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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 回路魔法編
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第148話 ロイとリンダ

誤字報告いつも助かっています、ありがとうございます。

 アイナが見つけてくれた動けなくなっている荷馬車に向かって、少しスピードを上げて移動していたが、カーブを曲がった先にそれは見えてきた。護衛の冒険者らしき人と商会の従業員だろう人が、荷馬車の周りに集まっている様だが、結構大きな車体だし道具も無しに人力で修理するのは難しいかもしれない。


 こちらに気づいたアイナが、大きく手を振ってくれている。隣に男の人が立っているようだが、あれはロイさんじゃないだろうか。



「みんな、あの荷馬車はロイ商会のものみたいだ」


「確かにアイナちゃんの隣に立ってる人はロイさんね」


「ファースタの街にロイ商会の支店は無かったはずですが、どうしたんでしょうね」



 確かに以前聞いた話では、セカンダーの街にある本店と王都とアーキンドの支店しか無かったはずだ。とにかく困っているのは確かだろうし、考えるのは後にして急いで向かおう。



◇◆◇



「ロイさん、ご無沙汰してます」


「君たち、久しぶりだね」



 スピードを上げて移動してもらった馬たちの首をなでてから、ロイさんに挨拶をする。麻衣が少し息が上がってしまった馬たちに、水を飲ませてくれるみたいだ。



「こんな所でどうされたんですか、確かファースタの街に支店は無かったと思いますが」


「実は商談で王都に来ていたんだが、私たちの商会を立ち上げる時にお世話になった人が困っていてね、ちょうど商会の倉庫に在庫があったから、届ける途中だったんだよ」



 その時、馬車の中からエリナに支えてもらいながらリンダさんが出てきた。



「まあまあ、あなた達お久しぶりね。エリナちゃんありがとう、もういいわよ」


「ご無沙汰してます、リンダさん」


「出てきて大丈夫か? リンダ」


「馬車が斜めになってしまって座りづらいし、皆さんが来てくださったのだから、私もご挨拶しないとね」



 俺は精霊のカバンから椅子を取り出して、リンダさんに座ってもらう事ににした。お礼を言って座ってくれたが、相変わらずこの人の周りには癒やしの空間が発生する。商会の人や護衛の冒険者は、突然現れた俺たちや、精霊のカバンから椅子を取り出す場面を見て、かなり驚いているみたいだ。



「その荷物というのは、急いで届けないとだめなんでしょうか?」


「納品日が迫っていて、それを破ると巨額の違約金が発生してしまうらしいんだ」


「私たち夫婦の恩人なのよ、その人は」


「他に在庫のある商会がなくてね。急いで荷馬車を手配して運ぶことにしたんだが、あまり丈夫な馬車じゃなかったみたいなんだよ」



 修理するにしても荷物を降ろすにしても、斜めになったままの馬車だと作業がやりづらい。ある程度軽くして、テコの原理で車体を持ち上げれば何とかなるかもしれないが、ここには台になりそうな物や丈夫な棒はないからどうしたものか。



「ダイくん、あの斜めになった馬車を、真っ直ぐにしてあげれば良いのです?」


「そうなんだが、ここには使えそうな道具が無いし、精霊のカバンにも入ってないからどうしようかと思ってるところなんだ」


「それならウミが何とかしてみるのです」


「構わないのか?」


「はいなのです! ウミもこの人たちの事は好きですから、お任せなのです」



 ロイさんや商会の人に車体を持ち上げてみると提案すると、一体どうするつもりだという顔をされたが、了承してもらえたのでウミに任せてみることにした。


 一緒に馬車に近づいて状況を確かめてから、精霊魔法で硬い土の台を作り、その高さを徐々に上げていく。斜めになっていた車体が真っ直ぐになった所で壊れた箇所を見てみたが、車軸も少し歪んでしまって荷台の底も破損しているようだ。幸い外れてしまった車輪は原型をとどめているが、応急修理をしても重い荷物を運ぶのは無理だろう。



「車軸が歪んでしまっているので、このまま荷物を運ぶのは難しいと思います」


「少し待ってくれないか、今のは一体……」


「これはウミの精霊魔法ですよ」


「あらあら、あなたはやっぱりウミちゃんだったのね」


「はいです、ウミはダイくんの守護精霊になったのです」


「まあまあ、それは素敵ね。それに大きくなっても、とても可愛らしいわ」



 ウミとリンダさんの会話で、周囲の空気が一気に弛緩した。辺りには、さっきの現象とかどうでも良いという場が出来上がってしまい、2人の会話を温かく見守っている。さすがリンダさんだ、この流れで一気に話を進めてしまえば色々説明は省けそうだが。



「確かウミさんは水の精霊だったはずだが、それがなぜ土の魔法を使えるのかね」



 長年連れ添っているだけあって、ロイさんだけは冷静に今の状況に疑問を呈してくる。有耶無耶(うやむや)にしてしまっても良いかなと思ったが、この後の提案の事もあるのでちゃんと説明する事にした。



「ウミは俺の守護精霊になって、全ての精霊魔法が使えるようになったんです」


「水の精霊から、ダイくんを守る精霊になったのです」



 そして、精霊の祝福の事や守護精霊の事をかいつまんで説明する、ロイさんは理解が及ばないという顔をして、俺とウミの方をじっと見つめるだけだった。リンダさんは始終ニコニコとしていたが、近くにいた従業員や護衛の冒険者たちは呆然としている。



「それでロイさん、行き先は一緒ですし荷物は俺たちで運びましょうか?」


「それは大変ありがたいんだが、構わないのかね」


「ファースタの街まで行って、一泊程度してから王都まで戻る予定ですから、帰りもお送りできますよ」


「そうだったのか、それならお願いしたいと思う」



 ロイさんはそう言って頭を下げてくれたので、俺たちも行動を開始する。長距離遠征の時に増やした荷車をすべて取り出し、荷物をまとめて水樽は個別に収納して、空いた場所にロイさんの商品を積み込んでいく。荷車の数は結構増やしたが、積みきれない分は麻衣方式の整理法「ロ-1」「ロ-2」という連番制で、精霊のカバンに収納していった。


 軽くなった馬車の車輪を応急修理して、なんとか自走できるまで直ったら、従業員と護衛の冒険者は王都へ戻る事になった。ロイさんが王都まで従業員を護衛すれば、任務完了という事にしてくれたのと、俺たちがプラチナランクの冒険者と明かすと、護衛の引き継ぎを快諾(かいだく)してくれた。



◇◆◇



「それじゃぁ、俺たちの馬車に移動しましょうか」


「リンダは私が運ぼう」


「そのご婦人は私に任せてもらっても構わないかな」


「あらあら、あなたが運んでくださるの?」


「こう見えても力は強いから大丈夫だよ」



 メイニアさんはリンダさんの了承を得ると、そのままお姫様抱っこで馬車まで運んでくれる。背も高いし、とても絵になる光景だ。



「まあまあ、本当に力が強いのね」


「人の姿をしているけど、私は竜族だからね」


「凄いわあなた、私、竜族の(かた)に運ばれるのよ」



 それを聞いたロイさんは完全に固まってしまったようだ、普通はこの反応でリンダさんみたいにはしゃいでいる方が希少なんだろうな。


 再起動したロイさんを連れて荷台に乗り込み、中で待機していたメンバーと顔合わせをする。靴を脱いで上がる事に少し戸惑っていたみたいだけど、足の悪いリンダさんもこちらのほうが(くつろ)げるだろうし、土禁にしておいて良かったかもしれない。



「おとーさん、この2人はどんな人?」


「男の人がロイさんで、女の人はリンダさんという名前だよ。キリエが夏に泊まった家を貸してくれたのが、この人たちなんだ」


「うん、わかった!」



 キリエは俺に2人の事を聞いてから挨拶に向かった。



「はじめまして、ロイおじちゃん、リンダおばちゃん。私はおとーさんとおかーさんたちの子供で、キリエといいます。夏に泊まった家を貸してくれて、ありがとうございました」


「まあまあ、ご丁寧にありがとう。よろしくね、キリエちゃん」


「すごく礼儀正しくて可愛い子だね。しばらくお世話になるけど、よろしくお願いするよ、キリエちゃん」


「私は最近お兄ちゃんたちの家族になったクレアといいます、よろしくお願いします」


「私は旦那様の家を管理している、妖精のカヤと申します。ロイ様、リンダ様、別荘をお貸しいただき、誠にありがとうございました」


「私は古竜族のメイニアと言うんだ、よろしくお願いするね」


「キリエは黒竜族なんだよ」


「あらあら、竜族の方が2人も居るなんて凄いわね」


「古竜族……黒竜族……それに妖精……さらに守護精霊………極めつけはプラチナランクの冒険者とは、君たちが私と会った時はまだ初級冒険者と言っていたが、いったい何があったのかね」



 ロイさんの方は完全に理解不能という感じでこちらの方を見ている、リンダさんは変わらず笑顔だが。これはゆっくり説明するほうがいいだろう、移動しながら話をするか。



「誰か御者をやってもらってもいいかな」


「ダイ兄さんボクがやるよ」


「オーフェちゃん、私も隣りに座っていい?」


「うん、クーちゃん一緒に行こう!」



 元々何もしなくても自分で動く馬たちだし、ある程度の意思疎通が可能なクレアもいるから、方向音痴のオーフェでも問題ないだろう。



「よろしく頼むな」


「任せてよ、ダイ兄さん」


「私も見てるから大丈夫だよ、お兄ちゃん」



◇◆◇



 御者をオーフェとクレアに任せて、俺たちは荷台で話をする。キリエを膝の上に乗せて隣にはアイナとエリナが座っている、ウミはまろやかさんを頭の上に乗せた状態で俺の後ろだ。椅子に座ると後ろにくっつけないので、床に座れるこの荷台をウミはとても気に入っている。



「あんな小さな子が御者でも大丈夫なのかな?」


「はい、王都で借りた馬ですが、2人いる片方はアーキンドからヴェルンダーまで往復した付き合いがありますし、もう片方もとても賢くてよく言うことを聞いてくれるので、ほとんど何もしなくても動いてくれるんですよ」


「貸し馬車屋の馬は普通そこまでしてくれないはずだが、君たちなら出来る気がするよ」


「その若さでプラチナランクなんて凄いわね、あなたも引退した時はゴールドだったものね」


「私もかなりの速さで昇格したが、プラチナには届か無かったな」


「竜族の方には初めてお会いしたけど、キリエちゃんは可愛いし、メイニアさんは美人さんね」


「しかし、国を滅ぼしかねない戦力が2人もいて、王国に知られるとまずいんじゃないかね?」


「この事は国王もご存知ですので、大丈夫ですよ」


「国王のおじーちゃんは、時々家に遊びに来るんだよ」


「それに私の母は、この国が出来た時に竜族の代表として協力した本人だしね」



 それを聞いたロイさんはまた固まってしまったが、リンダさんは有名人に会えた時の一般人みたいに大喜びだ。このメンタルの強さと、物怖じしない性格は少し見習いたい。


 それからみんなで色々と話しをして、魔族の問題も収束に向かっているだろうし、この2人になら知られても大丈夫だろうと、オーフェとクレアの素性も明かすことにした。ロイさんはやはり驚いていたが、リンダさんはもちろん喜んでいた。



「君たちがプラチナランクに昇格できた理由がわかったよ、もう引退してしまったが先輩冒険者として祝福させて欲しい、おめでとう」


「ありがとうございます、とても嬉しいです」



 みんながロイさんとリンダさんに頭を下げる、こうして知り合いに祝福してもらえるのは本当に嬉しい。特にこの2人は、まだ初級冒険者だった頃から付き合いがあって、俺たちのパーティーが初めて依頼を受けた護衛対象でもある。


 2回とも旅の途中でトラブルにあって、たまたま俺たちが通りがかるという偶然だったが、こうして再度護衛任務を引き受けることになったのは、運命みたいなものも感じてしまう。



◇◆◇



 野営できそうな場所を発見したので、街道から少し外れて宿泊施設を組み立てる。色々驚かせすぎたからか、ロイさんも目の前の光景を淡々と受け入れてくれるようになった、大喜びするリンダさんの態度は全くブレが無い。


 馬の手入れと餌やりをして、テーブルと椅子で食事を取り、ウミに洗浄魔法もかけてもらう。



「ロイさんとリンダさんは寝る場所はどうします? お二人さえよろしければ一緒に眠ってもらっても構わないんですが、これより小さな宿泊施設もあるので、そちらを使っていただいてもいいですよ」


「私はどちらでも構わないが、君たちみたいな若い女性と一緒に寝ても良いのかね?」


「ボクはみんなと一緒に寝るほうが嬉しいな」


「キリエもおじちゃんやおばちゃんと一緒がいい」


「私もロイさんとリンダさんと一緒に寝たいです」


「……私も一緒がいい」


「あなた、こう言ってもらってるし、私たちもご一緒させてもらいましょう」


「そうだな、みんなで一緒に眠らせてもらおうか」



 こうして全員が一つの部屋で眠ることになり、みんなのブラッシングをしながら色々な話をした。



「おいしい食事を椅子に座って机の上で食べて、ウミさんの洗浄魔法で清潔にしてもらって、その上こんな場所で眠れるなんて、以前もかなり驚いたが更に驚かされるとは思わなかったよ」


「出会った時は俺たちのパーティーもまだ5人でしたし、泊まる場所もテントでしたね」


「ウミもまだ小さかったのです」


「ウミちゃんは大きくなっても、甘い果物やお菓子が好きで安心したわ」


「ウミはどんな姿になってもウミなのです」


「去年来てくれた時はシロちゃんもまだ小さかったのに、もうすっかり大人になったわね」


「わぅっ」


「冒険者も商売人もそれなりに続けてきたが、この歳になってこんな素敵な出会いが待ってるとは思わなかったよ」


「本当ね、あなた。私もとても嬉しいわ」



 ウミやリンダさんのおかげで、いつも以上の癒やし空間になったこの宿泊施設は、竜族にとっても居心地がいいみたいで、キリエもメイニアさんも嬉しそうにしている。






 こうして、ロイさんとリンダさんを加えた家族旅行の夜は更けていった。


リンダの足の病気は「変形性膝関節症」みたいなものと思って下さい。

完全に動かないのではなく、立ったり座ったりする時に痛みが発生したり、長距離の歩行が困難だったりします。全く動かさないのも良くないと医者の指導を受けているので、商談や出張の際は無理のない範囲で夫婦一緒に行動しています。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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