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回路魔法  作者: トミ井ミト(旧PN:十味飯 八甘)
第9章 ダンジョン調査編
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第98話 問答無用

「まったくいい場所を見つけたよな」


「ここなら誰にも文句は言われねぇ」


「俺たち天才なのに、周りの連中はちっとも判っちゃいない」


「無謀だの身の程わきまえろだの、うるさいことばっかり言いやがる」


「俺が本気を出せば勇者なんて指一本で倒せるのに、それを理解できる頭がねぇ」


「ここに魔族の拠点を作って、この大陸なんて一夜で支配してやるぜ」



 村長(むらおさ)の男性に教えてもらった通り、魔族の若者は自分たちの存在を誇示するためだろうか、少し広い通りのような場所に陣取って、酒を飲みながら大声で喋っている。力の弱い狐人(こじん)族は逆らえないと思っているのか、周りもあまり警戒せずに余裕の態度だ。


 端にいる男の横にある(かご)の中に白狐(はくこ)の子供が囚われているんだろう。ヒモを付けて腰に結んで、勝手に持っていかれないようにしているみたいだ。



「だが、まだ俺たちが動く時じゃない、まずは配下を集めるのが先だ」


「本気を出すと簡単すぎて他の同胞たちに申し訳ないからな」


「散々馬鹿にした連中にも活躍の場を与えてやるなんて、奴らも俺たちの偉大さに気づくだろうぜ」



 さっきから彼らの話を聞いているが、そんな実力があるようには見えないんだよな。他の魔族を集めてこの大陸を攻めるようなことを言っているが、彼らの(もと)に集まってくれる者が居るとは思えない。



「しかし、これから寒くなる今は時期が悪い」


「寒くて凍えそうな場所に部下を送り込むなんて非道は、俺たちには出来ないぜ」


「こんな部下思いの配下になれる奴らは幸せだな」


「「「「わははははは」」」」



 これは確定だな。こうやって何かと理由をつけて、ここに居座る気だろう。



「ヤチさん、どう思います?」


「彼らは当分動く気はないみたいですね、早めに排除するのがいいでしょう」



 俺はいまヤチさんと二人で物陰から彼らの様子をうかがっている。麻衣とユリーさんには村人を集めて、安全な場所に避難してもらうため別行動をお願いしている。アイナやエリナ達も、それぞれ別行動で作戦にあたっている。



「あの、お酒と食べ物を持ってきました」


「おう、待ってたぜ、さっさと持ってきな」



 この村の服を着たアイナが、彼らに酒と食べ物を持って歩いていく。狐人族とは耳やしっぽの形が違うが、酒や食べ物に注意がいっているのか気が付かないようだ。



「わんっ! わん、わんっ!!」


「なっ、なんだ!? この村に犬なんて居たのか?」



 アイナが食べ物とお酒を渡すタイミングで、シロが物陰から飛び出して男たちに吠える。男たちは突然現れて吠えているシロに驚いて、そちらの方に目線が釘付けだ。そして、シロに注意が向かうのを見たアイナが動いた。



「わーーー、びっくりしてお酒が」


「うわっ、なにしやがる、びしょ濡れになったじゃないか」



 少し棒読みだったが、打ち合わせどおりにアイナが人質の近くに居る男に酒をぶっかけた。こうして次々と想定外のことが起きて混乱している彼らの前に、更に追い打ちをかけるように俺が飛び出す。



「お前たち、こんな所で他の種族に迷惑をかけるんじゃない!」


「なっ、こんな所に人族だと」


「次から次へとどうなってるんだ」



 シロに吠えられ、アイナにお酒を浴びせられ、そして俺に怒鳴られた男たちは、状況について来れないのか注意力が散漫になっている。そこに気配を消して忍び寄っていたエリナが、男の腰に結ばれていた紐を切って籠を奪い取り、アイナと一緒に逃げ出した。



「お前、そいつを返しやがれ!」



 近くに居た男が腕を振ると、バレーボール大の火の玉が空中に浮かび上がり、逃げていく2人の背後を襲う。



「おかーさんたちや、この村の人にひどいことしたらダメ!」


「なにっ!? 天才の俺の魔法が消されただと」



 2人が逃げる先に居たキリエが火の玉に触れると、魔族の固有魔法だろうそれはきれいに消えてしまった。天才を自称してるが、今の魔法は普通の魔法回路でも出せそうな威力だったな。キリエのお陰で次の魔法を発動することを躊躇(ためら)っているようだし、人質も安全な場所まで運び出せたので一気にかたを付けよう。



「あなた達、少しおいたが過ぎたわね」


「他の種族に迷惑をかけたらダメじゃないか」


「お前たち、一体どこから湧いてきやがった!」


「俺たちに武器を向けやがって、いったい何の恨みがあるんだ!」


「俺の可愛い娘に魔法を放ったんだ、覚悟してもらおうか」



 キリエの側に居たイーシャが3並列魔法回路の杖を握り、近くの家の屋根に登ったオーフェが男たちを見下ろす。俺もストーンバレットの杖を持って狙いを付ける。実際は魔法の前にキリエが飛び出してるので恨みはないが、そんな些細なことはどうでもいい。この村に迷惑をかけた(むくい)いだ、問答無用で転生してもらおう。



「発射」


「少し反省しなさい」


「オーフェリアキーック!」



 周りから敵意を向けられ、何も行動を起こせずに文句をいうだけの男たちは、そのまま動くことすら出来ずに次々と攻撃を受けていく。俺の弾丸とイーシャの氷の矢が魔族に命中して、2人が後方に飛ばされながら倒れる。オーフェのキックは顔面に命中して、相手を地面に沈めた。



「なっ!? 勇者より遥かに強い俺たちが、人族のガキどもに一撃で倒されるなんて何かの間違いだ!」


「あなたはもっと現実をよく見なさい」


「ちくしょう、俺が本気を出せばお前らなんかよりずっと強いんだぞ」



 3人が一度に無力化され狼狽(うろた)えた様子の最後の1人が、近づいてきたヤチさんに現実から目を背けるような言葉を発しながら殴りかかるが、軽くビンタをされるとその場に崩れ落ちてしまった。ヤチさんの相手の内部に衝撃波を発生させる固有魔法を発動させたんだろう、倒れた魔族はピクリとも動かない。


 こうしてこの村に居座っていた4人の魔族は、全員が一撃で倒された。もっとスマートな方法はあったと思うが、人質の保護を優先して、なるべく村に被害を出さないように、相手を混乱させた隙に一気に畳み掛ける作戦にした。村の人達を助ける手伝いがしたいと一緒に参加することを懇願してきたキリエを、魔法を使われた時の保険に連れてきたが、いい結果に終わってよかった。



「みんな、お疲れ様。キリエ、頑張ったな」


「うん! キリエも村の人を助けてあげたかったの」



 俺の方に走り寄ってきたキリエの頭を撫でて抱き上げる。シロも近くに寄ってきたので頭を撫でてあげる。



「オーフェもお疲れ様、やっぱりあの蹴りは強力だな」


「あの人達の話を聞いてるとなんかイライラしちゃって、手加減せずにやっちゃったよ」


「オーフェちゃん、彼らに手加減は無用です」


「うん、ありがとうヤチ姉さん」



 俺とヤチさんの両方に頭を撫でられて、オーフェも嬉しそうにしている。



「アイナとエリナもありがとう、作戦通りうまくいったのは2人のおかげだよ」


「キツネの子供も無事で良かったです」


「……あるじ様、この子」



 2人を撫でながら、エリナの抱いている真っ白のキツネの子供を見る。少しぐったりしてるが、大人しく抱かれているところを見ると、助けられたのがわかってるのか安心しているみたいだ。魔族の誰かが追ってきた時のために、2人で一緒に逃げてもらうことにしたが、全員怪我もなく済んで良かった。


 エリナに抱かれているキツネの子供がこちらの方をじっと見ているので、真っ白できれいな毛に覆われた頭を撫でてあげると、嬉しそうに手をペロペロと舐めてくれた。



「イーシャとウミもキリエやアイナ達を守ってくれてありがとう」


「流石にウミもあの魔族さんの態度はどうかと思うのです」


「本当にどうしようもない連中だったわね」



 珍しく怒っているウミの頭を撫でてあげると、気持ちよさそうな顔をして俺の頭の上の定位置に飛んできた。イーシャも呆れ半分、怒り半分な様子で倒れた男たちを見ている。こちらの方に頭を寄せてきたので撫でてあげると、嬉しそうに微笑み返してくれた。



「ヤチさんも協力していただいてありがとうございました」


「流石にこういった者を放置しておくことは出来ません」



 今回はヤチさんが居てくれて助かった。事前に男たちの様子を見て、あまり実力はなさそうだと判断してくれたので、今回の作戦を決行することが出来た。実力がわからなかったり、仮に高かったとしたら、正面突破でなく搦手(からめて)を使って時間がかかったかもしれない。こんなに短時間に解決できたのも、ヤチさんのお陰だ。



「ところでダイさん、お願いがあるのですが」


「今回は助けていただきましたし、俺に出来ることなら何でも言ってください」


「それでは。……わ、私も頭を撫でてもらえないでしょうか」


「えっ!? ヤチさんもですか?」


「その、私だけ撫でてもらえていないので、よろしければお願いします」



 そう言って俺の方に頭を差し出してくる。そう言えばここにいる全員と、人質になっていたキツネの子供の頭も撫でたんだった。その頭に恐る恐る触れてみるが、しっとりとした髪の毛はきれいに光を反射していて、とても綺麗だ。



「あの、どうでしょうか?」


「これがダイさんのなでなで。皆さんの心を捉えて離さないのがわかります」



 ヤチさんのように美人でスタイルのいい人が、うっとりとした表情になると、とても色っぽい。イーシャも美人だが、どちらかと言うと可愛い印象の方が強いので、また違った魅力がある。


 周りの仲間達は、この反応は当然という顔でヤチさんを見ながら、俺のなでなでのすばらしさを語っている。そうしてしばらく撫で続けたが、満足してもらえたみたいなので、後始末の方を進めていくことにした。



◇◆◇



 男たちをまとめて荷車に乗せて運ぶ。流石に外傷では死なない種族だけあって、服とかは破れているが体の損傷はまったくないみたいだ。いずれ記憶を失った状態で転生し、過激な思想から開放されて意識を取り戻すだろう。



「麻衣、ユリーさん、終わりました」


「ダイ先輩、みんな、怪我とかはないですか?」


「みんな大丈夫だった?」


「うん! 悪い魔族は全部やっつけた」



 キリエが麻衣の所に走っていって抱きつきながら報告している。ユリーさんも戻ってきた全員の顔を見てホッとした表情を見せてくれた。母キツネが前の方に出てきたので、エリナが抱いていた子供を地面に下ろすと、駆け寄ってお互いの体をすり寄せている。



「今まで辛かっただろ、もう大丈夫だからな」



 俺の前に来た母キツネの頭を撫でると、手に顔を擦り付けて甘えてくれる。早めに解決してしまえて本当に良かったと改めて思った。



「本当に魔族を退治してくれたんですな」


「えぇ、彼らはここに」



 村長(むらおさ)が代表して話しかけてくれたので、荷車の中に横たわっている男たちを見せる。他の村人たちも次々に様子を見に来て、手を取り合ったり抱き合ったりして喜んでいる。俺たちにもそれぞれお礼を言いに来てくれて、手を握られたり子供たちが抱きついてきたり、メンバー全員がもみくちゃにされている。



「彼らをこんなに短時間で倒してしまうなんて、本当に、本当にありがとうございます。村を代表してお礼を申し上げます」


白狐(はくこ)の2人も喜んでいますし、早めに解決できてよかったと思います」


「それで、彼らはどうするつもりですか?」


「魔族を倒すと、これまであった事を全部忘れて蘇るんです。ですので、このまま村の外まで連れて行って、魔族界に帰ってもらおうと思います」



 村の人達に魔族の転生のことや、病気や老衰以外の肉体的な死が存在しないことを説明すると全員驚いていた。彼らの処分は俺たちに一任してくれることになったので、モミジに付き添ってもらって村の外に運び、起きるまで寝かせておく。


 起きてきた彼らは、今まで持っていたような妙な自信や自己評価の高さがすっかり無くなっていて、ここが自分たちの住む大陸と違うと聞くと、早く魔族界に帰りたいと4人で海を目指して歩いていった。あまり強くなかったと言っても、身体能力も肉体強度も俺たち人間よりは高いだろうし、そう簡単に魔物に襲われたりはしないだろう。






 魔族の男たちが帰っていく頃には日もだいぶ傾いてきたので、その日は村に泊めてもらうことになった。ささやかだけど、お礼に食事を振る舞ってくれると言ってくれたので楽しみだ。


明日から本気出す系テンプレキャラはあっさり瞬殺でいいでしょう(笑)


この投稿の後に資料集も更新します。

王都の孤児院の施設長(追加忘れてた)や、狐人族の村の2人を追加しています。

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◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇◇◆◇

新しく連載も始めています

いきなりドラゴニュートの少女の父親になってしまった主人公が
強化チートを使いながら気ままに旅する物語
色彩魔法

【完結作】
突然異世界に来てしまった主人公が
魔操という技術に触れ世界に革新をもたらすスローライフ
魔操言語マイスター
― 新着の感想 ―
[気になる点] あの弱い魔族が危険な海を越えて魔族界へ帰れるのか疑問。
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