ようこそ魔法の世界へ
「時間、、、」
サスケが言った。
「そうだね。ゴメン時間とっちゃって、、」
「いいよ。別に、、」
そう言うとサスケは黙ったままスルスルとマンホールの中へ入っていった。
麻美もサスケに続く。
カンカン、、
粗末な階段を真っ黒な底を見ながらゆっくりと下りていく。
トトン、、
底に着くと水の流れる音がしたと同時に鼻を刺すような臭いが襲う。
麻美はとっさに鼻をつまんだ。
「クサッ!!」
サスケは何も気にせず、つぎはぎだらけのコートのポケットから小さなメモを取り出した。
メモと自分の腕時計とを見合わせながら「こっち、」と真っ暗な方を指さしていった。
サスケはやたら時間を気にしているようだ。
指をさしたほうに歩いて行くがずっと時計を見ている。
「それにしても臭いなぁ。サスケは臭くないの?」
「臭くない、」
静かに言った。
「ふーん」鼻をつまみながら言う。
水の流れている溝のすぐそばを歩いていく。
溝にはジュースの空き缶やコンビニのビニール袋がちらばっていた。
二人は、冷たいコンクリートの壁を手で触りながら果てしなく続く暗いトンネルを行った。
サスケのブーツが地面にあたるたびにコンコンと辺りに鳴り響いた。
「ここ、、」
まだ、続くはずのトンネルの途中サスケはパントマイムをするかのように両手で何かを触っている。四角い扉のような、、
「開けて」サスケが麻美に言った。
「どうやって開けるの?」
「手で押して、開くから」
「うん」
麻美はサスケの言うように 扉 のようなものを軽く押した。
すると、触っている壁がフゥッと消えまばゆい光が目を覆った。
「まぶしい!」
とっさに目を手で押さえた。
ふいに後ろを向くとトンネルは跡形も無く消えていた。
「じゃあついてきて」
サスケはいつの間にか麻美の前を歩いていた。
「いつの間に、、」
足元を見ると赤、黄、青と色とりどりのお花畑の中にいた。
それは、カラリと朝の日差しとさわやかな空と風、どこまでも続く花畑だった。
しかし、このさわやかな空はどこまでも続かない。向こうのほうに小さく見えている闇色。
鈍色の空と空に大きな黒い建物が浮かんでいる。
「サスケ、あの向こうに浮かんでいる黒い建物はなに?」
「えっあぁあれかあれは、千年牢獄」
「千年牢獄?って何をするところ?」
「・・・・」
サスケはそれ以上何も言わなかった。
どこまでも続くこの花畑を歩くこと15分
歩きながらサスケは、つぎはぎだらけのコートのポケットから小さな四角い箱を取り出した。
「マッチ?」
その通りだった。
スライド式の箱から赤いマッチ棒を数本の中から一本を取り出すとそのままスゥとしゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
心配そうに麻美はサスケの元へかけ寄る。
「まぁみてて」
サスケはマッチ棒を箱の横でシュッとするとハァウと音を立てて赤い炎が立ち上った。
火が消えないように手を添える。
墨色の手袋の内側がボゥと赤く染まった。
「マッチの火きれいだね」
中腰でマッチの火を見つめて言うとサスケもこっちを向いてにっこり微笑んだ。
再びマッチの火の方へ視線を移すと添えた手に力を込め始めた。
目を閉じるとマッチ棒は消えマッチの炎は大きくなった。
「すごい」
宙に浮いた炎はサスケの手の中で静止している。
サスケはその炎を花畑に静かに下ろすとその部分の草花は灰と化しその代わりに草花で隠れていた大きな丸い鉄板が見えた。
「マンホールだ、、」
サスケは静かに目を開けるとろうそくの火を消すように炎は消えた。
「今のは、なんて魔法?」
「炎上って言ってね、火を操る魔法さ」
「ふーん・・すごいねサスケは」
「何が?」
「自慢しないもん」
「何の自慢?」
「魔法の。」
「・・・・・」
「魔法に限らず人間界では、他人に無いものを自分が持っていたら大いに自慢するのよ
私もあなたのような力があったらきっと自慢してしまうと思うわ」
麻美はわざとサスケと視線をはずして答えた。
「おもしろいね」
「???」
麻美はサスケのほうを見る。
「君たちの事さ、、人間の自慢したがる、そんな感情は僕にはないからね」
サスケはにっこり笑った。
「そうかもね」
ふわりとあたたかい春の風が吹いた。