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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第10章 問題解決編
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第122話 空の旅

「それでどうする? 今から飛べば明るい内に魔族界まで行けると思うよ」


「そうですね、忍び込むなら暗い時間のほうがいいと思いますし、オーフェのお父さんに領内での活動許可をもらって行動を開始するなら、すぐ出たほうがいいですね」


「でもメイニアさんがここで竜の姿になるのは無理ですよね」


「そうだね、アイナちゃん。大きさ的にはこの家の庭より少し広い場所があれば大丈夫だけど、王都に竜が出ると大騒ぎになるね」


「それならエルフの里に行きましょうか。山に近い所に大きな広場があるし、落ちないように何か掴まる物を用意しないといけないわね。里の人たちにも協力してもらって準備しましょう」



 俺たちパーティーの持ち味でもある即時行動で魔族界行きが決まっていく。オーフェの友達の安否や意図がわからない以上、あれこれ悩んでも仕方がない。本人に聞いてみるのが一番手っ取り早いし、オーフェの不安な気持ちは一刻も早く解決してあげたい。



「ダイ兄さん、みんな、ありがとう。ボクみんなと出会えてよかったよ」



 目に涙を浮かべて俺に抱きついてきたので、優しく抱き寄せて頭を撫でてあげる。大切な家族の笑顔を守るためだったら、無計画で成り行き任せで動いても構わない。幸い、頼もしい仲間たちが居るので、大抵の事態には対処できるはずだ。



「それじゃぁカヤ、行ってくるよ」


「旦那様や皆様なら、きっとオーフェ様のお友達も救えるはずです、気をつけて行ってらっしゃいませ」



◇◆◇



「大きなおじーちゃん、こんにちは!」


「よく来たのキリエちゃん、今日も元気そうで何よりじゃ」



 キリエはいつもの様にヨークさんの近くに走っていって、元気に挨拶をする。



「お祖父様、山の近くの広場を使わせてほしいの。それと里の人に手伝ってもらいたい事があるのだけど、何人かお願いしてもらっても構わないかしら」


「お主たちなら里の者も喜んで手を貸してくれるじゃろうから、マーティスに頼むと良いぞ。じゃが、いったい何をするつもりじゃ?」


「あのね、大きなおじーちゃん、メイニアおねーちゃんに魔族界に連れて行ってもらうの」


「ま、魔族界じゃと!? 何をしに行くつもりなんじゃ」



 いつも驚かせてばかりで申し訳ないと思いつつ、これまでの経緯やオーフェの友達の事を話していく。隠伏(いんぷく)の術が使える道具を狐人(こじん)族から譲り受けて、安全の確保が出来ることなど説明したが、その性能と古代人の末裔と言われている人から、代々受け継がれてきた道具を提供された事に、また驚かれてしまった。



「そういう事なら儂も協力してやろう。まずはメイニアさんに元の姿になってもらい、大きさを確かめるところからじゃな」


「わかったよ、それじゃあ広い場所まで案内してもらえるかな」



 全員で家の外に出て広場のある場所に向かって歩く、以前にも聞いたがメイニアさんは白い竜らしいので、どんな姿になるのか楽しみだ。白狼(はくろう)白狐(はくこ)のように、この世界でも白い体は神聖なものとして扱われているので、過去に聖竜(せいりゅう)と呼ばれているだけあって綺麗なんだろう。



「元の姿に戻るけど、服は脱げてしまうからよろしく頼むね」


「それは私の方で預かっておくわ」



 そう言うとメイニアさんの体が白く光る球体に変化して服が地面に落ちる、それを拾って精霊のカバンにイーシャがしまっている間に、その球体は少し上空に上がり形を竜の体に変化させていく。やがてその光が実体を持ち始めると、そこには真っ白に輝くような鱗を持った立派な成竜が現れた。



「ふわぁ、メイニアさんとってもきれいです」


「……真っ白できれい」


「わうん!」


「確かにこの姿を見ると、聖竜と呼ばれるのもわかるわね」


「メイニアおねーちゃん、すごーい」


『以前、元の姿を見せてあげるという約束がこれで果たせたね』


「こんな大きな鳥や動物は魔族界にも居ないよ、竜って凄いんだね」


「小説でしか読んだことのない生き物に直接会えるのは、やっぱり感動します」


「頭の上に乗ってもいいですか?」


『構わないよ、ウミちゃん』



 ウミは俺から離れメイニアさんの頭の上に乗って、見晴らしがいいと喜んでいる。自分で飛べるけど、誰かに乗せてもらって高い場所から景色を眺めるのが、やはり好きみたいだ。



「まさか生きている内に、こうして間近に竜の姿を見られるとは、長生きをしてみるもんじゃな」


「メイニアさん、凄く気品があって美しいです」



 メイニアさんはゆっくりと地上に降りてきて、その大きな体を地面に横たえる。確かにこの大きさだと、うちの庭では尻尾を動かした拍子に、家や壁に当たってしまいそうだ。それに少しエコーが掛かったような声だけど、その姿でも普通に喋れるんだな。


 広場に行く時にマーティスさんにお願いして集めてくれた里の人たちも、まず見ることのできない竜の姿を遠巻きに見て驚いたり感動したりしている。



『美しいなんて言われると少し照れてしまうね。そうだダイ君、私の(あご)の下に形と色が違う鱗があるんだけど、それを撫でてもらってもいいかな』


「はい、それくらいなら構いませんが」



 地面に横たえていた首を持ち上げて、俺の手の届く高さで顔の下を見せてくれるが、確かに1枚だけ他の鱗と違って、虹色に輝いていて形も違うものが存在した。



「この光っている鱗を撫でればいいんでしょうか?」


『そこを触られるととても不快な気分になるから、普段は別の鱗で隠しているんだけど、ダイ君なら触っても大丈夫だと思うんだ』



 これはいわゆる逆鱗(げきりん)と言うやつじゃないだろうか。触った人を殺してしまうとか、そこに命中するとバーサク(凶暴)状態になるなんて設定のゲームもあった。そんな場所に触れるのは勇気がいるけど、本人がやってほしいと言ってるのだから触ってみよう。


 そっと手を伸ばしてその鱗に触れてみるが、表面はツルッとしていて結構手触りが良い。硬いけど温かみがあって、ガラスやプラスチックの表面とは全然違う感触が不思議だ。



「どうでしょう、嫌な感じとかは無いですか?」


『うん、やっぱりダイ君だどそんな感じはしないし、頭を撫でてもらってるとき以上に気分が落ち着いてくるよ』


「竜の逆鱗に触れて怒らせるどころか逆に落ち着かせてしまうとは、お主たちと出会ってから今までの常識がどんどん崩れていって本当に愉快じゃな」



 俺たちのやり取りを見ていたヨークさんが、そんな言葉を漏らす。そうしている内にマーティスさんを中心とした里の人たちが、メイニアさんの背中に座れる場所を作るための用意をしてくれる。厚手の細長い絨毯を背中に乗せて、数カ所に丈夫なロープを通して体にくくりつけると、馬の背中につける(くら)みたいに見える。電車ごっこのように感じに掴むことの出来るロープも取り付けてくれて、短時間であっという間に仕上がってしまった。



『ダイ君、もう大丈夫だよ、ありがとう。今ならいつもより速い速度で飛べる気がするから、さっそく出発しようか』



 メイニアさんは、体に色々なものを取り付けられる感覚から意識を逸らすために、なでなでをお願いしてきたみたいだった。他人を乗せて飛ぶというのは気も使うだろうし自然な姿ではないだろうから、竜にとっても負担になるのかもしれない。メイニアさんの優しさに感謝しながら、全員が背中に乗り込んでいく。



「ダイ先輩、もっとくっついても大丈夫ですか?」


「背中にしがみついてもいいから、もっと近づいて構わないよ」



 高いところが苦手な麻衣が、俺にそう断ってからお腹の方に手を回して背中にしがみついてくる。キリエは俺の足の間にすっぽり収まってごきげんだ、元々飛べるから怖くないんだろう。シロも器用に絨毯の上に腹ばいになり、ウミはそのまま頭の上に乗るみたいだ。それぞれが支えになるロープに掴まって、いよいよ出発する事になった。



「みなさん、色々手伝ってもらってありがとうございました」


「お祖父様、それにお父様、行ってくるわね」


「気をつけて行ってくるんじゃぞ、あまり無理はせぬようにな」


「イーシャ、その友達の力になってあげなさい」



 エルフの里の人たちに見送られて、メイニアさんがゆっくりと高度を上げる。眼下に広がる大森林の全体が見渡せるようになっていき、大陸の端を取り囲む竜の住む山脈の高さを超えていく。遠くには水平線が広がっているが、その形は円を描いていて、この世界があるのは丸い惑星なんだとわかる。



『ゆっくり速度を上げていくけど、しっかり掴まっていてね』



 みんながロープを握り直し、麻衣は一層俺にしがみついてきた。流れる景色が徐々に速くなっていくが、加速の時に感じる引っ張られるような力はあまりないので、すごく丁寧に速度を上げていってくれているのがわかる。それに物理障壁のおかげで風を受けないのが凄い、上空は寒いからと全員厚着してきたが、風がないだけでもずいぶん体感温度が違う。



「こんな高い場所を、こんな速さで飛ぶことはないので、とても楽しいのです」


「キリエも大きくなったら、おとーさんやおかーさんたちを乗せて飛んであげるね」


「それはいいわね、みんなで空の散歩とか楽しそうだわ」


「ボクが大陸に渡ってきた時に運んでもらった鳥よりずっと速いよ」


「ご主人様、私たちの居た大陸がもうほとんど見えません」


「……とても速い」


「ホントだな、俺たちの世界にあった乗り物より速いかもな」



 飛行機といえば高校の修学旅行で乗っただけだが、その時と遜色ない速度が出ている気がする。高度や比較するものが違うので正しいかどうかはわからないが、障壁を展開しながらこの速度で飛行できる竜族の力はやはりすごい。



「麻衣も少しだけ見てみないか? 凄く眺めがいいぞ」


「まだ怖いのでもう少しこのままで居させてください」



 そう言う麻衣は俺の背中に頭をスリスリと擦り付けていて、なんか今の状況を楽しんでいるみたいなので、したい様にさせてあげよう。



◇◆◇



「それで3つの領土に分かれているのね」


「住んでる人もきっちり分かれてなくて、それぞれ好きな場所で生活してるけど、ボクの父さんが治めている領土は人族と同じ姿の人が多いよ」



 移動しながら魔族界の事を色々と聞いているが、魔族にはオーフェのように人と変わらない姿をしたもの、旅の途中で襲われた人の体に動物の頭がついていた半人・半獣のもの、顔や手足も動物と同じで全身が毛で覆われていて、2本の足で歩く獣型の3つのタイプがある。


 姿の違いによって住む場所が偏っていて、それぞれの代表がその土地を治めることになり、3つの領土が出来た。どの姿の人も基本的に仲が良く、結婚なんかも普通にするみたいだ。



「私たちみたいな獣人は居ないんですか?」


「アイナちゃんやエリナちゃんみたいに、耳としっぽだけって人は居ないね。ボクはとっても可愛いと思うから残念だよ」


「……精霊や妖精も居ないの?」


「妖精は聞いたことがないし、魔族に精霊魔法を使える人は居ないと思うからわからないかな」


「自然のある所に精霊は居るのです。魔族界でも精霊魔法は使えるので大丈夫なのです」


「竜族は居ないんですか?」


『魔族界に住んでいる竜族は聞いた事が無いね』



 その姿は何種類かに分かれているけど、魔族界はそれ以外の種族が存在しない、単一民族の大陸なんだな。魔族という種が強すぎて、他の種族が繁栄できなかっただけかもしれないが、その辺りの歴史を解き明かしたい訳でもないから、いま考えるのはやめておこう。



『遠くに大陸が見えてきたからもうすぐ着くよ』


「近くに島を見つけたらそこに降りてね、メイニアちゃん」


『少しずつ速度と高度を落としていくから、しっかり掴まっていてね』



 メイニアさんがスピードを徐々に緩めながら降下していくと、海の上に小さな島が見えてきた。森と砂浜だけで人工物は見当たらないから無人島なんだろう。ゆっくりと旋回しながら島の上に停止して、そこから地面に降りていく、垂直の離着陸ができるのも飛行スキルならではだ。


 砂浜に降り立ってみんな一息ついたが、日の高さは出発した時より低くなっている。この世界でも東から日が昇るので、かなり西側に移動したんだろう。帰る時は気をつけないと、元の大陸に着いたら夜中という事になりかねないな。


 メイニアさんに元の姿に戻ってもらい、着替えを済ませる。いくら無人島といっても、屋外での着替えなので麻衣の壁魔法が活躍してくれた。本人は気にしないと言っていたが、俺が気にするのでちゃんと隠れてやってください。


 エルフの人達が作ってくれた(くら)を精霊のカバンに収納して、オーフェの家へ転移の門を開いてもらう。どんな反応をされるか少し不安だが、ちゃんと事情を説明して協力してもらえるようにしよう。


竜族が普段変身する時、服はどうしてるかと言うと、全部脱いでから竜の姿で持てる物に入れている、という設定になっています。


そうです、全裸で竜化するんです、全裸で(大切な事なので二度

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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