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第九話 いざ行かん。購買部へ。

受験勉強の合間に・・・

はかどらない・・・・

「昨日の亮二の反応はなんだったんだ?複雑そうな顔をしていたなぁ。・・・もしかして糸目野郎が命の恩人だったり?なんて。そんなわけないよな」


 昨日亮二と別れ、自室に戻った魔王は、とりあえず意味のない睡眠をとり、昨日の亮二の表情の意味を考えていた。


「なんだっけなぁ。なんとなく思い出せそうなんだが・・・二文字だったような・・・れ、れ・・?レン?いや、なんか違うな。まぁいいか」


 めんどくさがりな魔王はすぐに考えるのを放棄し、自室を出た。やけに家の中が静かで何かあったのか?と思い、近くにいたメイドに訪ねた。


「ねぇ」


「はい?なんでしょうか」


「やけに静かじゃない?亮二、詩織ちゃん、沙苗ちゃんは?」


「当主様はお仕事へ。お嬢様と沙苗は学校です」


「へ・・・?」


 まさか自分だけ置いてかれた!?だが、いつもなら沙苗ちゃんが起こしに来るのに今日に限って来ないなんて・・・そんな考えが頭によぎり、


「沙苗ちゃんって俺んとこ来た?」


「はい。確かに訪れておりましたが、貴方の反応がなかったので帰ってきたそうです」


 確かに沙苗は魔王の部屋に訪れていたが、魔王は昨日のことをずっと考えていたので聞こえなかったのだろう。まずいことをしたな。


「あ~・・・沙苗ちゃん何か言ってた?」


「いえ。何も言ってませんでしたよ」


「ふむ・・・ところで朝食はもう・・・ないよね?」


「はい」


「ですよねー」


 いい笑顔のメイド。だが、別に食べなくても生きていける魔王はそこまで気を落としていなかった。


「ですが、はい。どうぞ」


「ん?これは?」


「先程私が作ったものです。お口に合うかどうか・・・」


「なんと!ありがとうね」


「いえいえ。どういたしまして」


「ところで君の名前は?」


「私ですか?では改めて。ここのメイド長をしております。如月アリスと申します」


 アリスと名乗ったメイドは優雅にスカートの裾を少し上げ、一礼。無駄のない洗礼された動きだった。髪はブロンドで上にまとめ髪留めでとめている。


「ハーフ?」


「そうですね。父がイギリス人で母が日本人でした」


「ふむ」


 一瞬、でした?と聞きそうになったが、なんとなく察し、言い止めた。場の空気を壊すようなことは言わない魔王。


「・・・聞かないのですか?」


「ん?ああ。なんとなく察してるから。別に言わなくていいよ」


「はい。ありがとうございます」


 手をヒラヒラさせながらその場から去っていった。





「朝食の危機?は去ったけど・・・こっから学校って遠いんだよな。あ~・・・アリスさんに車出してもらえばよかったかな?」


 失敗したな。と思ったが、


「あ、使い魔で行けばいいじゃん。そうだ。そうしよう」


 一度自室に戻り、身長を縮め、制服を着る。部屋の窓から上へと飛び上がる。

屋上に着き、使い魔を呼ぶ。


「使い魔一号~来て~来て~」


 なんともやる気のない声を出し、使い魔を呼ぶ。程なくして、向こうから鳥が飛んでくる。巨大な翼を羽ばたかせ、魔王の隣に止まり、魔王は鳥に飛び乗る。


「よっこいしょ。さて、あそこに見える学校に向かって。・・・結構遠いな。あ、俺途中で飛び降りるからその場解散ね」


 こくりと頷くと、大きな翼を羽ばたかせ、大空へと魔王を乗せ飛び立つ。


「おお~。楽だね~。みんなも鳥に乗って登校すればいいのになぁ。無理か」


 呑気なことを考え、空の旅を楽しむ。楽しい時間はあっという間に過ぎ、だんだんと校門が見えてきた。


「よし。ここでいいか。じゃ。また頼むよ。使い魔一号くん!」


 魔王はあろうことか、上空600メートルからのスカイダイビング。いきなりの出来事で焦った鷲だったが、先程、主が行っていたことを思い出し、そのまま旋回。帰っていった。


「おおおおお!着地!」


 ズドン!という音はならず、着地する。運良く、その場には人がいなかった。そのまま何もなかったような顔をし、学校へと向かった。





 なんとか間に合った魔王は席に着き、一息。


「不知火様。間に合ったのですね」


「あ、沙苗ちゃん。・・・怒ってる?」


「いえ。別に・・・遅刻すればよかったのに」


「・・・・・聞こえてるよ?」


「はて?」


 そのまま沙苗は自分の席へと戻っていた。


「おい。転校生」


 その直後、後ろから声をかけられた。


「ん?どうした?」


「白河さんと知り合いなのか?」


「え?まぁそんなところかな?ところで君は?」


「俺は白石兼太(しらいしけんた)。よろしくな!」


「うい。俺は不知火隼人」


「隼人もやっぱり白河さんが気になるか?」


「え?」


「スタイル抜群!勉強もできて運動もできる。まさに文武両道を体現したかのような存在だよ!」


「お、おお?」


 兼太の勢いに怯み、曖昧に返事する。それからというもの、兼太は勢いに乗り、あれやこれやと話を続ける。だんだん飽きてきた魔王は半分聞いて、半分無視していた。


「聞いてるのか?」


「ん?ああ。聞いてるよ」


「そうかそうか。あ、でももうすぐチャイムが鳴るな。って次は移動授業じゃん!ヤバい!早く行くぞ!」


「え?移動授業だって?」


 聞いたことのない単語が出てきてよくわからないという顔をする。と、そこで助っ人が現れた。


「隼人さん!早く行こ?」


「おお。詩織ちゃん。助かったよ!で、どこに行くんだって?」


「第三講義室だよ!」


 よくわからなかったが、詩織についていくことにした。すると、後ろから健太が喚いてきた。


「な、な、なんでお前と二階堂さんが名前で呼び合ってるんだ!?」


「え?名前で呼び合うって普通じゃないの?」


「いや、だってお前、二階堂さんってお嬢様だぞ!?それに学校で一位二位を争うほどの美少女!」


「・・・だから?」


 兼太の行っていることがいまいちよくわからない魔王は、とりあえず兼太をほっとき、詩織、沙苗と一緒に歩いていく。すれ違う人々からは驚愕な表情や、殺気が放たれた。殺気は男子生徒からだ。


「なんで殺気を向けてるんだ?」


「さぁ?気のせいじゃない?」


 とりあえず気にせず講義室へと向かうのであった。







「やっと授業が終わったね~お昼だよ!隼人さんお弁当は?」


「・・・あ、しまったな。忘れちゃったよ。アリスさんに朝飯もらったとき言えばよかった」


「メイド長?」


「うん。朝ごはんはもらえたんだけどね」


 苦笑する魔王。とりあえず購買へ行けばいいんじゃないんでしょうかと提案する沙苗。なら行ってみるか。と購買へ足を運ぶ。


「うわっ!人多いな」


「お?隼人も購買?」


「兼太か。そうだよ。今日は弁当を忘れちゃってね。で、これどうやっていけばいいの?」


 目の前には人だかりが出来ていて、とてもじゃないが、入りにくかった。


「・・・出遅れちゃったな。だが、行くしかない!」


 兼太は意を決して人ごみの中へ入る。が、程なくして人ごみの中へ沈み、消える。途中で見えたグッドの手の意味は何を示しているのか、大体魔王は察した。


「んじゃ、俺も行くかな」


「お?隼人くんじゃないか!」


 行こうとした瞬間、また声をかけられた。振り向くと、茶髪のツインテールが見えた。


「えっと、あ・・・朝霞燐?」


「That's right!よく覚えてました!」


 頭を撫でられた。


「で、不知火くんは行くのかい?」


「うん。じゃ、行ってくるね~」


「健闘を祈る!」


 燐は敬礼し、魔王を見送る。そのまま魔王は人ごみの中へと入っていく。潰されるのかと思ったが、流れに乗り、前へと進む。人の間にうまく体を入れ、前へ前へ。途中でなにかが倒れていたので、一応助ける。


「う、う~ん・・・って隼人!?」


「よう。兼太。んじゃ。またな」


「ちょ、おわっ!」


 兼太はまた人ごみに潰され、魔王前へと進み始める。ようやく売店の前へと付き、焼きそばパンとメロンパン、コーヒー牛乳を頼み、戻ってきた。


「ふぅ」


「おお!すごいね不知火くん!よく売店まで着けたね」


「余裕。・・・お?兼太も帰ってきたな」


「ぐふっ・・・やっと着いた」


 兼太も帰ってきたので、三人で一緒に教室へ戻る。そのあと、詩織と沙苗も混じって屋上へ行き、昼食をとる。その時、兼太が発狂していたのを殴って止めたのもいい思い出だ。




「じゃあ私部活あるから。隼人くんもくr・・・っ!」


 ズキン!と燐の頭に痛みが走る。なぜか、隼人を部活に誘えない。


「ああ。俺は見ているよ」


「そ、そう?じゃあ行ってくるね」


 燐は走って部活へと向かう。


「隼人さん。部活見に行くの?」


「詩織ちゃんも行くかい?」


「うん!沙苗ちゃんも行こう!」


「・・・分かりました」


 渋々だが、沙苗も了承し、3人で陸上部へ見学に行くことになった。




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