第13話 イーシャの特技
次の日の朝、俺たちは街に帰ることにした。またリクとカイが近くまで送ってくれるそうだ。イーシャは長老に助けてくれたお礼だと、エルフの霊薬が入った瓶を渡していた。外傷にすごく効く薬らしく、長老も非常に喜んでいた。
「エルフは森の民だからね、森の中の移動は得意よ」
イーシャはそう言って、リクとカイに乗って運んでもらっている俺たちと一緒に、森の中を駆けていく。途中に出てくる獣や魔物もイーシャの弓とリクとカイの槍で次々蹴散らされるので、以前送ってもらったときよりも速いペースで移動できてる気がする。
◇◆◇
そして、前回送ってもらったときと同じ丘の上に到着した。
「リクさん、カイさん、送ってもらってありがとうございました」
「ありがとうございました、気をつけて帰ってくださいね」
「来てくれて、助かった、それに、また、会えた」
「再会できた、良かった」
俺とアイナがお礼を言うと、リクとカイも再会できてよかったと言ってくれる。
「今回は助かったわ、本当にありがとう」
「治って、良かった」
「また、会おう」
イーシャもリクとカイも言葉をかわして、リザードマン流の拳と拳を合わせる挨拶をして別れた。
◇◆◇
ギルドの薬草収集の依頼が未達成のままなので、森に入って探索したいとイーシャに伝えると、その薬草が生えていそうな場所ならわかると、イーシャを先頭に森の中に入ることになった。
しばらく森を進んでいるとアイナが反応した。
「ご主人様、この先に魔物の気配がします、2匹居ます」
アイナがそう言って前方の大きな木を指さした。
「ちょうどいいわね、私は魔法が得意だと言ったけど、ここで見せてあげるわ。あなたの杖は魔法回路が刻まれているかしら?」
「あぁ、風の刃の魔法を刻んでもらってる」
「私のこれは水の矢が刻まれているのだけど、その風の刃の杖を貸してもらっていいかしら」
そう言われたので腰に挿していた杖を渡すと、イーシャは両手に杖を持って構えた。魔法回路が刻まれた装備品を2つ以上身につけると魔法が発動しないと、前に魔法回路屋の店員が言っていたが、一体何をするんだろうかと疑問に思っていると、イーシャは2つの杖を連続で振った。すると2つの杖に幾何学模様の線が走り、風の刃と水の矢が同時に発動した。
「なっ!?」
「どう? 凄いでしょ、これが私の特技、魔法の同時発動よ」
「イーシャさん、すごいですよ! いっぺんに2つの違う魔法が出ました!」
俺もアイナもびっくりしてしまった。俺も以前、火の玉の杖と風の刃の杖を両手に持って攻撃してみたが、魔法は発動しなかった。それなのにイーシャは2つを同時に発動してみせた、一体どんなテクニックなんだろう。
「魔法回路が刻まれた装備品を2つ同時に身につけると、普通はマナの流れが干渉してしまって魔法は発動しないのだけれど、まれに複数のマナの流れを制御できる人がいるの。私は2つが限界だけど、わりと貴重な才能なのよ」
そう言って、微笑みながら俺に風の刃の杖を返してくれた。
「すごい特技だな、それは訓練で身についたりするものなのか?」
「これは生まれ持った才能がないと出来ないと言われているわ。私の居た里ではこれが出来るのは2人しか居なかったけど、突然使えるようになった人は聞いたことないわね」
そう言われたので少しがっかりしてしまったが、イーシャが魔法が得意だという話は本物だ。なんとなく自己流で使っている俺の魔法も、上達するきっかけになるかもしれない。
◇◆◇
イーシャの案内で依頼に必要な薬草も無事見つかった。森の民と言うだけあって、森の中に関してはエルフの能力は非常に頼りになる。アイナの索敵能力と合わせて、これからは更に依頼が楽にこなせるようになるかもしれない。相対的に俺の存在意義が無くなっていく気がするけど、役に立てるように頑張っていこう。
冒険者ギルドに行って依頼達成の報告と素材の受け渡しをして、イーシャを俺たちのパーティーに加入する手続きをした。パーティー登録すると魔法的なパスがメンバーに通るみたいで、全体効果のあるスキルを持った仲間が居ると、全員が恩恵を受けられるようになる。俺たちのパーティーには、まだそんなメンバーは居ないが、スキルの効果は無くても絆で結ばれるような感じがするのがいい。もちろん制限もあって、人数が増えるとパスが細くなって効果がなくなるので、8名までが推奨されている。
イーシャの歓迎会を開こうかとも思ったが、今日は森の移動で疲れているし時間も遅くなってしまったので、軽い外食で済ませて真夜中の止まり木に戻ることにした。
「ただいま戻りました」
「……! お前たち、無事だったか」
いつものように腕を組んで受付に座っていた親父さんが、俺達を見てそんな事を言ってくれた。連絡なしに戻ってこなかったので、心配してくれていたみたいだ。
「心配かけてすいません、途中でちょっとしたトラブルに巻き込まれて、知り合いの所に泊まらせてもらってました」
「無事戻ってこれたのならそれでいい」
愛想は足りないけど、やっぱりいい親父さんだ。
そんな親父さんにイーシャを紹介する。
「今日からこの人も一緒に泊まりたいんですけど、構いませんか?」
「それは構わないが今の部屋だと狭いだろう、少し大きな部屋に移ってもいいぞ。お前らは常連だから料金は差額を払ってくれるだけでいい」
そう言ってくれたので、別の部屋に移ることにした。
◇◆◇
今まで借りていた部屋の荷物をまとめて、新しい部屋にみんなで移動した。新しい部屋は確かに広くなっている、ベッドも以前より大きくなっているが、やっぱり1つしか置いてなかった。