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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第9章 ダンジョン調査編
114/176

第112話 調査終了

この章はこれで終了になります。

次章の主人公たちは大きな問題に巻き込まれてしまいます。



今年も今日で終わりですが、お読みいただいた方、感想や評価をくださった方、ありがとうございました。

良いお年をお迎えください。

来年もよろしくお願いします。

「キリエちゃん、頑張りましたね」


「うん、動物さんを助けられてよかった」


「誰かを助けるために力を使うのは、とても素晴らしいことです」


「キリエの力はみんなを守るのに使おうと思うの」



 食事の時に簡単に経緯を話して、その後お風呂に入ってからベッドの上で、今日のことを詳しく説明している。自分の考えを一生懸命説明するキリエを、カヤは優しい顔で見つめて頭を撫でてくれている。メイニアさんも力の使い方を教えてもいいか相談してきた時に、自分と周りの人達を守る力にして欲しいと言っていたが、その意図をしっかり理解して自分の言葉で伝えるキリエは、我が娘ながら頼もしいと思った。



「メイニアさんの使ってる力は白でしたけど、キリエちゃんは黒い色をしてましたね」


「……キリエが黒竜族だから?」


「そうだよ、竜種によって色は違うんだ。他にも違う色の竜の息吹(ドラゴンブレス)を使える竜たちが居るね」


「他にはどんな竜種が居るのかしら」


赤竜(せきりゅう)族、緑竜(りょくりゅう)族、青竜(せいりゅう)族が居るんだけど、みんな動き回るのはあまり好きじゃないから、山の奥の方に住処を作ってのんびり暮らしているよ」


「やっぱり竜の息吹(ドラゴンブレス)の色も赤・緑・青で、体の色も同じなんですか?」


「その通りだよ、わかりやすくていいよね」


「じゃぁ、メイニアおねーちゃんは白い色してるんだ」


「流石に王都では無理だけど、こんど機会があったら見せてあげるね」



 そう言ってメイニアさんが微笑んでくれる。今の話だと竜族は5種族に分けられるのか。ゲームや小説だとそれぞれ属性があったりするが、話を聞いている限りこの世界の竜はそういった特徴は無いみたいだ。寿命の長い古竜族、力の強い黒竜族の2種族が特別で、他の3色の竜は見た目以外の違いはほとんど無いらしい。


 黒竜族はその強大な力で、他の種族からも畏怖と尊敬の念を持たれていたそうだ。建国以降は特に他の種族に気を使って、静かに暮らしていきたいと1か所に力が集まってしまう事を避け、バラバラに別れてしまったらしい。そのため絶滅の危機に陥ってしまったのだが、お互いに連絡も取らなかったみたいだとメイニアさんも言っているので、気がついたら卵の孵化に必要な思いも集まらなくなって、手遅れになってしまっていたんだろう。


 古竜族は昔から人との関わりが多かったらしく、その体の色から聖竜(せいりゅう)と呼ばれたりしたそうだ。青竜(せいりゅう)族と同じ呼び方になって紛らわしいので、ちゃんと古竜族と呼んで欲しいとメイニアさんは笑っていた。


 この大陸が統一されようとしていた時に、大陸内部の山に住む竜を排除しようという動きがあり、武力衝突を避けるためにメイニアのお母さんと、後の初代国王となる人が話し合いをして、お互いの住む場所を決めたそうだ。竜族は争いを好まない種族なので、メイニアのお母さんを中心として、人が不可侵領域としてくれた大陸を取り囲む山岳地帯への引っ越しは、割とスムーズに達成されたらしい。



「この王国の成り立ちに竜が関わっていたって、そういう事だったのね」


「しかも当事者の身内から直接話が聞けるなんて、歴史の研究者たちが居たら卒倒しかねないわね」



 イーシャとユリーさんはメイニアさんの話を聞いて、少し疲れたような表情をしている。歴史は苦手だったが二千年以上前というと、日本だと邪馬台国(やまたいこく)時代の覚え方に239年という数字があったはずなので、それよりも遥かに前の出来事を目の前の人が話していると考えると、気の遠くなるくらい昔の事と実感できる。


 歴史の生き証人とも言えるメイニアさんの話は、やっぱり面白いしロマンがある。その頃はまだ子供で、今の話も母親から聞いたものだから、直接話しをすればもっと面白いことが聞けるかもねと言っているが、そんな人に会うのは流石に緊張してしまいそうだ。


 エルフの里で同じ話題が出た時に聞けなかった、建国当時の話をしてもらいながらブラッシングを終わらせていき、その日は眠ることにした。




―――――・―――――・―――――




 次の日、いつもの様に遺跡の転移場所に行くと、そこに木の実が積まれていた。昨日まではなかったはずなので、きっと助けた動物がお礼に置いてくれたんだろう。



「良かったなキリエ、昨日助けた子がお礼に置いてくれたんだよ」


「うん、とっても嬉しい! おとーさん、これ大事にしまっておいてほしいの」


「硬い木の実はそのまま置いても大丈夫だと思うから、帰ったら宝物の棚に飾ろうか」


「そうする! カヤおかーさんに何か入れるもの作ってもらわないといけないね」



 ドングリみたいなものや、乾いて乾燥した木の実はそのまま飾っておいても大丈夫だろう。何かの果実みたいなものは置いてはおけないが、残念ながらカヤは家庭菜園的なことは出来ないみたいなので、精霊のカバンにしまって保存しておくことにする。


 初めて使った力で助けた小さな命からのプレゼントを、キリエはとても喜んでいる。この木の実はキリエの目指す力の使い方の象徴として、大切に飾っておこう。



◇◆◇



 その日も下層域の調査を進めていくが、下に行くほど階層の広さが小さくなっていくダンジョンなので、探索のペースはどんどん早くなっていく。この調子で進めていけば、何かの新発見がない限り、あと数回でこのダンジョンの調査が終了する。


 ひとつのダンジョンにこれほど長く潜ったのは初めてだったから、それが終わるとなると少し寂しさも感じてしまう。だが、今回の調査では貴重な体験もたくさんできた。特に上級クラスの場所を攻略できたのが大きい、教授たちにも実力のお墨付きを貰えたし、この依頼が終わったら王都にある上級ダンジョンにも挑戦してみよう。


 それに、遺跡の探索もやってみたい。このダンジョンの近くにある遺跡もそうだが、フォーウスの街にある遺跡にも行ってみよう。狐人(こじん)族の村で“(じゅつ)”という、古代のテクノロジーに直接触れることが出来て、それらに対する興味がますます高まっている。俺の持つ改造スキルにも、まだまだ成長の余地はあると思うので、新しいものに触れていけば次の段階へ登っていけるかもしれない。




―――――・―――――・―――――




 いよいよ今日でダンジョン調査が終わる、調査地点は最終階の24階を残すのみだ。これまでの所、特に新しい発見は無いが、地質調査の方は今までのダンジョンとは違う結果が出るだろうと、2人とも期待に胸を膨らませている。


 キリエがもらった木の実は、カヤが斜めに立てかけておける標本ケースのような物を作ってくれた。木の枠に透明な窓をつけて開閉できるようになっている力作で、中を細かく仕切って木の実を並べて飾っている。こんな立派なケースを作ってくれたのは、カヤも今回のことが嬉しかったのだろう。



「今日で最後の階になるけど、今までどおり安全には気をつけて進んでいこう」


「索敵は任せてください」


「わうっ」


「……違和感があったらすぐ教える」


「障害物の多い場所は私の弓に任せて」


「硬い敵はボクが殴るよ」


「怪我をしたらいつでもウミに言うのです」


「飲み物もおやつも沢山用意してるので、疲れたりお腹が空いたらいつでも言って下さいね」


「魔核とアイテムはキリエが頑張って拾うね」


「私も協力するから、何でも言ってくれていいよ」



 みんなもいつもどおり元気に返事を返してくれた。ここまで来て何かあるとは思えないが、最後まで気を抜かずに進んでいこう。



「それじゃぁ、ユリーさん、ヤチさん、行きましょう」


「今日もお願いね」


「皆さん、よろしくお願いします」



 24階に向けてダンジョンへと入っていく。



◇◆◇



「とうとうここまで来たと思うと、ちょっと感慨深いわね」


「これだけ色々な事があった調査は初めてですからね」


「ダンジョン地質調査に来て、この大陸の広い範囲に影響を及ぼす地脈の開放とか、王国の誕生に関わる話を聞くことになるなんて、普通は想像できないわよ」


「私は狐人(こじん)族の人たちと触れ合えたのが一番印象に残っています」


「虹の架け橋のみんなと居ると、ヤチの願いもどんどん叶っていくわね」


「皆さんと知り合えて、そして教授と一緒に仕事をしてきて良かったと思います」


「私もヤチが居てくれなかったら、この仕事を続けられなかったかもしれないから感謝しているわ」



 24階まで下りてきて調査を進めているが、ユリーさんとヤチさんは今回のことを思い浮かべて話をしている。相変わらず仲の良い2人の姿を見ると、やはりほっこりする。



「ここの調査が終わっても、しばらく王都の家に泊まっていくんですよね?」


「資料の整理もあるし、移動時間を省いた分の日程の調整もあるから、もう少しだけお世話になるわね」


「もっと長く居てくれたらボクも嬉しいけど、そうはいかないのが残念だね」


「しばらくは研究所に居ると思いますから、またオーフェちゃんにも会いに来ますね」


「うん、約束だよヤチ姉さん」


「キリエもおねーちゃんたちが来てくれるの楽しみにしてる」



 アイナやエリナも一緒にお風呂に入る約束をしたり、麻衣も調査が無事に終わったら打ち上げをしようと計画を立ててくれている。そんな話をしていたら、いよいよ最後の調査地点に到着した。



「それじゃぁ、俺たちは周囲を見張っていますので」


「よろしくお願いね」



 調査を始めた教授たちを守れる位置に集合して、周囲を警戒しながら話をする。狐人族の人達と知り合えたり、居座っていた魔族を追い払ったり、誰も入った事の無い新階層の発見もあった。そこでキリエが杭を引き抜くと、せき止められていた地脈が開放され色々な場所に影響を与えている。今のところ良い結果ばかりだし、それがきっかけで古竜族のメイニアさんとも知り合うことが出来た。


 メイニアさんはキリエに自分や他人を守る力を授けてくれ、俺のスキルが成長するきっかけも貰っている。今回の遠征はとてもいい出会いが出来た、教授たちには感謝しないといけない。そして、事の起こりは王都の児童養護施設(孤児院)の依頼を受けて、そこでユリーさんと再会したことだ。あそこにもまた挨拶に行こう、俺に懐いてくれた獣人の子供たちにも会いたいし、他のみんなも子供たちと一緒に遊びたいだろう。


 周りに気を配りながら、みんなと色々話をして今回の遠征のことを考えていたら、ユリーさんとヤチさんがこちらに戻ってきた。



「終わったわよ、今日は帰りましょうか」


「お疲れ様でした」


「皆さん、本当にお世話になりました」


「今から帰って3人で準備したら夕食に間に合うと思いますから、今日は調査終了のお祝い会をやりましょう」


「それはいいね、ボクも楽しみだよ」


「ウミも果物とお菓子をいっぱい食べるのです」


「キリエも果物いっぱい食べる!」


「あの、準備に私も加わっていいですか?」


「はい、ヤチさんも手伝ってくれるなら、更に品数が増やせます」


「ヤチ、頑張ってマイちゃんの味付けを覚えてね」


「お魚料理を重点的に教えてもらいますね、教授」



 普段は教授のお世話や、細かい雑事が多くて料理に参加することの無かったヤチさんが、今回は戦力として加わってくれる事になった。是非、麻衣の味付けと調理法を覚えて、ユリーさんを喜ばせてあげて欲しい。



◇◆◇



「それでは、ダンジョン調査の終了を祝して、乾杯!」


「「「「「「「「「「「乾杯[なのです]!」」」」」」」」」」」「わうっ!」



 ダンジョン調査の全行程を無事終えて王都の拠点に戻ってきてから、麻衣とアイナとカヤにヤチさんを加えてパーティーの準備を開始し、今は色々な料理がテーブルの上に並んでいる。いつもより時間は少なかったと思うが、並んでいる料理の数々はどれも手が込んでいて美味しそうだ。



「どれも美味しそうだ」


「お魚がいっぱいあって嬉しいわ」


「貝の揚げ物もあるのね」


「……蒸したお魚うれしい」


「ボクの大好きな豆のスープもあるよ」


「はちみつのいい匂いがするのです」


「果物もたくさんあってうれしい」


「どれから食べようか迷うくらいあるね」



 みんなそれぞれ好きなものを皿に取り分けて食べていく、俺もいくつか食べてみるがどれも美味しい。エルフや狐人族の味付けを取り入れて、素材の味をより引き出す料理法を習得しているみたいだ。作った4人も、美味しそうに食べるみんなの姿を見て、嬉しそうに微笑んでいる。シロもいつもより豪華なご飯を一心不乱に食べていて、尻尾の動きがとても嬉しそうだ。



「今回の調査は色々と想定外の事が起きたけど、今までで一番充実していたわ」


「新しい発見もありましたので、研究所に持ち帰って詳細な分析をするのが楽しみです」



 ユリーさんとヤチさんは改めて俺たちにお礼を言ってくれる。資料の整理をするために、もうしばらくこの家に滞在してくれるが、それを含めると大体2ヶ月近く一緒に暮らしていた事になる。家族同然の付き合いにすっかり慣れてしまったので、居なくなるのは少し寂しいが、残りの期間も快適に過ごしてもらえるようにしよう。


 そして、メイニアさんはどうするんだろう。キリエも攻撃スキルをマスターできたし、いくら竜の時間感覚が大雑把だとしても、ずっとここに居る訳にもいかないだろう。



「メイニアさんは、この後なにかやりたい事とかあるんですか?」


「そうだね、私はいちど竜の住処に帰ろうと思う」


「メイニアおねーちゃん、帰っちゃうの?」


「地脈のことも報告しにいかないとダメだからね。でも、またここに遊びに来てもいいかな?」


「いつでも来てください、歓迎しますよ」


「やったー!」



 キリエは飛び上がりそうなくらい喜んでいるが、食卓で大きく動いたりせずに嬉しさを表現しているのが、とても行儀が良い。メイニアさんは何でも美味しそうに食べてくれるので、調理担当の3人も嬉しそうだ。



「それにキリエちゃんを見ていると、私もそろそろ卵を産みたいと思ってしまったよ」


「メイニアさん結婚してるんですか!?」


「いや、マイちゃん達の言う結婚というものはしていないよ」


「じゃあ、誰の子供を産みたいのかしら。もしかしてダイ?」


「違うんだ、竜には君達みたいな性別は無いんだよ。卵は誰でも産めるのさ」



 イーシャに俺との子供と言われ少しドキッとしてしまったが、また竜族の生態が明らかになった。キリエを託してくれた女性が、一人だけになっても卵を産めたのはそういう訳だったのか。



「メイニアさんは女の人の姿をしてますけど、それはどうしてなんですか?」


「竜族が人化すると全員がこの姿になるんだよ、卵を産めるからより近い方の性別になってしまうんだろうね」



 アイナの疑問に返ってきた答えを聞いて、今まで人化した3人の竜族に会っているけど、全員女性だったと思い返す。たまたま女性だけに会ったのではなく、人化した男性が存在しないのか。



「それに、出来れば私の子供もここで育てたいと思うんだよ」


「それはいいね、竜族の友だちが増えるのはボクも賛成だよ」


「キリエも妹がほしい」


「果物をたくさん食べて、キリエちゃんみたいに早く人化できるように育てるのです」


「その時はエルフの里に採りに行きましょうね」



 みんなも、ここでメイニアさんの子供を育てるのに賛成のようだ。この家で生まれてくれば、きっとキリエのように優しくて素直で明るい子になるだろう。その時は俺たちの家族として迎え入れてあげよう。






 色々なことがあった今回の遠征も無事終わり、打ち上げパーティーの時間も楽しく過ぎていった。


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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

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