1.機械人形《オートマタ》達
精霊石が光る瞳に見つめられる事1時間。人形三体の瞳にはさきほどまで僕が手にしていた精霊石が片目ずつ填まっている。玉兎は都会の店内としょぼい品揃えが珍しいのかきょろきょろと辺りを見回しては「しょぼっ!!」とゲラゲラ笑っている…失礼な奴だ。
煌星はどこから用意したのか優雅にお茶を嗜んでおり……もちろんうちにそんな上等な物はないはずなのに…人形の癖にお茶を飲んでる事にはもうあえて突っ込まない
日鳥はじっとこっちを見続けていて…怖い。
とりあえずは…
「……なんかさ、みんな別れた時よりパワーアップしてない?」
確か…僕が12歳で別れた時のそれぞれのステータス記録が
名前:玉兎
性別:??
種族:風の機械人形
称号:風の精霊
魔法:風魔法・ゲゼレ
HP:9999(82586)/9999(82586)
MP:9999(103729)/9999(103729)
*()内は精霊体での数値
名前:煌星
性別:??
種族:水の機械人形
称号:水の精霊
魔法:水魔法・ゲゼレ
HP:9999(55562)/9999(55562)
MP:9999(172980)/9999(172980)
*()内は精霊体での数値
名前:日鳥
性別:??
種族:火の機械人形
称号:火の精霊
魔法:火魔法・ゲゼレ
HP:9999(136656)/9999(136656)
MP:9999(56721)/9999(56721)
*()内は精霊体での数値
だったはずで……ちなみに僕のステータスと比較すると
名前:ユウ・クライシ
性別:男
種族:人間
称号:人形狂・黒歴史保持・精霊の友達・魔法使い見習い・魔法工学士・人形造形者
HP:116/116
MP:827/827
……このステータス表示には異議を申し立てたい。何故まともな称号が後にあるのか…一番が人形狂とかってどんな危ない奴だよっ!!
それに…僕が激弱なわけじゃないよ?だって一般人のステータスは
名前:セントロー・アルビス(隣のおじさん)
性別:男
種族:人間
称号:一般人・商人・雑貨店主
HP:88/88
MP:68/68
この程度(隣のおじさん…勝手にごめん)だ。つまりどんだけこの人形達が規格外れかわかって貰えると思う。多分ギルド指定SSランクに該当するんじゃないかな?…人形が登録なんて出来ないから正確にはわからないけど…それと精霊体と人形になっての数値が明らかに違うのは、人形の耐久力が彼らの能力に釣り合ってないわけで…僕の技量では頑張って限界突破は3桁までだった。なので彼らのステータスを見るといつも自分の技量不足に泣けてくるのだ。
じゃあ精霊体でいればいいのに…と思われるかもしれないが、こんなに強い力を持った精霊が現世に存在してしまうと世界のバランスを崩してしまう為、すぐに精霊界へと連れ戻される。
例外として精霊体の強さをそのまま現世で使用する為ことも出来るが、それには精霊が人間を器として契約する必要性があり、それが出来る人間は「精霊のいとし子」と呼ばれる存在だけで、数が圧倒的に少ないのだった。それに、その方法でも精霊が常に現世に具現化出来るわけじゃなく、精霊界から呼び出された時だけ現れる形、つまり「召喚術」と言われてるものだけだった。
…じゃあ僕が契約すればいいのに?って…いやいや「いとし子」でもないのにそんな事したら僕という器が壊れてぽっくり死んじゃうから!
彼ら精霊にとっては、僕の機械人形は現世で具現化する為の都合のいいリミッターみたいな物らしい……
で、12歳の時もこんな状態だったのに…現在が
名前:玉兎
性別:??
種族:風の機械人形
称号:風の守護者/精霊第四位
魔法:風魔法・マイスター/水魔法・マイスター/火魔法・ゲゼレ
HP:9999(325687)/9999(325687)
MP:9999(567892)/9999(567892)
*()内は精霊体での数値
名前:煌星
性別:??
種族:水の機械人形
魔法:水魔法・マイスター/風魔法・マイスター/火魔法・レアリング
称号:水の賢者/精霊第三位
HP:9999(228972)/9999(228972)
MP:9999(725664)/9999(725664)
*()内は精霊体での数値
名前:日鳥
性別:??
種族:火の機械人形
称号:火の騎士/精霊第四位
魔法:火魔法・マイスター/風魔法・ゲゼレ/水魔法・レアリング
HP:9999(888123)/9999(888123)
MP:9999(156725)/9999(156725)
*()内は精霊体での数値
「何だこれ!!バカじゃないの!?」
規格外どころか厄災レベル…存在しちゃダメなレベルの数値でしょうが!!
「主にいつ呼んでもらっても活躍出来るように、精霊界でも修行頑張ったんだぜ~。見てくれよ!俺、水魔法も使えるようになったんだからさ。主の事も回復出来るぜ」
そういうと玉兎が左手を僕の方へとかざす。
「えっ!いや!ちょっと待って!!」
風の精霊が水魔法って!!意味がわからないし!!
そしてその結果、玉兎の腕がロケット弾のように僕に向って飛んで《・・・》きて、僕の顔面、真横を通過していく…
「ぎゃーっ!!」
どごぉぉぉん。扉がふっとんだ……これはまさしく着弾。
他の人形が置いてある側じゃなかった事だけが助かった。
「…あれ?腕もげちゃった」
「「もげちゃった!」じゃないわっ!!!ぼぼっぼっ僕を殺す気なのか!?お前の人形は風魔法特化なんだよっ!!他の属性魔法なんか使ったら不可がかかって壊れるの当たり前だろうがっ!!!!」
「あ………てへっ!」
「忘れてた」と可愛く首を傾げる姿が……似合ってるから殺意が芽生える…殺せないけどね!それどころか返り討ち瞬殺だろうけどね!
「主…玉兎のバカ加減は精霊界でも振り切っておりましたわ」
「煌星……」
…嫌な情報をありがとう。
こちらへと微笑んでくれる煌星にも引きつった笑顔しか向ける事が出来ない。「ひでぇ~」とケラケラ笑ってる玉兎はとりあえず殴っておく……「いてぇ~」と笑ってるし……自分の拳が痛くなる無意味な行為だった。
「ですが主、玉兎は単なるおバカなだけですけど、私達にもこの古い体は少し……不便ですわ」
「……え?」
いやいや…待て煌星。
「主…新しい体作って…」
日鳥…やっと喋ったと思ったらなんて事お願いしてくるんだ!
君達の精霊体に見合った人形なんて恐ろしくて造れないから!というか造る技量が自分にあるとも思えないから……あ、ちょっと工学士として悲しくなったよ。
「……とりあえず皆、一旦、精霊界に戻って…」
全て無かった事にしたい。ほんとにしたいっ!
「「嫌だ」「嫌ですわ」「嫌」」
ですよね~って同時に即答かよっ!!
「………」
「「「………」」」
「………はぁぁ」
…新しい体造れって言われても、少なくともあと1回は限界突破させなきゃリミッターとしての役割すらも果たせそうにないし…かといってこのまま各体に憑依させてるといつ魔力が暴発するかわかったもんじゃない。
「百歩譲って体を造ってあげるとしても……見てわかるように、そんな高級な素材この店には無いんだよ」
「どんな素材が必要ですの?」
「…少なくともSランク素材が大量に必要だし」
…そしてそんなSランク素材があれば今は店頭で売りたい。日銭が欲しい…切実に
「Sランク素材なぁ~ちょっくら行って狩ってくっか!」
…聞いた瞬間、頭に「たまや~っ!」と打ち上げられる玉兎が浮かんだ。
「玉兎は…とりあえず黙って座って」
「…?」
手を顎にあて少し考え込んだ様子だった煌星が「そうですわ」と輝いた目を向けてくる
「我らで互いに制御魔法を掛ければいいんですわ」
「…?制御魔法?そんな事出来るの?」
爆発的な魔力を持つ子供に親が制御魔法をかけるのは聞いた事があるけど、精霊どうしがかけるなんて聞いた事もない。
「少なくとも我らが生まれた精霊石がここにはありますから、可能ですわ。精霊石の魔力で、十分自我の維持と機械人形は動かせると思いますわ。順位的に私が玉兎と日鳥に制御魔法をかけ、二人でわたくしにかけて貰えば可能だと思います。ただし…制御出来る時間は限られているでしょうが」
煌星が可能というなら可能なのだろう。この3体の中で煌星は断トツに頭が良いからな。精霊第四位と三位というのも、もしかしたらそういう差なのかもしれない。
「なら…しばらくはそれで対応して欲しい。その間に僕は新しい体の研究をする」
「わかりましたわ。二人もそれでいいわね」
煌星の言葉に玉兎と日鳥が頷いてる。
「なら善は急げですわ。早速制御いたしましょう……まずはおバカな玉兎から」
「ひでぇーー!」
「お黙りなさい。主の頬に怪我を負わせるような精霊に口答えなど許しません」
「え?怪我?」
煌星に言われて初めて自分の頬が傷ついてるのに気づいた。さっきの腕がかすったらしい…
「あー…ごめん主。俺嬉しくてつい…」
「かすり傷だし大丈夫だよ」
…うん。直撃だったら死んでただろうからね、それに比べれば全然だ。
「では玉兎いきますわよ…」
「あぁ…」
煌星が玉兎の右目に手をかざすと、右目の周りに小さな魔法陣が何重にもなって見えた。小さいながらもかなり膨大な魔力量を持つ魔法陣。そしてその魔法陣が回転しだすと、右目にすっと吸収されて消えてしまった。
「終わりましたわ…玉兎、どうです?」
「…あ~確認してみるわ」
名前:玉兎
性別:??
種族:風の機械人形
称号:風の守護者/精霊第四位
魔法:風魔法・ゲゼレ/水魔法・ゲゼレ/火魔法・ゲゼレ
HP:9999/9999
MP:9999/9999
「ん。ちゃんと出来てるぜ」
…驚いたなんてもんじゃない。精霊の力を簡単に封じてしまった。
魔法のクラスが落ちてるのは身体に合わせた物なんだろう。
「…すごいな」
「ふふっ主に褒められると照れますわね。では次に日鳥を…」
煌星は日鳥の左目に手をかざすと、さきほどと同じ魔法陣を展開させる。
「…大丈夫。出来た」
日鳥も確認出来たのか座ったままの状態から立ち上がり、身体を大きく伸ばした。どうやら日鳥は少し動くだけでも危険な状態だったようだ……あ、あぶねぇ。
「では残りはわたくしですわね」
「…あのね、煌星」
日鳥が言いにくそうにもじもじしている
「なんですの?日鳥」
「…精霊の力を封じられると、あたし達じゃ煌星の事…制御出来ないよ?」
日鳥の言葉に固まる煌星……確かに、第三位の煌星であれば第四位の玉兎・日鳥を一人で制御する事は可能で、つまり逆の場合は二人の精霊力でバランスがとれるのに、先に二人を封じてしまえば力不足になるのは当たり前で……
「も……も、盲点でしたわ」
がっくりと項垂れる煌星を見ていると……玉兎といい、どこか抜けてる姿が似合ってしまうのは、僕が作った人形のせいなのか、もともとそういう性質の精霊達が集まってきたのか…と悩むところである。
*マイスター 親方
ゲゼレ 職人
レアリング 見習い




