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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第10章 問題解決編
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第114話 五輪の煌めき

「デュエには相当負担をかけてしまったな、怪我や体に異常はないか?」


「大丈夫だ、これくらいならかすり傷」


「トーレもクアトを守ってくれてありがとう、怪我はないか?」


「問題ない」


「クアトも済まなかった、シンクが居ないのにダンジョンに入った俺の判断が間違っていた」


「シンクの母親を助けるためなんだ、少しくらいの無茶は気にしないでくれ」



 リーダーのウーノさんは、獣人族の2人の事もすごく大切にしているのがわかる。そして2人の獣人族も、ウーノさんのことを信頼しているみたいだ。獣人をメンバーにしているパーティーもあるが、その多くは待遇があまり良くない。獣人を前線で無理させたり、装備品が粗末だったりするのは、冒険者をやっていると何度も目にする事がある。


 そんな人を見るたびに、アイナやエリナが悲しそうな顔をするので、見ているこちらも辛いが、このパーティーは大丈夫みたいだ。それに俺たちの戦い方を見ているはずだが、それに関して何も言ってこない。特にキリエとメイニアさんは、武器を持たずに竜の息吹(ドラゴンブレス)で攻撃するという、異質の戦い方をしている。


 さっきは危機的状況を突破するのに、力を出し惜しみせずに戦ったが、見られたのがこの人達でよかった。プラチナランクに昇格できるだけあって、冒険者同士の不干渉というマナーを徹底してくれてるんだと思う。オーフェの転移魔法は見せてもいいかどうかまだ判断できないが、ウミの精霊魔法なら大丈夫だろう。



「ウミ、この人たちなら大丈夫だと思うから、怪我の治療をお願いしてもいいか?」


「わかったのです。ウミにおまかせなのです」



 胸をぐっと反らしたウミが熊人族のデュエさんの所に飛んでいって、怪我の治療をすると説明をして精霊魔法を行使し始めた。戦闘で傷ついたままの獣人族の治療を申し出ると、余計な事はするなと言わんばかりに断ってくるパーティーもあって、みんなが嫌な思いをするので積極的に関わるのを避けてきたが、やはりこの人たちは素直に受け入れてくれた。



「ご主人様、ありがとうございます」


「……あるじ様、やさしいから好き」


「ウーノさん達は獣人族の2人の事を、とても大切にしているみたいだからな」



 自分の事のように喜んでくれるアイナとエリナの頭を撫でてあげながら、治療を受けているデュエさんの方を見る。隣のウーノさんも、傷が治っていく姿を見て少し驚いているが、とても嬉しそうな顔をしている。ウーノさんとトーレさんの治療も終えて帰ってきたウミの頭も撫でてあげると、ひと仕事終えた後の爽やかな笑顔になって俺の頭の定位置に戻っていった。



「怪我の治療までしてもらってありがとう、君も獣人たちを大切にしているみたいだし、いいメンバーが集っているな」


「ご主人様はとても優しいから大好きです」


「……あるじ様は私の全て」


「リーダーやパーティーメンバー以外の冒険者に、こんなに親切にしてもらったのは初めてだ、ありがとう」


「俺もうれしい、ありがとう」



 デュエさんとトーレさんもお礼を言ってくれる。俺もこうやって獣人族を大切にしてくれるパーティーと出会えて嬉しい。



「おとーさん、魔核とアイテム拾ってきたよ」


「いつもありがとうな、キリエがいてくれるから助かるよ」



 部屋中に散らばっていた魔核とドロップアイテムを袋に入れて拾ってきてくれたので、キリエの頭を撫でてあげながらそれを受け取ってウーノさんに差し出す。



「キリエが魔核とアイテムを拾ってきてくれたので、受け取ってください」


「いや、それは君たちに貰って欲しい。今日はクアトに無理をさせてしまったから、あの状況を切り抜けるのは俺たちでも難しかったんだ。手助けしてくれたお礼に受け取ってくれ」



 そう言われたので、素直に受け取っておくことにした。それからお互いのことを少し話ししたが、五輪の煌めきのメンバーは全員が幼馴染だそうだ。10歳になった頃からパーティーを組んで、20年以上一緒に活動しているらしい。


 普段は別の町で活動しているが、今はシンクさんの母親が病気になって、王都まで戻ってきた。その女性には子供の頃からお世話になっていて、メンバー全員を我が子のように扱ってくれていた。その人の体の調子が最近良くないことを人づてで聞き、里帰りを兼ねて王都に戻り治療院に連れて行くと、ある病気だと判明した。


 命に関わる病気ではないが、いずれ高熱が出て数日で熱は下がるものの、手足に麻痺が残る後遺症が出てしまう。その母親は腕のいい宝飾細工師なので、このままでは職人生命を絶たれることになる。病気の治療薬を探したが、他の街でも同じ病気の人が複数いて、運悪く薬の在庫が無くなっていた。


 そして昨日、とうとう高熱が出てしまった。看病しているシンクさんを残し、恩返しのためにも自分たちで薬の材料を手に入れようとこのダンジョンに来たが、あの他の魔物を呼び寄せる突然変異種に遭遇して足止めされていたとの事だ。



「ご主人様」


「ダイ」


「ダイ先輩」


「ダイくん」


「……あるじ様」


「ダイ兄さん」


「おとーさん」


「く~ん」


「ダイ君、どうする?」



 みんなが俺の顔を見るが、あの話を聞いてこのまま自分たちだけダンジョン探索を続けるなんて事は出来ない。俺たちの目標はこのダンジョンの踏破なのだから、ここより下の階層に出現する魔物のレアドロップ品を集める事は、新しい目的にもなる。



「そのアイテム集め、俺たちにも手伝わせてもらえませんか?」


「それはありがたい申し出だが、構わないのか?」


「俺たちの目標は、このダンジョンの最終階層突破なんです。そこにアイテム集めが加わっても何の障害にもなりませんし、まだまだ経験の少ないパーティーなので、皆さんのような上級者の人に助言を貰えるととても助かります」


「俺たちもこのままだと一度ダンジョンを出なければいけなかったし、そう言ってもらえるなら伝えられる事は全部教えてあげよう」



 クアトさんが歩けるまで回復したところで、2つのパーティー合同のダンジョン探索を開始した。



◇◆◇



 前衛のウーノさんやデュエさんから間合いのとり方や、攻撃を受けた時の(かわ)し方や受け流し。斥候のトーレさんから魔物の痕跡の見つけ方や危険な地形の知識、魔法使いのクアトさんには狙いをつける時のコツや、致命傷になったり相手の動きを止めるのに有効な場所を教えてもらいながら、ダンジョンを進んでいく。


 俺たちはここまで個々の能力や武器の力押しで来てしまっているところもあるので、こうした細かいテクニックや知識を教えてもらえるのはすごく勉強になる。五輪の煌めきのメンバーも、このダンジョンで本来遭遇する魔物なら余裕があり、前衛と斥候の3人は説明をしながら倒してくれるので、とてもわかり易い。


 30階まで下りてきて、休憩とお昼ご飯にする。麻衣から作り置きをおすそ分けしてもらった4人は、とても嬉しそうに料理を口にしていた。



「まさかダンジョン内でこんな美味しいものが食べられるなんて思ってなかったよ」


「うまかった」


「ごちそうさま」


「マナ酔いの嫌な気分も吹き飛んだぜ、ありがとな」


「お口に合って良かったです」



 4人がそれぞれ美味しかったと言ってくれて、料理を作った麻衣とアイナも嬉しそうにしている。



「その若さでゴールドランクというのも驚いたが、出来てまだ2年ほどなんてびっくりしたよ」


「護衛依頼を何度か受けましたから、それが大きかったんだと思います」



 火山ダンジョンの時も、前回のダンジョンの時も、ポイントを大きく上乗せしてもらったから、一気にランクが上がったしな。



「護衛任務というのはとても難しいんだ、上級者でも失敗してしまうことがあるんだよ」


「このパーティーは凄い、俺の索敵より広くて正確」


「それに見たこともない魔法も使ってるしな。俺たちは魔法回路の自作はしないから、そんな魔法があったなんて知らなかったぜ」



 同じ犬人族のトーレさんより、アイナのほうが索敵範囲も広く、対象の数や大きさまで判ってしまうので、かなり驚かれた。俺の組んだ魔法回路も普通のものとは違うと判っているだろうが、やはり詳細については聞かれなかったので、エルフの男性がやっているお店の場所を教えてあげた。



「みんな優しくていい子ばかりだし、君たちがこのまま経験を積んでいけば、プラチナランクは確実に上がれると思うよ」


「ありがとうございます、上級冒険者の皆さんにそう言ってもらえると嬉しいです」



 プラチナになると名実ともに上級冒険者だし、一種のステータスにもなる。冒険者としての信用も大きくなって、依頼を受ける際にも有利になる。それに最上位のオリハルコンやアダマンタイトと違い、このランクはまだ自由に動けるので、ここまでは目指してみてもいいと思っている。



「ところで、君たちのパーティーは人数が多いけど、“結びの宝珠”を使っているのか?」


「“結びの宝珠”というのは初耳ですが、どういったものなんでしょう」


「上級冒険者でも一部の人しか知らないと思うんだが、簡単に言うとパーティーの人数を増やす道具だよ」



 そんな道具があるなんて知らなかった、イーシャの方を見たが首を横に振っているので聞いたことがないみたいだ。ヨークさんなら知っていたかもしれないが、あの人もパーティーで活動はしていなかったみたいだし、詳細はわからないかもしれないな。


 詳しく話を聞くと、古代遺跡で特徴的な模様のついた小さな珠が、まとまって発見されることがあるらしい。長年の研究の結果、それはパーティーを作った時に繋がる魔法的パスと同じ効果を発揮するが、それより高性能で数も無制限の上に、全体スキルが及ぼす効果も高くなるそうだ。


 強く握ると点滅するので、近くに同じ宝珠を並べると、やがて置いたもの全部が光って元の状態に戻るが、模様の色が変化する。その宝珠を身につけていると、パーティーと同じ効果を及ぼすらしい。強く握って発動するのは狐人(こじん)族の村で見た(じゅつ)と同じ動作法なので、間違いなく古代の魔道具だろう。


 ウーノさんがその模様を知っていたので教えてもらったが、何となく象形文字のように見える独特の形をしていた。これで遺跡探索の目的も増えた、もし見つけられたらメイニアさんや教授たちもパーティーメンバーと同じように、麻衣のスキル効果の恩恵が受けられるようになる。


 このダンジョンを踏破したら、遺跡調査を本格的にやってみよう。



◇◆◇



 薬の材料になるのは、トラ型の魔物が落とすレアアイテムの尻尾だ。個体数も少なく、しかもレアアイテムなので、手に入れるのは難しい。アイナとシロが索敵に集中してくれ、今まで数体見つけているがまだ落とさない。



「ご主人様、この先に居るのは多分トラの魔物です」


「次こそ落としてくれるといいな」



 アイナを先頭に進んでいくと、通路の奥にトラの魔物の姿が見える。ちょうど横にある部屋に入っていく所のようで、下半身がゆっくりと消えていく。



「今度は俺たちの前衛で倒してみます」


「あぁ、よろしく頼むよ」



 その言葉を聞いたアイナ、エリナ、オーフェ、シロが一斉に飛び出し、速度を合わせて部屋に入っていく。シロが先制して吠えると魔物は一瞬ひるんだが、前足を大きく振って攻撃しようとする。そこにオーフェが割り込んで炎の剣を発現させた紅炎(こうえん)で受け流すと、トラの足が大きく切り裂かれた。


 アイナとエリナが体勢の崩れたトラの魔物の首筋に3本の剣を走らせると、それが致命傷となって青い光となって消える。その場には魔核がひとつ残されるのみだった。



「……出なかった」


「うん、残念だったね」



 エリナとオーフェが残念そうに戻ってきたので、その頭を撫でてあげる。魔核を拾いに行ったキリエがアイナとシロと一緒に戻ってきて、俺に渡してくれる。3人の頭も撫でてあげるが、みんな少し残念そうな顔をしている。こればっかりは運だから仕方がないが、できれば早く出て欲しい。



「見事な連携だな」


「受け流しもしっかり出来ていた」


「少し近づきすぎだが、間合いもいい感じだ」



 五輪の煌めきの3人も今の戦い方を褒めてくれた。教えてもらった戦い方を吸収して、前衛組の連携や役割に変化が出てきている。持ち前の身体能力もあるが、素直な性格や物覚えの良さ、それに変な戦い方の癖がついていなかったのが良かったのかもしれない。


 そうして何度か戦い方のアドバイスを貰いながら魔物を倒していったが、結局レアアイテムの尻尾はまだ出ていない。帰る時間も考えると、そろそろ撤退も考慮しないといけないので、どうしようかと思っていたらアイナとシロが何かに気づいたみたいで、立ち止まって気配を探っている。



「何か見つかったか?」


「この感じは魔物溜まりです」


「わぅっ!」



 前回のダンジョン探索で、何度も魔物溜まりに遭遇したので、アイナとシロはその特徴的に気配に、確信を持って答えてくれる。



「それは危険だな、クアトもまだ万全ではないし、今日はシンクもいないからやり過ごすか?」


「中を見てトラの魔物が複数いるなら、殲滅に挑戦してみようと思います」


「わかった、君たちがそう言うなら部屋の中を見てみよう」



 アイナとシロが感知した魔物溜まりを外から覗いてみたが、小さめの部屋の中には数匹のトラの魔物が確認できる。この広さの部屋なら、遠隔時限爆弾の杖で殲滅、あるいは相当のダメージを与えられるはずだ。魔物の一部が部屋の外に押し出されてきても、十分対処できると思う。



「トラの魔物もいますし、魔物溜まりを潰したいと思います」


「一気に決められそうか?」


「部屋も狭いですし、広範囲魔法で相当の損害を与えられるはずです」


「この子たちの魔法回路なら大丈夫だと思うぜ」



 クアトさんの後押しもあり、殲滅に挑戦することに決まった。いつもの様に少し離れた場所に待機してもらい、麻衣の障壁魔法をスタンバイしておく。ウミは俺の頭の上で万が一の事態に備えてくれるので安心だ。キリエとメイニアさんにも、魔物があふれた時の対処をお願いして、入り口から部屋の中に時限爆弾魔法をセットする。


 急いでみんなの下に戻って障壁を張ってもらい少しすると、部屋の中から閃光と土煙が通路に漏れる。魔物は押し出されてこないので、全滅かそれに近い状態になっているはずだ。



「これは……凄いな」


「まさか一撃とは思わなかった」


「圧巻だ」


「こんな魔法回路が組める冒険者は、俺たちの上のランクでもいないと思うぜ」



 部屋の中には魔核とアイテムが散乱している、時限爆弾の杖で一気に殲滅できたみたいでホッとした。



「おとーさん、あれ!」



 何かを見つけたキリエが部屋の中に走っていって、アイテムを拾って戻ってきてくれた。手には長くて黒い紐が握られていて、尻尾のようだ。



「これが薬の材料になる尻尾だ、これで俺たちの母さんが助かる」



 五輪の煌めきの4人は、アイテムを見て手を取り合って喜んでいる。今から戻れば、今日中に薬が完成するかもしれない。これだけ慕われている人だ、後遺症が出ないように助けてあげたい。



「オーフェ、王都の拠点に転移の門を開いてもらってもいいか?」


「もちろんだよ、早く戻って薬を届けてあげよう」


「みなさん、今から王都にある俺たちの拠点に移動しますから、ついてきて下さい」



 何を言われたかわからない4人を先導して、オーフェの作ってくれた転移魔法の門をくぐる。ダンジョンから一気に拠点のある庭に出てきて、五輪の煌めきの人たちは周りを見ながら戸惑っている。



「ここは王都の南東にある、俺たちパーティーの拠点です。門を出た道を右に進んでいくと中央大通りに出ます」


「待ってくれ、転移魔法が使えるなんて君たち一体……」


「ウーノ、そんな事はどうでもいい。俺たちは凄い幸運に恵まれたんだ、お礼は後から必ずしよう。まずはシンクの母親を助けるのが先だ」


「わ、わかった。君たち本当にありがとう、このお礼は必ずする」


「はい。まだ時間は大丈夫だと思うので、シンクさんのお母さんの薬を作ってあげてください」



 クアトさんに急かされて、ウーノさんたち4人は門から出て中央大通りの方に走っていった。それを見送ってから、みんなで玄関の扉を開けて家に戻る。想定外の出来事だったが、獣人族に優しい人達の笑顔が守れたらいいと思った。


短時間ですが実力のある上級者の指導で、主人公たちのレベルもかなり上がっています。


魔物溜まり殲滅後、レアアイテム以外の魔核やアイテムは放置してしまいましたが、人命(職人生命)優先なのが、この2つのパーティーらしいという事で。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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