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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第10章 問題解決編
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第119話 パレード

 去年はヴェルンダーの街で教授たちの指名依頼を受けながらの年越しだったが、今年は王都の自宅で冒険者活動も休みにしてゆっくり過ごしている。アーキンドの朝市にみんなで行ったり、児童養護施設(孤児院)に差し入れを持っていくと、犬人族の男の子と兎人(とじん)族の女の子にベッタリくっつかれて、1日一緒に過ごす事になったりしたが、いよいよ今日で今年最後の日だ。


 この世界は年越しで何かやったりすることはないし、ギルドも年中無休でやってるので、冒険者も普段どおりの活動をしている。明日開催される新年の催しが、王都ならではの例外的な行事なんだろう。



「今年も色々あったけど、みんなが元気に過ごすことが出来てよかったよ」


「去年の年末はユリーさんやヤチさんと出会って、年明けまで指名依頼を受けましたね」


「今年も大きな依頼をしてくれたし、2人には感謝しないといけないな」


「私たちの作ったお弁当や料理を、美味しそうに食べてくれるのが嬉しいです」



 ――麻衣とアイナは教授たちとの思い出を。



「……王都に来る時にシロにも出会えた」


「わうっ」



 ――エリナはシロとの出会いを。



「この家を買ってカヤちゃんとも出会えたのです」


「私は旦那様や皆様と出会えて、とても幸せです」



 ――ウミは拠点購入と、家の妖精カヤとの出会いを。



「みんなでアーキンドに行った旅も面白かったね」


「あの馬さん、今でも元気でしょうか」


「……また会いたい」



 ――オーフェはアーキンドへの馬車旅行を。



「そのおかげで、お祖父様のご病気を治すことが出来たわ」


「色々な相談に乗ってもらったり、新しい街を教えてもらって感謝してるよ」



 ――イーシャはエルフの里の長老でもあり、祖父のヨークさんの事を。



「フォーウスの街に行って、キリエちゃんを授かることが出来ました」


「おとーさんやおかーさんたちに育ててもらって、キリエとっても幸せ」



 ――山の中で出会った女性からキリエの卵を託され、こうやって生まれてきてくれた事。



狐人(こじん)族の人たちも助ける事ができました」


「……新しいダンジョンにも行けた」


「新しく見つかった階層で、地脈の開放もしてしまったわね」


「そして私もみんなに出会えてとても嬉しいよ」



 ――狐人族の隠れ里で魔族を追い払い、地脈の開放がきっかけでメイニアさんと出会えた事。



「冷蔵庫も完成したし、結びの宝珠も手に入った、色々あったけど良い1年だったな」



 五輪の煌めきの人たちとダンジョン内で出会い、アイテム集めを手伝った事で結びの宝珠の情報が手に入った。ミーレさんの病気も後遺症が残らず治ったし、宝珠探しがきっかけになって冷蔵の道具も手に入った。その陰には、キリエが新しい力に目覚めるきっかけになった、小さな動物の協力もある。


 こうやって思い返してみると、この1年で大きく周りの状況が変わった。拠点が出来て家族や仲間も増えたし、施設の子供たちやエルフの里に狐人族の村の人達といった知り合いも大勢できた。


 来年はどんな場所に行ってどんな出会いがあるんだろう、そんな事を考えながら今年最後の夜が更けていった。




―――――・―――――・―――――




 翌朝、朝食を食べた後にミーレさんのお店に向かう。大通りでは屋台の準備が行われていて、いつもより華やかな空気に包まれている。南の方の区画は比較的空いているが、中央広場から北の方向はもっと混雑するみたいだ。


 その理由は北西区画にある王城から、勇者と聖女のパレードが始まり、中央広場を経由して北東区画の方に進み、王城へ戻るというコースを取るかららしい。俺たちも教育機関や研究所がある北東区画で、パレードを見ようと思っている。


 いつもより通りが雑然としているので、俺はカヤを抱き上げてオーフェと手を繋ぎ、キリエはメイニアさんに抱っこしてもらっている。



「今日はとってもにぎやかだね!」


「この辺りに出るのはどんな屋台なのかな」


「冒険者の多い区画だし、そういった人たち向けに食べごたえのある物を出すお店が沢山ありそうだな」


「お肉の屋台が多い気がします、ご主人様」



 キリエやオーフェは、周りで進められている屋台の設営を、キラキラとした目で見ている。言われてよく見てみたが、準備している調理器具は焼いたり炒めたりというものが多いみたいだ。タレのいい匂いもするし、確かに肉系の料理が多いかもしれない。


 肉料理に目がないアイナとイーシャが、屋台に熱い視線を向けている。今日は食べ歩きでお昼も済ませるし、朝食も軽めにしたので、営業が始まったら色々なものを買ってみることにしよう。


 賑わい始めた通りを進んでいき、ミーレさんのお店に到着する。お店に入ると、カウンターにはミーレさんがひとり座っている。従業員にも催しに参加する人がいるから人手も足りないだろうし、俺たちが来店するのはわかっていたから、こうして待っていてくれたのかもしれない。



「おはようございます」


「いらっしゃい、待ってたよ」



 そう言うと、カウンターの下から箱を取り出して、中に入っていた結びの宝珠を並べてくれる。宝珠の周りを取り囲んでいる銀色の枠は、いくつもの異なる太さの線が寄り添うような模様が刻まれていて、色々な種族が仲良く一緒に暮らしている俺たちをイメージしてくれているようだ。


 上の部分は“∞”の形をした輪が鋭角に付いていて、ここに紐やチェーンを通すようになっている。その部分も単に2つの円を並べたのではなく、それらが絡み合うような形になっていて、まさに結ばれているというデザインだ。



「これはとても良いです、俺たち家族の絆や結ぶという宝珠にふさわしい模様だと思います」


「それを意識して作ってみたんだよ、気に入ってもらえると嬉しいね」


「とても素敵ね」


「すごくきれー」


「ボクに首飾りなんて似合うかなって思ったけど、これはつけてみたいよ」



 みんなも口々に素敵に仕上がっていると喜んでいて、それを見るミーレさんも嬉しそうだ。そして、それぞれが好みの紐やチェーンを選ぶことにする。


 アイナはオレンジ色の紐を選び、イーシャは緑の紐にしたみたいだ。麻衣は金色のチェーンを選び、ウミは水色の紐を短く切ってもらうことにしていて、エリナは白の紐に決めていた。オーフェは赤の紐を手に取っていて、カヤは茶色の紐を大事そうに握っている。キリエは迷うことなく黒の紐を選び、メイニアさんは銀色のチェーンを選んでいた。


 俺はどうしようか、店内に並べられている紐やチェーンを見たが、髪の毛と同じ色にするとキリエと被ってしまう。別に問題ないと思うが、みんな別々の色を選んでいるので、何となく俺も違う色にしたい。そう考えていた時に一つの紐が目に入り、それにすることに決めた。


 赤と緑と青の細い紐を組んで作っていて、少し派手だが光の三原色になぞらえると、この3色で全ての色が表現できる。この世界の暦も、ひと月が同じ3色で区切られているので、ここで過ごした日々を表現しているみたいで、なんか気に入った。


 それぞれの体格に合わせて紐の長さを調節してもらって支払いをしたが、材料費と紐やチェーンの代金だけでデザイン料や加工代は受け取ってもらえなかった。薬の材料を探してくれたお礼だと言うので、素直に受け取っておくことにする。



「ねえ、ダイ。最初はあなたがつけてくれないかしら」



 そう言ってイーシャが、自分のペンダントを俺に渡してきた。それくらいなら別に構わないので受け取ると、他のメンバーも全員が俺の方を見ている。



「ご主人様、私もお願いします」


「ダイ先輩、私もつけてください」


「ウミもお願いするですよ」


「……あるじ様、つけて」


「ボクもダイ兄さんにつけて欲しいな」


「旦那様、私もお願いして宜しいでしょうか」


「おとーさん、キリエも」


「わうっ」


「もちろん私にもつけてくれるよね?」



 一人ひとりの後ろに回り、紐やチェーンの止め金を閉じて首にペンダントをかけていくが、全員シミひとつないうなじが凄く綺麗だ。店内にいた他の女性客が、とても微笑ましそうな顔で俺たちを見ていて少し恥ずかしかったが、本人たちはとても嬉しそうにしているので、気にしないことにした。


 ウミにはイーシャが服の腰にボタンで止める輪っかを作ってくれたので、そこに紐を通してボタンを閉じる。その状態の姿を見てみるが、大きめの懐中時計をぶら下げているみたいで、なんか似合っている。


 シロ用は俺がこの世界に来た時に使っていた、細いベルトを短く切った物に宝珠を取り付けた。首輪なんかしたこと無いので嫌がると思ったけど、匂いを嗅いで俺の持ち物だとわかったのか、喜んで装着させてくれた。黒いベルトなので少し目立つが、冒険者活動をする時だけ身につけてもいいので、色に関しては我慢してもらおう。


 ミーレさんにお礼を言って、麻衣の作ってくれたお菓子を差し入れし、お店を後にする。結びの宝珠を手に入れた時は、地球式で言うクリスマスプレゼントだと思ったが、こうしてアクセサリーになって帰ってきたのは、ちょうどお年玉みたいだ。



◇◆◇



「お揃いのものを身につけられるなんて、とても嬉しいです」


「……主人登録証を手首に変えてもらって良かった」



 アイナとエリナは綺麗な装飾品に変わった結びの宝珠を、指先で触りながら嬉しそうな笑顔を向けてくれる。ペンダントをつけることになったので、エリナの主人登録証は首輪からブレスレットに変更してもらった。主人がいる獣人だと目立つからと言う理由で選んだ首輪だったが、今では顔を隠さずに行動する事にも慣れたし、以前より戦闘能力や技術が格段に向上している。単独で行動することはほとんど無いが、上級冒険者と同じくらいの力をつけた今だと、そうそう遅れを取ることはないだろう。


 俺たちの新しい絆になったペンダントのことを話しながら、中央広場の一角を目指す。そこは石窯焼き食堂の店主、ラルフさんの出店している屋台だ。新しい味や調理法を次々生み出しているお店として、王都でも有名になったので、とても良い場所を割り当ててもらえたみたいだ。



「おう、マイちゃんいらっしゃい」


「みんなもよく来たね、揚げたてがあるから食べていくかい」



 まだお昼には早い時間なので、お客さんも少なく夫婦そろって挨拶してくれた。人数分のお金を払って商品をもらうと、串に刺したから揚げだった。これなら歩きながらでも食べやすいし、屋台にピッタリの料理だと思う。



「おとーさん、これおいしいね!」


「また新しい味付けを開発したんですね、凄くおいしいです」


「マイちゃんの料理を食べ慣れてるお前たちやキリエちゃんに、そう言ってもらえると自信になるぜ」



 この食堂にも何度か足を運んでいるので、キリエの事は2人もよく知っている。おばさんの早とちりで、キリエが麻衣と俺の子供だとおじさんに伝わり、良くやったなと肩をバンバン叩かれて痛かったのはいい思い出だ。


 麻衣が教えた調理法や味付けがきっかけだったが、おじさんは独自の調理テクニックや味を開発していっている。それが可能なのはおじさんの向上心の高さに加えて、やはりこの世界の調味料や食材に関する知識が豊富だからだろう。麻衣とアイナとカヤは、味付けの材料や作り方を熱心に聞いていた。


 屋台巡りをして色々なものを食べ、おやつになりそうなものを買って北東区画を目指す。シロは屋台の食べ物は食べられないので、麻衣の作ってくれた携帯食をもらっている。ウミは屋台で買ったドライフルーツを美味しそうに食べている声が、頭の上から聞こえてきた。


 王城から中央広場にかけてはかなり混雑するが、こっちの方は屋台もあまり出店して無く、道路も歩きやすい。教育機関や研究所のある区画なので、その辺りの配慮がされているのかもしれない。



「こちらの方は人も少なくて歩きやすいですね、旦那様」


「勇者や聖女を見るなら北東区画が良いと聞いてきたけど、正解だったな」


「ヤチ姉さんも見に来てないかな」



 ここなら人に飲まれることもないので、カヤやキリエも一緒に歩いている。オーフェはヤチさんを探してキョロキョロと辺りを見回しているが、それらしい人は見つけられない。色々な発見があったダンジョン調査だったので、まだまだ忙しく資料整理や分析をやっているんだろう。



◇◆◇



 パレードが通過する時間よりかなり早かったこともあって、最前列の場所を確保することが出来た。中央広場に向かう道路の方から喧騒が聞こえてきたので、パレードの一行は徐々に近づいてきているようだ。



「おとーさん、抱っこして」


「キリエ、なにか見えるか?」


「まだわからないけど、みんな手を振ってるのが見えるの」



 キリエを抱き上げて、自分の頭の位置より高い場所から見てもらったが、まだパレードの本体は見えないようだ。耳を澄ませてみると「テルキ様ぁー」とか「ジーク様愛してます」という女性の黄色い声や、「女神様に俺のすべてを捧げます」と言った男性の叫びが聞こえてくる。


 輝樹さんもパレードに参加しているみたいだし、ジークというのは他の勇者グループだろうか。女神っていうのはきっと聖女だろうな。ここにも元聖女候補が居るが。



「輝樹さんも居るみたいだし、聖女も大人気だな」


「私はこんな風に騒がれるのは苦手ですから、ここでこうしてダイ先輩やみんなといっしょに居られて良かったです」


「マイちゃんは聖女より、お菓子を作っている方が似合うとウミも思うのです」



 麻衣は苦笑気味に通りの向こうを眺めているし、家庭的な彼女はお菓子作りの方が似合うというのは同意見だ。俺もそちらの方に視線を向けると、白くて綺麗な鎧や清楚な服に身を包んだ集団が徒歩で移動していた。てっきり馬車とか大きな乗り物の上に立って移動していると思ったが、その集団は道路脇の見物人と握手したり、小さな子供たちに何か配りながら歩いている。



「おとーさん、見えてきたね」


「あれが勇者と聖女なんだね、みんな綺麗な鎧や服を着ているね」


「カヤとオーフェはちゃんと見えるか?」


「はい、大丈夫です、旦那様」


「うん、ちゃんと見えてるよ、ダイ兄さん」



 輝樹さんは子供たちにカードを配っている、もらった子は嬉しそうにしているので、何か勇者や聖女にちなんだものなのかもしれない。俺たちが沿道で見ていることに気づいたようで、近くを歩いていた兵士に所に行って何か話した後に、カードを持ってこちらに近づいてきてくれる。



「ありがとう、勇者のおにーちゃん」


「ボクにもくれるんだ、ありがとう」



 キリエとオーフェにカードを渡して、輝樹さんはにっこり微笑んだ後に他の子供達のところへ向かっていった。オーフェに見せてもらったカードは、勇者と聖女の線画が印刷されていて、裏には王家の紋章が(えが)かれている。



「おとーさん、こっちは何か線が書いてあるの」



 そう言ってキリエが見せてくれた方のカードの裏には、“日本語で”【会いたい】と書かれていた。さっき兵士の近くに行ったのは、何か書くものを借りていたのかもしれない。しかも日本語でメッセージを書いているところを見ると、きっと誰にも知られたくない用事があるんだろう。


 輝樹さんがこちらの方を振り返ったので、了承の意味を込めて手を振っておく。






 みんなにもカードに書かれたメッセージのことを伝えて、パレードが通り過ぎて人も少なくなってから家に帰ることにした。一体どんな用件かはわからないが、俺たちで力になれることなら協力しよう。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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