第8話 冒険者ギルド
2人とも服を着替えてモブキャラぽくなったおかげで、チラチラと見られることはなくなった。街の広場にあった屋台で、茶色いパンに肉や野菜を挟んだサンドイッチぽいものと飲み物を購入して、近くに設置してる長椅子に並んで座る。アイナはやっぱり遠慮したが同じものを買って手渡した。
「これ美味しいですね!」
「濃いめのソースが掛かっててうまいな」
アイナのしっぽが左右に大きく揺れている。やっぱり嬉しいと動いてしまう機能が付いてるのは間違いないようだ。
飲み終わった木のコップをお店に返して保証金を返却してもらい、冒険者ギルドを目指す。特徴的な外観と竜の顔の看板が目印らしいが、目的の建物は簡単に見つかった。
◇◆◇
冒険者ギルドの中は受付窓口や素材引き取りのカウンター、行政の出張所みたいなものもある、奥の方はの色とりどりの瓶が並んでるお店と飲食スペースまであって、何グループかがワイワイと飲み食いしていた。
受付窓口に行くとギルド職員の若い女性に「依頼の受注ですか?」と言われたので、新しく冒険者登録したいと告げると紙を取り出してペンと一緒に渡してくれた。
「ここに名前や出身地を書いてください、わかる部分だけでいいので。
文字が書けなかったら代筆するので言ってください」
そう言われたので、アイナに聞いてみると自分の名前は書けると言った。俺は異世界転移機能に識字も含まれていたようなので問題なかった。
2人とも名前だけ書いて差し出すと、受け取った紙を薄い箱のようなものに入れて、窪みに指を置くように言われた。
「ちょっとチクッとするので我慢してください」
指先に何かが当たるような軽い痛みがあって俺のギルドカードが出来上がる。アイナも同じ様に指を置いたが、指先に痛みが走った瞬間にしっぽがピクッと動いた。
「初回登録は無料ですが、無くしたりして再発行する時はお金がかかるので注意してくださいね」
受付のお姉さんが、出来上がったカードを渡しながら説明してくれる。
「ギルドの依頼はランクに応じた難度のものしか受けられません。ランクはカッパー→アイアン→シルバー→ゴールド→プラチナ→オリハルコン→アダマンタイトの順番に上がっていきます。依頼の達成数に応じて上がっていくので頑張ってくださいね。依頼を失敗すると違約金が発生します、支払いできなかったら利息もつくので注意してください」
流れるように冒険者ギルドのシステムを説明してくれた。
◇◆◇
無事に身分証にもなるギルドカードが手に入ったので、今度は行政の出張所がある場所に行って、アイナの主人登録をすることにした。
窓口のおじさんに、仮登録したアイナを本登録したいと俺のギルドカードと詰め所で貰った支払い証を渡して、必要事項を記入し銀貨4枚を支払った。
首輪は目立つのでブレスレットにしたが、本登録は色が黒のものに変わるようだ。家の中だと外してもいいが、外に出る時は必ずつけるようにと注意された。外したまま外に出て誰かに見つかると、野良として奴隷落ちさせられる事があるので気をつけないといけない。
他の街に行くときは、ブレスレットに刻印された認識番号と俺のギルドカードが紐付けされてるので、入り口で両方見せれば再登録など無しに入場できるようになる。
◇◆◇
今日中にやることは終わったので、窓口のおじさんに宿泊できる施設を聞いたが、獣人と一緒に泊まれる宿は少ないそうだ。数少ない宿の中で、無愛想な親父が経営してるが料金も手頃で衛生的だという所を選んで場所を教えてもらい、冒険者ギルドを後にした。
ただ、おじさんに「若いからってあんまり無茶するなよ」と言われたのが気になる。
「これで正式に私のご主人様になりましたね」
隣を歩いていたアイナが突然そんな事を言いだした。
「ご主人様!?」
驚いて聞き返したが、「これが証しです」と手首に付けたブレスレットを嬉しそうに目の前に持ってくる。しっぽも元気だ。
今までどおり「ダイさん」じゃだめなのかと説得を試みたが、帰ってきた答えが。
「ご主人様はご主人様ですから。ご主人様って呼んじゃ……だめ、でしょうか」
服の裾を掴んで上目遣いにお願いしてきた。しっぽもしょんぼりと垂れ下がってる。
俺には了承する以外の選択肢は用意されていなかった。
◇◆◇
外も暗くなり始めたので、また屋台で食事を買って食べた後、ベッドの看板が目印の宿屋【真夜中の止まり木】に到着すると、腕を組んで受付に座っているおじさんが居た。あれが“無愛想な親父”だろうか。
「休憩は銅貨15枚、宿泊なら銅貨20枚だ」
銅貨を20枚取り出して支払うと、体を拭いたり洗濯に使う水は桶に入れて売ってくれるのでそれを利用すること、ランプは無料で貸し出すが油は受付で買うこと、食堂は無いので外に食べに行くか部屋に持ち込んで食べてもいいことなど説明を受けた。
「貴重品は必ず持ち歩くようにしろ、盗られても責任は持てない」
そう言って部屋番号の書かれた木札が付いた鍵を渡してくれた。
部屋に入るとまず目に入ったのが大きめのベッド、数は1つしか無い。休憩と宿泊の2種類の料金体系、そして1つしか無いベッド、つまりそういう事もできる宿屋だったようだ。行政の受付おじさんが言ってた「無茶するな」の意味が理解できた。