待ち人、来たる
サンドレイクにある、冒険者ギルド兼バー『シャンメリー』。
二階で壁に張り出された依頼書を見ている少女を呼ぶ声が響く。
「マリー、客だ」
「は~い」
待ってましたとばかりに一階へ駈け出した少女は、カウンターでグラスに入ったビールを飲んでいた人物に声をかける。
「久しぶりだね~♪いつ戻ってきたの?」
「一週間前だ」
「ウソ~!。一週間も私に連絡なしって、冷たくない?。ず~っと待ってたんだよ」
「オマエは、色々と注文が多いからな。少しは休ませろ」
「『アーリン』のイジワル~」
嬉しそうに話すマリーとは対照的に、微笑みつつも威圧的な雰囲気のある、『アーリン』と呼ばれた女性が腰のポーチから小箱を取り出し、マリーに差し出した。
「ほら、お待ちかねのモノだよ」
「コ、コレが・・・例の・・・」
「ああ、限りなく注文通りに仕上げてある」
アーリンの言葉に、目を輝かせ小箱を受け取ろうとするが、不意に鼻をつままれ、強引に引き寄せられる。
目の前に飛び込んできたアーリンの瞳の奥には、怒りの炎が燃えているように見えた。
「何度も言わせるな。アタシは『アーリン』じゃない。『アリシア』だよ、『マリアーナ王女様』!!」
アリシアが小声で、しかし、力強く囁く。
予想だにしない言葉に驚き、あわてて言い返す。
「それは、秘密だっ$#&%!」
しかし、そのマリーの抗議の声は、さらに力を込めたアリシアの指によって阻止されてしまう。
「安心しなよ、誰にも聞こえてないさ」
先ほどとは違い、妖しく微笑むアリシアは、指先の力を抜いた。そして、解放したばかりのマリーの鼻先に、改めて小箱を差し出した。
━!
反射的に身構えてしまうが『例のモノ』の誘惑には勝てず、赤く腫れ上がった鼻を抑えながら、恐る恐る手を伸ばす。が、何事もなく小箱はアリシアから手渡された。
(何も・・・しない?)
用心しつつ、後ずさって十分な距離をとりながらも、視線は外さない。
微笑んだまま動こうとしないアリシアを確認して安心したのか、満面の笑みで小箱に全力の頬ずりをする。
(ウフフッ♪、ウフフッ♪、ウフフフフッ♪・・・)
・・・・・・・・・・・・・・・
(ハッ!)しばらくして我に返ると、大事そうに小箱を抱え、
「じゃあね~♪」
と、手を振り二階へ向かう。
(さて、アタシも準備しなきゃね)残されたアリシアは、グラスに残ったビールを飲み干し一息つくと、夜の街へと消えた。