プロローグ デス・トロイヤー
休みの間に書いてた物を投下します
ガイア帝国の帝都は白亜の城を中心に外壁内に貴族街・庶民街・商店街が区画分けされている。壁の外側には移民達が勝手に居つき、いつの間にか街規模にまでなっている流転街(貧民街)と呼ばれる場所があるが帝都ではこれを街と認めていない。全体的に建物は中世ヨーロッパのような赤レンガ造りの街並みで統一されている。
そんな商店街の大通りから外れた道のさらに端っこにある所々レンガの欠けたしょぼい店があった。
***
「まずい……今月も赤字だ」
何度算盤を弾いてもマイナスになる合計金額に目の前の台帳を見ながらうなり声が出る。どうみても数字の羅列に赤字ばかりが並んでいるのだからあたりまえの結果である
「やっぱカラレリ草の売値が下がってるのがきつい…」
カラレリ草とは回復薬の原料になる草で、帝都周辺の比較的安全な場所に生息しているのだが他の雑草と見分けが付きにくく鑑定スキル中級が必要な為、結構良い値段で売れていた商品だ
「……こんちくしょう、オマーめ」
オマーとはこの春オープンした大通りの魔法チェーン店である。チェーン店というだけあって他の都市にも事業を展開しており、他の都市の特産品やその地元だけの魔法素材を多数扱っている。とある地方の1店舗から始まったらしいが「品揃えは帝都一」をキャッチコピーにとうとうこの帝都までやってきた。そしてそれは紛れも無い真実で衣料食品・日用品から専門的な物までありとあらゆる物がオマーで買える
「…まじ便利すぎ」
もちろん僕も生活する上でお世話になってる。元田舎者としてはこの便利さに打勝つ手立てを持ってない。市場調査にもならないけど……帝都素材のカラレリ草などはうちの卸値の六掛けで大量に店頭に並んでた。
まあ相手も商売なのだから文句を言うべきではないのだが…もうちょっと市場と言うものを考えてくれても…と愚痴るのぐらい許してほしい。それほどこの界隈のすべての個人商店に大打撃を与え続けている店なのである
「勝てる要素がない…」
どうみてもうちの店頭に並んでる品揃えは店構えと一緒でしょぼい…しょぼすぎる。
ここは帝都ガイアの端っこに店をかまえる「魔法問屋 アルメリ商店」。店主は僕、ユウ・クライシ。…クライシって名前だけで「異世界人?」と聞かれる事が多いが、かなり前の祖先が異世界人だっただけで、僕は現在、普通のガイア帝国庶民である。まぁその先祖のおかげで普通の人より保有する魔力量は多いのだけど。
「はぁぁぁぁぁ…」
両親は僕が生まれてすぐに亡くなって、2年前にずっと面倒を見てくれてた祖父も亡くなり、それまで住んでいた村を離れ(色々あったりもするのだが…今はそっとしておいてほしい…)親戚すじにあたるこのアルメリ商店元店主だった叔父を頼ってこの帝都にやってきた。頼った叔父がまさか2年でフィールドワーク中に不慮の事故に合うなんて思ってもみず、いわゆる天涯孤独の身だったりする。まぁ文字にすると不幸で不吉な感じだけどそうでもない。今時何も成さず、帝都に遺産で家を持てるなど、かなり幸せな身分なのだが…
「このままじゃ魔学の学費も払えない…」
そう…僕はまだ15歳で魔道学園の生徒なのだ。叔父さんの店を継いでしばらくはさっき語った草のおかげでなんとかやりくり出来たのだが…
「魔法屋さんもだいぶ潰れたって聞いたしな…」
得意先の魔法屋さんも先月帝都でのお店を閉めて「奥さんの田舎で再出発だ!」ととてもオマーに商戦負けしたとは思えないぐらい、意気揚々と旅立っていった。
「はぁ…オマーが取引先とかだったら左団扇なんだけどなぁ…」
なんて言ってもオマーは独自の採取者や物流ラインがあるみたいで、この辺りの問屋と取引してるなんて聞いた事もない。
先の見えないトンネルに入り込んだようで、先ほどから全然お客の来ない店でため息しかでないのである。
「そういえば…オマーでレジバイト募集してたっけ?」
ふっと思いついたのは学校帰りにオマーの前を通った時に壁に貼ってあったチラシ。
プライドで飯は食えない、そんな物はとっくの昔に遥か彼方へ捨て去っている…というより元より無い!
1.魔法問屋 アルメリ商店
この世界には魔法がある。医療魔法、生活魔法、攻撃魔法など、様々な魔法によって生活が成り立っており、この世界を構成する基盤である事は間違いない。
そんな万能な力を持つように思われる魔法だが、動力源は魔力であり、それを保有する個人の力(魔力量)によって使用できる魔法が決まる。魔力量が多ければより力の大きな魔法を、少なければ魔法を具現化する事は出来ない。
魔力量だけでなく、それぞれに魔力属性・レベル(純度)がありそれによっても使用出来る魔法は限られる。
一般人の平均魔力保有量はそれほど高くはなく「最低限の生活魔法を一日行使出来、2日休む」ぐらいが普通である。それに比べて魔力に特化した人間、僧侶クラス(回復系)・呪術師クラス(攻撃系)・魔術師(補佐系)クラスという括りに当てはまる者の魔力保有量は一般人のおよそ10倍~100倍とされている。その上位クラスに魔導師クラスがある
「魔を統べる者」という通称「賢者」クラスがあると歴史書の中に記載されているが、その存在を公に確認できた事がなく、歴史上の神話とされており能力値は未知数である。
もちろん一般人の「1日働いて2日休む」などで生活が成り立つわけがなく、それを補助するものとして存在するのが魔法屋である。
魔法屋では魔法に関する商品「魔石」や「魔道器具」、「魔法陣」を取り扱っている。
魔石はそのまま魔力補助の道具であり、本人の魔力増加を助ける物。ただし自分が持つ魔力属性と同一の魔力のみ増加可能で他属性の石を使用すると自分の属性を弱体化するというペナルティがある為、進んでそんな事をする者はいない。
では他属性の魔法を使用する場合使われるのが「魔法陣」である。この「魔法陣」は各属性アイテムを紙媒体に描かれた魔法陣によって各魔法を実行させる道具である。「魔道器具」は「魔法陣」と同じ原理で媒体がそれに見合った物に変わるだけである。
魔法屋は魔力の少ない一般人でも魔力制御の出来た店舗さえ確保出来れば営業許可が下り、営業出来る。そしてその魔法屋へ各属性アイテムや魔道器具とよばれる物を卸しているのが魔法問屋であり特殊営業許可証が必要な店である。そしてアルメリ商店はこれに属する。
だが、何度も言うがプライド同様、特殊営業許可証だけでは飯は食えない。魔法屋や魔法使い達の需要に応えてこその魔法問屋であり、飯の種なのである。
「はぁ~。このままだとうちも潰れちゃいそうだし…フィールドワーク考えないとダメだなぁぁぁ」
いかんせんまだ学生の身なので今までまともにフィールドワークなんて出た事も無い。同じ魔学の生徒にはギルドに登録して長期休みなどの空いた時間にフィールドワークに出向いたりしている生徒もいるらしいが…
「魔道工学士がフィールドワークなんて聞いたことがないし」
魔道工学士とはその名の通り魔道工学専門の分野であり、魔道器具の開発など全ての分野を工学の観点から見る学士である。フィールドワークに出ている者達は将来、騎士や冒険者になる者達がほとんどで、僕とは明らかに体つきからして違うし、同じクラスの魔工学科の生徒がフィールドワークに出たなど聞いたことが無いし、基本皆引きこもりにちかい…授業にさえ出てくるのが奇跡と言われる兵もいるぐらいだ。
そんな真性後方支援部隊が普通の戦闘パーティーに入る事など出来るわけがない…よってギルドで誰かのパーティーに便乗する案も却下される…
「……やばい、選択肢がなさすぎる」
……かといって、手立てが無いわけでもない…………極力やりたくないだけで。手を伸ばした先にある普通の鞄を手元に引き寄せる。見た目は普通の鞄でも実はマジックアイテムで中は特殊空間となっており、無限大にアイテムが入れられる。これが実は一番嬉しいじいちゃんからの遺産かもしれない。
「…やりたくないなぁぁぁ」
ため息をつきながら鞄に手を入れる。
「玉兎・煌星・日鳥」
言葉とともに手の平に三つの丸い物体が現れた。これは所謂精霊石というものであり、その名の通り精霊の宿る石である。
「……はぁぁぁ」
精霊石を持って突っ伏していた机から立ち上がると、店舗部分、住居スペースのさらに奥にある僕的に「黒歴史」と名づけられた自分の作業部屋へと向かう。
その名の通り僕の暗黒歴史が詰め込まれた部屋なのだが…
ガチャ…
「お邪魔しま~す」
部屋に入って目に映るのは所狭しと置かれた人形達…男の部屋に大量の人形…しかも等身大…痛い…痛すぎる。今の弱った自分にこの空間は、ココロが耐えられそうに無い
「…やっぱりやめておこう」
部屋を出ようとノブに手を掛けて気付いた
「あれ?精霊石が?」
手の中にあったはずの精霊石が忽然と消えており…そのかわりに聞こえてくる背後からの声。
「…それでなくてもなかなか呼び出してくれないのに、そのまま戻るとかひどくない?」
「ぎょっ…玉兎!」
ギギギと効果音が付くように振り替える先には、さっきまで眼を閉じて立てかけられてたはずの白髪碧眼、頭の上にはぴょんと長い耳の立つ少年人形が仁王立ちになっており……
「玉兎、仕方ありませんわ…マスターはとても恥ずかしがり屋さんですから」
「……煌星」
玉兎の後から金髪青目、頭の上には狐耳のビスクドールのような少女人形がゆったりと歩いてくる
「…………」
「…日鳥、ごめん。悪かったから…」
遠くから三角座りでじっとこちらを伺ってくるのは赤髪赤目、頭には何も無いが目の周りを赤い色で大きく縁取りされている特徴がある少女人形。
(…や、やばい。やっぱりこの部屋に近寄るんじゃなかった…)
この人形達は暗黒歴史の名の元に僕が作った魔道人形達である。10歳の僕は自分の魔力の実力の無さを「それならそれを補う物を作ればいいんじゃね?」なんて何をとち狂ったのかこの魔道人形を造ってしまった。「僕って天才かも!?」なんて高笑いしてた自分を殴りとばしてやりたい…なぜならその人形達のせいで胃を壊した事10回。12歳で吐血して倒れた時には自分の口から溢れる血を見て「生まれ変わったら人形の居ない世界に行きたい…」なんてダイイングメッセージを残したつもりが……
「……マスター顔色が悪いですわ。回復いたしましょうか?」
水の精霊、煌星によって完全回復され…
「何だまたいじめられたのか?俺がぶっとばしてやるよっ!!」
やめてくれ………村で僕をいじめていた子供(12才程度の悪ガキ)の家を跡形なく全壊させたり……(もちろん後で魔法によって完全復元したけれど…悪ガキ一家はすぐに引っ越していった…)…ぐはっトラウマが蘇って胃が痛い。よく考えてほしい「これに懲りたらマスターに手を出すな」なんて、全壊した家を背景ににやりと笑う玉兎、僕といじめっ子+その家族のあんぐりと開いた口がふさがらなかったのは言うまでも無い。僕はどこの悪役だ…
村でのあだ名は「デス・トロイヤー」(本人トロい癖にあいつをいじめるとデスキャラが現れるの意味)……誰かに話しかけるたびに「ひぃぃぃぃ!」と老若男女全てに逃げられる………全く嬉しくない。おかげでこっちも対人恐怖症で未だに友達ゼロだ…。
「…とりあえず」
(頭と胃が痛くなるから)
「玉兎は落ち着いて座っててくれ」
「うぃ~っす」
「…………」
「…日鳥?」
…あいかわらず日鳥は何を考えてるのかわからないが、村でブツブツ「カロン(いじめっ子の名前)ノロウ、ノロウ」と呟いていたのを知っているので…一番怖い。
………どうして僕は帝都に来たときに封印した(12歳が命の危機に、お願いして精霊界に戻ってもらった)彼らを解き放ってしまったのか……帝都に来て3年、平和ボケしていたとしか思えないのであった。