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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第9章 ダンジョン調査編
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第111話 キリエの成長

「まさか、こんな道具を譲り受けてくるなんて思いもしなかったわ」


「古代の道具は壊れていたり用途不明なものも多いのですが、まさかそれを直してしまわれるとは流石としか言いようがありません」


「この(じゅつ)という道具は、本体の構造は全く不明ですが、発動を司る部分が小規模な魔法回路だったので、何とかなったという感じですね」



 王都の家に帰り、隠伏(いんぷく)の術の道具を色々と試してみた。近くに集まってもらう必要はあるが、今この家に住んでいる人数なら、一度に隠れてしまうことが可能だった。


 アイナやシロに協力してもらって気配や匂いも検証してみたが、やはり別の空間に隔離されているせいか、隠れているのを察知することは出来なかった。


 それから、隠れている方は元の場所が見えているが、喋っている声は届かなかったし、こちらの声も外に漏れないので、音に関しては完全に遮断しているみたいだ。隠れて盗み聞きという用途には使えないが、そんなスパイ行為をやる予定はないので問題ない。



「ダイ兄さんの予想だと、ボクの空間魔法とよく似た仕組みじゃないかって話だけど、こんな道具があるなんてすごいね」


「エリナさんの隠密だと意識したら気配がわかりますが、この術だと完全に消えてしまいますね」


「……私も違和感に気づけなかった」


「シロちゃんもダイ先輩に渡した香草の匂いが、わからなくなったみたいです」


「わう~ん」



 ベッドの上で俺とキリエのブラッシングを受けているシロが、少し悲しそうに鳴き声を上げる。いくらシロの鼻が優秀でも、別の空間にいる匂いまで察知は出来ないだろうから、こればっかりは仕方ない。今日はカヤが膝枕をしているが、慰めるように優しく頭を撫でてあげている。



「この術とオーフェちゃんの空間転移があれば、ダンジョン攻略もより安全になるわね」


「みんなが危険な目に合う可能性が減るのはウミも嬉しいのです」


「私も安心して皆様の帰りを待つことが出来ます」



 常に安全マージンの事は考えて行動するように心がけているが、不測の事態というのはいつ起こるかわからないので、それを回避したりやり過ごす手札は多いに越したことはない。必ず戻ってくるというカヤとの約束をより確実にするためにも、この術は大いに役に立ってくれるはずだ。



「ところで、昼間の約束をいま叶えてもらってもいいかな」


「そう言えばそうでしたね、こちらに座ってもらっていいですか?」



 今日はもっと話がしたいからと、アイナとエリナのブラッシングはもう少し後にすることになったが、そのタイミングでメイニアさんがなでなでをして欲しいとお願いしてきた。今日はスキルの成長するきっかけをもらったし、思う存分撫でてあげると約束したので、それを果たすことにしよう。


 近くに来て座ってくれたメイニアさんの頭に手を伸ばして、優しく撫でていくと目を閉じて気持ちよさそうに受け入れてくれる。きれいな顔が少しうっとりとした表情になって、とても色っぽい。



「やっぱりこうやって撫でてもらうと凄く落ち着くよ。それなりの時を生きてきたけど、こんなに安心して過ごせる時間というのはあまり記憶に無いね」


「メイニアさんも、すっかりダイ先輩のなでなでの(とりこ)になってしまいましたね、とても気持ちよさそうです。私も後からやってもらっていいですか?」


「おとーさん、キリエもー」


「ボクも忘れないでね、ダイ兄さん」



 麻衣の発言を皮切りに、膝の上に座っていたキリエも体ごと反転して、抱きつきながらおねだりしてきた。オーフェも背中から俺の首に手を回して、もたれ掛かりながら耳元でせがんで来るし、イーシャや教授たちもこちらをじっと見つめてくるので、その日も全員なでなですることになった。




―――――・―――――・―――――




 数日の休みの後に、いよいよ本来の調査地点であるダンジョン下層を、本格的に探索することになった。途中で新階層の発見があり大きくスケジュールがずれてしまったが、移動にかかる日程を大幅に短縮できているので、まだまだ余裕があるみたいだ。


 教授たちも時々休養日を入れながら、いつもより時間をかけて調査結果の整理をやっている。本当なら研究所に持ち帰って他の人の協力を受けながら、徹夜覚悟でやらないといけない部分まで手を付けられていると、とても充実した顔で話をしてくれた。


 今日もメイニアさんが付き合ってくれているので、一緒にダンジョンを進んでいく。敵が多い時には攻撃にも参加してくれて、竜の息吹(ドラゴンブレス)をキリエに見せながら使ってくれる。キリエも左手を前に突き出して真似をしているが、まだコツが掴めないみたいで、球体が飛び出す気配はない。



「なかなかメイニアおねーちゃんのようには出来ないね」


「力の使い方はわかってるみたいだから、後は何かきっかけがあれば出来るようになると思うよ」


「キリエは人化もすぐ出来るようになったから、きっと何かを覚えるのが得意なはずだ」


「うん! キリエがんばる」



 頭を撫でてあげると、俺の方を見上げて微笑みながら(こぶし)を握って気合を入れている。焦らなくてもいいと思うが、何か新しい事が出来るようになる喜びは、キリエの成長に良い刺激となるはずだ。竜族にとっても異例のスピードで人化できたキリエは要領のいい娘だと思うので、竜の息吹(ドラゴンブレス)もすぐ使えるようになるだろう。



◇◆◇



「竜族の人たちって、こうやってダンジョンに入る事ってあるんですか?」


「あまり無いと思うよ。私も初めての体験だから、結構楽しいね」


「私、初めてダンジョンに行った時は緊張しましたけど、メイニアさんはどうでしたか?」


「慣れた人たちが一緒にいるし、アイナちゃんやシロちゃんの索敵が優秀だから、安心できるね」



 アイナの質問にメイニアさんは嬉しそうに答えてくれる。最初に出会った時は、ほぼ同時にお互いの存在に気づいた2人だが、アイナとは感じているものが違うようだ。ダンジョンの前で待っていた時も、メイニアさんには楽しそうな“気”の集団が近づいていると認識していたらしい。これがアイナなら、人数やある程度の大きさまでわかってしまう。


 竜族のメイニアさんがダンジョンで魔物に遅れを取ることはまず無いだろうし、怖いのは迷子くらいじゃないだろうか。とは言っても、地脈の力だけでも生きていけるから飢えることはないし、オーフェ並みの方向音痴で、同じ場所を永遠にぐるぐると回り続けでもしない限り大丈夫だろうな。



「ダイ兄さん、ボクの方をじっと見てどうしたのかな?」



 少し失礼なことを考えていたら、オーフェの方をじっと見てしまっていたらしい。一度公園で迷子になったことはあるが、それ以降はみんなで気をつけているし、今はシロが未然に防いでくれるので、困ったことは全く無い。そんな事を考えていたとは正直に言うことも出来ないので、ふと頭に浮かんだ疑問を聞いてみることにする。



「魔族界にもダンジョンってあったりするのか?」


「うん、あるよ。そこに入って魔物を倒したり、素材を集めたりして生活している人も居るし、この大陸とあまり変わらないよ」


「冒険者ギルドのようなものはありませんが、買い取り屋や依頼屋があって、組織的に管理運営されていますね」



 ヤチさんも加わって、魔族界のことを説明してくれたが、やり方や仕組みは違っても人が暮らしている以上、同じ様な形になっていくんだなと思った。オーフェの郷愁(きょうしゅう)を刺激してしまいそうで、魔族界のことは無意識に話題から避けていたけど、出会って1年以上経つが毎日楽しそうに笑っている姿しか見ていないし、もっと色々な話をしてみても良いかもしれない。



◇◆◇



「今の国を作った王様が、竜族の住む場所として大陸の一部を渡してくれてから、あまり外に出ることも無くなったね」


「竜族は普段、何をしてるのかしら」


「大体は寝てるね」


「寝てるんですか!?」


「起きていても何もすることがないからね。寝ていたら数年経っていたなんて良くあるよ」



 少し前にも一眠りで1年とかいう話を聞いたが、やはり睡眠ひとつとってもスケールが違いすぎる。昔は竜族も大陸中を気ままに移動していて、人々に目撃されることも多かったみたいだけど、自分たちの土地が出来てからはお互いに住処を決めて、そこで暮らすことが増えたそうだ。



「人化の状態で街に遊びに行く竜も少ないけど居るし、私もうっかり山で迷ってしまった人を見つけて(ふもと)まで送り届けに行って、少し街を見学してから帰ったことも何度かあるね」


「酒場の噂話と思っていたことが事実だったなんて」


「しかも本人の口から語られています」



 ユリーさんもヤチさんも、噂の真相が当事者の口から語られて少し唖然としている。竜族は巨大な力を持っているが、とても温厚で優しい種族だとわかる。その想いを次の子供へ渡していったから、こうして他の種族とも共存していけているんだろう。



「でも人の姿で街に来ている竜もやっぱりいるんですね」


「私たちは人の使うお金にあまり縁がないから、街に入れない事もあるんだけどね」



 そうやって笑うメイニアさんだが、確かにそうだ。今はオーフェの魔法で直接転移してるので入場審査をパスできてるが、普通に入ろうとしたら大きな街だとお金が必要だった。キリエと同じようにギルドカードを作ってしまってもいいが、一定期間活動実績がないと失効してしまうし、今はこのままでも良いか。


 こうやって人と同じように扱ってもらって生活するのは初めての事で、とても楽しいそうだ。お風呂や三度の食事、そしてベッドで他の人と寄り添って寝る、その全てが知らなかった事ばかりで、今まで生きてきた中で一番充実していると言って微笑んでくれた。


 そうやって話をしていたからだろうか、シロに吠えられるまで全員が反応できなかった。



「わんっ、わんわん!」


「左から魔物に追いかけられた小さな動物が来ます!」



 アイナがそう言った瞬間、先の方にある曲がり角から小さな動物が飛び出してきて、直後にヒョウ柄の魔物が襲いかかろうと空中に飛び上がる。



「危ないっ!」



 麻衣がそう叫ぶが、ここからは距離があってエリナやシロが走り込んでいっても間に合いそうもない。遠距離の攻撃魔法も狙いをつける余裕がないし、でたらめに撃つと動物の方に当たるかもしれない。とっさの事でみんな武器に手をかけたまま止まってしまったが、キリエだけは違った。



「小さい子をいじめたらダメッ!」



 左手を前に出しそう叫ぶと、伸ばした手の先から黒い球体が飛び出して魔物に命中し、その体ごと消し飛ばしてしまった。倒した時に発生する青い光すら出ずに、魔核が地面に転がり落ちる。そしてすぐさま倒した魔物の場所に走っていって、魔核と一緒に小さな動物を抱えて戻ってきた。



「おとーさん、この子を助けることが出来たの」



 キリエが抱えてきた動物は、耳の短いウサギのような体形をしている。ネズミに少し似ているが、体はそれらより大きいし、耳も長めだ。追いかけられて疲れているのか、腕の中で大人しくしている。森から迷い込んでしまった動物だろうけど、こんな奥の階層までよく魔物に見つからず進んでこられたな。



「キリエよくやったな、小さな子を守ろうとして偉かったぞ。それに、ちゃんと竜の息吹(ドラゴンブレス)が使えたじゃないか」


「そうだった、キリエにも使えたよ、おとーさん!」



 自分が使えたことに気づいていなかったのか、俺に言われて驚いている。その頭を撫でてあげると嬉しそうに笑って、俺と同じように胸に抱えた動物を撫でてあげていた。



「さすが黒竜族だね。初めて使ったのに、この速度と精度と威力は素晴らしいよ」



 メイニアさんもキリエの頭を撫でながら、そう言って褒めてくれた。他のメンバーにも次々褒められて、キリエも嬉しそうにしている。何かを守るためにその力が発現するなんて、実にキリエらしいと思う。この優しい気持ちがあれば、強大な力を持ったとしても誰かを傷つけることは無いだろう。



◇◆◇



 それからはキリエも攻撃に参加したが、一度コツを覚えたからか威力の調整もすぐ習得してしまった。一通り使い方を確かめた後は、誰かが危ない時に使うようにすると言って、いつもの様に魔核とアイテム集めに集中してくれる。力の使い道をちゃんと自分から決めている姿を見て、俺も嬉しくなる。


 魔物から助けた動物も、キリエの腕の中でずっと大人しくしているので、そのままその日の調査予定が終わるまで一緒に行動した。果物が好きな動物らしく、ウミからおすそ分けしてもらって美味しそうに食べている姿が可愛かった。


 調査終了後、直接帰らずに遺跡に転移して動物を放してやると、元気に森の中に帰っていった。その姿を見送ってから、俺たちも王都の家に戻ることにした。


ドラゴンブレス(相手は死ぬ)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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