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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 回路魔法編
153/176

第151話 出発前夜

 アーキンドから帰ってきてお昼を食べた後に、ロイさんとリンダさんを商会の王都支店まで送り届けて、今回の任務は達成という事になった。とは言えギルド経由の依頼ではないので、パーティーの実績にはならないが、報酬としては破格とも言えるアーキンドの別荘を手に入れることができた。


 特にエリナの喜びようが凄く、ずっとニコニコして俺に体を擦り付けてきたり、甘えた声で抱きついてきたりしている。



「……あるじ様ぁ」


「ん? どうしたエリナ」


「……呼んでみたかっただけ」



 ソファーの隣りに座ったエリナが、俺の足に覆いかぶさるようにして倒れ込んでくるので、その頭を撫でてあげる。アーキンドから帰ってずっとこんな調子だけど、なんだか凄く可愛い生き物になってしまっている。



「エリナさん、さっきからふにゃふにゃですね」


「エリナちゃんはダイに甘えるのが上手だけど、今日はそれが更に進化しているわ」


「私も見習ってダイ先輩に……」


「ボクも今のうちによく見ておくよ」


「私も勉強しないと」



 麻衣は見習うと言い出し、オーフェとクレアもそんなエリナの姿をじっと観察している。



「やっぱり特別なものを手にれられて嬉しいのかい?」


「……うん、あの棚に飾れない宝物が手に入って嬉しい」


「キリエもあの家でこの姿になる事ができたから、とってもうれしい」


「……キリエも一緒、抱っこしてあげる、おいで」


「やった! エリナおかーさーん!」



 エリナの膝の上に抱っこされて、キリエも嬉しそうに笑っている。海岸に打ち上げられていたエリナを発見して介抱した後、目が覚めてちょっとした行き違いはあったけど仲間になり、俺が主人登録をした。


 キリエも海水浴に行った晩に眠っていると次の日の朝に人化できて、それ以降ずっと楽しそうに過ごしている。そんな思い出の詰まった家が自分たちの物になって、俺も凄く嬉しい。


 特にエリナは自分が得たお金で購入したとあって、喜びも一入(ひとしお)だろう。



「カヤはどうだ、管理する家が増えたけど何か異常はないか?」


「あちらの家の状態も、ここと同じように把握できるようになったこと以外は、特に変わった所はありません」



 アーキンドには朝市の買い物によく行くので、その都度様子を見たり状態を確かめればいいと思っていたけど、カヤはここに居てもちゃんと把握できているんだな。これなら夏に滞在する時も、寒い時期に避寒(ひかん)したりする時も、いつでも利用可能な状態に保てるだろう。



「ウミの体もこの大きさになったので、今度の海水浴はもっといっぱい遊ぶのです」


「ウミおかーさん、水の上の浮かび方おしえてね」


「任せるのです!」


「クーちゃんも今度の夏は泳ごうね」


「私、泳いだこと無いけど大丈夫かな」


「ダイ先輩に捕まって泳ぎの練習させてもらえるから大丈夫だよ」


「それはすごく楽しみ!」



 みんなの気持ちが夏の海水浴の話に向かってしまった、もうすぐ光の月が終わるがまだ気は早い、しかし家族も増えて初めての海水浴は俺も楽しみだ。



「その時は私も参加するからよろしくね」



 今年はメイニアさんの水着姿を見ることになるのか、ウミも成長してるし夏の試練は今までより遥かにランクアップする事が決定した、色々と覚悟を決めよう。



◇◆◇



 夕方、そろそろ夕食の準備をしようかというタイミングで、ユリーさんとヤチさんが家を訪ねてきてくれた。なんでも、別のチームと合同でダンジョンの地質調査をする事になり、出かける前に挨拶に来てくれたらしい。合同調査なので俺たちに依頼が出せずに、かなり残念がっていた。


 せっかくなので、そのまま夕食を食べてもらうことにする。俺たちも明日から遺跡探索に行くし、2人には回路魔法で作った新しい杖を作って渡したいと思って用意してあるので、ちょうど良かった。



「あなたって少し目を離すと、とんでもない事ばかりするわね」


「全ての属性を使える守護精霊、そしてダイさんの所有する家を管理できる妖精、しかも既にアーキンドに別荘まで入手されているとは」


「家族のみんなやヨークさん達には心配をかけてしまいましたが、こうしていい方向に収まってくれたのでホッとしています」


「私たちでは力になれない事もあるけど、困った時は相談してね」


「私たちの研究所は薬や魔法を研究している所とも繋がりがありますので、同じ様な事態になった時は頼って下さい」


「ありがとうございます、お二人と出会えて本当に良かったです」



 そうお礼を言うと、ユリーさんは少し頬を赤くして目線を外してしまった。首元には見覚えのあるチェーンが見えているので、結びの宝珠のペンダントをしてくれてるんだと思うけど、俺はこの人にもプロポーズしてしまった事になってるんだよな。



「教授はあれから、肌身離さずこの首飾りを身につけているんですよ」


「ちょ、ちょっとヤチ、あまり変なことを言わないでよ」


「私たち2人が新しい首飾りを身につけ始めたのは研究所内でも話題になって、どこで手に入れたのか同僚にしつこく聞かれたので、教授が年下の男性冒険者から贈られたと言うと、所内に衝撃が走りました」


「あれは失敗したわ、あまりにしつこいからつい口が滑ったのよ」


「男性職員で見るからに落ち込んだ方が、何人もいましたね」


「事あるごとに食事や買物に誘ってくる人も居たから、いい薬よ」


「ユリーさんが男性に人気があるのは、何となく判る気がするわね」



 それは俺も同じ男として良くわかる、本人は背の高さと童顔を気にしているみたいだけど、ユリーさんには庇護欲を掻き立てる可愛さがある。



「そういうヤチだって男性職員から人気があるわよ」


「私は人族の男性に興味はありません、せめてダイさんと同じくらいなでなでが気持ち良くないと、お誘いを受ける事はありませんね」


「ダイくんと同じなでなでが出来る人は、この大陸には居ないと思うのです」



 それって俺が誘えば乗ってくれるってことだよな、種族が違うし風習も異なるけど俺はこの人にもプロポーズしてしまった事になっているし、今もこうしてペンダントを身につけてくれているから、少しは気を許してもらっているんだろう。



◇◆◇



 そんな話をしばらくしていたが、そろそろ新しい杖の改造に取り掛かろうと思う。



「実は俺の魔法回路の改造スキルも上がっているので、お二人には新しい杖を贈りたいと思うんですが」


「あなた達には色々なものをもらってばかりで申し訳ないけど、今度はどんな魔法回路なのかしら」


「ユリーさんには16個の風の刃が出る魔法回路にしてみました」


「ほんと!? あれ前に見た時から使ってみたかったの、嬉しいわ」



 ユリーさんが子供のように目を輝かせて俺の方を見てくる、こういう所が年上の女性なのに可愛いんだよな。



「ヤチさんには障壁の魔法を4並列にしてみようと思っています」


「確か爵位級の魔族を倒す時に4並列にしたと言われてましたが、変わった改造の仕方をしたはずですね」


「はい、その改造方法は自分の手にした魔法回路にしか適用できなかったんですが、最近になって他の人にも使う方法がわかったんです」


「何か特殊な方法なの?」


「実は魔法回路を起動する人の肌に触れていないと出来ないんです」


「それはダイさんに手などを握ってもらえば良いんでしょうか」


「はい、もしお嫌でなければ腕でも構わないので、触れさせていただけると」


「おかーさん達はおとーさんに抱っこしてもらってたけど、ユリーおねーちゃんとヤチおねーちゃんもやってもらう?」


「ダイ君なら触られても平気だけど、抱っこは恥ずかしいからやめておくわ」


「私もダイさんになら手を握られても平気ですよ」



 2人の了承が得られたので、回路魔法を使って新しい杖の改造をすることにした。ユリーさんには3並列魔法回路で、16分割して発生する風の刃の威力を落とさないような構成に。ヤチさんの障壁はバッファとなる充填部分は麻衣より増えてしまうが、流れるマナは従来より減らして強度を大きく上げられるような4並列の構成にしている。


 手を握る時に少し恥ずかしそうにされたが、その後に呪文を唱えて改造する俺の姿を見て、そんな気持ちはどこかに飛んでいってしまったみたいだ。



「以前少しだけ改造方法は聞いてたけど、実際に目にするとどう驚いたらいいかわからないわ」


「私たち魔族も多種多様な固有魔法は使えますが、言葉で様々な現象を引き起こすというのは見た事がありません」


「俺にもどうしてこの言語なのかとか詳細はわからなくて、その手がかりを探すために明日から遺跡の探索に出ようと思っているんです」


「リザードマンにも会えるからボク楽しみなんだ」


「普通の冒険者はリザードマンの姿を見ると、刺激しないようにそっと立ち去るのだけど、ダイ君だものね」


「彼らは力が強いですが、優しくて頼りになりますよ」


「……あるじ様の友達」


「本当に素晴らしいです、今度私も連れて行って下さい」



 ヤチさんのテンションがまた上昇しだした。オーフェに場所を覚えてもらえればいつでも行けるようになるし、みんなで訪ねてみるのもいいだろう。


 ただ訪問するんじゃなくて、何かお土産になるような物は持っていきたいな。彼らとは食文化も全く違うだろうけど、麻衣の料理ならそんな壁は超えられそうな気もするし、武器の材料になるレアアイテムでもいいかもしれない。今回は顔見せだけの予定だが、次からは何か考えよう。



◇◆◇



 夕食を食べた後に少しだけゆっくりとして、ユリーさんとヤチさんは遠征の準備があるからと、自宅に帰ることになった。外も暗くなっているので俺とウミとシロで送りに行く、こちらも明日の朝は早めに出発するので、他のメンバーは順番にお風呂に入っておくそうだ。



「ウミさんは以前と変わってなくて安心したわ」


「ウミは何も変わらないのです、甘い物とダイ君の頭の上があればいいのです」


「でも本当に大きくなりましたね」


「そうね、私もこれくらいの大きさが欲しかったわ」



 ウミは相変わらず、まろやかさんで支えるようにして俺の頭の上に乗っているし、きっと身長の話をしてるんじゃないんだろう。



「お二人に渡した杖は、同じ様な構成の物をこちらでも作っていますが、動作確認だけはしておいて下さい」


「ダイ君の作ってくれたものだから、きっと問題ないわ」


「こんな素敵なものをいただいてしまったら、どんな事があっても教授を守れる気がします」


「そんな事は無い方がいいけど、もしもの時はよろしくね、ヤチ」


「やはりお二人は仲が良くていいですね」


「ヤチとこんな会話って、2人だけの時かあなた達と一緒の時しかしないけどね」


「そうだったんですか」


「普段はどうしても自分達の事を低く見られないように気を張ってしまいますが、皆さんはどんな相手にも敬意を持って接してくれますから」


「研究者もそうだけど、冒険者って特に実績や等級で上下関係が決まってしまうから、あなた達みたいに接してくれる人って少ないのよ」



 そう言えばロイさんの護衛を引き継いだ時も、最初は若いパーティーだからと渋られたが、プラチナランクのギルドカードを見せたら快諾してくれた。2人ともまだ若いし、年上の研究者や護衛任務が出来るほど実力のある冒険者には、どうしても下の存在として見られてしまうんだろう。



「ウミがどんな姿になっても変わらないように、ダイくんもずっとこのまま変わらないのです」


「そうね、ウミさんの言うとおりだわ。だからこれからもよろしくね、ダイ君」


「はい、こちらこそよろしくお願いします」



 薄暗い道でもわかる輝くような笑顔を見せてくれたユリーさんに、俺も返事を返す。この2人にはダンジョンの事を色々教えてもらったり、今の生活を守っていくための配慮で、とてもお世話になっている。


 それに魔族界の問題が解決できたのも、結びの宝珠が手に入ったのも、冷蔵庫が製作できたのも、元を辿ればダンジョンの護衛を依頼してくれたからだ。たとえ色々な偶然が重なったのだとしても、この2人にはとても感謝している。できれば今の関係をずっと続けていきたいし、それが変わったとしても付き合いは継続していきたい。



「ダイさん、ありがとうございました、そこが自宅ですのでもう大丈夫です」


「ダイ君ありがとう、遺跡探索頑張ってね、あなた達なら必ず何か見つけられるわ」


「私も何か見つかるよう応援しています、頑張って下さい」


「はい、ユリーさんもヤチさんも、気をつけて調査に行ってきて下さい」



 集合住宅になっている2人の家がある場所の門の前で別れて、俺たちも自宅に帰る事にした。明日からの遺跡探索で、魔法回路に関するどんな物が見つかるのか、とても楽しみだ。それにリザードマンの人たちに再会できると思うと、万感の思いが湧き上がってくる。


 ウミを頭に乗せて、隣を歩くシロと一緒に夜道を進みながら、2人に応援してもらったし、きっと何か見つかる気がする、そんな予感に心躍らせた。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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