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第六話 部活、買い物ついでに使い魔。

 魔王の自己紹介と、二人の絶叫が響き終わり、席に着く。一時間目は魔王への質問タイムということで色々と質問された。どこの出身か、どこ高校だったのか、など、受け答えが大変だったが、1%の真実と、99%の嘘を混ぜ、なんとか凌いだ。


「来た!ショタ来た!」


 ようやく質問が終わり、机に突っ伏そうとした瞬間、後ろからまた絶叫が聞こえた。振り返った先には茶髪のツインテールがそこにいた。


「どうしたツインテール。それとショタとはなんだ?」


「いきなり髪の特徴で呼ばれた!私は朝霞燐(あさかりん)!陸上部所属です。よろしくね!」


「お、おお。よろしく。で、ショタってなんだ?」


「あ、不知火さん。校舎の中分からないだろうから一緒に周ろう?」


「隼人でいいよ。詩織ちゃん。あとショタってなんだ?」


「お嬢様。危険ですので私も同行しましょう」


「沙苗ちゃんもか。ねぇ。聞いてよ。イジメ?それともただ単にスルーしてるだけ?」


「危険?そういえば隼人さんはなんで小さくなったの?」


「気合。ってよく気がついたね。詩織ちゃんなら気づかないと思っていたのに」


「さ。まずは一階から行こう」


「聞いてよ」


 意気消沈した魔王の襟を掴み、引きずっていく沙苗。途中で復活し、並んで歩いていく。この学校は五階まであり、ひとつずつ回り、またさっきの教室へと戻ってきた。


「あ~!不知火君!どこに行ってたの?」


「・・・さっき近くで校舎の中を見てくるって言ったような」


「・・・そうだっけ?」


「・・・・」


「ま、まぁ気にしない気にしない!それよりさ、部活やってみない?」


「部活?」


「そ。部活。今日の授業が終わったら待っててね」


 そう言いながら席へと戻っていった。魔王は部活ってなんだ?と思いながら今日の授業を受けていた。





「よっしゃー!!今日も授業が終わったぞ!!さぁ不知火君!行くよ!」


「・・・?行くってどこに?」


「グラウンド!待ってるよ!」


 燐はそう言いながら去っていってしまった。残った魔王はどうすればいいのか困惑していた。と、その時、詩織と沙苗がやってきた。


「どうしたの?隼人くん」


「ん?ああ。詩織ちゃんと、沙苗ちゃんか。いや、さっき朝霞・・・なんとかっていうツインテールの人にグラウンドへ来いと言われててね。さて、どうしたものかと」


「行けばいいじゃないですか?」


「いや、その【ぶかつ】?といったか?そのようなものがよくわからなくてね。どうしたらいいのかとか、何を持っていけばいいのかと思っていたところだよ。」


「ああ。部活ですね。まぁ所謂体育だと思っていいんじゃないんでしょうか?もっとも、部活の方が厳しいですが」


「ほお!なるほど。さすがは沙苗ちゃん。物知りだね!」


「常識だと思うけどなぁ」


「常識ですね」


 二人の一言で撃沈した魔王は両手をつく。が、すぐに起き上がり、凛が待っているグラウンドへ向かった。




「遅~い!!いつまで教室にいたの?」


「ゴメンゴメン。ちょっと落ち込んでてね」


「?まぁいいや。じゃ、まずは準備体操して!」


「うい」


 魔王は体育の時と同じように準備体操を始めた。


「なぁ」


「ん?」


「陸上部って君一人なのかい?」


「いや、みんなは向こうで走ってるよ」


 確かに奥の方で走っていた。なるほど。あれが陸上部という部活なんだな。と魔王はまた新しい知識を増やしたのだった。



「まずは50mのタイムを測ってみよう。私がよーいドンって言ったら向こうに走るんだよ?って、そういえば体育着はどうしたの?」


「まだもらってない。故に制服のままで」


「う~ん・・・まぁいいか。んじゃ行くよ。位置について。よ~い、ドン!」


 合図があった瞬間、魔王は腰を低くした状態で地面を蹴り上げる。地面は抉れ、魔王はその勢いで前へと進む。


「・・・・へ?」


「で、タイムは?」


「に、二秒五二・・・・」


「ふむ。このくらいか」


 魔力は付加させず、純粋な身体能力で測った。が、やはりタイムがおかしかった。凛は魔王とストップウォッチを交互に見ながら、


「つ、次はこの鉄球を投げてみようか」


「投げればいいのか?」


「・・・投げ方分かる?」


「前に一度だけ亮二と見たことがあるぞ」


 亮二?と燐は首をひねるが、まぁ見たことがあるならできるだろう。そう思っていた。と、同時に何か嫌な予感が頭をよぎる。


「えっと、確か、こうやって振りかぶって・・・」


「ってちょっと待ったああああ!!」


「ん?なんだ?」


「なんだ?じゃないわよ!そんな投げ方したら肩が外れるよ!!」


「そうなのか?」


「まったく・・・これは止め。次は槍投げに行きましょ」



「まずは私が手本を見せるよ」


 最初に手本を見せればなんとかなるだろう。そう判断した燐は槍を持ち、自分が実践する。


「・・・どう?これで分かった?」


「ふむ。槍を投げればいいんだな?」


「そうだよ」


 魔王はプラスチックでできた槍を持ち、燐と同じように構える。やはり燐はまた一種の嫌な予感に駆られる。


「よっこら、せ!!・・・あ」


 助走をつけた魔王は槍を全力で投げる。そう。全力で投げて(・・・・・・)しまった。槍は高速回転し、普通は出ない音を出しながら飛んでいくが、ジュ!という音がした瞬間、槍は跡形もなく消えた。


「あ~・・・あれか?空気摩擦で燃えちゃったのかな?」


 魔王はやってしまったという感じに苛まれる。ふと隣を見てみると、燐が頭を抱えて


「これは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だこれは夢だ・・・」


 と、連呼していた。魔王は一瞬引いたが、これは自分のせいだと分かると、何とも言えない気持ちになった。その時、ある言葉を思い出した。確か亮二と話をしていた時だ。


『学校に行くのはいいけど、常識の範囲内で動いてね?じゃないと大変な事が起こるから』


 今がその大変な事なのだろうか?焦った魔王は


「すまない。これは見なかったことにしてくれ」


「これは夢だこれは夢だ・・・へ?」


 燐の頭に手を置き、呪文を唱える。すると燐は糸が切れたように倒れた。


「すまないね。俺を部活に誘ったという記憶を消させてもらったよ」


 ぐったりと倒れた燐を持ち上げ、陸上部員のところまで行き、体調が優れないらしいから保健室へ連れて行くね。と言い、保健室で寝かせた。


「すまないね。また今度色々教えてよ。・・・陸上部には入れないけど」


 そう言った魔王は保健室から出る。


「あ、隼人くん。終わった?」


「ん?ああ。もう帰っていいって」


「なら一緒に帰ろっか。あ、はいこれ」


「ん?なにこれ?ってうわっ!大金じゃないか!」


「お父さんが軍資金だって。これで生活用品を買いなって言ってたよ」


「なるほど。亮二には世話になりっぱなしだな。今度何かしてやるか。で、沙苗ちゃんはどうしたの?」


「ここにいます」


「うわっ!」


 いつの間にか詩織の後ろに立っていた。


「そこにいたのか。まぁいいや。とりあえず日常品を買いに行こうかな」


「あ、私も付いていったほうがいい?」


「頼めるかい?」


「任せてよ!」


「お、お嬢様。あなたのお手を煩わす訳にはいきません。私が行きましょう」


「ぶ~。そうやって隼人さんを独り占めにするんだ」


「そういうわけではありません。ただ、この前のことがあったばかりですので」


 沙苗はナンパのことを思い出していた。またあの時のような失態はしたくないし、詩織の安全を確保したい。それに、詩織をこの危険な男から一刻も早く遠ざけたいという思いもあった。


「なら一緒に行こう!それでいいでしょ?ね。沙苗ちゃん」


「し、しかし・・・」


「今回は隼人さんもいるんだから。ね?」


 チラりと魔王の方へ顔を向ける。今は魔王の身長の方が低いので見下ろす形になる。と、その時、ちょうど魔王と目があった。魔王はまた早苗に向かっていい笑顔でサムズアップした。イラっとしたが、今回の魔王は小さかったので無邪気な子供が純粋に笑顔を向けていると錯覚した。


(か、かわいい・・・)


「どうしたの?沙苗ちゃん」


「!い、いえ。なんでもありません。さ、行きましょう」


 恥ずかしさを紛らわせるため、ズカズカと先へ行ってしまった。


「待ってよ沙苗ちゃん!」


「・・・なぜ手をつなぐ?」


「え?小さい子は迷子になりやすいからに決まってるでしょ?」


 この体のせいかー!!と魔王は頭を抱えるがこんなことをしててもしょうがないと思い直し、成されるがままに手を引かれ、ついていった。





「よし。これでいいだろう」


「随分買い込んだね」


 魔王の手には大量に買った日常用品がぶら下がっていた。いくつかの店を周り、買い漁った結果、多くなってしまった。


「とりあえず家に帰ろう。荷物を置きたいよ」


「そうだね。じゃ帰ろうか」




「あ、詩織ちゃん。ちょっと俺出かけてくるからね」


「あ、分かりました」


 魔王は一旦身長を戻し、外へと出かけた。空中に浮き、北へと飛んでいった。


「使い魔が欲しいな。とりあえず、飛行系、水中系、あとは・・・いいか。まずはそれぐらいだ」


 広い場所に出た魔王は魔法陣を展開する。すると巨大な鷲が魔王目掛けて飛んでくのを魔王は回避する。大体2m以上ある。


「ほほう。生きのいい獲物が釣れたね!よし決めた。こいつにしよう」


 魔王は術を結ぶ。


「【ここに誓え。その身を我に捧げ、我に仕えよ!】ってね。まぁこれは強制力はないよ。相手が嫌だったらレジストするし、さて、どうなるかな?」


 鷲の周りに青白い光が集まり包み込む。すると、鷲はおとなしくなり、魔王に頭を垂らした。


「む?おお。成功したか。よかったよかった。んじゃ、解散!」


 鷲は羽を広げ大空へと飛んでいった。


「さて、次は海か」




 次にやてきたのは大海原。夕日が沈みかけていて、とても神秘的だった。


「さて、何が出てくるかな。・・・お?」


 ザッパン!と海から跳ね上がったのはなんとシロナガスクジラだった。


「ちょっとでかいかな・・・?まぁやってみるか」


 先ほどと同じ呪文を使うが、効いてないのか、鯨は海へと帰っていった。


「やっぱり無理か。さて、次だ次」


 しかし、何度やっても失敗ばかりだった。しびれを切らした魔王は強力な魔法陣を海に放つ。すると、海から鮫が襲いかかってきた。


「・・・これが最後だ。頼むぞ」


 鮫は魔王を食い殺そうと。魔王は鮫を使い魔にしようと。二人の意思が激突した。


 青い光が鮫を包み、契約は成功した。


「・・・ふぅ。ようやくか。疲れた。帰って寝よう」


 魔王は家に帰宅し、何事もなければ部屋に入って休むつもりだった。


「不知火様。覚悟してください」


 しかし、現実はそうもいかなく、沙苗が玄関の前で刀を構えていた。


「・・・あ~」


 一言しか出ない魔王だった。




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