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クリスマスイブに幼なじみがバイト先に来た話。

 土曜のこの時間ならまばらにしか客が居なくなるのに、まだまだ活気に満ちているのは、今日が特別な日だから。家族や恋人と過ごす、1年に1度きりの大切な1日。仕事終わりの中年は恋人と家族連れに姿を変える。ケーキとチキンとワインが飛ぶように売れる。普段は麦と〇ップしか買わないオッサンがプレミアム〇ルツを買って帰る。そう。今日はクリスマスイブ。

 

 はぁ、いそがしいそがし。

 さっきからずっと「お待たせいたしました」って言ってる気がする。客が多いのはいい事だが、待ち時間を長くしてしまうのも考えものである。そんなことをバイトの俺が考えたって仕方ないんだが。

 パートのオバチャンが手一杯っぽい。レジ打ちが遅いのが悪いんだよ。と心の中で思いつつ。

 「お待ちのお客様、よろしければどうぞ」

 定型文で声掛けをしようと思った。客と目が合った瞬間に声が出なくなった。

 「お待ちのお・・・」

 息が止まる。時が止まる。永遠のように思われる一瞬が過ぎ去る。止まった時は彼女の紡ぐ声で再び動き出す。彼女は多分、時の魔術師だ。

 「久しぶりだね。メリークリスマース!」

 「あ、あぁ……久しぶり。」

 いらっしゃいませもお待たせいたしましたも言わずに、客を迎えてしまった。そういえば今日はクリスマスイブだったな。余計なことしか考えられないから、言葉が出てこない。

 男「知り合い?」

 幼なじみ「中学時代の同級生だよ。」

 男「そなんか。あー俺先に車行ってるな」

 幼なじみ「はーい」

 

 幼なじみ「・・・ねぇ」

 俺「ん?」

 「中学卒業して以来だから……4年ぶりくらいだよ。なんか話すことない?」

 「お箸おつけしますか?」

 「あ、じゃあ2膳……ってそうじゃないよ。」

 「分かってるよ。帰ってたんだな。さっきのは彼氏?」

 「ん〜、まぁそんなとこかな。」

 「イブに彼氏と買い物……あのお前が……」

 「なんで笑ってるの!しつれいだよ!」

 「悪い。あまりにも唐突過ぎて驚きのあまりこみ上げてくるものが抑えられなくなった」

 「それも十分に失礼だよ?てか、そっちこそ彼女ちゃんはいいの?毎年SNSにイルミネーションだのディナーだのって上げてたじゃん。」

 「あー……あー、、、あー。」

 「え、あー、なんかゴメン」

 「や、いいよ。先にからかったのはこっちだからおあいこだ。」

 「あんなに仲良さそうだったのにねー」

 「なんか目指す方向性が違うとか言われた」

 「バンドマンかよ!」

 

 時間の流れはそこはかとなく恐ろしい。時間はなんでも変えてしまう。俺以外の男と会話してるところすら一切見なかったあの幼なじみが、イケメンな彼氏を連れてイブに買い物をしている。これを恐ろしい以外になんと言おうか。

 

 幼なじみ「久しぶりだし昔の話でもする?」

 俺「彼氏がいんのにまた恋バナすんのか?」

 「いいじゃんよーー結局初恋は誰だったんだよーーーおしえろよーー」

 教えられるわけがない。

 「また悪ノリか……今更知ったって汎用性0だぞ」

 「だから教えろって言ってるの」

 「当ててみろ。」

 「えー、じゃあ私。」

 「はぁ!?…なわけねーだろ」

 「そんなムキにならなくてもいいのに」

 心臓が鷲掴みにされた気分だ。普通この問いかけで真っ先に自分の名前あげるか?ダメだ。コイツがここにいる事実が突飛だから、言動には常に警戒しておかないと。自分にキツく注意をする。

 「大体、私以外に仲良い女の子なんて居たの?」

 「まあ、ちらほら?」

 「嘘ついてまで守りたい自尊心がおありのようで」

 「…」

 「ずっと一緒に居たんだから分かるよ。私もそうだったし。だから彼女ができたって知った時はほんとにびっくりした。」

 「時間が経てば交流関係も変わるし、好きな人だって変わる。そういうもんだろ。」

 自分に言い聞かせるように。

 「私は、もっと時間かかったから。さっきの人も、最近になってようやくできた初めての彼氏だよ。」

 「そりゃおアツイこった。お幸せにー」

 ボロが出ないように、なるべく感情を捨てる。

 「そこなんで棒読みなの!結婚式呼ばないよ?」

 「待て。結婚するのか?」

 捨てられなかった。

 「いや、もし結婚することになったらだよ。私のウェディングドレス姿を見なくていいの?」

 そりゃ是が非でも見たい。

 「別に、興味ない」

 「はぁ〜。嘘つく時の癖、まだ直ってないんだね。嘘ついたらすぐ分かるよ。さっきも今も。」

 「……見たい。」

 「はい、素直なのはいいこと」

 「嘘つくときの癖ってなんだ?」

 「ヒミツだよ。中学の頃からずっと変わってない。」

 「そっか。あの時からバレバレだったか。」

 薄々勘づいてはいた。コイツに隠し事をしようもんなら即座に暴かれ、嘘をつけば瞬時にバレる。心の中が見透かされてるんじゃないか、ひょっとしてエスパーなんじゃないかとも思っていたんだが、問題があったのは俺の方だったらしい。

 俺「あー、終わったぞ。会計〇〇円です。」

 幼なじみ「んー、もう終わっちゃったか。なんか聞きたいこととかないの?」

 「ん?特にないけど……ぁ、じゃあ馴れ初めとか?」

 「それは流石に恥ずかしいなぁ」

 「嫌ならいいよ。はい、ちょうどお預かり致します。」

 「私の初めての恋は。向こうから来てくれるのずっと待ってて、それで失敗したんだ。」

 「……」

 「だから、もう後悔したくなくて。今の彼氏は、私からグイグイ行った結果。意外でしょ?」

 「いや、別に……あ」

 「嘘ついてもバレバレだって。それじゃあね」

 「あ、待って」

 「ん?」

 「メリークリスマス。お幸せに。」

 「…ありがと!」

 

 時間が流れても変わらないものがある。初恋の相手は、俺にとって1人しか居ない。アイツにとってもそれは同じことだ。どれだけの時間が流れても、初恋は永遠に色褪せない。熟すことを知らない果実のように、永遠に甘酸っぱいまま。初恋とはそういうものだ。

 いつも鬼こ〇しを買っていく爺ちゃんは、今日の晩酌にも鬼〇ろしを買っていった。

読んでくださってありがとうございました。

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