊魔法を組み合わせて空気もすべて入れ替える。


 ウミは出会った頃、着ているものの洗浄は苦手と言っていたが、守護精霊になった事もあって問題なく出来ると言ってくれた。自分の見えない範囲や細かな見落としが発生しないように、下級精霊と感覚を共有して指示を出すらしいので、3属性を広範囲に同時発動させるという大規模精霊魔法は、彼女への負担もかなりあると思う。



「ウミ本当に大丈夫か? 頼むからあまり無理はしないでくれ」


「大丈夫なのです、ダイ君は心配性なのです」


「3属性の精霊魔法を、この規模で使うとか心配するのは仕方がないよ」


「確かにそうね、他の精霊と感覚を共有するなんて言われたら、心配するのも無理はないわ」


「ウミちゃん、一つ一つやってはダメなんですか?」


「やるなら一度にやってしまう方がいいのですよマイちゃん、その方が負担は減るのです」


「ウミがそう言うなら任せるよ、でも俺に出来ることはないか?」


「外に居る下級精霊たちにも協力してもらうですし、ダイ君の近くに居る子たちにも手伝ってもらえるから大丈夫なのです。でも、ダイ君に抱きしめながら頭を撫でてもらえれば、もっと頑張れるのです」


「わかった、ウミこっちに来てくれ」



 普段と違って、俺の正面に立っているウミが近づいてくれたので、抱きしめて頭を撫でてあげる。こちらを見上げるように顔を上げたウミの瞳が閉じられると、部屋の中の空気が変化して土の香りも感じられる、それに体や着ているものも、一瞬でスッキリとしてしまった。



「ふあっ、すごく気持ちがいいです」


「……疲れも取れる気がする」


「これは凄いね、守護精霊というのはこれ程の力を持っているなんて、驚きしか感じないよ」


「ウミ1人だとこんな精霊魔法は使えないのです、ダイ君が居るから出来るのですよ」


「おとーさんとウミおかーさんがとても仲良しだからだね」


「ウミちゃんがこれだけ頑張ってくれたので、今日は好きなだけ甘いものを食べていいですからね」


「ほんとなのですかマイちゃん、嬉しいのです!」


「こんな凄い精霊魔法を見せられると、ウミちゃんに対して少し気後れしてしまうけど、そんな所は変わらないから安心できるわ」


「ダイ兄さんに抱きしめられてる顔も、小さかった時に頭の上で嬉しそうにしてたのと同じだね」


「わぅっ!」



 ウミは俺の頭の上で、こんな表情を浮かべていたのか。でも、穏やかで嬉しそうな顔なので、そんな安らげる場所になっていたんだとすれば嬉しい。



「ダイ殿、我々も自然と共に生きる種族だから精霊の事はそれなりに知っておるが、複数の精霊魔法を同時に使える存在など聞いたことがないですぞ」


「ウミは俺の守護精霊なんです。彼女は全ての属性の精霊魔法を、上級精霊より使いこなせる力があると聞いています」


「そんな精霊が存在するとは初耳じゃな、それに今の魔法で体が軽くなってきておる」


「ウミちゃんの精霊魔法で、体の中に入った悪いものも消えているのかしら」


「浄化の魔法も一緒にかけてるのです、そのお陰かもしれないのです」



 そんな話をしていると、入り口にカイがやってくる。足取りは少しおぼつかないが、立って歩けるくらいは回復していた。その後にはリクや別の人達も部屋に来て、体力のある人や症状の比較的軽かった人から、回復していってるみたいだ。



「リクさん、カイさん、動いて大丈夫ですか?」


「力、入るように、なった」


「ダイ、お前たちの、おかげ、今は、少し動ける、もう、大丈夫」



 カイとリクがそう言って、その場に座り込んだ。動けるようになったと言っても、まだ病み上がりで辛いだろうけど、長老の様子が気になってここまで来たみたいだ。



「皆にも心配をかけたな、お陰で儂も少し動けるようになった」



 長老は上半身を起こして壁にもたれ掛かり、一緒に部屋に来たリザードマン達も床に座ったので、俺たちは改めてメンバーの紹介をする事にした。



「アイナとイーシャは改めて紹介するまでもありませんが、今でも俺の大事な仲間で家族です」


「長老さん、皆さん、ご無沙汰してます」


「あの時助けてもらったおかげで、とてもいい出会いが出来たわ、本当にありがとう」


「この娘が精霊のウミで、元は水の中級精霊だったのですが、先日俺の守護精霊になりました」


「ダイくんの守護精霊のウミなのです。この辺りは全てきれいにしたですが、まだ汚れた水が流れ込んで来てるのです。原因がわかるまで気をつけて欲しいのです」


「この娘は麻衣と言って、俺と同じ世界から来た転移者です。彼女は料理が得意なので、皆さんの食べる事が出来る食事を、こちらから持ってきた材料で作ってもらおうと思っています」


「始めまして、麻衣といいます。皆さんの体調不良は水の影響だと思いますから、しばらくは私たちで用意した水と食材を使って、召し上がれるものを作りたいと思います」


「こちらが猫人族のエリナです。凄く細かな所に気がつく娘で、いつも助けてもらっています」


「……エリナです、よろしくお願いします」


「赤い髪の女の娘がオーフェリアです。彼女が転移魔法を使えるので、水や食料は遠慮なく使って下さい」


「ボクは魔族のオーフェリアだよ、オーフェって呼んでくれると嬉しいな。王都やアーキンドにもすぐ行けるから、食べたい物やお魚があったら、遠慮なく言ってね」


「この子供がキリエと言って、俺たちの(むすめ)です」


「おとーさんとおかーさんたちの子供で、キリエといいます。リザードマンのおじーちゃんやおにーちゃん、よろしくお願いします」


「こちらは白狼(はくろう)のシロです。眠っていても魔物の気配にすごく敏感なので、野営の時に頼りになっています」


「わうん!」


「この人はメイニアさんです、とても長く生きているので、色々な事で助けてもらっています」


「古竜族のメイニアだよ、よろしくお願いするね」


「竜族様ですと!?」


「キリエは黒竜族だよ」


「かっ、神が2人も……」



 メイニアさんとキリエが竜族だと明かすと、リザードマンたちに衝撃が走ったみたいだ。地面に手を付いて頭を下げている人も居るし、長老もまだ力の入らない体で頭を下げようとしている。



「リザードマンのおじーちゃん、あまり無理して動いたらだめなの」


「この様に心優しい神が、我らのもとに降臨してくださるとは……」



 キリエが長老の所に走っていって、その体を支えてあげるが、その姿を見たリザードマン達は、とても神聖なものを見る顔になっている、と思う。顔の作りが自分たちと大きく異なるので良くわからないが、恐らく間違ってないだろう。



「メイニアさん、リザードマンって竜族を神聖視しているんですか?」


「そんな種族が居ると聞いた事はあるけど、彼らがそうだったんだね」


「リザードマンのおじーちゃん、キリエはまだ子供だから神とかやめて欲しいの」


「私も今はダイ君たちの所でお世話になってる身だし、みんなと同じ様に接してもらえるとありがたいかな」


「わ、わかりました、お二人がそうおっしゃるのでしたら」



 長老は頭を下げようとするのをやめて、部屋にいた他の人も普通に座り直している。ひとまずはきれいな水を配ったり、何か食べて体力を回復してもらわないといけない。特に小さな子供たちは、体調不良になった時期が早かったみたいなので、何か飲ませたり食べさせたりしないと、脱水症状や栄養失調で更に回復が遅れてしまうだろう。



「長老様、俺たちの持ってきているきれいな水を、どこかに置かせてもらってもいいでしょうか。それから何か食べられる物を用意したいので、料理のことを教えてくれる人がいれば話を聞きたのですが」


「ダイ先輩、まずは果物とかの方が良いと思います、構いませんか長老様」


「果物なら子供たちも喜ぶじゃろう、何から何まですまないな」


「果物を切るだけですから、この部屋を使わせていただきますね」



 麻衣が長老に了解をとって、調理台と果物を精霊のカバンから取り出し、アイナと一緒に次々と切り分けていき、この部屋に集まった人たちに各部屋へ配ってもらう。


 その作業が終わった後に長老にも食べてもらっているが、一緒に果物を頬張っているウミはとても幸せそうだ。今回はかなり頑張ってもらってるので、思う存分食べて欲しい。



「みんな聞いてくれ。俺は一度王都に戻ってポーションを買い足して、ここにも置いてもらおうと考えてるんだ。それから水樽も増やしたいから、このまま移動して買い物をしようと思う」


「移動は任せてね、ダイ兄さん」


「それから、クレアとカヤも連れてきたい」


「ダイ先輩、カヤちゃんとクレアちゃんはどうして連れてくるんですか?」


「クレアには、この近くにある草や木の汚染状況を聞いてもらいたいんだ、それからカヤには俺たちが水の調査をしている間の世話役をやってもらおうと思っている」


「なるほどね、クレアちゃんが居ればそれがわかるし、こちらから持ってきた材料で料理する時も、カヤちゃんが居る方がいいわね」


「大人数で行っても買い物の邪魔になるだろうし、私はここに残ることにするよ」


「キリエも小さな子たちのお世話する」


「……私は買い物を手伝う」



 そうして、俺、ウミ、イーシャ、エリナ、オーフェが買い物、残りのメンバーがリザードマンのお世話で残る事になった。シロは周囲の警戒をするらしく、洞窟の入口に座ってくれる。



「では長老様、王都で買い物をしてポーションや使える水を増やして、後2人いる俺の家族に手伝ってもらおうと思います」


「先程から信じられん事が次々起こっておるが、ダイ殿に全ておまかせする。どうか我らを救ってくだされ」


「はい、出来るだけの事をして、元の生活に戻れるように頑張ってみます」



◇◆◇



 王都の拠点に転移して、2人に出かける準備をしておいてもらうように告げ、5人で買い物に出発する。かなりの量のポーションを買い占めてしまう事になるが、在庫が潤沢(じゅんたく)な王都なら大丈夫な点がありがたい。



「水はエルフの里に汲みに行きましょう、あそこなら楽に詰められるわ」


「水を汲むのはウミに任せて欲しいのです」


「今回の冒険ではウミに負担をかけてばかりだな、本当にありがとう」


「ダイくんはウミの事を大切にしてくれるから好きなのです、でも少し気を使い過ぎなのです。精霊魔法だけで大量の水を作るのは大変ですけど、近くの水を移動するだけなら問題ないのです。それに好きな人の役に立てるのは、ウミだって嬉しいのですよ」


「……ウミ、かっこいい」


「ボクもダイ兄さんの役に立てるのは嬉しいから、その気持はよくわかるよ」


「こうやって素直な気持ちをぶつけられる所は、私も見習わないといけないわ」


「わかったよウミ、よろしく頼むな」


「お任せなのです!」



 状態異常を治すポーションを大量に購入した後は、全員で荷車に積めるだけ水樽を積んで、それを精霊のカバンに収納し家に帰る。カヤとクレアの出かける準備もできていたので、そのままエルフの里に移動した。



「ヨークさん、こんにちは」


「ダイ君か、よく来たの、あれから体調はどうじゃ?」


「おかげさまで快調です、今は中央大森林にある遺跡の調査に向かって移動中でして」


「ほう、何か面白いものは見つかりそうかの」


「魔法回路に関するものが眠っているという噂を聞いたので、少し調べてみたいと思っています」


「また面白いものが見つかったら、儂にも教えてくれるかの」


「もちろんです。それに相談に乗ってもらう事もあるかもしれませんが、よろしくお願いします」



 遺跡の調査に行くという俺たちの事を、ヨークさんは興味深そうな目で見つめてきた。何が見つかるかわからないが、どんな事でも報告に来るようにしよう。



「お祖父様、また川の水を使わせて欲しいの」


「それは構わんが、こうして転移できるのに、そんなに水が必要なのか?」


「ボクたち途中でリザードマンの住処に寄ったんだけど、水が汚れててみんな病気になってたんだ」


「なんじゃと!?」


「それで当面必要な水を外部で確保して、水質汚染の原因を探ろうと思っているんです」


「そういう事じゃったら、この先もお主たちの自由に川の水を使って構わんよ」


「ありがとうございます、助かります」


「今日訪ねてきた人数が少ないのも、そちらの方に人員を()いておるからじゃな」


「はい、そうです。そして、カヤにはリザードマン達の食事の用意する手伝いをお願いして、クレアには周囲の動植物の汚染状況を教えてもらおうと思って、これから彼らの住処に向かう予定です」


「儂にも何か手伝えることがあったら、遠慮なく言って構わんからな」


「ありがとう、お祖父様、何かわからない事があったら相談に来るわね」



 ヨークさんに許可をもらえたので、川に行って水を汲ませてもらう。いつもは全員で樽に水を詰めていくが、今回は時間がない事もあって、ウミの精霊魔法で一気に終わらせた。


 またウミを抱き寄せて頭を撫でていたら、カヤとクレアが羨ましそうに見ていたので、時間がある時に2人にも同じようにしてあげよう。イーシャとエリナとオーフェもこっちを見てるな、やっぱり全員にしてあげよう。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
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【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
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