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第4話


 病院に搬送された隊員たちは、精密検査を受けたものの、原因不明のまま、まだ体調も回復していない。


「やはり泰斗の医療ロボは正しかったんだな。総合病院の精密検査ですら原因不明なんだから」

 遼太朗は、帰ってきてからも、あのとき迅速に対処できずにいたせいだ、と、落ち込む泰斗を慰めようと、そんな風に言っている。

「うん…」

 だが、泰斗はなかなか浮上してこない。しばらくしてからポツリとつぶやく。

「今、採取してきたものを分析してるから、それで何かわかると思うんだけど」

「? 」

「なんか変な感じに、ドキドキする…。考えてもみないことが起こらなきゃいいけど」

 何だろう。あのときのことだけが原因で元気がないのではなさそうだ。けれど少しして、切り替えるように頭をフルフルと振った泰斗は、

「けど、今心配してても始まらないよね。その時その時で全力を尽くすだけだよね」

 と、ニッコリ微笑んで言った。



 そうこうするうち、現場の大気を分析した結果が出たと報告があった。

 会議室に集められた警備隊隊員に、議会の議長から簡単な説明がなされる。

「今回の事件で発掘された古い建物と、そこに入った隊員の事は、皆も承知していると思う。事態の解明のため、速やかに中の大気を調べたところ、ごくごく微量ではあるが、今までに見たことのないウィルスが見つかった」

「ウィルス? 」

「なんであんな閉ざされたような所に? 」

 ザワザワしだす隊員を、ゴホンと咳払いで鎮まらせると、議長は再び説明を続ける。

「なぜかと言う原因は、これから君たちに調査してもらう。それとともに、ウィルス自体の詳しい調査と治療薬の早急な開発のため、今回、研究チームを結成することとなったので、ここに報告しておく」

 あちこちで顔を見合わせている彼らをよそに、議長が続ける。

「それでだな、この研究チームには、うちの隊員からも何人か指名を受けている。名前を呼ばれたものは、前へ出ること。…まず、新行内 泰斗」

 他の隊員がいっせいに彼の方を見る。

 本人はしばらくポカンとしていたが、

「え? 僕? ぼく? なんで? 」

 と自分を指さして周りに聞いている。隊員たちは肩をすくめたり首を振ったり。

「静かに」

 議長はただそれだけ言ってまた名前を呼ぶ。

「…。…。 最後に、刀称 遼太朗。以上だ」

 最後に呼ばれた遼太朗は、眉をピクリと動かして小さく息を吐くと、さっさと立ち上がる。そして、まだアワアワしている泰斗を促して立ち上がらせ、前へ連れて行った。


「あ~遼太朗~。遼太朗がいてくれて良かったー。知らない人ばっかりでどうしようかと思ってたんだよねー」

「少し静かにしてろ」

「うん、ごめん」

 謝りつつも嬉しそうな泰斗を横目で見て、こちらも微笑んだ遼太朗は、研究チームの発足から長々と語りだす議長の退屈な話を、さてどうやってやり過ごそうかと考え始めるのだった。




 警備隊から研究チームに派遣されたのは4人。彼らは警備よりも専門の分野で頭角を現している者たちばかりだ。

 遼太朗は古代史、泰斗はロボットの分野で一目置かれている。他の2人に話を聞くと、どちらも生物遺伝子学が専門だそうだ。

「へえー、生物遺伝子学なら役に立つよね。でも、古代史とロボットって薬を作るのには全然関係ないと思うんだけど」

 泰斗が言うのに、遼太朗は少し可笑しそうに答える。

「泰斗と俺は、現地じゃ何の役にも立たないからじゃないか? 銃の扱いは全然だめだし」

 すると、泰斗はあっと気がついて、納得するように言った。

「そうだね! 僕たちが現場にいても、足手まといになるだけだもんね。遼太朗さすがだね」

 感心しながら言う泰斗に、苦笑いする遼太朗。そんな彼らが向かっているのはクイーンシティ北側の、ブレイン地帯と呼ばれている、あらゆる研究所の建物が立ち並ぶ区域だ。

 碁盤の目のように整備された広い道路と、その一画ごとに趣向を凝らした建物が建ち並んでいる。研究所と言うと無粋で無機質なイメージがあるが、ここはそういうこともない。

 まるで貴族の館かと見まがうような豪奢な建物や、かと思えば、テーマパークのようなポップなもの、等々。


 泰斗はある建物の横を通り過ぎるときに、遼太朗に嬉しそうに報告する。

「あ、ここここ。僕がロボットの研究してるの」

「へえ」

 見上げると、屋上から誰かが半分落ちそうになっている。だがよく見るとそれは、ひょうきんな顔をした人型ロボットの飾りものだった。

「なんだあれは? 」

 遼太朗が聞くと、泰斗がまた嬉しそうに言う。

「あ、あれも僕が考え出したんだよ。ロボットって言うとさ、何かものすごーく堅苦しいイメージを持たれてるからさ、ホントは可愛いんだよって。そのうちもっと増やすつもり」

「そ、そうか…」

 なんだか余計に引かれそうじゃないか? とは言えず、遼太朗は曖昧に答えた。


 そうこうするうちに、彼らを乗せた移動車はある建物の前に止まる。そこは見た目ごく普通の建物だった。

「ようこそわが研究所へ。歓迎するよ」

 移動車から研究所の中へ入ると、玄関の向こうで待っていた所長や所員が、大々的に歓迎してくれた。

「「よろしくお願いします! 」」

「「お世話になります! 」」

 律儀に頭を下げる4人を、うんうんと頷いて見ていた彼らだったが、そのあと所員の一人が研究所の中を案内してくれる。

「ところで、治療薬の研究はどの辺まで進んでいるんですか? 」

 案内の途中で、遼太朗が所員に聞いてみる。

「うん、それが…」

 議会が優秀な人材を集めただけあって、とっくに薬の基礎部分は出来上がっていると思っていた遼太朗たちは、全然進捗がないと聞いて驚いた。

「不思議なことに、いつものようにピッタリ合致しそうな抗体が見つからないんだよ」

「抗体が見つからない? 」

「ああ」

 ここクイーンシティで、ウィルスの薬と言えば、遺伝子抗体を利用したものだ。

 2代目国王がまだ存命中に発明されたそれは、ウィルスに対して抗体を持つ者の遺伝子を利用して、身体の中にウィルスに負けない抵抗力を作るものだ。そのため、クイーンシティには、発明の日にさかのぼって、この世界に生きる者全員の遺伝子が保管されている。新しい命が生まれれば、それは増どんどん増えていく。

 今回のウィルスを調べた結果、合致する抗体が見つからないのだそうだ。


「それは本当に不思議ですね。今までなら必ず抗体の持ち主が見つかったのに」

 遼太朗が聞くと、

「ああ」

 と、チラッとなぜか泰斗を見た所員が少し間を置いて言う。

「…その一部、50%ほどが合致する人物はいるんだが」

「それは? 誰ですか? 」

「2代目国王。新行内しんぎょうじ 星月せづきさまだよ」

 そこで泰斗を見た所員の視線の意味がわかる。

 泰斗は新行内の血を引く人間だ。とは言え、生涯独身だった星月に子どもはおらず、泰斗は彼女の兄、大地の孫のそのまた孫である。

 聞くともなしに2人の話を聞いていた泰斗が、星月の名前が出ると驚きながら言う。

「ええー? そうなんですか? じゃあ僕の遺伝子どしどし利用して下さい、って、僕のじゃ、物足りないのかな」

「物足りないってお前、可笑しなヤツだな。だがもしもの時は使わせてもらうよ」

「はい! 」


 研究チームの集まる部屋へ帰ってくると、生物学を専門とする2人は、それぞれ興味を引かれるものがあったらしく、とっととそちらへと向かう。キョロキョロしていた泰斗は、ヴォーンという独特の音を聞き漏らさず、パッとそちらに目をやって嬉しそうに言う。

「あ! ロボがいる! あの子は確か…。ジュリー先輩が作った子だ」

 そして、「ちょっと行ってくる」と、急ぎ足でそちらへ行った。

 遼太朗は1人取り残される形になって手持ち府沙汰でいると、そこに所長がやって来て声をかけた。

「ああ、刀称くん。ちょうど良かった。君にはやってもらいたいことがあるんだ」

「? はい」

 首をかしげて返事をすると、「まあ座って」と、所長がイスを勧める。

「君はクイーンシティの歴史に精通しているんだったね? 」

「精通と言えるかどうかはわかりませんが、人よりは詳しいと思います」

「はは、謙遜はしなくていい。で、君に頼みたいのは、ほぼ200年前とそれ以前のクイーンシティで、何か変わったことやおかしな事がなかったかを徹底的に調べてもらいたい、ということだ」

「ほぼ200年前と言うと…」

 と言いながら、さっき案内してくれた所員の話を思い出す。

「もしかして2代目国王がいたあたり、ですか? 」

「ああ、察しがいいね。そう、今回のウィルスに合致する遺伝子が2代目国王だったんだが、それも100%ではない。調べても調べても、何かが足りない事はわかるんだが、何が足りないのか見当もつかないんだ。これは本当に不思議なことなんだよ」


 自分の覚えている限り、あの時代はようやくクイーンシティの混沌が治まった頃だ。

 もう少し前にも色々な逸話が残っている。初代国王の頃にあった次元の扉の話や、それが絶滅してしまったために次元の扉が閉じてしまったと言われている、一角獣と言う生き物の話や。

「それで、あの頃の歴史に何か隠された事柄がないか、場合によっては、もっとさかのぼってもらってもいいが」

「わかりました。ただ、俺一人だと、思考に偏りが出るかもしれませんので、もう何人か、手助けしてくれる人がいれば良いのですが…」

 すると、所長はうーんと頭を抱え出す。

「うー、本当はそうしてあげたいんだけどねー。どこもギリギリの定員で」

 すると。

「じゃあ、僕が助手になります! 」

 明るい声がして振り向くと、いつの間に戻ってきたのか、泰斗がそこに立っていた。




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