3.戦闘にも才能があります
「フィールドワーク、二ヶ月………」
モノクルが似合う渋面な初老男性は、魔道学園、魔法工学科ダーヴェルト・バルデシー教授だ。
難しい顔で今出した僕の申請書を見てもらってるんだけど……まぁ、何度も言うけど、魔法工学科の生徒はみんな普通に超インドア(重度の引きこもりともいう)で、アウトドアの代名詞みたいなフィールドワークなんて出るわけがない。つまりこんな申請書を出す事がありえないわけで…
「……無理でしょうか?」
「いや…無理というわけでは…」
「ただ…どうするんでしたっけね…」と僕に聞こえるか聞こえない音量で呟いてる教授に一抹の不安を覚えてしまうのは仕方ないと思う。
「え~っと、確か……そうです!学生証を確認しなければなりませんでした!」
「………学生証ですか?」
今度はこっちが?になる番だ。学生証は魔道学園に入学した際に一番初めに貰う魔道具の一つで学科によって様々な形をしている。工学科は指輪の形だ。
学生証の魔道具がないと魔道学園の入口を通れないから生徒は必ずどこかに身につけている。なんでそんな物が必要なのか?よくわからない。
魔道学園は魔法科・魔法工学科・精霊魔法科・魔法薬学科・魔法医療科・魔法学科などかなりの学科があり、学生証はその学科ごとに魔道具の石の色が変わる。ちなみに一番学生の多い魔法科は赤いドーラ石というかなり高価なメジャー石なのに比べて工学科はの灰色のガバデリウム鉱石という超マニアックな石が使われている(マニアックなだけに高価ではある)。まぁガバデリウム鉱石の保有魔力は他の石に比べて圧倒的に多いから魔道具を作る時に実は役立つんだけどね……いかんせん地味なんだよ。
よくわからないけど、とりあえず学生証を指から抜き取って教授に渡す。
「……え~っと、学生証を開示するのはどうするんでしたっけね」
モノクルをした目に指輪を近づけたり離したりしてる姿を見てると、やっぱり不安だ。
「あぁ…思い出しました」
…ほんとにこの人が教授なんだろうかと疑いたくなるけど、いくつも魔道具の新発見をした素晴らしい人なのだ。
「…あれ?起動しないな」
…………えらい人なんだ、多分。ただ今は指輪を壊されないように祈るばかりである
おぃおぃ…何でドライバーとか取り出しちゃってるわけ!?分解とかありえないからね!?
「僕が自分で起動しますっっっ!!!」
指輪を再発行するのにどれぐらいの期間とお金がかかると思ってるんですか!?学費だけでも頭が痛いのに、これ以上の出費とかありえませんから!!
「申し訳ないねぇ~」
ちっとも申し訳なさそうには聞こえないし、早く言ってくれればいいのに的な視線が痛い…けどそんな視線は無視だ。
指輪の石に少し魔力を流す。
「〝情報ステータス 開示〟」
「情報ステータス」とだけ詠唱すると自分だけにステータスが表示されてしまう。なので今回は「開示」を詠唱追加する事で教授にもステータスを確認してもらう事が出来る
「…ふむふむ」
教授が空中に展開されている僕のステータスを顎に手をあてながら次々にチェックしていく。
そういえば、ステータスなんて見たの入学以来かもしれない。
魔法科の生徒はステータスで自分の現在の強さがわかるので多用しているらしいが、工学科に必要なステータスデータなどあまりないのでほとんど確認する事なんてない。特殊スキルが発生したときぐらいだろうか?
「ぷっ…人形狂」とほんとに小さな声で教授が呟いた……しっかり聞こえてますからね!!
「…いやぁ、面白いね~クライシ君のステータスは。実に工学科らしいステータスだ」
…なんだろう?褒められてる気が全然しないって事は貶されてるんだろうか?
「でもねクライシ君」
うん。続きがあるなら聞きましょう…
「君…戦闘スキル0だけど、本当にフィールドワークにいくのかい?」
「……戦闘スキル?」
…なんですかそれ?
「ほらここに記載されてるでしょう?」
教授が指した先には確かに「戦闘スキル 0」と記載されてる。
「…え?」
0?…1でもなくて、ゼロ?
思わず確認の為に手で目を擦ってしまうのは反射だと思う。うん…やっぱり0だ。
「…これって○《マル》とかじゃないんですか?」
「私のを見てみるかい?」
教授が自分のステータスを僕に開示してくれる。
そこには戦闘スキル「52」の文字の後に剣術や攻撃魔法などの羅列がある
「普通でも25ぐらいはあるんだけどねぇ…」
普通って…セントローおじさんでもあるんですかね…25。
「いやぁ…最低限の戦闘スキルは当たり前だし、工学科には必要のないスキルだから授業でも教えてないんだけどね…まさか全く持っていない生徒がいるとは…」
…僕の嫌な珍獣化が決定しました。