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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第9章 ダンジョン調査編
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第105話 新階層の最奥

 新しく見つかった階層の調査も4階まで進んでいる。ヤチさんが地図を作ってくれているが、この階層はどの階も広さはほぼ同じのようだ。距離感や方向感覚がいいのか、出来上がりつつある地図がかなり正確で驚いた。


 虫の魔物が多いのは相変わらずで、俺も麻衣もこの状況を無感情に受け止められる様になるくらいの数を倒している。無我の境地とか悟りを開くというのは、こんな状態を言うんだろうか。


 下の階に行くほど敵は強くはなってきているが、みんなまだまだ余裕がある感じだ。前衛組は二人一組で1体の魔物を確実に仕留められるし、飛んでいる敵はイーシャの3並列魔法回路の杖か、俺のストーンバレットの杖で対応できている。



「下へ降りる通路が見つかりませんね」


「この階は上の3階より広いみたいですね」



 描きかけの地図を他と見比べながらヤチさんが答えてくれた。少し見せてもらったが、今までの階より奥行きが長いみたいだ。これまでと違うパターンということはこの階で終わるのか、更に別の階層に通じているのか、少し楽しみになってきた。



「地質に変化は無いのかしら」


「見て触った感じだと上の階と同じね」


「あのね、おとーさん……」


「何かあったか? キリエ」



 イーシャがユリーさんに地質のことを尋ねていると、キリエが少し遠慮がちに俺の服のそでを引っ張ってきた。俺の顔を覗き込むように見上げてくるキリエの顔は、何かを言おうとして口ごもっている感じだ。みんなにその場に止まってもらい、少し腰を落として目線を合わせ、じっくりと聞く態勢を取る。



「気になることがあったらどんな事でも言って構わないよ」


「えっとね、何かが固まってる感じがするの」


「それは魔物溜まりみたいに、部屋の中に詰まってるような感じか?」


「そんなんじゃなくて、何かに閉じ込められてるような、押さえつけられてるような感じ?」



 キリエ自身も自分の感覚をうまく言葉に出来ないみたいで、話す言葉にも自信がない様子だ。



「アイナとエリナとシロは何も感じないか?」


「私には何も感じられませんし気配もしませんね」


「……私も違和感は感じない」


「わうーん」



 3人とも何も感じられないみたいだが、キリエは何かの違和感を訴えている。もしかすると竜族だけに感じられるものが、この階に存在するのかもしれない。



「キリエ、その変な感じはどっちの方からするかわかるか?」


「あっちの方からするよ」


「何か危険な感じはしないんだな?」


「うん、危ない感じじゃなくて苦しい感じみたいな気がする」



 キリエが指さした方は、いま俺達が向かっている通路の奥の方だった。何かの存在に近づいてきて、キリエもその違和感を感じ取れるようになったのだろう。苦しい感じというのは気になるが、何かが閉じ込められていたり、捕らえられて困っているなら力になってやりたい。



「ユリーさん、この先にキリエしか感じられない何かがあるみたいなので、少し慎重に進もうと思います」


「竜族しか感じられないものって、とても大きな力かもしれないし、危なそうなら即撤退しましょう」



 オーフェにはいつでも空間転移を発動できるように心構えをしてもらい、アイナとエリナの2人は剣を構えたまま警戒する。俺とイーシャも最高火力の武器を手に持ち、麻衣も障壁の杖を握りしめる。今回はユリーさんもヤチさんも、俺がプレゼントした並列魔法回路の杖を手に持って準備してくれた。


 緊張しながら全員でゆっくりと奥の方に移動していくと、通路の先が大きく開けていて円形の巨大な空間が出現した。円柱の形でくり抜いたようなその部屋には何もなく、何かが閉じ込められていたり、誰かが捕まっていたりはしていない。みんなも緊張状態を解いて辺りを見回すが、本当に何もないただの空間だ。



「おとーさん、あれ。あそこの下に何かが詰まってるの」



 キリエが指さした方に進んでいくと、部屋の中央部分の地面に小さな(くい)みたいなものが突き刺さっている。テントを固定する時に地面に挿してロープで結ぶ杭のようだが、その先端部分は穴が空いていなく中身が詰まっている。そんな形のものが1本、垂直に立っていた。



「これは何だろうな」


「ご主人様、これ地面に突き刺さってますが、何かを固定してるんでしょうか」


「……でも白くてきれい」



 不思議な事に、それは長い間ここにあったと思うが、まるで最近作られたもののように真っ白の状態で地面に刺さっている。金属とはちょっと違うみたいで、表面はツルッとしているがあまり光沢はなく、陶器やセラミックみたいなものだろうか、不思議な物体だが人工物には違いないだろう。



「ユリーさん、こんなものがダンジョンから発見されることってあるんですか?」


「こんなの今まで見たことないわ。それにこれ、自然に出来たものじゃないわよね」


「明らかに誰かが作って、何かの目的でここに挿していると思われます」


「これ触っても大丈夫なのかな」



 オーフェが興味深そうに触ろうとしたので、みんなが慌ててそれを止める。なにか巨大な力を封じているものを抜いてしまったら、何が起こるかわかったものじゃない。



「抜いしてしまっても大丈夫だと思うのですよ」


「ウミちゃんそうなの?」


「近くにいる下級精霊たちも、これをとても邪魔そうにしているのです」



 麻衣が驚いて聞き返したが、ウミは精霊たちが邪魔に感じていると教えてくれる。そうなるとこの下に封じられているのは、精霊たちにとっても有益なものか、あるいはこの杭のせいで何かの悪影響が出てるかもしれないな。



「これを抜いたら精霊たちに悪い影響が出たりしないのね?」


「大丈夫なのです、イーシャちゃん。これが無い方が本来の自然な姿になれるのです」


「……ウミにはこの下に何があるのかわからないの?」


「この場所にいるとわかるですが、ウミが感じるのは自然の力なのです。他の下級精霊たちも同じ様に感じているので、悪い力では無いですよ」


「ウミや他の精霊がそう言うんだったら、きっと自然にとってもいい影響が出るんだろう」



 みんなや教授たちにも確認して、この杭を抜いてみることにした。まず俺が触ってみるが、ひんやりと冷たくて人工物を感じる、表面を加工したような手触りだ。手を重ねるように丸い部分を両手で持って思いっきり引き上げてみるが、刺さっている部分が深いのかびくともしない。しばらく力を込めてみたが、手に負えそうにないので諦めた。



「だめだ、びくともしないぞ、これ」


「ダイ兄さん、次はボクがやってみるよ」



 マナコートを発動したオーフェが力いっぱい引き抜こうとするが、やっぱり杭はピクリとも動かない。身体強化を発動したアイナやエリナも挑戦してみたが、全く歯が立たなかった。地面を少し掘ってみたが、すぐ岩盤に当たってしまい、刺さっている杭が緩みそうもない。



「おとーさん、キリエもやってみていい?」


「力を入れすぎて転ばないように気をつけてな」


「うん! じゃぁ、やってみるね」



 全員が諦めかけた時に、キリエが自分もやってみたいと手を上げた。杭の前にしゃがんで丸い部分を片手で掴むと、それをひょいと持ち上げた。



「おとーさん、抜けたよ!」


「凄いなキリエ! さすが俺たちみんなの娘だ」



 嬉しそうに俺に杭を渡してきたキリエの頭を撫でると、みんなも集まってきて口々に褒めている。キリエは竜族だが、まだ幼いからか(ある)いは人化しているからか、特別力が強いわけではない。しかし今はほとんど力を入れずに杭が抜けていた、特定の種族やスキルを持ったものにしか抜けなくなっていたのだろうか。例えば魔法の力で固定されていて、それを無効化出来るキリエだから抜くことが可能だったとか考えられそうだ。



「ダイくん、この部屋にも自然の力が満ちてきたのです」


「おとーさん、とても気持ちがいいよ、この部屋」


「もしかしてこれが地脈の力なのか?」


「キリエちゃんが一番敏感に感じ取って、ウミちゃんも感じられる力ならそうかも知れないわ」



 竜族は地脈の力で生きていけるとヨークさんに教えてもらったが、両手を広げて何かを浴びるように受け止めているキリエの姿を見ると、さっきの杭は何かの理由でここを流れる地脈を封じていたのかもしれない。その理由はわからないが、それを抜くことでこの大陸にとって良い影響を与えてくれるのなら、今回の発見は大きな意味があるだろう。



「キリエ、ここ溜まってたものってどうなってる?」


「今はいろんな所に流れていってるの」


「ご主人様、他の竜族の皆さんにもこの力が届くといいですね」


「他の竜族たちも喜んでくれるといいな」


「みんな喜んでくれたらキリエも嬉しい」



 そう言って笑うキリエの姿を見て、みんなも笑顔になる。キリエのことを聞きに行った時に、地脈の力は大地を豊かにすると聞いたので、竜族だけでなく自然と共に生きている種族にも恩恵があれば、この喜びももっと大きなものになる。



「ねぇ、ヤチ。私たち歴史的瞬間を目撃している気がするのだけど」


「地脈の開放に立ち会ったなんて記録は、私の知る限りこの大陸にも魔族界にも存在しませんね」


「仮に国の調査隊がここに来ても、地面に刺さっている謎の物体で終わっていた気がするわ」


「今の様子を見ると容易に抜けたとも思えませんね」


「しかも、ここで地脈の流れが(とどこお)ってたなんて、気づく人は居ないわよね」


「そんな事が具体的に感じ取れるのは、虹の架け橋の皆さん以外に居なと思います」



 ユリーさんとヤチさんは、いま目の前で起こった事を処理するので精一杯のようだ。そんな2人に話しかけるのは少し悪い気がするが、この抜けた杭は俺たちが持っていても何の役にも立たない。恐らく古代文明とかの遺産だろうし、教授たちに預けて国に調査をしてもらったほうが良いだろう。



「ユリーさん、ヤチさん」


「な、何かしら」


「この杭は国の方で調査してもらえませんか?」


「それは構わないけど、こんな大発見を報告すればみんなの名誉になるわよ」


「私たちは有名になるより、今みたいにダイやみんなと自由気ままに冒険できる方がいいわ」


「私もご主人様やみんなといっしょにいるだけで十分です」


「……私もあるじ様やみんなだけでいい」


「私も今の暮らしが出来なくなりそうなので、有名にはなりたくないです」


「ウミもダイくんたちやマイちゃんのお菓子以外は何もいらないのです」


「ボクも今の生活が気に入ってるから変えたくないかな」


「キリエもおとーさんとおかーさんといっしょにいられるだけでいい」


「わうっ!」


「みんな名誉や名声より今の生活を大切にしてくれているので、ユリーさんたちの方から報告してもらえるとありがたいです」


「わかったわ。でも発見に協力してくれた冒険者に報奨は出ると思うから、それは受け取ってね」



 みんなが有名になって(しがらみ)が増えるより、今までと変わらない生活を望んでくれている。教授たちの依頼は最優先で受けようと思うのは、こうして俺たちの気持ちを汲んでくれるからだ。2人には負担をかけてしまうと思うが、とても感謝している。


 ユリーさんにキリエが引き抜いた杭を渡して、この場所の調査をしてその日は帰ることにした。この奥にはもうダンジョンは続いていないようなので、明日もう一度ここを調査して、それが終われば途中になっていた下層域の調査を再開することに決まった。


とうとう世界に影響を与えはじめた主人公たちのパーティー(笑)

その影響は次回から次々と明らかになります。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
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