エピローグ
「丁央! もう、どこ行っちゃったのかしら? 」
ここは王宮庭園の一画。
すこし、いや、かなり気の強そうな美人が丁央を探している。
「ホントに! 明日は戴冠式だって言うのに」
彼女の名は、新行内 月羽。
クイーンシティ王女である。
明日はその月羽と、小美野 丁央の結婚式、そして丁央が国王となるための、戴冠式の日だ。
伝説のルティオスと星月の結婚から200年が過ぎ、クイーンシティは、その後も代々国王が、安定した政治で国を治めている。
「あ、あんな所に。丁央! 」
王宮の建物が、そろそろメンテナンス時期に入るので、当の本人は結婚式どころじゃないと、連日調査に明け暮れている。
「丁央」
キッと睨んで呼ぶと、丁央は「おう! 月羽。どうしたんだ」と、軽い調子で手など振っている。
この笑顔に弱いのよね。と心の中で思った月羽だが、そんなそぶりは少しも見せずにそばへ行くと、ことさら丁寧な言葉で言ってやる。
「我が婚約者殿、明日は何の日かご存じ? こんなところで油を売っている場合じゃありませんことよ」
すると、きょとんとした丁央は、
「男は準備なんてほとんどいらないだろう。それより月羽の方こそ、大丈夫なのか、準備は」
「大丈夫じゃないから呼びに来たの! 私のドレスと貴方の式服のバランスを見なきゃって、何度も言ってるじゃない。殿方にだってそれなりの準備は必要なのよ! 」
そう言って腕に腕をからめ、強制的に拉致する月羽に苦笑いしながらも、「はいはい」と、おとなしく従う丁央だった。
遼太朗は旧市街で、憮然とした顔をしながら街を歩いていた。
古書を物色しようとやって来たのだが、考え事をしながら歩いていたため、1本道を間違えたらしい。
そこは、占いロードと呼ばれる、いわゆる占いの店が並ぶ通りだった。そのため、周りにいるのはほとんど若い女性ばかり。たまにいる男性は、彼女に連れてこられたのだろう。
男性が単独で歩いているのは、遼太朗ただ1人だった。
ある店の前に来ると、二人連れの女性が立ち止まって話をしている。
「ステラの店よ! この店の占い、すっごく当たるんですって」
「知ってる知ってる! でも、人気もすごくて、一ヶ月待ちだって聞いたわ」
一ヶ月待ち! まったく女性は占いが好きなのだな。
だが、一ヶ月も待つのなら、自分ならその間に、なにがしかのアクションを起こして運勢を変えてしまうのに、と思いつつ苦笑する。
そんなことを考えながら店の前にたたずんでいると、いきなり中から人が出てきた。
フワリ、としたドレスをまとった女性だった。その女性は遼太朗を客だと思ったのか、「あ、お客様? 」と、聞いてくる。
「いえ…。あ、でも、この店の予約は一ヶ月待ちだと」
と答えると、最初は目を丸くしていた彼女が、ニッコリ笑って言った。
「お客様、ラッキーよ。たったいま、キャンセルが入ったの。でもねーこれからお昼なの。お腹ペコペコだと、占いに影響しちゃう」
そして、なぜか遼太朗の腕を取り、どこかへ連れて行こうとする。
「あ、あの? 」
「ね、お願い。ちょうど行ってみたかったお店がね、カップルばっかりで一人じゃ入りづらいの。付き合って下さる? 」
パチン。とウィンクなどして歩き出すその女性。
いつもなら、こんなぶしつけな態度を取られたら、冷たく突き放す遼太朗だが、なぜかそれが出来ない。ばかりか、不思議と何だか楽しい気分になってくるのだった。
「刀称 遼太朗と言います」
「あら、自己紹介がまだだったわね。私はステラよ」
腕を組んで歩くうちに、遼太朗はなぜか強い既視感にとらわれていた。
そして立ち止まると、ふと自分を見上げたステラに思わず聞いていた。
「「あの、以前にどこかでお会いしましたか? 」」
なんと、ステラもまったく同じ事を聞いていたのだった。
じいー。
音がしそうな視線をからめて、互いに見つめ合っている。
だが、男女の色っぽい話ではなく、そこに対峙しているのは。
ブルゥ!
「うーん、君の角模様からすると、この間の子とはまた違う子だね」
泰斗と、一頭の一角獣だった。
「何してるんだ、泰斗。予行演習が出来ないじゃないか」
ハリスが可笑しそうに言う。
明日の結婚式と戴冠式のあと、丁央と月羽が乗ってパレードをする、二頭立ての馬車(一角獣車)の前に陣取って、泰斗が一角獣とにらめっこしていた。
王室護衛の隊長を務めているハリスは、御者、兼、丁央たちの護衛だ。
今日は、カラの馬車でコースを一周することになっている。
「うん、ごめん。一角獣の角模様って面白くて。じゃあ頑張ってね」
「ああ、行ってくるよ」
ハリスが手綱を振ると、一角獣たちはしずしずと走り出した。
疲れた頭をほぐすため、散歩していた泰斗は、途中でハリスと馬車を見つけてやって来たのだった。
明日は丁央たちの結婚式だというのに、ロボット研究所は今日もフル稼働だ。それというのも、リトルペンタを利用した、新しいロボットの開発が始まっているからだ。
しばらくベンチに腰掛けて、王宮の広い庭を飽きずに眺めていると、目の前の空間がグニャグニャと歪みだした。
そして中から「泰斗! 」と、自分を呼ぶ声がする。
「どうしたんですかー、ジュリー先輩」
中から現れたのは、ジュリーと、その後ろには。
「トニーと時田が、探してましたよ。リトルペンタが呼んでるぞーとか、訳のわかんないことを時田が言い出して」
今年新しくロボット研究所に入った、ナオだった。
彼も泰斗に負けず劣らず優秀で素直な後輩だ。ジュリーは泰斗と同様に、この純情な後輩を事あるごとにからかっている。
泰斗が移動部屋に入って行くと、Rー4をはじめ、ロボットたちも、相変わらず忙しく働いている
「ねえ、Rー4。やっぱりそろそろきみたち、オーバーホールした方が良いんじゃない? 」
「ヤだヨ。Rー4優秀ダから、自分でできるモーン」
「でも、この部屋が現れて、もう200年もたつのに」
どういうわけか、Rー4たちは、泰斗には、決して自分たちを触らせなかった。
「でも、変なんだよね。僕、Rー4にどっかで会ったことがあるような気がして、仕方がないんだよね」
「ハハハ、また始まった。それは愛しのRー4ちゃんに、毎晩夢で出会うんだろ? 泰斗はRー4が大好きだもんな」
ジュリーがグリグリと泰斗の頭をかき混ぜながら言う。
「わ! 先輩止めて下さい」
「そうですよ! 泰斗先輩が困ってるじゃないですか」
「なにを! 」
ジュリーはついでにナオの頭も抱えてグリグリかき混ぜだした。
「到着シタヨ」
ワイワイと騒がしくしている間に、移動部屋はロボット研究所に着いたようだ。
ジュリーとナオが出て行ったあと、泰斗はRー4に再度言う。
「気が変わったら、オーバーホールさせてよね。僕、Rー4たちが大好きだから、ずっと元気で動いててほしいんだ」
ニッコリ笑って出て行った泰斗の後ろ姿に、Rー4がぽつんとつぶやいた。
「Rー4もネ。どちらの泰斗も、大好き、ダヨ」
了
ここまでお読み頂き、ありがとうございました。
今回は、番外編1からなんと200年後の世界です。
Rー4がどのようにして出来上がったのか、ちょっと興味があったので、タイムスリップしてみました。
今後もバリヤシリーズ。続くかも?ですので、遊びに来て頂ければ幸いです。
それではまたお目にかかれる事を期待して。