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1933年11月 中千島、新知島にて

 オホーツク海は西北を樺太島やシベリアに、南を北海道、東を千島列島、北をカムチャッカ半島に囲まれた、日本海と北接した内海である。

 大日本帝国はオホーツクに隣接した地域の内、北海道と千島列島、そして樺太島の南半分を領有していた。

 これらは北海道以外、明治期の領土交換条約による成果であったり、日露戦争の賠償であったりと様々な軍事的・政治的勝利によって近年獲得したものだ。

 そのため、この海域には長らくの間隣国との経済摩擦が大なり小なり存在している。


 1933年9月、三井商船系のサケ漁船がソビエトの哨戒艇しょうかいていに拿捕される事件が勃発した。

 シベリア沿岸で操業していたことがソビエトの危機感を刺激してしまったらしい。

 現政権たる犬養内閣は漁船乗組員の穏便なる身柄引き渡しをソビエトに求めたようだが、拿捕される過程で漁師の数名が死亡していたことが事態を乱麻らんまの如くこじれさせてしまった。


 1933年10月、三井財閥は南樺太在住のユダヤ人富豪層と結託し、新聞による世論の誘導を開始する。

 謳い文句は『尼港にこう事件の悲劇を繰り返すな! 国民はオホーツクへの大規模派兵を望んでいる』と、かつての大事件を引き合いに出したものであった。

 尼港事件――、国際的な呼び名で言うところのニコライエフスク事件とは、1920年に樺太島の対岸都市で起きたソビエト赤軍による住民の虐殺事件である。

 当時、尼港には国策によって日本人居留民も数多くが生活しており、そのほとんどが赤軍による虐殺に巻き込まれてしまう。


 この時の政府の対応がまずかった。

 事件は折り悪く丁度流氷により内地と連絡が閉ざされた時期に起こってしまい、救援を送ることができなかった当時の政府は住民を見殺しにしたとして国民からの激しいバッシングを受けることになったのだ。


 政治家ならば誰だって、世論の支持を失った者の末路を良く理解している。

 当然ながら新聞に報道されるまでもなく、政府としては世論への影響を考え、尼港事件の二の舞を避けたい。

 ただでさえ、満州情勢の微妙な時期だ。政治的混乱は起こすべきでないというのは素人でも分かる理屈だろう。


 だが、それと同時に強硬路線をとって大国ソビエトと正面対決する愚も犯せなかった。

 日本は現状、仮想敵国としてソビエトとアメリカの二国を想定している。

 1933年現在において、アメリカとの関係はお世辞にも良いとはいえなかった。

 世界恐慌の発信地たるアメリカは未だ恐慌のダメージから回復できておらず、国中に失業者が溢れている。

 そんな中で、金の流出を防ぐため、犬養内閣が兌換貨幣を再び管理通貨へと戻したことが日米関係に大きなくさびを打ち込んでしまったのだ。

 管理通貨に戻ったことにより、急速な円安が進んでいき、円安が日本製品の海外輸出を伸ばしていく。

 輸出が伸びれば、当然日本と同じく輸出で経済を回していた他国との間に軋轢が生じる羽目になる。

 今回の場合は、不景気で青息吐息のアメリカが軋轢の生じた相手であった。


 両国民たちの他国製品不買運動はいよいよ盛んになっていき、互いの相手へ向ける感情は日に日に悪化の一途を辿っていく。

 そんな状況下において、国民の代弁者である政治家がどんな政治外交を行うかなど想像するに難くないだろう。

 まず間違いなく、競争国を潰しにかかろうとするはずだ。


 近代戦争は国を傾ける。それ故に他国に付け入る隙を与えてしまう。

 国内世論に後押しされた米国政府が、どんな強硬な手段に出るか分かったものではない。

 こうして悩みに悩んだ末、日本政府はソビエトとの正面衝突を避けるべく、勅令護民総隊に北洋派遣を命じ、総隊もこれを受けて行動を開始した。

 目的は、商用船舶の保護や安全海域への誘導、そしてオホーツクに展開されているソビエト軍用艦艇への牽制である。



 1933年11月、北洋に派遣された護民艦隊の2隻は突然の大時化おおしけに見舞われ、千島列島の中ほどにある新知島しむしるとう武魯頓ぶろとん湾に投錨、高波を凌いでいた。


 新知島は毛皮用に養殖されたキツネやトナカイで有用な島であったが、海上勤務者にとってはそれ以上に大きな意味を持っている。

 北東部の海没したカルデラ湖が丁度絶好の停泊地であり、北洋の時化を凌いでくれるのだ。

 しかしながら、いくら損傷不可避の波を防げるとは言っても、内地の近海に比べると格段に荒い。

 新兵混じりで練度の低い護民艦隊は、停泊中も艦の維持に難渋することになった。




 明け方だというのに厚く覆われた黒雲の下、第一次護民設計艦1番艦"浦島"と2番艦"竜宮たつみや"は猛る灰色の海に翻弄されていた。

 波に艦がガブり、ギシギシと嫌な音を立てる。

 舷窓げんそうは開けていないため、冷たい海水が中へ雪崩込む心配はなかったが、傾斜20度や30度になることもざらにあり、新参の三等水兵は、艦が転覆しやしまいかと顔を青ざめさせていた。

 護民設計艦は総トン数530トンの小型軍用艦艇だ。

 当然ながら2000トンクラスの巡洋艦や、1000トンクラスの駆逐艦と比べて、荒波の影響が格段に大きい。

 "竜宮"に搭乗していた千早は、兵員室の壁に背をつけ揺れに耐えていた。

 小型艦艇に士官室と兵員室の別などあるわけがなく、佐官も尉官も、水兵も共に吊床ハンモックを並べて共同生活を続けている。

 そのため、室内には様々な階級の乗組員たちが待機しており、時化が止むのを待っていた。


「あだっ」

 船の傾斜が急に変わり、隣で同じように背をつけていた水兵が反対側の壁までごろごろと吹っ飛んでいく。


「おい、大丈夫か」

「何とか……」

 頭をさすりながら三等水兵さんすいが答える。彼は実戦の海を経験したことのない、全くの童貞水兵であった。

 一応、水泳などの各種訓練では人並みの成績を取っていたが、一瞬の判断ミスで命を失ってしまうこの北洋でそんなものが役に立つはずもない。

 本来ならば、初陣に赴かせる海ではないのだ。ここは。

 戦場を選べないのが軍人の常とはいえ、やはり不憫だと思う。

 できることなら、何らかの形で手助けしてやりたいと千早は思った。


「おい、三水! くたばるのは良いが、吐くんじゃねえぞ! 掃除の手間が増えっちまう」

 先任一等水兵いっすいが情けない顔をした三水を怒鳴る。

 彼らは元は海軍で働いていた古参の志願兵や、北洋で操業していた漁師で構成されていた。

 当然荒れた海にも慣れており、涼しい顔とはいかないまでも、他より平静を保っている。


「飯、できたぞ!」

 主計兵の声に、悲鳴と歓喜がこもごもにあがった。

 この激しい揺れの中、当たり前の如く三度の飯を平らげてこそ一人前になれるのだ。

 その日の朝飯は、塩気のついた赤飯の握り飯のみであった。波が盛大にガブっている中で、味噌汁など炊けるわけがない。


「どうぞ、少尉」

「ん、ありがとうな」

 千早も配膳から朝飯を受け取り、さっさと口に放り込んでしまう。

 ごちそうさまと礼を言うと、配膳が目を丸くして言った。

「少尉は荒れた海に慣れておられるんですな」

「"鳳翔"も"夕張"も揺れたからなあ。南洋も結構、時化るんだ」

「ミヤチは"浅間"にも乗ってたろ。あれも結構揺れたんじゃないか?」

 話に割り込んできたのは、2番艦の艦長である渋谷であった。

 彼も配膳の握り飯をひょいと摘みあげては、涼しい顔で食べている。

 艦を共にして分かったことだが、彼には他人にあだ名をつける癖があった。

 例えば、宮本千早なら「ミヤチ」となり、大井篤ならば「多い(メニー)」となる。

 他にも「カトキン」、「シナッパチ」、「サウス」など水兵たちにも分け隔てなくあだ名をつけて回っていた。

 ちなみに自分のことは「シロー」と呼ばせる。

 お節介で関わりたがりなところはあるものの、そんな下士官や水兵たちと距離の近い性分だからか、2番艦の人間関係はすこぶる良好に回っていた。


「シローさん、1番艦からの電信です。艦種特定できましたよ」

 と艦影の写った写真を持ってきたのは通信参謀、航海参謀を兼ねる大井であった。

「おう、ご苦労さん。んで一体何だったんだ」

 千早たち護衛艦隊所属の航空部隊は、ここ数週間の哨戒飛行によりカムチャッカ沖合にてソビエトの軍用艦艇4隻を発見していた。

 ただの水雷艇、哨戒艇ならばまだよかったのだが、その中にひと際大きな軍用艦艇2隻を視認したのだ。


「中将によれば、オルフェイ級だそうです。欧州大戦の時に作られたバルト艦隊のロートルですよ」

「やはり駆逐艦かよ……」

 渋谷が苦々しい顔をする。

 駆逐艦ともなれば、いくら欧州大戦時点の戦闘能力でも最大速力30ノットを超える。

 日本政府からは正面衝突を避けるようにときつく厳命されていたが、それは戦闘行為そのものを禁じられたわけではない。

 外交上、記録にできない非正規戦闘は何時でも起こりうる可能性があるのだ。


「バルト海っていや、大陸の反対側だ。どうやってこっち側まで運んできやがったんだ」

「恐らくはシベリア鉄道を経由してでしょう。分解すれば、運べない大きさではないですから」

 シベリア鉄道の終着点は沿海州のウラジオストクである。

 以前、建造中だと報告に挙がっていた小型の軍用艦というのが、このオルフェイ級に当たるのだろう。

 となれば、今後も日本近海にソビエトの駆逐艦が次々に分解された状態で運ばれてくる可能性がある。

 座視できない問題であった。


「速力じゃ10ノット以上負けている算が大きいですね。火力の方はどうなんでしょう」

 写真を指さし、千早が問う。

 明らかに小口径砲と思わしき兵装が4門見えていた。

 千早のその問いに大井は苦笑いを浮かべる。


「そいつは10サンチ単装砲だな。60口径で、うちの3年式より火力が高い。更に40mm単装高角砲1基、3連装魚雷発射管3基……」

 お手上げという奴だ、と大井は諸手をあげた。

 彼のもたらした情報が確かならば、少なく見積もっても1隻あたりの火力投射量に4倍以上の差があるということになる。哨戒艇も加えるならば、さらに格差は広がることだろう。

 彼我の戦力比は駆逐艦2隻、哨戒艇2隻に対し、漁船改装艦が2隻のみ。

 数でも質でも負けており、もし非正規戦闘が勃発したらひとたまりもないことは明らかであった。


「……まともにやりあって、勝てる相手じゃねえな。商船を早めに避難させたことは正解だったか。長坂ちょうはんの戦いなんざ冗談じゃねえ」

「今張飛(ちょうひ)をこなすにしては弱っちいですからね。うちの艦隊は」

「うるせえ」

 予断を許さぬ状況に面しているにも関わらず、大井に拳骨を落とす様からは若干の余裕が感じられた。

 艦の質では負けているが、士官の質では負けていないのだ。これだけは断言できる。


「艦長、小官がP.11改で再び偵察してきましょうか」

海護1型(うみねこ)でか? この荒れた海で離陸できるもんかね」

「単独飛行ならば、できなくはないと思います」

「"子守り"しながらは無理ってことかい」

 言って、渋谷が青い顔で赤飯を胃袋に収めようとしている新参の水兵たちに目をやった。

 その中には、飛行服姿の水兵も混じっている。

 千早直属の部下たちだ。

 彼らはまだ飛行時間も少なく、鉄火場に出して良い腕前ではない。


「大事な奴らです。こんなところで無茶させられませんよ」

「いやあ、お前に死なれても大損失なんだが……、うーん。今回は控えに回ってくれや。何か、嫌な予感がするんだよな」

「嫌な予感、ですか」

 渋谷は頷き、舷窓から外へと目をやった。


「元漁師どもに聞いたんだが、北洋ってぇのは大時化の後に流氷がやってくるらしい」

「流氷ですか……」

 流氷が来れば船舶の航行は著しく制限される。

 当然、商戦も禁漁期間に入ってしまうため、日ソの緊張状態も一時的に緩和されるはずだ。

「……だからこそ、ここいらで大きな動きがあると。俺はそう睨んでる」

 窓越しに見える海模様は、未だ荒れに荒れていた。





 一方、1番艦"浦島"の司令官室では、広げられた海図の周りで今後の方針を巡って会議が重ねられていた。

 上座に佐藤鉄太郎総司令官。下座には新見政一艦長と吉野彰夫副官が机にしがみつくようにして立っている。

 初顔合わせの時以上のピリピリとした空気を、新見は肌で感じ取っていた。


「……何故、海軍うちの連中は援軍を寄こさんのだ」

 佐藤が苛立たしげに吐き捨てる。

 青筋を浮かべ、咥えた煙草を噛みつぶさんばかりに歯ぎしりしている様からは、返答次第ではすぐにでも癇癪を起してしまいそうな程の怒気が感じられた。

 そのあまりの剣幕に、予備少尉の吉野などはすっかり委縮してしまっている。

 大時化の揺れに、初陣を控えているということもあるのだろう。

 青ざめた唇はぷるぷると震えており、到底使いものになる状態ではなかった。


「……重ねて問うが、付近の漁船は避難が完了しているのだな?」

 念を押すようなその問いに、新見は一拍置いて静かに答えた。 


「はい。商船の経済速力を考えても、確認できる範囲内では北海道沿岸まで避難が完了したものと思われます」

 言いながら、海図に置かれた商船を模した駒を現在の予想位置へと動かして見せる。

 その動きを目で追っていた佐藤が深く息を吐いた。

 今、この護民艦隊が最も恐れるべきは"商船に被害が出ること"なのだ。

 何せこの国の国家元首より、「臣民を守れ」と勅令を賜った身の上である。そう容易く「できませんでした」で済ませては、申し訳が立たない。


「ならば、問題はソビエト艦隊のみか」

 言って、佐藤は海図に置かれた敵艦隊を模した駒へと目を落とした。


「現在の予測位置はどうなっておる」

「先日の報告にあった進路から考えると……、恐らくは占守島しゅむしゅとう幌筵島ほろむしろとうを抜けて、松輪島マツワとうあたりに停泊している可能性が高いでしょう。あそこは東岸に好錨地がありますから、時化をやり過ごすなら他にありません」

「帝国の領海内ではないか……! 威力偵察のつもりか、毛唐どもがッ!」

 佐藤の手に力がこもり、机がぎしりと音を立てた。


「……新見君は、偵察隊の報告を確かに内地へ送ったのだな」

「はい、中将の仰る通り、現有戦力での相対は非常に困難である。至急援軍を送られたし、と申し送りました」

「……それに対する答えは何と。内地の、軍令部の奴らは一体何と言ってきよったのだ」

 この問いに答えるには少しばかり勇気が必要であった。

 佐藤の癇癪が弾けるであろうことが、容易に想像できたからである。


「……我が国の現有戦力並びに法体制ではソ連との総力戦に挑むこと甚だ困難なるによりて、ソ連艦隊への安易な挑発行動を控えられたし。とのことです」

 答えはすぐには返ってこなかった。

 こちらの言った意味がすぐには理解できなかったようだ。

 しばし口をぽかんと開けた後、すぐにその目を真っ赤に血走らせた。


「敵がすぐそこにいて、何だその言いぐさはッッ! 軍令部の奴らは、何時から腰抜けぞろいになったのだッ!」

 佐藤の拳が机に叩きつけられた。

「戦場に十分な兵と、十分な装備を差配するのが上の役目だろうが! 竹槍でつついて敵が倒せるかッ!」

 怒声を浴びながら、新見は目を伏せて考える。

 海軍が北洋へ援軍を派遣しない理由については、恐らく護民総隊と海軍の確執が多分に影響しているのだろう。

 海軍は自らの主導での総隊との合併を強く望んでいる。

 そのためには、総隊が実戦において実績をあげるようなことなどあってはならないのだ。


 幸い、今回領海侵犯をしでかしたソビエト艦隊は時代遅れの駆逐艦2隻に哨戒艇2隻。

 これは世界有数の連合艦隊を有する海軍からしてみれば、吹けば飛ぶような小規模戦力である。

 総隊の失態を見物した後で悠々動き出しても十分に挽回がきくと、そう思っているのだろう。自分たちの海軍ふるすは。

 千年の忠誠も冷める心地であった。

 ……とは言え、いくら海軍の政治的思惑が癪に触ったとしても、無謀な作戦で艦隊を危険に晒すわけにはいかない。


「時化が止んだと同時に内地まで撤退いたしましょう。我々の目的はあくまでも商船の保護です。その目的は既に達せられました。ソビエトによる領海の侵犯をむざむざと許すは腹に据えかねることですが……、今は艦隊の保全が先決です」

 この意見具申に、佐藤も不愉快そうにしながらも渋々頷いた。


「……分かっておる。ただでさえ総隊の戦力は少ないと言うのに、貴重な士官と水兵を無駄死にさせるわけにはいかんからな」

 その言葉に新見はほっと胸をなでおろした。

 1番艦を預かる艦長として、総隊の一員として、部下や仲間を無謀な作戦に付き合わせるわけにはいかないと考えていたからだ。

 流氷がやってくる前までには内地へと退いてしまおう。

 そう今後の方針をまとめようとしたその矢先に――、


「失礼します! 内地より入電ありました。陸軍からです」

 通信士からもたらされた予期せぬ一報に、その場にいる面々と共に目を丸くした。

「入電だと? 陸は一体、何を言ってきたんだ」

「こちらがその内容になります」

 言って手渡された電文の内容へ目を落とし、新見は思わず叫びたい衝動に駆られた。


『我ら尼港の愚を二度と繰り返さんとす。北方線の維持のため、陸軍第7師団を兵員輸送船にて速やかに樺太・千島各島へ送り、ソ連軍への備えとするところなり。護民総隊には周辺海域の索敵を欲し、我が軍の損失なき行軍確保を望む』

 何故今なのだと陸の上層部を面罵してやりたいところであった。

 流氷により樺太への航路が途絶える前に、国境線へ戦力を送りたいと言う理屈は分かる。

 だが、あまりにも状況が悪すぎた。

 もし、ソビエト艦隊が陸軍の動向を掴んでしまったら大変な事態に陥ってしまう。

 手近に陸軍の輸送船を擁護する海軍戦力は航行しておらず、護民総隊には敵艦隊の足止めをする力がないのだ。


「どうした、新見艦長。いかなる内容が書かれておったのか」

 佐藤に問われて、電文の内容を読み上げる。

 あまりにも勝手な事後承諾の内容だと言うのに目の前の老将の反応は、意外なほどに静かなものであった。


「……陛下の勅令は"臣民の安全を守ること"であった。軍人とて、臣民であることに違いあるまい」

「待って下さい、それでは――」

 佐藤は静かに頷いた。

「ソビエトの艦隊と接触することにする。やむをえず非正規戦闘が起こってしまった場合は、一当てした後、遅滞戦術をとることとする」


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