第131話 国王の訪問
誤字報告ありがとうございます、タイポ多いので助かります。
国王への報告も無事に終わり、王城を後にする。家まで馬車で送ってくれると言われたが、街で買い物があるのでと断って、全員で中央広場まで歩いている。クレアの着替えや生活に必要な物の買い出し、それにペンダントの紐も自分で好きな物を選んでもらうことにしている。
そして、国王は本当に俺たちの家に来るらしい。王都に魔族が住む事に抵抗がある側近に納得させるために、国王自らが俺たちの生活を確かめる、とか言っていたが単にキリエに会いたいだけの気もする。とは言え、オーフェやクレアの事で想像以上に反発が無かったのは国王のおかげなので、精一杯のおもてなしをしよう。
ヨークさんによれば先代も自由奔放な人だったので、今の国王があまり格式に囚われていないのは、その影響だろうと言っていた。先代がお忍びで街に出てきた時に偶然出会って意気投合し、ヨークさんの知識に触れて賢者様と尊敬するようになり、家宝の竜血玉を見せてもらえるまでの間柄になったそうだ。
「優しくて話しやすい国王でよかったね」
「うん、私もちゃんと謝ることが出来て良かった」
「国王のおじーちゃんのお膝の上も、とってもあったかかった」
年少組は国王の事をとても好意的に受け止めている、特に人の気持ちに敏感なキリエがこれだけ懐いているので、優しくて思いやりのある人なのは間違いないだろう。
「お城で食べた果物はとても美味しかったのです」
「……お茶もいい匂いがした」
「あれは王族にだけ出される食材で、一般には出回らないんですよ」
「私たちそんな凄いものをごちそうになったんですか」
確かにいつも王都のお店で買う果物より瑞々しくて美味しかったし、お茶もいい匂いがしたが市場で流通しないものを出してくれていたのか。滅多に口に出来ないものと知っていたら、もっとよく味わって食べたが、少し残念だ。
「最近ゴールドランクになったばかりなのに、プラチナランクに昇格できるなんて驚いたわ」
「まだ出来て2年と少しなんじゃろ? とんでもない早さじゃな」
「最初は私とご主人様の2人だけでしたけど、まだそれくらいしか経ってないんですね」
「私が加入したのが、その1ヶ月後くらいだったわね」
「私が加わってからだと、まだ2年経ってないです」
「ウミも同じくらいなのです」
「……私があるじ様に見つけてもらってから、1年半くらい?」
「ボクがダイ兄さんたちに出会ってから、1年と少しだね」
「わぅ、わうんっ」
「シロさんは助けてもらって、もうすぐ1年らしいです」
「キリエは生まれてから3ヶ月だね、おとーさん」
「私と出会って1ヶ月くらいだったね」
五輪の煌めきの人たちには、いずれプラチナに昇格できると言ってもらえたが、まさかこんなに早く実現するとは思わなかった。今回の魔族界での出来事は、国として大々的に発表はしないが、国家への多大な貢献をしたとして、参加したメンバー全員がプラチナランクへ昇格する事が決定した。
もっと上位ランクでも構わないと言われたが、自由に冒険者活動が出来なくなるので固辞させてもらい、プラチナランクに留まれるようにお願いしている。
更に、俺たちには王家から個人的に褒賞を与えられ、王都にある家に関して税金が永久免除になった。もっと大きな屋敷に転居する時も便宜を図ってくれると言ってくれたが、カヤの居ない家に住むことは考えていないので、その機会は来ないだろう。
「旦那様、とても嬉しそうですね」
「なんか考えていた以上に、いい方向に進んでいる気がしてとても嬉しいから、顔に出ているかな」
「この結果にたどり着けたのは、旦那様や皆様が頑張ったからです」
「ヨークさんやへストアさんにも助けてもらったし、そのおかげで今までと同じ日常が送れそうでホッとしてるよ」
「儂なんぞ国王に会いやすくなる様に、自分の名前を使ったくらいじゃから、大したことはしとらんよ」
「私も国王に“ちょっと竜族の事情を話した”くらいだから、気にしないでいいよ」
近衛隊長も知っているくらいの知名度があったから突然の訪問でも王城に入れたし、そのちょっとした事情のおかげで叙爵せずに済んだのだから、とても助かってる。
「それに、花や植物が育ってくると、どんな家になるか楽しみだよ」
「あの家が命あふれる場所になりそうで、私も楽しみです」
「お兄ちゃん、カヤさん、私一生懸命育てるからね」
この国の王様に謝りたいという願いも叶い、スッキリとした笑顔でこちらを見上げてくるクレアの頭を撫でてあげる。今日は時間が無いけど、園芸に必要な道具はまた一緒に出かけて揃えていこう。
「カヤが外で活動できる時間が増えたのも、俺たちの夢がかなった気分だ」
「旦那様や皆様にお仕えしてもうすぐ1年ですが、今までで一番嬉しい日になりました」
「カヤおかーさん良かったね」
「ダイは国王の前なのにとても喜んでたわね」
「ご主人様、すごく嬉しそうな顔をしてましたから」
「儂もあれは驚いたぞ、結びの宝珠というのも初めて知ったが、家の妖精にまであの様な効果をもたらす素晴らしいものじゃったとは、本当にお主達とおると退屈せんな」
結びの宝珠で、家と妖精の間にパスが通るとは思っていなかった。もしかすると、普通そんな事は起きないのかもしれない。しかし、宝珠を置いている場所が俺たちの思いが詰まった宝物の棚だ、その影響でカヤに力が流れ込んでいるという可能性はある。
◇◆◇
屋台で軽食を食べて、クレアの服や食材の調達を進めていく。クレアは黄色が好きみたいで、服やペンダントの紐もその色にしていた。黄色のゆったりとしたワンピースは、明るい緑色の髪ともよく合っていて、褒めると顔を真っ赤にしてうつむいてしまった姿が可愛らしかった。
昔と違う人々の営みが珍しいのか、へストアさんが熱心に街を見学しているので、少しゆっくりとしたペースで家まで帰り着き、麻衣とアイナとクレアが厨房へと入っていく。カヤはヘストアさんからもらった竜血玉を飾る台の製作に、まず取り掛かってくれる。
それが出来上がるのを待っていると、リビングの窓から門の前に豪華な馬車が止まるのが見えた。国王が到着したみたいだが、むちゃくちゃ目立ってるな、あれ。もっとお忍びで来るのかと思ったけど、こんなに堂々と来て大丈夫なんだろうか。
作業の手を止めたカヤと一緒に玄関ホールに迎えに行く。国王は普段着に近い格好に着替えてきてくれたが、さすがに仕立てはむちゃくちゃ良いみたいだ。護衛の3人も城の中のように全身鎧でなく、軽装に帯剣している格好だ。
「国王様、いらっしゃいませ」
「お越しいただきありがとうございます、国王様」
「ちと早く来すぎたかな?」
「準備を始めたばかりでもうしばらくかかりますので、リビングでお寛ぎ下さい」
「キリエちゃんと遊んでおるから構わんよ。それにここに居る間は国王でなく、普通の老人として扱ってくれ」
「わかりました、ではリビングへどうぞ」
護衛の2名の近衛兵が玄関ホールに残って、王城で俺たちを案内してくれた隊長さんと2人でリビングに入ってもらう。
「護衛は要らんと言ったのだが、どうしてもと付いてきてな」
「いくら王都とは言え、一般人の家に国王様お一人で訪問していただく訳にはまいりません」
この家の今のメンバーだと、純粋な火力だけ考えれば国の軍隊より上な気もするが、心境的に護衛は必要だろうな。
「国王のおじーちゃん、いらっしゃいませ。そっちのおじちゃんは、なんて呼んだらいい?」
「キリエちゃん、こんにちは。こっちの人は護衛のおじちゃんとでも言ってくれるかな?」
「うん、わかった! 護衛のおじちゃん、いらっしゃいませ」
「これは丁寧にありがとう。こんな可愛い子供が竜族なんて本当に信じられないな」
2人にお辞儀をして挨拶をしたキリエを見て、隊長の強面の表情も緩む。
「キリエちゃんは可愛いじゃろ、なんといっても儂のひ孫じゃからな」
「何をおっしゃいます賢者様、キリエちゃんは国の宝ですぞ」
「今日出会ったばかりで国の宝とは、大きく出たものじゃな」
「賢者様こそ、キリエちゃんを独り占めしては、この国の損失に繋がります」
2人ともキリエを巡ってなに熱くなってるんですか、他のメンバーも挨拶できずに遠巻きに眺めてるじゃないですか。
「大きなおじーちゃんも、国王のおじーちゃんも、仲良くしないとだめ」
「これは申し訳ない」
「こちらこそ、すまんかったの」
シュンとして素直に謝る国王と長老。
もしかすると、キリエがこの国最強なんじゃないか?
◇◆◇
全員が挨拶を終え、ソファーに座ったり暖炉の前でくつろいだり、思い思いに過ごしいている。麻衣とアイナとクレアは厨房へと戻っていき、国王とヨークさんはキリエを真ん中に挟んで仲良く並んで座っている。
「王家からの褒賞だが、まずはこれを渡そう」
国王は後ろに控えている隊長さんから細長い包みを受け取り、それを解くとテーブルの上に置いた。真っ白な鞘に綺麗な金の細工が施されていて、所々に宝石も散りばめられている。柄の部分も凝った造形で、柄頭は王家の紋章の形になっていた。これは飾っておくための剣みたいだ。
「おとーさん、すごくきれい」
「これはとても美しいわね」
「こんな綺麗な剣を見るのは、ボクも初めてだよ」
俺の左右に座ったイーシャとオーフェも、その剣の美しさに見入っている。
「これは王家が大恩を受けた相手に渡すものでな、お主たちなら持つのにふさわしいだろう」
「ありがとうございます、大切にします」
「それからこれも受け取ってくれ」
国王は平たいケースを取り出して、フタを開ける。中には10枚の金色の板が並べられていて、そこにも王家の紋章と細かい模様が刻まれている。
「これは金版じゃな」
「やはり賢者様はご存知ですな」
「どういったものなんですか?」
「金貨の一つ上の通貨で、1枚が金貨100枚分になる」
銅貨を1枚100円換算にすると、100×100×100×100で1億円か。それが10枚だから10億というとんでもない大金になる。一般の買い物では使われる事はなく、不動産や大きな商取引で利用される通貨らしい。
「これは1枚でも十分だと思うんですが」
「魔族界に行ったのは10人だったな、1人1枚ずつ受け取ってくれるかの」
「シロも構わないんですか?」
「もちろんだ」
「わうっ!?」
王家からの褒賞金という事で断るのも失礼にあたるからと言われ、ありがたく受け取らせてもらった。とても使い切れる金額ではないが、何かの時のために大切に置いておこう。
◇◆◇
カヤには日本刀を展示する時に使う台のような物の形を簡単に伝えて、宝剣はそこに飾っておくことにした。その横にヘストアさんとメイニアさんの竜血玉を並べて飾ると、宝物の棚も一気に華やかになる。
「王家の家宝と同じ物が並べられておるとは、なんとも凄い家だのぉ」
「この様な場所に貴重な物を置いていて大丈夫なのですかな?」
「私が許可しない限り、この家のあるものを破壊したり移動したり出来ませんので、何者かが侵入して運び出すのは、ほぼ不可能ですからご安心下さい」
隊長さんの危惧はもっともだけど、ここにはカヤが居るからな。経年劣化は俺や家族が許可しないと修理できないけど、誰かが窓や壁を破って侵入したり、家具や家財を勝手に持ち出したりは出来ない。その力のせいで、この家は荒れ放題になって、修理すら出来なかったんだが。
「妖精という存在は殆ど知らなんだが、王城にもカヤさんのような人が欲しくなるの」
「人族は妖精の存在に興味が無い様じゃが、儂ら他の種族にとっては憧れる家じゃからな。こんな場所に住めるなど、実の孫とは言え少し嫉妬してしまうの」
「こちらのエルフの女性は、賢者様のお孫さんなのですか?」
「えぇ、そうよ。お祖父様の影響で、こうして冒険者をやっているけれどね」
イーシャはそう言って、国王に向かって微笑んだ。ずっと一緒に暮らしているから感覚が麻痺してるけど、長老の孫娘が居たり、領主の娘も居るし、元聖女候補まで居る。エリナは希少な髪色をした猫人族だし、精霊に妖精や竜族、そして神聖視される白狼もいて、王都どころか世界の特異点みたいな場所になってしまっているな、この家は。
「竜血玉は竜の一生で一つか二つ、我々古竜族でも千年かけて一つしか生み出せないから、こうして二つ並んでいるだけでも貴重だな」
「私も母の竜血玉と一緒に飾られるなんて、思ってもみなかったよ」
そこまで希少な物とは知らなかった、本当に売らなくて良かったと胸をなでおろす。
「この卵からキリエが生まれたんだよ、国王のおじーちゃん」
「どれどれ。ほぉ、立派な卵だの」
「おとーさんやおかーさんたちに、いっぱい可愛がってもらえたから生まれることができたの」
「それでこんなに素直で良い子になったのだな」
優しく笑ってキリエの頭を撫でてくれているが、こうしたやり取りを見ていると、国王も普通に子供好きのおじいちゃんという感じだ。それに獣人や他の種族に偏見が無いみたいで、アイナやエリナ達とも俺たちと同じ様に言葉を交わしてくれる。王族と言うからもっと過去の歴史にこだわっているかと思ったけど、この人に関しては認識を改めないといけない。
「国王様っていつもこんな感じなのですか?」
「確かに子供好きではあるのですが、ここまで嬉しそうに気を許している姿は、自分も初めて見ます。それだけキリエ殿が可愛いからではないでしょうか」
隊長さんに聞いてみたが、いつもとは様子が違うみたいだ。やはり俺たちの娘は、国のトップを骨抜きにしてしまうくらい可愛いらしい。
国王がほんとに来てしまいました(笑)
既にそれなりの年齢なので、実務方面は王子に任せていて、父から受け継いだ奔放な性格が前面に出てきている、という設定があったりします。
資料集の方も更新して、国王と近衛隊長を追加していますので、宜しければご覧ください。