第1話
〈登場人物〉
Rー4 …この物語の主人公!? 言語翻訳ロボット。かなり優秀である。
小美野 丁央 …元バリヤ隊員、小美野 晃一の子孫。
刀称 遼太朗 …元バリヤ隊員、刀称 京之助の子孫。
新行内 泰斗 …先代国王の子孫。
ハリス …元キング隊長、ゼノスの子孫。
ルティオス …300年前、ジャック国にいた勇者。
新行内 星月 …200年前のクイーンシティ2代目国王。のちに奇妙な縁でルティオスと出会う。
新行内 璃空 …クイーンシティ先代国王。バリヤシリーズ主人公。
新行内 柚月 …旧姓・今澤 クイーンシティ先代王妃。
第1話
「R ー4。頼んだよ」
「はいハーイ。任せナサイ。Rー4トッテモ優秀だからねー」
その男はこんな時だというのに、どうにも可笑しさをこらえきれず、笑いながらRー4の頭を軽くなでた。
まったくコイツは緊張ってものを知らないんだよな。誰に似たんだか。
いつの時代か、どこの星か。
ここはクイーンシティという小さな国。
ガヤガヤと、おとぎの国のような広場を有するメインストリートと、その向こうにそびえる美しい城。そしてまたその向こうには空に突き刺さるような高い壁。
壁にしつらえられた門をくぐると、完全にシンメトリーの庭を有する王宮と、落ち着いた住宅街。
ただし、王宮はあるのだが、国王はいない。
もう長いこと、クイーンシティは王制を執っていない。200年ほど前に、先代とともにこの国を立て直した2代目国王には跡継ぎがいなかった事もあるし、(当然のことだが、彼女は生涯独身を貫いたからだ)王制とはいえ、なにごとにも民衆の意思を最大限生かすような政策をとっていたため、国王が退いても問題ないと判断したからだ。
だが、2代目国王が退いた後も安泰だった国が、彼女亡き後は、やはりよりどころを失ったのが大きかったのか、国の中では、特にキングと呼ばれる男たちの間で、小競り合いが頻繁に起こるようになった。最初は小さかったそれも、年月を経て少しずつ規模がふくれあがっていく。
そして王制が途絶えてほぼ100年たった今になって。
もうほとんど忘れ去られていた、戦闘アンドロイドという人型ロボットを探し出そうと考える輩が現れる。それがあれば、対立するものたちをかなり制圧できるだろうという、単純で馬鹿げた思考のもと。
彼らは、国が立ち入りを禁止していた非常危険区域へ密かに侵入し、お宝を探すように、あるかどうかもわからないロボットを掘り起こす作業を繰り返すのだ。
「また砂漠地帯に密侵入があったのか」
「はい。今回は北地区の研究所や工場が建ち並ぶ区域の外です」
「まったく、次から次へと。イタチごっこだな」
「そうですね」
非常危険区域とは、クイーンシティの中心部からかなり離れたあたり、以前はまわりを取り囲む国との国境があったあたりの外側のことを言う。
興味深いことに、金網が張り巡らされた危険区域の向こうは、すべて見渡す限りの砂漠になっている。クイーンシティに語り継がれている話によると、以前はその向こうにも繁栄を極めた国がたくさんあったそうだ。
昔話によれば、その国々は戦争に明け暮れ破壊を繰り返しすぎたため、何かの均衡を崩してしまったのか、次々にブラックホールに飲み込まれていったのだという。
「そんな話、うそに決まってんだろー。だったらなんでクイーンシティだけ残ってるんだよ。きっと、国王が戦闘ロボットと一緒に金銀財宝を埋めてるに違いないぜ」
存命中の2代目国王を知る者もいなくなった今、ブラックホールの話もほとんど信じられずに、そんな馬鹿げたことを言う者までいた。
そのため、お宝&ロボット狙いの侵入者が後を絶たないのだ。
「1名確保。残り1名がまだ砂漠にいると思われます」
「探し出せ」
「はい」
ふう、とため息をついて、砂漠の上を飛んでいく移動車の座席に深く座り込む男。彼は、非常危険区域警備隊、隊長を務めている、小美野 丁央と言う。
もともと戦闘が大嫌いな丁央は、こんな所に座るつもりは毛頭なかったのだ。
ただ、議会で警備隊隊員を選別するときに、最初にターゲットに上がったのが、〔伝説のバリヤ隊員の血を引くもの〕という項目。そして丁央は、見事にその条件にマッチしているのだ。
丁央の本来の職業は、建築家だ。
そろそろ200年を迎える王宮の大規模な修理を任された丁央は、毎日ワワクワクしながら王宮の調査をしていた。しかし同じ頃、どんどん増殖する砂漠泥棒に業を煮やした議会が、非常危険区域の警備隊を作り出すなどと言い出したのだ。そして、間の悪いことに、選考基準が前述の通り。
「そんなばかげた基準があるものか! 」
と、何度も何度も、なんども、ナンドモ、辞退して、辞退しまくり、議会を説得しまくったのだが、それよりも伝説の力の方が強かった。
絶滅しかけたクイーンシティを救い出したバリヤは、小説やドラマや、はてはアニメにまでなって、クイーンシティ民衆の心に浸透している。丁央だって、子どもの頃は「バリヤごっこ」なるものをして遊んだ記憶がある。
しかし、実際にその任務に就くと言うこととそれとは大違いだ。
あくまで辞退する丁央に、「元国王の血を引く、新行内 泰斗くんは、すんなり受け入れてくれたよ」などと言われて、丁央は、「泰斗のヤツ! 」と、心の中で舌打ちをした。国王の子孫が隊員になるんだよ、と言われてしまえば、もう断る術がなかった。同じようにバリヤの血を引く、刀称 遼太朗も無理矢理隊員に引きずり込まれたらしい。
どうにも腹の虫が治まらなかった丁央は、泰斗にはあとでさんざん文句を言ってやったものだ。
「残り1名、確保しました。これよりクイーンシティへと進路を変更します」
「うん、ご苦労だった」
「はい! 」
報告を終わった隊員は、なぜか上気した顔でとても嬉しそうだ。
丁央は、彼に気づかれないように小さくため息をついた。
なんだかなー。俺ってすんごいヤツだって思われてるみたいだけど、実際はやる気なさ過ぎのダルダル隊長なんだぜ。戦闘嫌いだし。
まあ仕方ない。
丁央は、確保した2人の強盗を簡単に尋問すべく、彼らを拘束している部屋へと通信を切り替える。浮かび上がったディスプレイの中、窓も扉もない部屋で、2人はなぜかまったりと床に座り込んでいた。
「お前たちが、砂漠強盗か」
丁央がマイクを通して言うと、2人はキョロキョロと部屋を見回していたが、後から捕まった(たぶん彼が主犯だろう)いかにもふてぶてしい感じの男が答える。
「おやまあ、どなたか存じませんが、強盗とは聞き捨てならないねえ。俺たちは強欲国王が隠した金銀財宝を、公平に分配してもらうつもりなだけですよお」
そのあと、ヘッヘー、と卑下た笑いを浮かべる男。
丁央はいい加減アホらしくなって、自分の立場も忘れてつい言ってしまう。
「あのなあ。もしもだぜ、もし、本当に金銀財宝が埋まってるんなら、議会が黙ってる訳ないだろ。今頃国民の目の前で、全部掘り返してるさ。考えても見ろ? ああ? 」
凄みをきかせた声に、一瞬たじろいだ男は、だが、すぐに気を取り直して言った。
「ふ、ふん! おどしは聞かねえぜ。いいさ、ただ、砂漠に入っただけなら、謝ればすぐ釈放されるさ。そしたら…、へへっ」
何だろう。捕まったというのにこの男には反省の色もない。そればかりか、何か企むようにニヤニヤと笑い出す。
これはすぐに釈放と言うわけには行かないかな。
と、思ったその時。
ドオーン!!
移動車の外で、何かが爆発する音が聞こえた。
「何だ! どうした! 」
丁央は慌ててコクピット前の映像へと目を移す。
正面のディスプレイには、つい今し方男たちを捕まえたあたりから、もくもくと煙が立ち上っているのが見えた。
「くそ! あいつらが仕掛けたのか。そんな高等な技術を持っているようには見えなかったが」
丁央は、すぐさま本部に連絡を取るように指示してから、改めて爆発のあったあたりにカメラの照準を合わせる。すると、煙の間からザザァーッと砂が下へと落ちていくのが見え。
そこに現れたのは、ほとんど瓦礫にしか見えない、朽ち果てた建物の一部だった。
バリヤシリーズの新作、始まりました。
今回のお話しは、番外編に出てきた、キュートで可愛いくて、作者の大好きなR-4の誕生秘話的なものです。
まったりと更新して行きますので、どうぞお楽しみ下さい。