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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第11章 回路魔法編

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第146話 新しい馬

 帰ってお昼を食べた後、カヤは確かめてみたい事があると、1人でベッドの拡張作業をしている。何でも、妖精の力がすごく上がった気がするらしく、大きなものを作って確認してみたいそうだ。この変化もやはり妖精としての()り方が変わったせいかもしれないが、良い事なのは間違いない。



「ご主人様、出発はいつにするんですか?」


「それなんだけど、年明けに色々あったし、ウミやカヤにも変化があったばかりだから、来月くらいまでは様子を見たいと思ってるんだけど」


「お兄ちゃん、私の事に気を使ってくれてるなら大丈夫だよ。もうここでの生活にも慣れたし、毎日がすごく楽しいの。カヤさんと2人でも、しっかりお留守番できる」


「ウミも大丈夫なのですよ、この大きさになっても思ったほど違和感は無いのです」


「来月になると雨の日が増えてくるし、今のうちに移動だけして、オーフェちゃんに場所を覚えてもらったほうが良いかもしれないわね」


「……来月は水の月」


「そう言えば、そうだったな。じゃぁどうしよう、馬車を借りて移動しようかと思うんだけど、ここからファースタの街までは10日くらいかかるし、早めに出発するほうが良いか」


「また、あの時みたいな賢い馬が見つかるといいね」


「馬を見に行くのなら私も行ってみたい」



 クレアが来てくれたら、きっといい馬が見つかるだろう。久しぶりの馬車の旅だし、ちょっとワクワクするな。



「もし10日くらい家を開けても大丈夫なら、クレアも一緒に旅行をしてみないか?」


「庭にはまだ世話が必要なものは植えていないし、この部屋にある鉢植えを持っていけるなら大丈夫だけどいいの?」


「さすがに森の中までは無理だけど、ファースタの街に行く旅なら問題ないよ」


「それなら行ってみたい!」


「クレアちゃん、鉢植えは水をあげるだけでも良いのです?」


「毎日少し土が湿るくらいあげるだけで大丈夫だけど」


「それならウミにお任せなのです! お世話が必要な鉢植えに下級精霊を宿らせるのです、そうすれば毎日の水やりをやってもらえるです」


「ウミさんそんな事が出来るようになったの!?」



 ウミの説明によると、守護精霊になって持続的な指令が出来るようになったらしい。今までは、その都度ああしてこうしてと指示していたが、今はこの状態のままで維持して欲しいという指令も出来るようなったようだ。


 イーシャやヨークさんの精霊魔法が一時的に使えなくなったが、ウミが許可して以降はいつでも使えるようになったのは、こうした持続性のある指令が出来るようになったからか。



「なんだか私の使っている精霊弓(せいれいきゅう)と同じ物が、お店で売ってる鉢でも出来てしまう感じね」


「伝説の鉢植えが生まれる瞬間かもしれないな」



 イーシャと俺は、少し遠い目をしてしまう。ゲーム風に言うと、店売りの植木鉢に精霊をエンチャントする感じか。もう凄いんだか力の無駄使いなんだか、わからない世界になってきたな。


 しかし、本格的に草花を育てたり家庭菜園を始めると、長期間家を空けるのは難しくなっていくだろう。この機会にカヤとクレアにも、一緒に旅行する経験を味あわせてあげたい。後はいま作業をしているカヤが、新しい力にどれくらい馴染んでいるか聞いて、出発する日を決めよう。



◇◆◇



「これは凄いな」


「カヤおかーさん、前のベッドよりフカフカで気持ちがいーよ」



 夕方、ベッドが完成したとカヤが報告に来てくれたので、全員で2階の大部屋に移動すると、そこには横幅が1.5倍位になったベッドが出来上がっていた。



「今夜ここでご主人様のブラッシングを受けるのが楽しみです」


「……これは私も眠ってしまいそう」


「わうー」



 ブラッシングを受ける3人は、今から期待に胸を膨らませているみたいだ。



「これは、朝起きるのが更に辛くなりそうだわ」


「何があっても起きないくらい熟睡できそうです」


「私もうっかり数ヶ月眠ってしまわないように、気をつけないといけないね」



 イーシャと麻衣とメイニアさんは、快眠の恐怖に震えている。



「こんな凄いベッド、この国の王様だって使ってないかもしれないね」


「今まででも十分すごかったのに、それ以上の物になるなんて驚いちゃった」


「ベッド全体が枕のような寝心地なのです」



 オーフェとクレアとウミにも好評で、寝転びながらその感触を堪能している。



「カヤありがとう、想像以上の出来だよ」


「皆様に気に入っていただけて嬉しいです」


「こんなに短時間に大きな力を使って、どこか体調に変化はないか?」


「それが、自分でも驚くほど力や気力が充実してるんです。最初のベッドを作った時は、少し気怠(けだる)さがありましたが、今はいくつ作っても平気なくらいです」



 それだけ妖精の力が増しているって事は、家だけじゃない結びつきが増えたからなんだろう。仮にそれが俺の力としても、作業中こちらの体調には変化が無かったし、体力や生命エネルギーみたいなものとは別の力なんだな。



「じゃぁ、カヤおかーさんもいっしょに旅行できる?」


「私も一緒に行って宜しいのですか?」


「クレアも参加するし、家族全員で行こうと思うんだけど、どうかな」


「嬉しいです旦那様。皆様と一緒に旅行ができるなんて、あなたにお(つか)え出来て幸せです」



 カヤは笑顔を浮かべて、全身で喜びを表すように俺に抱きついてきた。その頭を優しく撫でながら、明日は馬車を借りる手続きに行こうと計画を立てる。




―――――・―――――・―――――




 新しいベッドの寝心地は素晴らしかった、今朝は全員がいつもよりゆっくりと布団の中で微睡(まどろ)んでいたくらいだ。昨夜はカヤが隣に寝たが、俺の腕を抱いてとても幸せそうに眠っていた。目が覚めても腕を抱きかかえたまま、嬉しそうに俺を見て微笑んでいる姿は、こちらも幸せになるような笑顔だった。


 少し遅めの朝食を食べて、全員でレンタル馬車のお店に向かう。



「馬車で旅行なんて初めてだから楽しみ」


「前いっしょに旅をした馬は、とっても賢くて可愛かったんだよ、クーちゃん」


「あの時はシロも馬の背中に乗せてもらいましたね」


「わうっ!」


「……あれは可愛かった」


「ウミも頭の上に乗せてもらったですが、見晴らしが良くて楽しかったのです」



 今は2人とも大きくなったから、あの光景はもう見られないが、楽しい旅になる事は間違いない。



「皆様と旅行ができるなんて夢のようです」


「俺もずっと望んでいたことが叶って嬉しいよ」


「ダイはお祖父様やメイニアさんにも聞いてたものね」


「エルフ族や私たち竜族も知らなかった事を実現してしまったんだから、とても素晴らしいよ」


「みんなで旅行するのは初めてだから、キリエも楽しみ!」



 カヤには俺たちと同じ様に色々な体験をしてもらいたかったから、こうして家だけに縛られずに行動が出来るようになったのはとても嬉しい。



「ご主人様、あの馬さんの気配です!」


「わんっ!」



 アイナとシロが懐かしい気配に気づいてお店の方に走っていった、ずっと意識を向けていたせいなのかもしれないが、店舗や放牧場はまだ遠目にしか見えていないのによく気がついたな。2人とも索敵範囲が、また広くなってるんじゃないだろうか。



「おや? あんた達かい、なんか懐かしいね」


「こんにちは」



 約1年ぶりに訪れたが、以前対応してくれたおばちゃんが、俺たちの事を覚えていてくれたみたいだ。



「今日はどうしたんだい、うちの娘の婿になりに来たんだったら歓迎するよ」


「いえ、今日はファースタの街まで行く馬車を借りにきたんです」


「そうかい、娘をもらってくれないのは残念だけど、あんた達ならどの子でも安心して貸してあげられるよ」



 まだあの時の事を諦めてなかったのか。でも、これだけ熱心に勧められたら、どんな人なのか会ってみたい気もするな。とは言え、みんながあれだけ俺に対して好意を向けてくれているので、他に人に興味を示すなんて絶対にしないけど。前回の時と同様に、みんなの目がいつもと違う輝きを放ってるし、ちょっと怖い。


 それからお店のおばちゃんと、借りる馬車のサイズや日程などを話し合ったが、人数も増えたので二頭立ての幌付き馬車を借りる事になった。



「1頭はまあ、あの子に決まりだね。もう1頭はどうする? 自分たちで選んでみるかい」


「はい、選んでみて相性とか悪いようでしたら教えてください」



 そうして全員でまずは、ずっと旅に付き合ってくれた馬の所に挨拶に行く。



「久しぶりだな、元気だったか?」


「久しぶりなのです」



 馬は俺の上にいる大きくなったウミをしばらく見ていたが、また頭を擦り寄せてきて髪の毛を甘噛してくれる。



「この馬すごく嬉しそうにしてるね、お兄ちゃん」


「なんか俺のことが美味しそうと思ってるみたいなんだけど、クレアにもそう感じるか?」


「すごくいい匂いがするから、食べ物と同じくらい好きと思ってるみたいだけど」


「馬が好きな食べ物って、草っぽい匂いでもしてるのか……」


「違うよお兄ちゃん鼻で判る匂いじゃなくて、とても安心できる男の子の馬みたいな雰囲気の事を、匂いに例えてる感じだよ」



 クレアのおかげでウミが教えてくれた、美味しそうや男として好きって気持ちが、何となく理解できた。メイニアさん風に言うと、俺の持っている“気”を感じ取って懐いてくれていたみたいだ。



「じゃぁ、この馬や俺たちに相性の良さそうな他の馬を探してもらってもいいか?」


「うん、まかせてお兄ちゃん!」



 放し飼いになっている馬や、厩舎に入っている馬を何頭か見て、その内の1頭の前でクレアが止まった。その馬は黒に近い毛色をしていて、今まで借りていた馬と同様に、足が太くてがっしりした体型をしている。



「お兄ちゃん、この子がいいと思う」


「ウミもこの子しかいないと思うのです」


「2人がそう言うなら間違いないな」



 俺たちが近づいていくと、少し頭を下げてくれたので首筋をやさしく撫でてあげる。その馬も俺の頭に顔を擦り付けて甘えてくれた、これなら間違いなく旅の間も力になってくれるだろう。



「この子もやっぱり同じ様な事を考えてるのか?」


「うん、すごくいい匂いだって」



 借りる馬が決まったと思ったのか、店員さんがこっちの方に来てくれたので、相性とか聞いてみよう。



「この馬にしたいと思うんですが、大丈夫ですか?」


「この子も結構気難しい子なんだけど、あんたにはすぐ懐くね。言う事もしっかり聞くし、あの子との相性も悪くないよ」


「2人を会わせてみたいんですけど、構わないでしょうか」



 そう断って厩舎から出して、放牧場に続く通路を歩いていくが、その子は何もせずとも俺たちの後ろを大人しくついてきてくれた。ウミとクレアが気に入っただけあって、かなり賢い子みたいだ。


 放牧場に到着すると2人は顔と顔を向かい合わせて、しばらく何か話をするような鳴き声を上げて、仲良く並んで頭を下げてくれた。みんなも近づいて、撫でたり挨拶したりしている。



「この人たちとの旅は楽しいから頑張ろうって」



 店員さんが近くに居るので、クレアがそっと俺に教えてくれた。彼女が言うには、動物の気持ちはかなり意訳して伝えてくれてるみたいだけど、こうして言葉にしてもらえると、旅の間もしっかり世話をして大切にしてあげようという気持ちが一層強くなる。



「2人ともファースタの街までよろしくな」


「こっちの馬さんもとても可愛いのです」


「……黒くて綺麗」


「こっちの馬さんもご主人様の事が好きみたいで嬉しいです」


「初めて会った子にも好かれる辺りはやっぱりダイね」


「餌もたくさん食べてね」


「キリエはどっちの子も初めて会うけどよろしくね」


「私も馬車で旅をするなんて考えた事も無かったから楽しみだよ」


「クーちゃんと旅行に行くのは初めてだね」


「そうだねオーフェちゃん、すごく楽しみ」


「旅行ができる家の妖精なんて他には居ないと思いますが、2人ともよろしくお願いしますね」



 メイニアさんに抱っこしてもらったキリエや、俺が抱き上げたカヤも馬の頭や首筋を撫でているが、とても嬉しそうにしている。馬たちも並んで仲良くしていて、みんなとの相性も問題無さそうだ。


 その後は二頭立て馬車の扱い方を教えてもらい、その日はお店を後にする。ここから買い出しと作り置きの二手に分かれて行動する事にした。明日の出発に合わせてポーションや薬の追加に、消耗品もしっかり買い足しておこう。


思えばこの馬とも長い付き合いになりました(笑)


資料集→サブキャラ欄→王都の項目にレンタル馬車屋のおばちゃんを追加しました、娘の事に少しだけ言及していますので、興味がありましたら(大したことは書いてませんがw)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

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いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
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【完結作】
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