最終話『TRUE END 』
「皆本当によくやってくれた。特にユウキちゃん。ありがとう。まあ堅苦しいのはこの辺にして乾杯! 」
俺は身体が百歩譲っても成人には見えない幼女だから、酒は貰うことが出来ずにオレンジジュースをちびちびと飲んでいた。
回りから、相変わらずギルドへの誘いを受けるがオークション前に嫌がっていたのを見てしつこく勧誘してくる人がいないのは嬉しいことだ。
一人除いてだが……
「ユウキしゃん。うちのギリュドに入ってよ~。皆じぇったいに喜ぶからしゃ~」
呂律の回っていないスノーさんである。
そばを見ると既に空き瓶が何本か転がっている。
まだボス討伐の打ち上げが始まってから一時間もたっていないんですがね。
「スノーさん。何度も言いますが、俺はやっぱりギルドに入る気は無いので……。でもパーティーの方は誘われたらいつでも参加しますから。」
「う~。ユウキちゃんのいじわりゅ~」
さっきから断ってしばらくすると再び誘ってくる、の繰り返しである。
なんと言うかおもちゃが欲しくてごねる子供のようだ。
因みにそんなスノーさんを見て、回りの男性陣がこちらを見て身悶えてるのは秘密だ。
俺たちの近くで名無しさんと女性(確かどこかのギルマスのフレシアさんだっただろうか……)が話していた。
「そういえばエクシズさん。 E i servi sono legati con Castillo の意味、ご存知ですか? 」
「えーと何だ? それ」
名無しさんそれ忘れちゃうんですか?
確かシステム外ボスだったはず。
それについての大事な話をしたはずなのに忘れてるって……
「エクシズさん。まさかこんな大事なものを忘れるなんて……。 E i servi sono legati con Castello。何らかのバグによって出現した、作られていないボスのことです」
「あぁ。上位AI を乗っ取ろうとしてるやつか」
なんと言うか名無しさんも酔っぱらってるのか普段に比べるとキレが無い希がする。
「それで、そのボスの名前の意味が分かったのです」
「聞かせてもらおう」
名無しさんの感じが急に変わったな。やっぱり切り替えがはっきりしているのだろう。
システム外ボスの名前の意味か……
「名前の意味と言ってもただ日本語に訳しただけなのですが、城と結ばれし者」
城と結ばれし者……。
その言葉を聞いて俺の頭から忘れ去られた記憶、いや忘れようと、無かったことにしようとしていた記憶を思い出した。
あのとき車に跳ねられそうな子供を助けようとして、俺が跳ねられたこと。
それによって俺が……死んでいたこと。
以前少しだけ話しただろうか。
俺の名前、女の子みたいで少しだけ恥ずかしい名前のことを。
ユウキ。城を結ぶと書いて結城だ。
そして一番重要なこと。
おそらく、システム外ボス E i servi sono legati con Castelloが作られた何かの理由。
それが俺なのだろう。
俺がこのゲームに入ってしまったことから連鎖的にシステム外ボスが出現したのだろう。
「スノーさん。大事な話があります」
「ギルドにはいってくれるの? 」
スノーさんは酔いが少し覚めたのだろう。ゲームって素晴らしい……
「その、もっと大事な話です。ここでは話しにくいので外までいいですか? 」
「うん。いいよ」
スノーさんに返事をもらい建物の外に出る。
人気はなく秘密の密談をするにはもってこいだ。
「スノーさん。多分というかほぼ確実にデスゲームになってしまった原因が分かりました……」
「本当に! 早く名無しさんに伝えにいこうよ。きっと何か良い方法があるかもしれないし」
スノーさんがさっきまでの酔いなんか無かったかのように喜び跳び跳ねていた。
「どうすればいいのかも、分かってるんです……。俺が、死ねばいいんです」
彼女の顔から笑みが消える。
「えーと、ユウキちゃん。どういうこと? 」
「さっき、名無しさんたちが話しているのを聞いていたんです。システム外のボスのことを話していました。その話を聞いて思い出したことがあるんです。俺……忘れてたのか、忘れようとしたのかは分かりませんが、ゲーム発売の一週間前。自動車に轢かれました。」
「だ、だからってユウキちゃんが本当に死んじゃったかも分からないし、もし死んじゃってたとしてもユウキちゃんが原因かなんて分からないよ! 」
スノーさんが必死に俺の話を否定しようとしてくれる。
「城と結ばれし者……システム外ボスの名前の意味です。それで俺の名前は城を結ぶと書いてユウキです。俺はスノーさんに会えて嬉しかったです。リューさんにも、名無しさんにも、ターロスにも。でも皆がいつか死んじゃうかも知らない。それに今も俺のせいで死んでいく人がいるかもしれれない。俺は車に轢かれたとき、子供を助けて死にました。どうせ死ぬなら人のために死にたい。俺は今から森にでも行って来ます。スノーさん、本当にありがとうございました。」
そう言って俺は歩き出す。
我ながら臭いセリフだな。
そういえばターロスとのコスプレの約束、守れないな。
『速報です。本日発売された世界初のVR 技術を使ったテレビゲーム″神々のベネディクション″内で起こった、ログアウトが出来なくなりまたゲーム内で死亡すると現実でも死にま至る等といった不具合が先程改善されたそうです。死亡者は一人もいないそうです。なお未だに起こった原因は不明で現在原因の究明中とのことです。』
最後までご覧頂きありがとうございます。
この終わりについてはプロット段階から決まっていたものですが、本当にこんな終わらせ方をしていいのか。
などと思い一度はこの話を投稿せず普通に今まで通り書いていこうかも迷いました。
しかし自分の中にこの話を考えていた時点で主人公補正なんてものはつけないと決めていました。
きっと多くの作品では最後まで戦い抜いて自分も回りの人も救うのでしょう。
しかしそれは主人公補正の賜物であって、一般の人ができる最も成功率の高い方法は? と考えたとき自分の中に思い付いたのはこの方法でした。
神々のベネディクションを最後までご覧頂き本当にありがとうございました。