表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

誕生日の悲劇

普段から表情がほとんど変わらない結であるが、さすがに強い感情は顔に出るようだ。少しだけ泣きそうな笑顔を浮かべた結を見て、フェイスは思わず椅子から立って結の隣に座り、その艶やかな髪を梳くように撫でてやった。


理不尽で不可思議な出来事でさえも飲み込んでみせる気丈さと、自分の勘という不確かなものも論拠に組み込んでしまう豪胆さ。それと、少ない情報から様々な推測を立て、それらから正解に近い結論を生むことのできる聡明さ。


結のそのような性格は、フェイスに一人の女性を思い出させた。


ねえ、あなたの娘はこんなに素敵な子に成長したわよ


心の中でそう呟くと、穏やかな表情を一変、あでやかな笑みを浮かべ、目を伏せて力を抜いていた結の肩を押してソファーに寝そべらせた。


きょとんとしている結に悪戯っぽく笑いかけると、若干警戒したのか口を引き結んで見つめてきたので、フェイスは思わず声をたてて笑った。



「別に取って食いやしないわよ。あなたのあざが浮き出てきた理由、教えてあげるわ」



そう言って結の足をソファーに上げてしまうと、フェイスはゆっくりと結のスカートを捲り上げていった。


何をしているのだと疑問を口に出すこともせず、黙ってフェイスのなすがままにしていた結がさすがにもうそろそろ止めようかと思っていたところで、ちょうど目覚めたジェラルドが声をかけたのだった。


硬い表情と、それを如実に反映させた声に、フェイスはからからと笑いながら結の方に顔を戻し、露わになったあざを指先でなぞった。



「このあざを隠すための術をかけたのは、私よ」



そうだろうと思っていたので、結は一つ頷いて続きを促した。



「あなたにかけられた術は二つ。魔力を隠すためのものと、あざ自体を隠すものの、二つ。

あなたの母親は、あなたが強大な魔力の持ち主であることを感じ取っていた。だから、それだけでも脅威になりうるほどだった魔力を自ら封印したの」



結の頬を一撫でしたフェイスの手は、そのまま結の髪をするりと梳いていった。



「あなたのその勘みたいな力はお母さん譲り。本人も知らないくらい、遠い先祖から受け継がれた能力。同じ能力者を探してみたけど、ほかに誰も見つからなかったわ」



フェイスは懐かしむように微笑んだ。



「とりあえず、話を戻すわね。あなたの魔力を封じたのは、まだあなたがお腹の中にいた時だったの。だから、生まれてきた時本当に驚いたわ。まさかの黒の騎士だったんだもの」


「でしょうね」



笑いあう二人をじっと見るジェラルドは、一言も話さずそっと顔を伏せた。

それを指摘することなく、フェイスは結への説明を優先させた。



「そこで問題が生じた。あなたが、このままでは殺されてしまうかもしれないことを、彼女はとても恐れたの」



フェイスの脳裏には、今にも泣き出してしまいそうな旧友の顔が浮かんでいた。



「以前白の王が、黒の王になる子供を……実の息子を、殺そうとしたから」


「どうして……」


「わからないわ。もしかしたら他に理由があったのかもしれないけれど、あなたの母親は黒の三人ブラック・トリニティ……黒の王、僧侶、騎士の三人を殺して自分の命を長らえさせようとしたと考えた。だから、何としても白の王の魔の手がかからないようにと、あなたを異世界に避難させた」


「何故、そこまでする必要があったんですか」


「そうね……」



フェイスは古い記憶をなぞりつつ、ゆっくりと語った。



「白の王は、かなり冷徹な性格で有名だった。身内には結構甘かったけれど。

でも、身内の……たくさんの妃が居ながらなかなか授かれなかったというのに、たった一人の息子を、殺そうとした。それで、いつも冷静だったあなたのお母さん、メルヴィナは恐怖と失意のどん底に叩き落されたの」



どうしてあの人はっ!


泣き叫ぶメルヴィナには普段の明るさの欠片もなく、慰めることしかできないフェイスの胸もひどく傷むほどだった。



「あなたのご両親は、白の王の臣下の一人で、二人とも、白の騎士の元で名をはせた魔術師だったわ。もちろん、王とも面識があった。

苛烈で冷たい言葉の裏で、本当は優しい白の王を、メルヴィナはよく慕っていたわ」



だから、怖くなった


すでに体を起こしていたフェイスに腕を引かれて起き上がった結は、自分と向かい合うフェイスの悲しげな表情に胸を突かれた。



「メルヴィナは、娘を失いたくなかったし、白の王に間違った選択をしてほしくなかった。だから、あなたを安全なところに隔離したうえで、王を説得しようと考えた。

でも、それはできなかった」



どうして、と尋ねる前に、フェイスの表情から結は解ってしまった。



「あなたを産んですぐ、白の王から見舞いに使いがやってきたの。それで、あなたの存在が知られてしまった」



結の手を握り、フェイスはゆっくりと口を開いた。



「すぐにやってきた兵たちに拘束される寸前に、私ができたのはあなたのそのあざを隠すことと、あなたととメルヴィナを異世界に送ることだった」



そう言って、フェイスは結の髪をゆるりと撫でた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ