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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第9章 ダンジョン調査編
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第103話 新しい階層

 今日からいよいよ下層域へと調査を進めていく。下の階へ行くほど、ワンフロアの面積が狭くなっていくという先行調査隊の報告どおり、階あたりの部屋数も徐々に少なくなっていった。小さな部屋が多い構造のためか、小型から中型の魔物が多く、魔法や遠距離攻撃を仕掛けてくるものにはまだ遭遇していない。


 ここまで来た感触だと、ヴェルンダーの街にあった32階層の中級ダンジョンと同じくらいの難易度だろう。他の冒険者が居ない影響で魔物溜まりは発生しやすいみたいだが、一つ一つの部屋が狭い事もあって遠隔設置型時限爆弾の杖で対処ができている。



◇◆◇



「……ダンジョンの雰囲気が少し変わった」


「ダンジョンはある階層から急に敵が強くなることがあるから、それがこの階なんだろう。気を引き締めていこうな」


「わかりました、ご主人様」


「わうっ!」



 周りの状況に敏感なエリナが今までとの違いに気づいたが、このダンジョンは8階層ごとに魔物の強さのレベルが変わるようだ。ここまで進んできたが8階と9階で強さの変化を明確に感じられた、今は17階なので1~8/9~16/17~24できれいに分かれているんだろう。


 エリナとシロが気合を入れてくれたし、この2人の索敵があればこの階層も問題ないと思うが、慢心だけはせずに進んでいこう。



「ご主人様、この通路の先に3体、中型の魔物がいます」



 アイナの指差す方を注視すると、ここからでは見通せないが、通路の先は少し開けているようだ。ゆっくりと近づいていくと広場のようになっていて、中には円錐形の土の柱が何本も立っており見通しが悪い。魔物はその柱の間を動き回っているようだ。



「ここは私がやるわ」



 イーシャが風の精霊弓(せいれいきゅう)を構えて矢をつがえると、柱の間から見えた魔物に向かって放つ。すぐ障害物の後ろに移動してしまうが、風の精霊をまとった矢は軌道を変えて魔物を貫き、柱の奥から青い光が上がる。そうして、障害物の間を動き回っている残りの2体も次々と仕留めていった。



「森でも見せてもらったけど、その弓は本当に凄いわね」


「お祖父様が大切にしていた弓だから、大きな力を秘めているわ。土の精霊が多いダンジョンでは、風の精霊はあまり居なのだけれど、この弓の近くには集まってくれるの」


「ウミの周りに水の下級精霊が集まってくれるのと同じ感じなのです」


「流石はあのヨークさんが使用していただけあって、伝説級の武器ですね」



 エルフの里で実際に会って話をした2人は、ヨークさんの凄さを実感したみたいなので、その人が使っていた精霊弓の力を改めて感じているようだ。



「おとーさん、魔核ひろって来たよ」


「おっ、ありがとう。キリエが拾ってきてくれるから助かるよ」



 柱の間を元気に走り回って拾い集めてくれたキリエから魔核を受け取って、その頭を撫でてあげる。竜族なので魔法回路が使えず、攻撃手段を持たないキリエだが、こうやってみんなの役に立とうと一生懸命動いてくれる。人化状態で竜の持つ力をどの程度発揮できるのかはわからないが、無理に敵を倒すことはないと思うし、こうして動き回ってる時はとても楽しそうにしている。


 この階層から敵の強さに加えて、地形も少し変わっていて今回のように障害物が乱立する場所も見られる様になっている。教授たちも何か所か追加で調査したいということで、この広場も調べていくことになった。



「でもダイ先輩、こうやって1階違うだけで急に魔物が強くなったり、地形が変わったりするのは不思議ですね」


「きれいな層に分かれているのが謎だな、まるで性質の違うものが重なって出来てるみたいだ」


「地質も変わってくるのよ」


「そうなんですか? ユリーさん」


「以前あなた達と行った火山ダンジョンは、階層がないから変化は緩やかだったけど、今回みたいに明確に変化のあるダンジョンだと、地質も大きく変わってくるのよ」


「……見た感じはあまり変わってない気がする」


「見た目に変化がなくても、土や石を構成している中身の割合が変わってくるの」


「詳しく分析するには研究所に持ち帰らないと出来ませんが、手触りに微妙な違いがあると教授はいつも言っています」



 このダンジョンに入った時も出来て間もない感じがすると言っていたが、一つのことに没頭して極めた人というのは本当に凄い。教授の年齢でここまでの事がわかるようになるなんて、一体どれほどの調査を重ねてきたんだろう。



「ダイ君がさっき言った、性質の異なる層が積み重なって出来ているっていうのは、実はダンジョンの出来る過程が原因かもしれないのよ」


「それは一体どういうことなんですか?」


「こうやって魔物の強さが変わったり地形に変化がある場所は、同じダンジョンでも出来た時期が違うみたいなの。つまり一定の期間ごとにある程度の階層が出来上がって、それが積み重なるとダンジョンとして私たちの前に現れるって感じかしら」


「それだと、私たちの見えていない場所にもダンジョンが眠っているってことになるわね」


「どこかの山や地下に、まだ見ぬダンジョンがあると考えているわ」


「このダンジョンは地下型ですけど、入口付近は若いダンジョンという話でしたが、深くなると古いダンジョンに変わってきてるってことになりますか?」


「それがね、階層ごとに時代が前後する事があるのよ。このダンジョンは私の見た感じだと、ほとんど時代に差は無いようだけど、いくつかに分かれて作られた階層が繋がって、ひとつのダンジョンとして出現していると仮説を立てているのよ」



 今までは漠然とダンジョンに潜っていたが、こうして色々な事を知っていくと、同じものを見ても違う印象になって、どんどん別の目線で物事を捉えていけそうだ。



「でも、若い階層だから魔物も弱くなるわけじゃないんだね」


「基本的に、魔物は入り口から遠くなるほど強くなっていくんです。これは私たちの専門では無いのですが、距離があるほどマナの(よど)みが濃くなるからと言われています。そして違う種類の階層ごとに強さが変わるのは、階層内だけはマナが循環するので、濃い澱みを発生させる場所が段階的になるらしいです」


「やっぱり色々理由があるんだね、教えてくれてありがとうヤチ姉さん」



 これは授業で習った大気圏の層みたいだ、対流圏とか成層圏とか層ごとに性質の違う構造が出来ているのが似ている気がする。



「ユリーおねーちゃんとヤチおねーちゃんのお話は難しいけど、面白いね」


「そうだな、お父さんも知らないことばっかりでとても勉強になるよ」


「私のお祖父様も、あんなに面白そうに2人と話をしていたのがよくわかるわ」


「こんなにダンジョンの事を詳しく知っている中級精霊はウミだけかもしれないのです」


「実際に体験しながら教えてもらえるので、学校の授業より覚えやすいです」


「ユリーさんは学校で生徒に教えたりはしないんですか?」


「授業で教えることはないけど、時々講演はさせられるわね」



 とても嫌なんだけどね、と言いながらユリーさんは苦笑する。そんな時間があったら、どこかのダンジョンを調査するほうがよっぽど有意義だそうだ。その姿は本当にこの仕事が好きなんだとわかる。


 それに講演はとても精神的に疲れるし、ヤチさんも助手として資料の張り出しや補足説明で参加するそうだが、不特定多数の視線を浴びるので、かなり大変みたいだ。人見知りのこともあるし、スタイルも良いので苦労が多いんだろう。


 こんど王都で講演会があった時は、終わった後に俺たちの家に癒やされに来たいと言っていたので、二つ返事で了承した。先日の仕事疲れの時ではないが、お願いされたらなでなでもしてあげよう。



◇◆◇



「皆さん、少し待ってください」



 ダンジョン内を探索していると、突然ヤチさんが止まって欲しいと声をかけてくる。手に持った先行調査隊が作った地図をじっと見つめているが、現在位置を見失ったんだろうか。



「ヤチ、どうしたの?」


「地図に描かれていない横道があるようです」



 そう言って、今まで通ってきた道と調査した部屋の場所、そして現在位置を指で示してくれるが、確かにこの横道は地図に書き込まれていない。通路の先は見えないので、かなり奥まで続いているようだ。



「新しいダンジョンの階層と繋がったんでしょうか?」


「国の雇った冒険者が調査してから日にちも経っているし、その可能性はあるわね」


「隠し通路が見つかったという事は無いかしら」



 麻衣の疑問にユリーさんがその可能性を示唆してくれたが、確かに王都の近くにもあったダンジョンのように、隠し部屋や隠し通路がタイミング良く出現したのかもしれない。



「確かに、隠し通路や隠し部屋があるダンジョンもあるけど、その場合は今回のように勝手に繋がったりしないのよ。ダンジョンの地形が変わる場合は、別の階層が繋がったと考えるほうが自然なの」


「これだけ目立つ通路を見落としたって事はないよね」


「ダンジョンの調査に国で雇ったのは全員が上級冒険者なので、恐らくこんな見落としはないでしょう」



 ヤチさんがオーフェの疑問も否定したので、これは新しい階層と繋がったと考えるのが妥当だろう。そうするとこの先は誰も入った事のない未知の領域になる、冒険心がくすぐられるが調査のこともあるので、俺たちが勝手に決めるべきじゃないだろう。



「ユリーさん、どうしましょう」


「私としてはこの先も調査したいけど、何があるかわからない場所に行ってもらうのは怖いし、あなた達の意見も聞かせてもらってもいいかしら」



 みんなの顔を見てみるが、やはり冒険者として生活しているせいか、この先の事が気になるみたいだ。お互いにうなずきあって、この先に行ってみたいと告げる事にする。



「この先に行ってみたいと思います」


「わかったわ。私としても国の調査を待たずに入れるのはありがたいけど、くれぐれも無理はしないで危険だと思ったら引き返しましょうね」


「はい。オーフェも居ますので、危険だと思ったらその場で外に出ることも可能ですし、無理はしないようにします」


「いつでも空間転移の門は開くから安心してね」



 俺の横に来て教授たちに言葉をかけるオーフェの頭を撫でてあげる。帰り道を気にせずに即座に戻れるというのは本当にありがたい、オーフェが居なかったらこの先に進むのは躊躇していただろう。



「アイナとシロも索敵の方を頼むな」


「任せてください、ご主人様」


「わうっ!」


「エリナも何か気づいたり嫌な雰囲気があったらすぐ知らせてくれ」


「……あるじ様やみんなを危険な目に合わせないようにがんばる」



 気配察知やその場の違和感に敏感な3人が力強く返事をしてくれる。感覚の鋭いメンバーが複数いるのが、このパーティーの強みでもある。



「麻衣も障壁の準備を頼むよ」


「土の壁も障壁魔法もすぐ発動できるように準備しておきますね」


「ウミも危なそうだったら水の壁をお願いできるか?」


「任せるのです」



 麻衣は腰に装備した2本の杖を確かめながら、ウミは俺の頭の上から返事をしてくれる。防御に関しては、この2人に任せておけば大丈夫だろう。



「キリエもお父さんやお母さんたちが気づかないことを見つけたら教えてくれな」


「わかった! 頑張って周りを見てるね」


「イーシャも危なそうな魔物だと思ったら即座に撤退の指示を出してくれ」


「わかったわ。私もここからは3並列魔法回路の杖を使うことにするわね」



 キリエも違う目線で周りを見てくれるし、イーシャも万全を期して最強の武器を装備してくれている。俺もストーンバレットの杖を精霊のカバンから取り出して腰に挿した。ダンジョン内だと音が響くと思うが、事前に説明しているので大丈夫だろう。跳弾(ちょうだん)にだけは気をつけて、使い所を間違えないようにしよう。



「それじゃぁ、みんな行こうか」






 誰も入った事の無いダンジョンへの挑戦が始まった。


ここから話が大きく動き出します。

そして主人公たちは一般の冒険者を遥かに飛び越えて、ダンジョンに対する最先端の知識を有するパーティーに(笑)

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
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【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
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