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第3話


 もくもくと煙が上がる砂漠の上空。砂の中から現れた、ボロボロの建物。

 丁央てぃおは、着陸して調査をしたかったのだが、今は強盗をクイーンシティに連れ帰るのが先決だと、気持ちを無理にそこから引きはがして帰還命令を出す。


「なあなあ、さっき変な音がしてたけど、なんだい? なにかあったのか? もしかしてどっかで爆発があったとか。いやー、こわいねえ」

 捕まっている男が、ついたままだった画面の中から嬉しそうに言う。丁央はブチンと、力任せにその部屋の通信を切ると、気を取り直して、操縦席の後ろにある指揮席に着いた。


 見ると、前方から同じ移動車が空を駆けてくるのが見えた。

 すれ違いざま、手元のディスプレイに知った顔が映る。

「搬送、ご苦労だな。調査の方は任せてくれ」

 遼太朗りょうたろうだ。

 彼は調査や分析を行う部署にいるが、古代史や考古学にも精通しているため、今回、かなり古い建物であると報告したので任されたのだろう。

「とりあえず頼む。俺も、このいけ好かねえヤツを議会に引き渡したら、飛んで帰ってくる! 」

 画面の向こうで心持ち苦笑いした遼太朗が言った。

「…丁央らしい」



 遼太朗を乗せた移動車は、すぐには砂漠に降り立たず、建物の数メートル上で停止して、しばらく透視カメラを使って出入り口あたりを写していたが、それを納めると、ようやく平らな場所に静かに着陸した。

 建物は朽ち果てているが、大昔のロボットがまだ機能を失わないまま、埋もれている可能性もあったためだ。だが、どうやら出入り口のあたりはがらんどうだった。


 最初に移動車から出てきたのは、大小の銃を抱えた屈強な男たち。その後に今度は大小の機械を抱えた屈強な男女。

 銃を持った男たちがあたりを警戒する中、くだんの機械を建物の入り口あたりに差し込んで、隊員は1度、少しその場を離れる。

 ヴィーン、と音がしてその機械は、瓦礫と化した建物を、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、と講釈したいほど効率的に、あっという間に出入り口を作ってしまった。


 間髪入れず、銃を抱えた隊員が、すすすっと音もなく建物へ近づいて行った、のだが。

「まままま、まってぇー」

 彼らの耳につけた音声装置から、素っ頓狂な声が聞こえてきた。

 見ると、遅れてやって来た移動車が、慌てたように先の移動車の隣に降り立つ。中から出てきたのは、なぜか移動車に乗っていたのに、ハアハアと、息も荒い泰斗たいと。そして、彼の後ろから下りてきたのは、顔のあたりがカメラのようになっている、人型ロボットだった。


「あ~。良かった、間に合って、ゼエ」

 すると、隣の移動車から声がする。

「泰斗、何してる」

「あ、遼太朗。あのさ、ギリギリ間に合ったんだよー、言ってたカメラ搭載ロボ。見た目はさ、ダッサイけど、超特急で作れって言われたから、仕方なかったんだよね。…この任務が終わったら、もっと美形にしてあげるからね」

 そう言って泰斗は彼をよしよしとなでる。

「とりあえず、こいつが先に中に入って、安全を確かめますんで」

 ぽん、とロボの背中を叩くと、「すみません、ちょっとだけ、待ってて下さい」と、頭を下げる泰斗を先頭に進み出す。男たちは、仕方がないと言うように道を開けてくれ、その真ん中を通って、ロボットは建物の中に吸い込まれていった。


 そして泰斗は大急ぎで遼太朗の移動車へ乗り込むと、ロボットから送られてくる中の様子が、こちらでも見られるよう調整する。

「これでよしっと。…あ、映ったよ」

 パッと切り替わったディスプレイ画面には、思ったより広い空間が広がっていた。

 ロボットがゆっくりとあたりを映し出している。部屋の奥の方に簡単に組み上げられた足場があって、その横に階段がある。

「あの階段、上れるのかな。ちょっと行ってみて」

 泰斗が言うと、カメラは足場の方へ進み、階段が映る。1段目にかけた足が映って力を入れたように見えた。

 とたんに、バキッと音がして、階段はものの見事に折れてしまう。

「わ! 」

 泰斗は自分もガクン、と前につんのめりながら、「危ないからもうやめて」と慌てて言った。


 そのあとに、ぐるりとスローで360℃周りを映し出したが、特に変わったものはなさそうだ。それを確認して、遼太朗は外の男たちに言う。

「安全は、とりあえず確認しました。なので、これから俺が中に入って調査を」

「待ってくれ」

 すると、1人の隊員が遼太朗の言葉をさえぎる。

「カメラで写しただけじゃ、本当に安全かはわからないぜ。だから、まず俺たちが入ってみる」

 そう言って親指を立てるのを見て、遼太朗は「わかりました」と、彼の言葉に頷く。


「よし! 行くぜ」

 言うが早いが、男たちは急ぎ足で建物の中へと入って行った。


 それと入れ替わりに、カメラ搭載ロボが入り口から出てくる。

「お迎えに行くね」

 外に飛び出して行った泰斗が、よしよし、という感じで、その腕を嬉しそうにさする光景を見て、遼太朗は、ホントにこいつはロボットが好きなんだな、と、微笑む。

 その時、コクピットの方から声が上がる。

「どうしたんですか! 」

 遼太朗が慌てて中央ディスプレイに目を移すと、部屋の中へ入っていった隊員たちが、口を押さえて苦しそうに倒れていたのだ。

「何があった! 戦闘ロボットか?! 」

「いえ、ただ入って行っただけです! 何がどうなっているのか」

 すると、外にいた泰斗があわてて建物に近づき、部屋の出入り口に顔を突っ込んでいる。

「えっと、…なんか。変な匂い…、ゴホ、」

 口元をおさえながら、苦しそうに自分の乗ってきた移動車へ乗り込むと、少しの時間差で入れ違いにキャタピラ付きでアームの長いロボットが下りてきた。


 それらは、ガタガタ言いながら部屋へと入ったかと思うと、次々に屈強な男たちをアームにお姫様だっこして、外へ運び出してくる。

 すると、移動車からまた目をピカピカさせたロボットが下りてきて、そこに寝かされた隊員に近づいていく。最後に移動車から下りてきた泰斗は手にタブレットを持っている。

「ええっと。有毒ガス? じゃないんだ。じゃあ、なにかなー? え、原因不明? おかしいな」

「何してるんだ? 」

 遼太朗が聞くと、泰斗はタブレットから顔を上げて言う。

「えっとさ、ついでに作ったって言うか、この子たちは、まだ試作中の医療ロボ。あ、皆を助けたレスキューロボは知ってるよね? 」

 そういうと、また画面に目を向けて言う。

「やーっぱり試作品じゃあ、きちんとした医療措置は出来ないのかなー、うーん」

 頭をひねる泰斗の様子を見た遼太朗は、こちらも首をかしげる。

 ロボット工学を専門にしている泰斗だが、その天才ぶりはあらゆる分野で発揮されている。確か、医師免許が取れるほど、医療にも精通しているはずだよな。その彼が作ったロボが原因不明というのなら、本当に原因がわからないんじゃないか。

 とは思ったものの、今は隊員たちをクイーンシティへ運ぶのが先決だろう。


「おい、泰斗。医療措置はそれくらいにして、先に隊員たちを移動車へ運び込んでくれ」

 すると、ぱっと顔を上げて泰斗が言う。

「あ、ごめん。わかったよ」

 と、今度はレスキューロボに指示を出したらしく、隊員はすぐさま遼太朗の移動車へと運び込まれた。



 そこへ、ものすごい勢いで飛んできた移動車が、荒々しく砂漠へ降り立つと、エンジンも止まらないうちに扉が開いて、またものすごい勢いで男が飛び出してきた。

「敵はどうなった! いつでも相手になってやるぜ! あれ? 」

 両手に大きな銃を抱えた丁央だ。

「敵はいないよ」

 いつものようにのんびりした様子でそこに立つ泰斗に、拍子抜けしたように武器を持つ手を下ろす丁央。

「なーんだ。せっかく張り切って来たのに」

 ガックリと肩を落とす丁央に、今度は少し固い声で泰斗が言った。

「これからさ、あの中のガス、かな? を採集して帰るから、丁央はそのあと、空気が外に漏れないように、頑丈に出入り口をふさいでくれる? 」

「なんだ、どうしたんだ? 」

「中に入った人が、皆倒れちゃったんだよ、だから」

 と、見上げると、隊員を乗せた遼太朗の移動車が飛び立ったばかりだった。

「治療のために、急いで帰るとこ」

「ガス? 」

 同じように空を見上げて移動車を見送っていた丁央が、建物の方へ行こうとするのを阻止して、泰斗か言う。

「ダメだよ。原因不明なんだ。はっきりわかるまで、丁央も、もちろん他の誰も、近寄っちゃだめ」


 いつもの優柔不断とはかけ離れて、厳しくきっぱりと言う泰斗に驚きながらも、

「あ、ああ」

 と、答えるしかない丁央だった。




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