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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第10章 問題解決編
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第116話 古代遺跡探索

「王都より南の方にあるから、だいぶ温かいな」


「……これなら外で活動しても大丈夫」



 野外にある遺跡の探索ということで、みんな少し厚着をしてきたが、思ったより寒くなかった。あれから、王都にあった32階層のダンジョンも突破し、今年最後の冒険者活動にしようと、南西の大森林にある古代遺跡まで転移してきた。


 1年目はファースタの街で迎え、2年目はヴェルンダーの街で迎えたが、今年は王都で迎える初めての新年になる。王都では新年を祝う催しが毎年行われるみたいで、いつもは中央広場にだけ開かれている屋台が、大通りにも出店できるようになると聞いた。


 普段は屋台を出していない飲食店も出店するらしく、石窯焼きの食堂も参加すると言う情報を、麻衣が仕入れてきてくれた。俺たちもその催しを見てみたいので、年末と年始はのんびり過ごす予定にしている。


 麻衣は召喚されたのが闇の月の赤だったので、一度王都で新年を迎えているが、まだ国民に勇者召喚を知らせる前で、王城の上の階から眺めただけだったそうだ。なので、麻衣も年が明けるのを楽しみにしている。


 勇者と聖女のパレードもあるという噂なので、輝樹さんや他の世界から召喚された人たちも見られるかもしれない。



◇◆◇



「ダイ兄さん、まずはここから探してみる?」


「そうだな、目立つ大きさの建物はきっと何かの施設だっただろうし、まずはそういった物から調べていこうか」



 円柱の柱が何本も立っていて、他の建物より高い神殿跡みたいな場所を転移の目印にしているが、ここは遺跡群のほぼ中心辺りにある。特別な意味を持つ建造物だったと思うが、屋根の部分もほとんど崩れてしまっていて、床には瓦礫が散乱している。


 ここに誰かが住んでいた頃はとても立派な建物だったと思うが、今ではその一端がわずかに(うかが)えるだけだ。



「石の破片ばっかりだね、おとーさん」


「屋根がほとんど落ちてしまってるから、床もあまり見えないな」


「ご主人様、私、向こうの方を見てきます」


「……私も行く」


「崩れやすいところとか気をつけてな」



 アイナとエリナは元気に返事をして、瓦礫の向こうに探索に行く。2人とも身軽なので、障害物をひょいひょい飛び越えながら、危なげなく進んでいる。



「ウミは高いところを見てくるのです」


「何か見つかっても無理に取ろうとしなくて良いから教えてくれるか」


「わかったのです」



 ウミは俺の頭から離れて、天井付近にある隙間や、高い場所の段差を調べてくれる。国の調査隊がどの程度まで調べているかはわからないが、高い所は意外に見落としがあるかもしれないから、ウミには期待しよう。



「おとーさん、キリエはあっちの棚を見てくる」


「キリエちゃん、私も一緒に行くよ」



 キリエ1人だと少し不安だが、メイニアさんも一緒に行ってくれるなら大丈夫だろう。2人とも怪我をする心配はないし、メイニアさんには狭い範囲だが物理障壁を展開できると教えてもらった。竜の姿ならそれなりの大きさになるが、人化の状態だと自分と抱きかかえた人を守れるくらいの範囲になってしまう様だ。



「メイニアさん、キリエをお願いします」


「危なそうな場所にはいかないから安心していいよ」


「メイニアおねーちゃん、行こう!」



 手を繋いで壁際にある棚の方に元気に向かっていく。キリエのバランス感覚はとても優れているが、メイニアさんもそれに負けず劣らず足場の悪さをものともせず進んでいっている。やはり2人とも飛行スキルを持っているからだろうか、ちょっと羨ましい。



「ボクはシロと床に近い場所を探してみるよ」


「わうっ!」



 オーフェもマナコートで物理防御が跳ね上がるし、危険な場所はシロが近寄らないから大丈夫だろう。それにシロが居ればオーフェが迷子になることもない。オーフェは腰をかがめて瓦礫の下を覗き込んだり、シロは匂いを嗅ぎながら探索してくれている。


 残った俺とイーシャと麻衣で、みんなとは別の場所を探す。麻衣は障壁の杖を片手に持って移動しているので、少し足元がおぼつかなくなっているが、俺が手を引きながら転んだりしないように移動している。



「麻衣、少し歩きにくいと思うけど、もしもの時は頼りにしてるよ」


「ダイ先輩がこうして手を握ってくれている限り、私に不可能なんかありません! 任せてください」


「マイちゃん、役得ね」



 やたら気合が入っているが、もう少し肩の力を抜いてもいいと思う。そう言えば麻衣と手を繋いで歩いたことはあまりなかった、今はオーフェやキリエも居るしその機会はますます減っている。こうやって喜んでくれるなら、街を歩く時に誘ってみてもいいかもしれない。



「イーシャも気をつけてな」


「倒れそうになったら私も支えてね、ダイ」



 イーシャもいたずらっぽい目で俺の方を見て、そんな事を言ってくる。足場の悪い森の中を自由に移動できるのだから、バランス感覚はかなりいいはずだが、こうして甘えてくれるのは嬉しいので、俺からあまり離れないようにと返事をして建物の中を探索する。



「ここは神殿の跡みたいに見えるけど、何を祀っていたんだろうな」


「古代の人が何を(あが)めていたかはわからないけれど、今とは建物の様式も違うから私たちの知っている神様とは別なのかもしれないわね」



 俺はこの世界の神様の事を全く知らない。教会みたいな建物は見たことがあるけど、そこに何があるのか確かめたことは無い。元の世界にいた時も宗教的な事には興味なかったけど、新年の初詣やお盆の墓参りは家族で行っていたし、クリスマスも楽しんでいた、この辺りの割り切り感は実に日本人らしい。



「俺たちの住んでいた国には数多くの神様がいたんだけど、この世界はどうなんだ?」


「種族によって違うのだけど、大抵は1人の神様ね」


「エルフ族の信じる神様ってどんな人なんですか?」


「私たちは豊穣と安寧(あんねい)の女神様を信じているわ」


「じゃぁ、白狼のシロはその神様の使いなんだ」


「そうよ、だから白狼のいる里は平安で栄えていくと言われてるのよ」



 そんな風に種族全体が崇めている女神の使いが長老の家にいたら、お供えが山のように届くのも無理はないな。ヨークさんの家であった出来事を思い出して、今さら納得してしまった。



「王城には天秤と盾を持った像がありましたけど、あれが人族の神様ですか?」


「人族は公正と守護の神様だったわね」



 守護というのは何となく分かるな。日々の生活が魔物の驚異にさらされていたら、神にすがってでも守ってもらいたと思ってしまうだろう。もう一つの公正は、不正や悪い事をするなという戒めの意味も込められているように思う。


 そんな話をしながら探索を進めていく。他の種族のことはイーシャも知らなかったが、獣人族には戦いの神様を崇めている種族もあったという話をしてくれた。


 みんなで集合した後にそれぞれ聞いてみたが、アイナやエリナは知らないみたいだった。魔族には神という存在はいないらしく、竜族は竜神様が実在すると信じられている。ウミたち精霊族は、大精霊が神に相当する存在みたいだ。



◇◆◇



 その後も大きめの建物を中心に探索を続けているが、これと言って見つかったものは無い。やはり国の調査隊が調べているだけあって、簡単に見つけられるものは全て回収していっているんだろう。エリナやシロも今のところ違和感を見つけることは出来ていないし、高い場所や小さな隙間もみんなで探しているが、何の成果も挙げられていない。



「ここは何かのお店だったのかな」


「結構きれいに残っているものだね」



 メイニアさんの言う通り、この建物の内部は比較的保存状態がいい。木製っぽい机や椅子みたいな家具も、ある程度形が分かる状態で残っているものがいくつかあった。比較的新しい時期に動かされたり開けられたりした痕跡があるのは、ここもしっかりと調査された後だからだろう。


 カウンターや棚みたいなものもあり、何かを保存していただろう扉のついた箱もある。飲食店みたいな感じで利用されていた場所かもしれない。



「料理とか飲み物を提供していたお店かもしれませんね」


「昔の人はどんなものを食べていたのか、ちょっと興味あるね」


「家にある厨房と全然形が違います」



 アイナはカウンターの後ろにある調理スペースらしき場所に入って、あちこち興味深そうに覗いている。薪をくべるような開いた部分がないし、古代はガスとか電気みたいな技術で加熱していたんだろうか。



「……あるじ様、こっちに来て」



 アイナと一緒に備え付けの家具を見ていたエリナに呼ばれたので近くに行くと、細長くて背の高さがある箱の中を一生懸命見ていた。表面が汚れていた扉は調査隊が強引に開けでもして外れてしまったのか、横の方に立て掛けたあったが、気密性が良かったみたいで中身はそれほど汚れていない。



「何か見つかったか?」


「……うん、あの上の出っ張りが取れそうな気がする」



 そう言われて箱の天井を見てみるが、影になっていてよく見えない。ランプを持ってきて照らしてみると、確かに周りの面より少し出っ張った、丸い段差が確認できる。夜目の効くエリナだから、こんな影になってわかりにくい部分の段差に気づいたんだろう。



「よくこんなのに気づいたな」


「……取れそうな出っ張りだから動かそうと思ったけど、私には無理だった」



 少し残念そうな顔をするエリナの頭を撫でてあげてから、俺もその出っ張りを掴んで押したり引いたりしてみるが、全く動く気配がない。もしかするとこの形状からして、ねじ込み式かもしれない。固くなったビンの蓋を開ける時の要領で、精霊のカバンから布を取り出して出っ張りにかぶせ、力を込めて回しているとわずかな手応えの後にくるくると回りだした。


 かぶせていた布を外して回していくと、ある程度の高さがあるみたいで、中に何かが入っている感触がある。期待を込めながら外れるまで回し終え、引き抜いて中を見ると水色の綺麗な玉が入っていた。手に取って魔法回路の起動をやってみたら、狐人(こじん)族の村で何度も見たスイッチの回路のようだ。



「魔法回路も生きているし、本体さえ壊れてなければ使えそうだ。やったなエリナ、大発見だぞ」


「……役に立ててうれしい」



 もう一度エリナの頭を撫でてあげると、嬉しそうに俺を見上げてくれる。そうしていたらみんなが近くに集まってきた。



「ご主人様、それは何の道具ですか?」


「まだ起動してないからわからないけど、やってみるよ」



 こんな場所のしかも家具の中に埋め込んでいた道具だから、爆発したり火を噴いたりといった危険なものではないだろう。そう確信して水色の綺麗な玉をぐっと握り込んでみると、徐々に冷たくなってきた。いや、冷たいと言うより痛い、これは温度の極端に低いものを手に持った時の感じだ。


 氷を素手で触るとくっついてしまうのと同じ状態になりそうで、慌ててその玉を床に置く。周りからは白い煙がうっすらと発生していて、かなり温度が下がっているのがわかる。



「ダイ、これは危険なものじゃないの?」


「この道具の温度が下がってるだけだよ。素手で触ると手にくっついたりして危険だけど、近くに手をかざすくらいなら大丈夫だ」



 そう言って、玉に手を近づけると、冬の気温より更に冷たい空気が感じられる。みんなも恐る恐る手を近づけて、その冷たい空気に驚いている。エリナはビクッとしてすぐ手を引っ込めた後、俺の手を握って温めていたのが可愛かった。



「ダイ先輩、これって冷蔵庫なんじゃ」


「たぶん古代の冷蔵庫だろうな」


「ダイ兄さん、れいぞうこって何かな?」


「食べ物を冷やしたり凍らせたりすることの出来る道具で、俺たちの世界だとどの家にもあったんだよ」


「これがあると冷たいお菓子や、凍らせたお菓子が作れますよ」


「それは大発見なのです! エリナちゃんすごいのです!」



 お菓子好きのウミが興奮気味にエリナを褒める。他のメンバーも食べたことのないお菓子が作れると聞いて、口々にエリナを褒めてくれて、本人もとても嬉しそうにしている。これがあればアイスクリームやかき氷なんかも作ることが出来るだろう、結びの宝珠ではなかったが良いものが手に入った。俺たちの世界にあった冷蔵庫を模した家具をカヤにお願いしてみよう。


 去年ヴェルンダーに行く時に購入した、マナを通す素材で作られた手袋をはめて、冷蔵の道具を停止させ精霊のカバンにしまう。機能が停止した状態で放置されていたので、調査隊にも見つからなかったんだろう。ここが放棄される時に動作を止めてから出ていったのか、あるいは動かすために必要なエネルギーの供給が絶たれて、シャットダウンしてしまったのか。この辺りは古代文明の滅亡に関係がありそうだけど、今はその事より有用な道具が見つかったことを喜ぼう。






 思わぬ発見にみんなのテンションも上がり、その建物を探し終えた後に次の場所へと、足取りも軽く向かっていった。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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