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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第10章 問題解決編
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第126話 事後処理

 ひとしきり泣いたクレアちゃんは、俺の胸の中で眠ってしまった。そのまま抱き上げて、ここから撤収することにする。



「ダイ先輩、さっき喋っていたのは英語でしたよね」


「私も聞いた事のない言葉だったけど、一体何だったのかな」


「あれは俺たちの世界で使われていた言語の一つなんです、なぜかその言葉が頭に浮かんだので使ってみました」


「ダイはそれで何をやったの? あの魔法は少し異常よ」


「あれは4並列魔法回路だよ」


「ご主人様、喋るだけで魔法回路の改造ができるようになったんですか?」


「まだ一回出来ただけだからわからないけど、今回は成功したな」


「……音もすごかった」


「近くにいたら一時的に耳が聞こえなくなるくらいの音がするから、日常的に使うのは無理な武器になってしまったよ」



 弾丸が発射される時に白いモヤの様なものが見えたから、音速に近いスピードで飛んだんじゃないだろうか。魔法なので反動は発生しないが、普通の拳銃だと素人が片手でバンバン撃つような事は出来ないと思う。


 怒りに任せて使ってしまったが、やはり4並列魔法回路はとても危険だ。それに“呪文”で魔法回路の改造をやった時に、手作業で作ったジャンパー配線が、新たに作り直されたのが確認できている。きっと、より効率の高いものに置き換わったんだろう。それが家の壁をぶち破って、魔族の男を外まで押し出した威力に繋がっているはずだ。



◇◆◇



 屋敷の中はほぼ無人になっていた、あれだけ大きな音を出して派手な事をやったので、全員外に逃げ出したんだろう。庭にはハリスさんや私兵の人たちが居て、見張りや警備をしていたんだろう複数人の魔族も寝かされていた。別の場所には使用人たちが集められていて、不安そうに辺りを見回している。



「君たち、怪我はないか?」


「はい、全員無事です。クレアちゃんも保護できました」


「屋敷の壁を破って男が庭に落ちてきたから、こちらも動いてしまったが問題なかったかな」


「俺たちもこっそり逃げ出すつもりだったんですが、この男に見つかってしまって、結局大きな騒ぎになってしまいました」


「いや、この男が倒れているのを見て、屋敷に居た武闘派魔族の抵抗が弱くなったり投降する者も現れたので、こちらも怪我人が出ずに済んで助かったよ」



 黒幕の男を倒したのは予定外だったが、私兵の人達に怪我人が出ず終わる結果に繋がったと聞いて安心した。クレアちゃんには、とても辛い思いをさせてしまったけど、時間をかけて癒やしてあげよう。



「この男はかなり上位の魔族のようだが、やはり竜族の力には敵わなかったか」


「違うよ父さん、この男はダイ兄さんの魔法で倒されたんだよ」


「俺たちの事をかなり見下していてスキだらけだったので、火力の高い魔法回路を使う余裕がありました」


「見たところ魔法は1発しか当たってないようだが、人族の使う魔法回路でその様な物があるとは、やはり我々は思い上がっているな」



 俺の魔法回路は特殊すぎるし、しかも今回は4並列を使ってしまったからな。無理に誤解を解く必要はないだろうし、申し訳ないけどそう思い込んでもらっておくことにしよう。


 その後、屋敷の無事な部分に移動して男の能力や目的、クレアちゃんの両親が転生してしまった経緯などを話す。ハリスさんもかなり怒っていて、今回の黒幕の男に対しては、魔族界で責任を持って処罰すると約束してくれた。


 俺は一つだけ気になっていた事を尋ねてみる事にする。あの男の能力があれば、たとえ転生して記憶を失っても、クレアちゃんを操って同じ事をさせられたはずだ。ところが転生されると厄介だと、無理にこちらを襲って来る事は無かった。そうでなければ、たとえメイニアさんやキリエが居ても、こちらにも相当の被害が出ていただろう。



「黒幕の男はクレアちゃんが転生すると困るようなことを言って、俺たちを積極的に攻撃しようとしなかったんですが、何か理由があるんですか?」


「それは魔族が転生すると、固有魔法の特性に変化が出てしまうからなんだ、それを恐れていたんだろうな」



 これはオーフェも知らない事だったが、転生すると魔法の形状に変化があったり、威力調節の幅が変わったりするらしい。それなら今回の行動も納得ができる、強力な暗示の力に変化が出て、その効果が弱くなったり一時的なものに変わるのを恐れたんだろう。


 逆に黒幕の男に特性変化が出てより強力になると厄介だが、その辺りはハリスさんもわかっているし対処してくれるはずだ。



◇◆◇



 一通りの説明が終わった後に、使用人の人達にかけられていた暗示を解いていくが、撫でるだけで正常な状態に戻っていくのはかなり驚かれた。屋敷には大穴が開いて主人だった男も倒れ、もうここで働けないと思ったのか、特に抵抗無しになでなでを受け入れてくれたので、俺の心のゲージがほとんど減らなかったのは助かった。


 武闘派の人達は暗示でなく、自分の意思で参加している人ばかりだったので転生して更生する事になり、意識を失った状態でどこかに運ばれていった。


 他種族の俺たちは街に長居するわけにもいかないのでオーフェの家に戻ってきたが、部屋の中にはベッドが連結した状態で設置されていて、みんなで眠れるように手配されていた。どうやってこの部屋まで運んだのか謎だが、大きな屋敷で働く使用人のレベルの高さを垣間見た気持ちだ。



「すごいなこれ、オーフェが頼んでくれたのか?」


「うん、やっぱりみんなで一緒に寝るほうがいいからね」


「ありがとう、オーフェおかーさん」


「クレアちゃんもその方がいいと思うのです」


「クレアちゃん、ダイから全然離れないしね」



 クレアはあれから何度か目を覚ましているが、俺から離れようとはしなかった。少し離れた場所に寝かせていても、目を覚まして辺りを見回した後に泣きそうな顔で俺に抱きついてくるので、今はずっと片手で抱き寄せてベッドに寝かせている。


 それから、自分の事を呼び捨てにして欲しいとお願いされ、更に俺の事を“お兄ちゃん”と呼ぶようになった。オーフェがそう呼んでいるので、自分もお兄ちゃんになって欲しいらしい。あんな不安そうな顔でお願いされたら断れないし、こんなに可愛い娘にそう呼ばれるのは俺としても異論はない。



「出会ってすぐなのに、ボクより仲良くなってるのは、ちょっと複雑な気持ちだよ」


「ダイ先輩のそばは落ち着きますからね」


「……それに、いっぱいなでなでしてもらってた」


「クレアちゃんに家族になろうって言った時のご主人様は、とても素敵でした」


「確かにあれは私の心も熱くなったわ」


「今はまだ不安の方が大きいだろうから、仕方ないさ。でも、一番気を許してるのは、やっぱりオーフェだと思うよ」


「うん、そうだね。それにダイ兄さんは、ボクとクーちゃんのお兄ちゃんだしね!」



 そう言ってオーフェも俺の背中にしがみついて来る、クレアも自分と同じ様に俺を兄と呼ぶようになった事をとても喜んでいたし、何だかんだ言ってもこうして頼りにされている姿を見るのは嬉しいんだろう。



「それで、この後の事なんだが、今回の件は国に報告しておかないとダメだと思うんだ」


「確かにそうですね、魔族に対抗するために私や石延さんが召喚されたんですから」


「でも私たちが、過激派魔族が生み出される原因を突き止めて排除してきました、なんて言っても信じてもらえないわね」


「ボクの父さんにも頼んで、今回の事を文書にしてもらおうと思うんだけど、それでも無理かな」


「俺たちのいる大陸の人に、魔族の代表であるという事がわかるものがあれば良いんだけど……」


「それは私の方でも協力するよ」


「メイニアちゃんは何か名案があるのです?」


「私の母に君たちの話を保証してもらおうと思うんだ」



 建国に関わっている人物が保証してくれるのは心強いが、わざわざこの為だけに来てもらってもいいんだろうか。



「そんな人に足を運んでもらってもいいんですか?」


「実は私の母も君たちに興味があるみたいだから、誘ったら喜んで来てくれる思うよ」


「キリエもメイニアおねーちゃんの、おかーさんに会ってみたい」


「そういう事でしたらお願いします」



 そんな人が王国を訪ねて来たらかなり大騒ぎになるとは思うが、話の内容がそれ以上に荒唐無稽(こうとうむけい)だから担保は大きいほうが良いだろう。輝樹さんにお願いして責任者の人に話を通して上層部に上げてもらえば、国の方にも伝わるはずだ。


 ある程度の話がまとまったので、日課のブラッシングも終わらせベッドに横になる。クレアはずっとくっついたままなので、俺とオーフェの間で眠ってもらうことにした。



◇◆◇



 寝ていると肩の辺りに冷たい感覚があって目が覚める。横を見るとクレアが俺にしがみついて泣いている、目は覚ましていないようなので悲しい夢を見ているんだろう。



「……お父さん………お母さん」



 今日はあんな事を聞かされたんだから仕方がない、それに両親を転生させた張本人に協力させられていたんだから、ショックも大きかっただろう。転生して忘れてしまうというのも一つの解決法だと思うが、それをするとオーフェとの思い出も全て失ってしまう。そんな事は2人の為にも絶対にやりたくない。


 俺や仲間たちも全力で支えるから、一緒に乗り越えていって欲しい。そう思いながら、クレアの頭を優しく撫でる。しばらくそうしていると、表情も徐々に穏やかになっていき、静かな寝息だけが聞こえてくるようになった。



「………お兄ちゃん」



 夢の中の登場人物が俺に変わったみたいだ。悲しい夢を見なくなるくらい、みんなと一緒に楽しい思い出を増やしていければいいと思いながら、俺も再び眠りについた。




―――――・―――――・―――――




 翌朝、朝食を頂いた後にオーフェが父親を迎えに行き、全員で書斎に集まった。ハリスさんは事後処理で徹夜したみたいでかなり疲れている様子だ、そんな人にお願いするのは気が引けるが、どうしても必要な事なので今回の件を正式な書面にして欲しいと伝える。



「それは私の方から、君たちの国の国王に親書を書いて渡すよ」


「疲れてらっしゃるのに申し訳ありません」


「本来なら我々の国で解決しなければならなかった問題が、君たちの協力で一気に片付いたんだ、そんな事は気にしなくていいよ」



 そして、向こうの街の様子も聞いたが、俺が暗示から解放した使用人の人たちは、取り調べが終わり次第、順次解放されるそうだ。武闘派の人たちは収容施設に入れられ、3つの領主が集まって会議をした後に、処分が決定されることになっている。


 転生して記憶を失っても、それまでやった事の責任は取らないといけない、魔族界独自の仕組みみたいなので、その辺りはこちらのルールに任せよう。


 主犯の男もその会議で処分が下されるが、釈放される事は無いだろうという話だった。クレアに関しては、主犯の男の暗示で強制的に協力させられていたとして、お咎め無しになるみたいだ。この辺りはハリスさんがうまくやってくれたんだろう、オーフェもとても嬉しそうにしている。



「クレアちゃんはこれからどうするつもりかな?」


「その事なんですが、俺たちと一緒に暮らそうと思うんですが、問題ありませんか?」


「クレアちゃんはそれで良いのかな?」


「はい、私はお兄ちゃんやオーフェちゃんやみんなと家族になります」


「そうか、君もお兄ちゃんと呼ぶようになったのか。その事に関しては問題ないよ、昨日もそうだったがダイ君に相当懐いているみたいだから、こちらからもよろしく頼む」



 俺の横に座って、腕を握ったまま離さないクレアちゃんの様子を見て、ハリスさんは相好(そうごう)を崩して許可してくれた。万が一クレアちゃんの責任を追求する声が上がっても、魔族界の外に追放したという形にして、本人に影響が出ないようにしてくれるみたいだ。あくまでポーズなので、いつでも帰ってきて構わないと言ってくれた。



「じゃぁ、ボクたちはもう帰ってもいいのかな」


「親書が出来しだい渡すから、それを待ってくれさえすれば問題ない。それに、この屋敷の庭から飛び立ってくれても構わないよ」



 メイニアさんの背中に座る場所を作らないといけないが、それを使用人たちに手伝わせると言ってくれたので、その言葉に甘えることにした。






 全て丸く収まるという訳にはいかなかったが、出来る範囲で精一杯の事はやれたと思う。クレアには辛い思いをさせてしまったが、そんな悲しい思い出が残るこの魔族界でなく、別の大陸で新たな幸せを掴んで欲しい。新しく増えた家族もみんなと同じ様に幸せにすると誓って、俺たちの大陸に帰ることにした。


この後、資料集の方に黒幕の男を追加します。

作中で語られていない男の出自も記載しました。



もう1つ裏話というか割とどうでも良い考察という思考遊びが、小さな質量の石の弾丸で男が外まで吹き飛ばされた謎。


火薬の爆発力で飛び出す銃弾と違い、魔法で飛ばす弾丸は前に進もうとする力が持続するから、なんて考えましたが、ファンタジーだし細かい事はどうでも良いよねと思考放棄(笑)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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