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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 回路魔法編
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第149話 二年ぶりの街

 俺たち家族にロイさんとリンダさんが加わり、ファースタへの旅行がますます賑やかになった。リンダさんと初めて会ったメンバーもすっかり打ち解け、毎日楽しそうに話をしている。旅もそろそろ終わりに近づき、もうじきファースタの街が見えてくる辺りまで進んでいた。



「ダイ君、本当にありがとう。リンダが旅の途中に、あれほど楽しそうにしている姿は初めてだよ」


「俺たちの方こそありがとうございました。お二人に加わっていただいて、初めての家族旅行がとてもいい思い出になりました」


「竜族は他人の持つ気持ちや心の動きに敏感なんだけど、リンダさんの持つ“気”はとても心地いいよ」


「竜族の(かた)にそう言ってもらえると、あいつも喜びます」


「ウミも一緒にお菓子を食べると、とても幸せな気持ちになれるのです」


「家の外で活動できる妖精や魔族に竜族、それに成長したウミさん、色々な経験ができて私も楽しかった」


「色々と驚かせてばかりで申し訳なかったですが、そう思っていただけるなら嬉しいです」


「私もあいつのように、何でも受け入れられるようにならないといけないな」


「ボクの事も今までと同じように接してくれて、とても嬉しかったよ」


「私も凄いって言われちゃった」



 シロの頭を撫でながら、キリエやアイナやエリナと楽しそうに話をしているリンダさんを見て、顔を見合わせて微笑み合う。あの人の物怖じの無さは少し特殊だと思うけど、そのおかげで様々な種族がいる俺たちのパーティーが受け入れられるという、大きな効果を生んでいる。


 色々な種族と友だちになりたいオーフェや、どんな種族でも分け隔てなく向き合っていきたい俺も、学ぶべき点が多い人であるのは間違いない。



「ダイ、街が見えてきたわよ」


「あれが旦那様が初めて訪れた街」


「私たちの始まりの街です」


「おとーさんとアイナおかーさんとイーシャおかーさんが住んでた街だね」


「ダイ兄さんが最初にいた街、どんな所か楽しみだよ」



 御者をしてくれているイーシャの声で、遠くに姿を現した街をみんなで見ながら、それぞれの思いを口にする。2年ぶりに帰ってきたこの街は、ここからだと変化はわからないが、色々と変わってしまった部分もあるだろう。期待と不安に胸を膨らませて、馬車は入場門へと向かっていった。



◇◆◇



 国王にもらった通行証があるので、カヤやクレアの入場審査も無事に終わり、まずはロイさんの恩人が居るという商会に向かった。普通の馬車で訪ねたので、最初は商品が届かなかったと思われたが、精霊のカバンから次々荷物を取り出して納品すると、俺やロイさんの手を握って、涙を浮かべながら喜んでくれた。


 そこで一度別れて馬車を返却に行ったが、ここでも馬の健康ぶりと毛並みの良さ、それに俺やクレアにべったり甘えている姿を見て驚かれた。


 馬車の返却を終えた後は、みんなで街を歩く。ロイさんたちは商会の経営者が住む家に泊まるらしいので、明日の朝に合流して王都へ帰ることにした。そして、俺たちは街を見学してから、お世話になっていた宿【真夜中の止まり木】に行ってみる予定にしている。この人数で泊まれる部屋があると良いんだが。



「懐かしいですね、イーシャさん、ご主人様」


「そうね、全然変わってなくて安心したわ」


「お世話になったお店の人とか元気だと良いな」



 キリエを抱き上げ、カヤと手をつないで街の中をのんびりと歩く。主人登録していない獣人は街に入れないとか、冒険者ギルドの仕組み、魔法回路の事もここで初めて知った。今では当たり前に受け入れられる事でも、その時はこれまでの常識や習慣と全く異なっていて戸惑った。



「街の大きさはフォーウスと同じくらいなんだね」


「道幅は王都やアーキンドに比べると狭いですね」


「おとーさん、あっちからいい匂いがする」


「あそこには広場があるのかな?」


「広場には屋台があるから、少し買ってみようか」


「この街にはどんな味付けの料理があるか楽しみです」



 みんなで広場を目指して歩いていく、そこにはいくつかの屋台が出ていて、数こそ少ないがどれもいい匂いを漂わせていた。



「ご主人様、これ! この街で初めて食べたのがこれです」


「アイナ、よく覚えてたな」


「ご主人様に初めて買ってもらった食事で、とても美味しかったから忘れるわけ無いですよ」



 茶色いパンに肉や野菜を挟んだ、サンドイッチぽい食べ物が並んだ屋台の前でアイナがはしゃいでいる。折角だしいくつか買ってみんなで食べてみよう。



「久しぶりに食べたけれど、その当時の事を思い出すわね」


「ずいぶん昔の事に思えるけど、ここを離れてまだ2年しか経ってないんだよな」


「これはすごく濃い目の味付けですね、マイ様」


「こういった味付けは時々食べると、すごく美味しく感じるから、家でも作ってみましょうね」


「私も頑張って味を覚える!」


「クレアおねーちゃん、がんばってね」


「いつものパンと違う素朴な味がしてこれも美味しいよ」


「……これがアイナとあるじ様の初めての味」



 エリナのその発言は少し違う意味にも取れそうだが、ここはスルーしておこう。


 久しぶりに食べたが、懐かしさ補正が入っているのか、初めて食べたときより美味しく感じる。味付けが進化しているのか、それともみんなで食べてるから美味しく感じるのか、その理由はわからないが、久しぶりの屋台料理を堪能した。


 ウミも果物をいくつか買ってきて、隣で美味しそうに頬張っている。人間サイズになったメリットの一つが、普通に買い物が出来るようになった事らしい。



◇◆◇



 屋台で小腹を満たした後は、商店が立ち並ぶ場所をみんなで歩く。俺の服を買った雑貨屋、武器を買ったお店、魔法回路のことを色々教えてくれたお店、その時の記憶が呼び覚まされていく。それらの店の前を通りすぎて、裏通りを進んで行くと、目的の店舗が見えてきた。



「おばあさん、こんにちは」


「・・・・・」



 アイナが元気よく挨拶するが、相変わらず反応が無い。



「お久しぶりです。覚えていないかもしれませんが、以前この店でお世話になって、久しぶりにここまで来たので、ご挨拶に伺いました」


「・・・・・」


「少しお店の商品を見ても構わないかしら」


「・・・・・」


「……私も見たい」


「・・・・・」



 相変わらず反応が返って来ないので、イーシャ達は勝手にお店の商品を物色し始める。何か手土産でもと思ったが、お店である以上、買い物をするのが一番いいだろうと考えたからだ。



「あんた達2年ぶりだね。そっちの犬人族の娘は背も伸びてきれいになったし、猫人族の娘は初めて見る顔だけど、大切にしてもらってるようで何よりだよ」



 やっと反応してくれたおばあちゃんの声を聞いて、アイナがとても嬉しそうな顔で話をし始めた。2年ぶりに訪れた事を覚えていてくれたし、アイナの成長も喜んでくれている。エリナも大切にしてもらってると言われて嬉しそうだ。


 いくつか商品を購入してお店を後にする、キリエに挨拶をされたり麻衣に焼菓子をもらったおばあちゃんは、反応は薄かったが表情は嬉しそうだった。



「私の事も覚えていてくれました」


「ちゃんと昔の姿と変わった部分まで覚えていてすごかったわね」


「俺たちはずっと一緒だったから、なかなか気付けないからな」


「……私も大切にされてるって喜んでくれた」


「やさしそうな、おばーちゃんだったね」


「お菓子も受け取ってもらえてよかったです」


「あまり気持ちが表情に現れない人みたいだけど、とても喜んでいたよ」



 メイニアさんがそういうのなら間違いないだろう。この街を出る時にも挨拶はしたが、それから2年経ってもしっかりと覚えてもらっていた事がとても嬉しかった。



◇◆◇



 その後は表通りに戻り魔法回路屋も覗いてみたが、お店のおじさんは俺の顔では思い出せなかったものの、変な魔法回路を組んだ人物としての記憶はあったみたいだ。雑貨屋の恰幅のいいおばちゃんと、武器屋の元気のいいお兄さんは残念ながら居なかった。


 そして、いよいよ宿屋に向かう、無愛想だけどとても優しいおじさんは元気にしているだろうか。


 真夜中の止まり木に到着してカウンターを見ると、1人の男性が腕を組んで座っていた。相変わらずの無表情な姿に懐かしさを覚えつつ、近づいていって挨拶をする。



「こんにちは、ご無沙汰しています」


「……! お前たち、久しぶりだな」


「覚えていてくれたんですね」


「人族とエルフと獣人のパーティーなんて、まず見られないからな」



 親父さんは少しだけ俺たちを見つめた後、椅子から立ち上がって反応してくれた。その表情にほとんど変化は無いが、何となく再会を喜んでくれている気がする。



「確か王都に行ったはずだな、またこの街に来たのか?」


「はい、ここに少しだけ用事があって、今日到着したところです」


「人数も増えて大きなパーティーになったじゃないか、今日は泊まっていくのか?」


「家族全員で来てしまったんですが、この人数が泊まれる部屋ってありますか?」


「任せろ、特別な部屋を貸してやる」



 親父さんはカウンターの奥にある小部屋に入っていって、そこから1本の鍵を持ってこちらに出てきた。その様子を見ると、普段から貸し出している部屋ではなく、異例の事態が起きた時のみ使う部屋の感じがする。



「部屋を見せてやるから付いて来い」



 そう言って宿屋の一番奥にある大きめの扉に鍵を差し込んで開け放つと、そこにはカヤが新しく作ってくれた物に匹敵するサイズのベッドが鎮座していた。



「これは凄い部屋とベッドですね」


「ここはこの宿屋が出来てから数回しか使っていない特別な部屋だ、ここならお前たち全員で泊まっても大丈夫だ」



 当然のようにベッドは一つしか無いが、家の妖精が作り出す物と同等とは驚いた。この世界のベッド職人が、大きなサイズにこだわる情熱はすごいものがある。



「ここを一泊貸してもらっても構いませんか?」


「もちろんだ、手続きをするから受け付けまで来てくれ」






 こうして今夜は真夜中の止まり木にある、特別室に宿泊する事が決まった。


どう転んでもベッドは一つ(笑)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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