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雑談と新事実

食事を終えると、散歩を兼ねて二人は結に居住棟を案内してくれた。


省ごとに立てられた居住棟のうち、軍務省のものは広い一軒家のような建物で、結にヨーロッパの大邸宅を思い浮かべさせた。

黒檀城の中でも一番広い敷地面積である理由は、所属する軍人が多いからだけではない。建物も広いが、いくつもの訓練場があちこちに存在していた。


最初は訓練場の規模の大きさに驚いていた結だったが、不自然にえぐれた地面や粉々に砕けた大岩などを目にするうちに、自然と合点がいった。

魔術師の訓練に、必要な広さであった。



「遭難しそうな広さですね」


「ふふーん、そんなヘマしないでしょー君は。というより今思い出したんだけど、君魔術使ったことないんだよね?その魔力で」


「意識して使ったことはないです」



アデルが驚愕の表情を浮かべたのを気まずく思いながら、結は荒れ地にしか見えない訓練場を眺めた。少し冷たい風が、歩いて体温の上がった体に心地よかった。



騎士ナイト殿の訓練かー。今から楽しみだなあ」


「楽しんでいる場合ですかっ!生まれてから今まで魔力を使わなかったことがないなんて、いったい」


「それは違うよ、アデル君。彼女は無意識下で魔力も術も使ってる。最たるものが翻訳術だし、緊張したり警戒すると魔力を使って感覚器と運動器の感度を上げてる」



言葉を切り、サイは結の横顔をちらりと窺った。訓練場を見渡す結の目は、まっすぐと何かを見据えているようだった。



「彼女は今まで、異世界に居たんだ。魔力を封印されて」



はっと息を飲み、結に顔を向けるアデルは何か言いたげだったが、サイは構わず続けた。



「黒の三人ブラック・トリニティは、お互いの存在が分かるらしいんだけど、あざを僕の師匠に隠されたせいで騎士の居場所が掴めなくなった。だから、唯一の親族を媒介にして、三か月くらいかけてようやく探し当てたんだ」



語り始めたサイはいつもの間延びした口調ではなく笑顔さえも消え、アデルはその怜悧な横顔から目を逸らせなかった。この変人上司は、たまにこういう表情をする。その度に、アデルは不安に苛まれるのだった。まるで、サイが姿を消してしまいそうで。



「騎士を連れ戻す術はかなり精密なものだったから、一握りの、信用のある魔術師だけが関わった。それでも、封印の解けかけた騎士ナイトの魔力に押し負けて、到着点が大幅にずれてしまった。捜索のための術を展開したら、向こうから居場所を伝えてくれたからすぐに見つけることができたからよかったけれど」


「その数日間で、白の王に私の所在が知られてしまった」



サイの言葉にほっと息をついたアデルだが、続いた結の言葉に冷たい汗が流れるのを感じた。

結が言葉をはさんだことでサイはいつもの調子に戻り、軽い口調で知ってたんだー、と伸びをして見せた。しかし、その瞳の奥は笑っていないことをアデルも結も知っていた。



「ジェラルドの家に匿われて一か月。白の騎士に襲撃されて、フェイスさんのところに避難しました。そこから、こちらに転移術で移動してきました」


「それは……」



何か言わなければ、と口を開いたアデルに必要ないと首を振り、結は踵を返して居住棟に足を向けた。それほど寒い季節ではないが、汗が引いたせいか肌寒さを感じ始めていた。




***



「おはよう、ユイ」



居住棟に戻ると、入り口でジェラルドが迎えてくれた。寒さと考え事のせいでこわばっていた表情は、知らずのうちに緩んでいた。


挨拶を返せばジェラルドは笑って、結の頭を軽くなでた。あっけにとられたアデルに苦笑をこぼすと、XXXが呼んでいた、と同僚らしき人物の名前を伝えた。


慌ててその場を後にするアデルを見送ると、ジェラルドはよく眠れたかと結に聞いた。



「おかげさまで。そういえば、誰が運んでくれたんですか」


「ん?ああ、俺だ。医務室に呼ばれたんで何かと思えば、お前は寝ているわサイとイーディスは喧嘩に走りかけているわで中々面白かった」


「う……、とりあえず、運んでくれてありがとうございました」



くつくつ笑うジェラルドに、容易に想像がついた結は半分呆れながら感謝の意を述べた。構わない、と手を振るジェラルドに、サイが何やら企んでいるような顔で話しかけた。



「ふふふー、呼び立てられて不満げに横抱きしてたねー」


「別に何でもいいだろう。お前らじゃ、おぶうのも大変そうだがな」


「まあ確かにそうだけどさー」



からかうつもりがかわされて、不機嫌さを隠そうともせずにサイが言い募るも、ジェラルドはどこ吹く風という風だった。



「転送術、使えないんですか?」


「んー?うん。城内じゃ、君が到着したホールと何か所か以外は使えないんだよねー」



どうやら警備上の問題らしい。便利な術ではあるが、敵の侵入を許すことになるのはまずいのだ。他にもいくつか制限があるのだが、通常生活にはさほど問題がなかった。


「さ、時間もちょうどいいし、政務棟に行こうか」


サイの一言で、三人は居住棟を後にした。

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