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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第10章 問題解決編
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第118話 冷蔵庫

「こんにちは」


「いらっしゃい。おや、あんた達よく来たね、結びの宝珠とやらは見つかったのかい?」


「はい、その事でご相談に」



 翌日、ミーレさんの工房に行くと、ちょうど店舗スペースの方に来ていた本人に会うことが出来た。お店の中には指輪やネックレスにブローチなど色々なものが展示されていて、女性陣が目を輝かせてそれらを眺めている。



「それで、どんな物で作ろうと思ってるんだい?」


「これなんですが、周囲を飾りで囲ってもらって、首飾りにしたいと思うんです」



 腰につけた普通のカバンから結びの宝珠を取り出してミーレさんに見せると、それを受け取って色々な角度から眺めている。頭の中ではどんな感じにするか、すでにデザインを考えているのかもしれない。



「綺麗な石だね、それに片方に模様も入っている。これを活かせる飾りにしないとだめだね」


「これは両側を強く押して使う道具にもなってるんです」



 そうして、結びの宝珠の起動方法やシロとウミにも持たせてやりたい等、こちらの想定している使い方を伝えていく。



「それなら飾りの部分だけ作ったげるから、紐や鎖を自分たちで選んだらいいよ。そうすれば長さの調整も簡単だし、犬の首や妖精の腰にだって付けられる」



 それなら首飾りにこだわる必要もないし良いかもしれない。シロには俺がこの世界に来る時につけていた細身のベルトで首輪を作って、そこに付けてあげるのが良いだろう。ウミには服の腰のあたりに、ボタンか何かで着脱できる加工をイーシャにお願いしたら作ってくれそうだ。


 みんなに確認したら、自分の好きな色や素材を選べるのが嬉しいと言うので、それでお願いしてデザインは一任することにした。


 お店の従業員の中に新年の催しで出店の手伝いに参加する人が複数いるので、ここも今日で今年最後の営業になるらしい。ミーレさんはお店が閉まっている間は暇らしく、何をしようか悩んでいたらしいが、ちょうど俺たちが来たのでアクセサリー作りに専念すると言ってくれた。


 催しの日は1日だけお店を開くそうなので、その時に出来たものを渡してくれると言ってくる。たった数日で16個のアクセサリーを作ってしまうなんて、さすがに職人さんはすごい。


 お店を出る前に、みんなに何か買わないのか聞いたが、これから出来るものがあるので今はいいと言うので、そのままお店を後にした。お店の中にあった商品も素敵なデザインのものばかりだったので、どんな風に出来上がってくるのかとても楽しみだ。



◇◆◇



 その後はそれぞれ分かれて行動することにした。俺と麻衣とカヤで冷蔵庫を作る材料の買い出し、エリナは寒いから暖炉で暖まりたいと家に帰ることにしたみたいだ。アイナとシロも庭で遊びたいからと付いて行き、残りのメンバーは王都見学とお店巡りをするらしい。ウミも俺の頭から離れて、メイニアさんの肩に座っている。俺以外の人の頭に乗っているのは見たこと無いが、見晴らしのいい場所がやっぱり好きなようだ。


 カヤにはあらかじめどんな形にしたいか概要を伝えていて、製氷室のある上部と冷蔵室の(ツー)ドア冷蔵庫にしようと思っている。冷蔵の道具はかなり温度が下がるみたいなので、氷も十分作れるはずだ。


 内部の2つの部屋を大きい外装で囲って、隙間に断熱材になりそうなものを詰め込み、ドアも内側に四角錐台の出っ張りを付けて、そこにも断熱材を詰め込めば保温効果も上がる。


 庫内は結露や汁物がこぼれた時の対策で、金属の薄い板を貼り付けることにした。製作難易度が上がると思うが、カヤに聞くとそれ位なら何の問題も無いそうだ。家の妖精は万能すぎる。



「旦那様やマイ様の居た世界には、変わった家具があったのですね」


「俺たちの居た世界は魔法が無かったけど、代わりに電気や科学といった技術があったから、便利な道具や器具も多かったよ」


「凍らせないと作れないお菓子や、冷やしたほうが美味しいお菓子もあるし、一度凍らせて解凍すると味が染み込みやすくなる食材なんかもあるから、料理にもすごく役に立つんですよ」


「マイ様に新しいお菓子や、調理法を教えてもらうのが楽しみです」



 今日は久しぶりにカヤを抱き上げて街を歩いている、出会った頃は遠慮がちに俺を掴んでいた手も、今では嬉しそうに首に回してしがみついてくれている。反対側の腕は、エリナやオーフェがよくやるように、麻衣が胸に抱えるようにして組んでいる。


 遺跡で手を握った時もそうだったが、今日もとても上機嫌に微笑んでいる顔が可愛らしい。腕から伝わてくる感触は、ほんのりまろやかだ。



「ダイ先輩はなにか食べてみたいお菓子はありますか?」


「寒い時期だけど、久しぶりにアイスクリームが食べてみたいな。暖炉の近くで食べると美味しそうだ」


「それならミルクと砂糖があれば作れますから挑戦してみます、バニラエッセンスはこの世界に無いから、砂糖の代わりに蜂蜜で作ってみましょうか」


「旦那様、マイ様、“あいすくりぃむ”とか“ばにらえっせんす”とはどんなものなのですか?」


「アイスクリームは、甘くしたミルクを凍らせてよく混ぜると作ることが出来るお菓子の事で、バニラエッセンスは甘い香りのする香料だから無くても大丈夫だけど、使うと風味が良くなるんですよ」


「私の知らない作り方や、聞いたことのない材料ですけど、なにか美味しいものが出来そうな感じがします」



 アイスクリームが作れると聞いて、少しテンションが上ってきた。特別好きなお菓子というわけではないが、この世界でも食べられるというのは嬉しい。生クリームや卵を使うほうが口当たりが良くなるみたいだが、生クリームは作るのが大変らしいし、この世界の卵は衛生面で生食は危ないみたいだ。麻衣の料理やお菓子作りのスキルと知識には本当に脱帽する。


 話をしながら歩いていたら雑貨屋に到着した。俺たちの世界にあったホームセンター並みの品ぞろえを誇るお店で、必要なものをどんどん購入していく。丈夫で水に強く長く使っても変形しにくい材料、薄い金属板やドアが勝手に開かないようにする止め金、庫内の仕切りに使う棚の材料も揃える。断熱材はベッドやソファーのクッションに使う、発泡性の材料があったのでそれにした。


 麻衣は氷を作るのに使う金属の(うつわ)や、今までとは違うお菓子や料理づくりに使う食器や調理用具を揃えていった。



◇◆◇



 家に帰ってカヤと2人で冷蔵庫づくりを開始した。麻衣やアイナの身長でも使いやすいように、高さは控えめにして横幅と奥行きを少し広めにする。カヤはいま使っている踏み台があるので、それを利用して上の方にあるものを取り出すみたいだ。


 冷凍室の奥の天井に冷蔵の道具を入れる箱を作り、空中で支えるような設置台を組み込む。フタを閉じた状態で温度調節が出来るように、箱の底は隙間の大きさを変えられる仕切りにしている。冷凍室と冷蔵室は冷気を通すダクトを両脇に作って繋ぎ、そこも温度調節が出来るようにしておく。



「旦那様が手伝ってくださるので、とても楽に作ることが出来ます」


「俺はカヤの作ってくれた部品を並べてるだけだから、大したことはしていないよ」


「そんな事はありません、とても助かっています」



 そう言ってくれるが、実際に組み立て以外はほとんどやってない。でも、カヤはとても楽しそうに作業をしているので、喜んでくれているのは本当だろう。


 しかしカヤが作ってくれる部品の精度は半端ない。2つの物を組み合わせても初めから1つだったように、継ぎ目がわからないくらいピッタリ合っている。以前、児童養護施設(孤児院)の修繕をした時にも実感したが、この家の中だと更にもう1段も2段も上の力になるんだろう。


 仮組みが終わった段階でアイナとエリナに協力してもらい、冷蔵庫を厨房に運び入れる。2人とも見たことのない形のそれを見て、興味津々の様子だった。



「これが“れいぞうこ”というものなんですか? ご主人様」


「……変わった形をしてる」


「俺たちの居た世界の冷蔵庫はこんな形だったな。扉の数がもっと多かったり、引き出しが付いてるものもあったけど、基本はこんな感じだった」



 床から少し高くなるように底に足をつけているので、見た目は業務用みたいだけど、輝樹さんみたいな同じ世界の人が見たら冷蔵庫だとわかってくれるはずだ。


 断熱材を入れたり金属板を貼り付けた内側の箱を組み込んで、ドアと止め金を取り付けたら完成だ。家族の人数と比べて小さな冷蔵庫だと思うが、食材の保管は精霊のカバンがあるので、これは冷たいものを作る事だけに使うから問題ないだろう。


 冷蔵の道具を起動して天井に作った箱の中に入れて、まずは大きめに隙間を開けておく。後は使いながら麻衣に調節してもらおう。



「ダイ先輩、カヤちゃん、お疲れ様でした」


「冷却能力には問題ないと思うけど、冷えすぎるようだったら隙間の広さで調節してもらえるか」


「試しに氷やアイスクリームを作りながら調節してみます」


「冷蔵の道具は箱の空中に設置してるけど、周りが凍りつくかもしれないから、時々手入れが必要になると思う」


「カヤちゃんは道具の停止や起動ができないので、それは私の方でやりますね」


「マイ様、よろしくお願いします」



 冷蔵庫の使い方や注意点を一通り説明した後、麻衣は準備していたアイスクリームの液体と、水を張った器を冷凍庫に並べていった。これを途中で何度かかき混ぜながら凍らせると、アイスクリームになるらしい。夕食後のデザートには間に合うだろうとの事なので楽しみだ。



◇◆◇



 帰ってきたみんなとお昼を食べて、午後からは家でまったりと過ごす。みんな厨房に新しく設置された冷蔵庫を見て、新しいお菓子の出来上がりに期待を膨らませていた。


 時間を忘れて作業をしていたので気づかなかったが、かなり面倒くさい構造の上に、この世界には存在しないだろう地球式の冷蔵庫が、午前中の短い時間で出来てしまったのも驚きだ。設計図を作らず簡単に描いた絵と、材料を加工しながらの説明に、ジェスチャーで指示した大きさだけで、こちらが望んでいた以上のものを作ってしまったカヤの能力はとても凄い。


 暖炉の前に作った土足厳禁の床にみんなで集まって、本を読んだり話をしたり思い思いに過ごしているが、カヤに今の感謝の気持ちを伝えたくて、膝の上に乗ってもらって頭を撫でている。子供扱いしているみたいで失礼かとも思ったが、本人は満更(まんざら)でも無い感じに頬を少し染めて嬉しそうにしている。



「おとーさん、今日はカヤおかーさんと、とっても仲良しだね」


「今日はカヤにいっぱい頑張ってもらったから凄く感謝してるんだ」



 キリエも今日は膝の上をカヤに譲ってくれて俺の横で本を読んでいるが、今の様子を見てそんな事を言ってくる。どうも俺は自分でも思っている以上に、冷蔵庫の完成を喜んでいるみたいだ。麻衣も近くに来てカヤの頭を撫でてくれていたし、地球に住んでいた時と同じ物がこの世界で再現できたことで、2人とも気分が高揚しているんだと自覚する。



「冷蔵庫を作っている時のご主人様は、とても楽しそうでしたよ」


「……マイも凄く嬉しそうだった」


「元の世界に当たり前にあったものが、この家でも使えるようになったので、今まで諦めていた色々な事が出来るようになって凄く嬉しいですよ」



 料理やお菓子作りに冷蔵庫は欠かせないものだろうし、今は冬の季節だけど夏になれば活躍の機会は大幅に増えるだろう。遺跡の探索に参加してくれたみんなには、これからも麻衣が美味しいお菓子や料理でお返しができるだろうし、俺も日々の生活の中で返していきたい。



「あら、カヤちゃんが昼間に眠ってしまうなんて初めてじゃないかしら」


「カヤちゃん、気持ちよさそうに寝てるね」


「妖精をこんなに安らかな気持ちにさせるなんて、ダイ君は本当にすごいね」


「ダイくんのなでなでが、更に進化したかもしれないのです」



 膝の上に乗せたカヤが話をしていないと思ったが、どうやら眠ってしまったようだ。俺に背中を預けて気持ちよさそうに寝息を立てる姿を見て、冷蔵庫作りでいつも以上に力を使ったのかもしれないと思い、そのままゆっくり眠らせてあげることにする。



◇◆◇



 夕食を食べ終わって、いよいよお待ちかねのデザートタイムになる。俺以外のメンバーはアイスクリームを見たことがないので、一体どんなお菓子が出てくるのかを楽しそうに話している。麻衣は出来上がってからのお楽しみと言って黙っていたので、俺もネタバレはしない事にしている。


 この世界の屋台やお店で氷菓子を提供している所はなかったし、ヴェルンダーのような北にある土地だと、わざわざ冷たいものを寒い時期には食べないだろう。同じ様な効果を出せる魔道具なんかで氷菓子を作っている貴族があるかもしれないが、一般市民の口に入らないだろうし、みんなの反応が楽しみだ。



「これがアイスクリームですよ」



 麻衣が小さな器に白くて綺麗な塊を盛りつけて、スプーンを添えたものを全員に配ってくれた。香りの強い蜂蜜を使ったんだろう、甘くていい匂いがする。みんなもスプーンでアイスクリームをつついたりしながら、白くて綺麗とか不思議な感触がすると、初めて見るお菓子を前に目を輝かせている。


 スプーンですくって一口食べてみたが、甘さもちょうど良く口溶けもなめらかだ。特別好きなお菓子ではないと思っていたけど、これは良いな毎日でも食べたいくらいだ。



「美味しいよ麻衣、手作りでもこんなになめらかなアイスクリームが出来るんだな」



 俺が感想を言ったのを聞いた他のメンバーも、次々とアイスクリームを口にする。



「ふわぁ、口の中でとろけます」


「……冷たいけど甘くて美味しい」


「こんな美味しいお菓子が存在したなんて驚きなのです」



 アイナとエリナとウミは、口に入れたとたん幸せそうに表情を崩して、次々アイスクリームをスプーンですくっていく。



「こんなに美味しくて不思議なお菓子、ボク初めてだよ」


「マイおかーさん、これすごくおいしい!」



 オーフェとキリエも、アイスクリームの入った器を麻衣の方に差し出して、その美味しさを表現している。食べ過ぎたらお腹を壊しそうだけど、お代わりをあげたくなるような笑顔だ。



「寒い季節に冷たいお菓子なんてと思ったけれど、これは良いわね」


「こんなに美味しいものが食べられるなんて、みんなに出会えて本当に良かったよ」


「ミルクを少し煮詰めて蜂蜜を溶かして凍らせるだけで、こんなに美味しいお菓子になるなんて、とても不思議です」



 イーシャとメイニアさんとカヤも落ち着いて食べているように見えるが、その柔らかい表情と止まることなく口に運んでいるスプーンの動きで、アイスクリームを堪能しているのがわかる。


 今日はシロも少しだけ食べさせてもらって、ひと舐めしては尻尾を振りながら麻衣の方を見ている。






 その後は全員お代わりをして、初めてのアイスクリームを十分楽しんだ。本当に冷蔵庫が出来て良かった、これはこれからの俺たちの生活を豊かにしてくれるだろう。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

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