第十四話 異変の始まり
鷲と鮫は魔王から魔力のバックアップを貰っているので、多少の無茶は融通が利きます。例えば鮫は数時間空中に浮けたり、鷲は数メートル海中に潜れたりなど。
日向を家に贈りいざ、家に帰ろうと足を勧めた時、魔王は嫌な予感が頭をよぎる。何故この世界に魔物の気配がするのか?魔王は急いで気配のするほうへと走っていった。気配がするところはここからでは遠く、使い魔を呼ぶことにした。数分後、空から一号がやってきた。
「一号。北に10km。頼むぞ」
走りながら一号に飛び乗り、目的地へと一気に飛んでいく。いつもなら飛行を楽しんでいる余裕があったが、今回は予想外な事態のためにそんなことをしている暇はなかった。使い魔の背中を少し叩き、速度を上げるよう指示する。それに応えるよう、速度を上げる。
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか。・・・どっちでもいいんだけどね」
数十分程度で目的地についた魔王は辺りを見回す。そこはなぜか見慣れた光景で、目の前には海が広がっていた。
「・・・ん?なんだったっけ?・・・・・ああ!そうだ。二号か!」
この海は二号と契約した海だった。なぜかここから魔物の気配がするので、一度二号を呼ぶことにした。水面を叩きながら呼び出す。
「二号ー。早く来て~」
一号と同様。間抜けな声を出しながら呼びかける。すると、奥から巨大なサメがやってくる。二号は主の近くまで行くと一号と目が合う。その瞬間、二号は一号を喰らいつくそうと飛び上がり、一号はそれを叩き落とそうと迎え撃つ。いきなりの出来事で魔王は驚いたが、どうにか二匹を止めようとする。
「ちょ、お前ら落ち着け。いいか?コイツは一号。仲間だ。分かったな?一号もだ。コイツは二号。ったく。仲良くしろよ・・・」
魔王は二匹に言い聞かせるように言い、場を抑えた。その後、魔王は二号にこの近くに魔物がいるかどうかを聞く。理解したのか、二号は奥深くまで潜り、何かを加え、魔王の傍に置いた。
「・・・これは・・・ワーム?キモいな」
二号が魔王の傍に置いたものは、水の中でおそらくふやけてしまったのだろう直径が一mほどあるワームだった。緑色で、さすがの魔王も嫌悪感を抱く。が、それも一瞬のこと。すぐにこれは異常事態だということを悟り、現状を調べようと行動に出た。
「二号。これを見つけた時間と場所は?・・・そうか。いきなり目の前に出てきたんだな。同情するよ・・・」
二号は悲痛の声を魔王に伝える。確かに巨大なワームが目の前に降ってくれば鳥肌ものだ。魔王はとりあえずワームを消滅させる。
「情報がこれだけだと何もできないよな。とりあえず出てきたところまで連れてってくれ。あ、一号はちょっと待っててくれるか?」
そう言い、一号をその場に止めさせ、二号の背中に乗り目的地まで進む。奥に進むごとに微力だがわずかに魔力の力が感じられた。魔王は二号から降り、潜水する。潜っていくと、小さな穴があった。
「なるほど。ここから来たんだな?壊しておこう。だが、ワーム単体では来れないし・・・俺の召喚に巻き込まれたのか?いや、それはない。そもそも俺は城から術を使った。その後は壊したしなぁ・・・」
魔王はこの世界に来た瞬間、外側から魔法陣を壊した。ならば何故?と思考に浸ったが、ここは水中。辛くはないが動きづらいので一旦陸上に戻る。考えているとだんだんとめんどくさくなり、一度家に帰ろうと、今日は解散した。
家に着いたとき、時刻は九時をとうに過ぎており、玄関にはアリスが待っていた。一言二言交わしながら部屋に行く。
「今日はどうしたんですか?」
「いや、少しな。・・・ああ。亮二はいるか?」
「当主様ですか?はい。自室に居られますが」
「そうか。ありがとう」
一度風呂に入り、亮二の自室へ向かう。歩いている途中、このことを話すべきか?と思ったが、一応知らせても害はないだろう。そう思い直し、亮二の部屋の前へとたどり着いた。
「亮二。今いいか?」
「ん?隼人君か。どうぞ。空いてるよ」
魔王は亮二の部屋へと入り、空いている椅子に腰を下ろした。亮二が作業を一旦止め、魔王方へ向き、魔王は先ほどの経緯を話す。話を聞いていた亮二は驚愕の表情をしていた。
「な、なんだって?魔物がこの世界に来ているかもしれないだって?」
「ああ。だが、俺が感じたのはそのワームだけだった。それは消滅させたから大丈夫だ。問題はまた魔物が出てくる可能性があるってことだな・・・」
「・・・隼人君が使った魔法陣は破壊して道は塞いだんだよね?ワームはどうやってこの世界に来たんだろうか」
やはり共通して一番気になるのはどうやってこの世界に来たかということだ。魔王によると、この世界に来る技術を持った魔法使いはいないとのこと。
「・・・一応警戒しておくか。亮二は気にしなくてもいいから」
「そういうわけにもいかないよ。こっちはこっちで戦力を投入しておこう。なに。みんな腕は立つと思うよ。家には人外がもう二人いるし。あ~、でも一人は無理っぽい」
「・・・そうなのか?亮二と、誰?」
「まあ。そこは追々」
話をはぐらされるが、時間も時間。十一時を過ぎており、亮二も眠く、今日は終わりにしてくれと魔王に頼み、解散となり、魔王は両耳の部屋から出ていき、ほかにも魔物がいないか、広範囲の結界を張りに外へと向かった。
「さて、反応するかな?」
家を中心にどんどん広げていく。が、魔物らしい反応が得られなかったのでしょうがなく、張ったままにし、部屋に戻った。
・・・・・・・・・
一日が経過するが、結界には反応がなかった。魔王は一種の事故だと決め、あまり気にせず三人でいつもどおり学校へと向かった。
教室へ入ると、いつものように兼太と話し、HRが始まるまで時間を潰す。途中でリンが入ってき、場が盛り上がるが、チャイムが鳴りお開きとなった。いつもどおりの日常。何の変哲もない授業。魔王はこの時間を気に入っていた。
ふと、魔王は結界から何かを感じたのは二時間目の休み時間。いつも通り五人と日向を加え駄弁っていると、違和感を感じた。魔物の気配ではなかったが、何かがこの世界に来る。
「すまん。俺早退するわ」
「ん?どうかしましたか?」
「いや、ちょっとな。済まない沙苗ちゃん。言い訳をよろしく」
「へ?ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
「なんだ?アイツ」
沙苗が止めようとするのも虚しく、魔王は鞄を持って校門へと走っていった。残された五人は唖然と魔王の背中を見送った。
学校を抜けた魔王は異常を感じた場所へ、今回は結構近かったので使い魔は使わない。屋根から屋根に飛び移り、一目散に駆けていった。
「・・・ここだな」
魔王が路地裏に入った瞬間、魔法陣が現れた。そこから人影が三つ。激しい光が収まった時、三人の姿が見え、魔王は驚愕した。
「な、なんでお前らが来てるんだよ。・・・六十回目共」
そこにはこの世界には似合わない服装の六十回目の戦士、賢者、魔法使いが立っていた。三人は一度周りを見渡し、魔王と目があった。
「ってトミ君!ヤバイよ。一般人に見つかっちゃったよ!」
「落ち着いて。記憶を消せば問題ない」
「リーヤの方が焦ってるじゃねえか」
カオスになっていたが、魔王は一度自分の体を見てみると、なるほど。身長が小さいからわからないのか。ならばと、その場で身長を変え、制服からいつもの服装へと変わる。
「っ!魔王!」
「今頃気づいたのか。で、この世界に何の用だ?」
その言葉ではっとした戦士は魔王に経緯を話す。話をまとめると、魔王がいなくなったことがサウスランド中に広がり、民は大喜びで祭りを開催していた。だが、その情報は魔物にも伝わっており、これを好機と見た魔物は攻め込んだ。民は祭りの途中だったのでなす術なくどんどんと魔物に殺されていった。
異変に気づいた戦士、賢者、魔法使いは三人で魔物を撃退していく。しかし、敵の数は圧倒的に多く、まずは住民の避難を促した。全て避難させた後、王家を助けに入ろうと城に入ったとき、目にしたのは、王家を全て殺し尽くしていた勇者だった。
戦士はなぜこのようなことをしたのか問い詰めるが、勇者は剣を振り、三人を外に吹き飛ばした。三人はこの現状を魔王に伝えるため、魔王が使ったであろう魔法でこの世界に来たというわけだ。
「・・・よく成功させたな。まぁお前の技量だったら行けた、のか?」
「結構大変だった」
「魔王。ソートを、国を助けてくれないか?」
「・・・バカバカしい」
「は?」
「何故俺が勇者を助けなきゃいけないんだ?そもそも俺らは敵。それに国を助けろだと?お前ら人間が俺に頼らないと言って都合のいい時に頼ってくるんじゃねえよ!!」
「ひっ!」
魔王は怒りを露わにし、賢者は戦士の後ろに隠れる。サウスランドの人間は魔王とは共存していない。自分達は魔法を使える。なら魔王なんていらない。そう考えている。魔王もそれを承諾し、生活している。攻撃するなら迎え撃つし、攻撃しないのなら手を出さない。
「貴様ら人間は俺を殺す。俺は迎え撃つ。その関係はどうなっても変わらない。あと、俺は国がどうなろうが関係ない。こっちに居場所があるからな。それともイーストランドのように俺が全てを握ろうか?」
「くっ・・・」
「用がないなら俺は行くからな」
面倒くさくなった魔王は三人を置いて去ろうとしたが、魔法使いに止められる。
「待って」
「なんだ?メガネ」
「私たちはここに来たのが初めて。よくわからないから出来れば貴方を頼らせて欲しい」
「はぁ?自分達で何とかしろよ」
「お願い。国のことならもういいから。帰ろうにも魔力がなくて・・・」
見るからに魔法使いは疲れていた。魔王は一度考える。確かにこの格好でウロチョロされては困る。戦士は重装備、魔法使いや賢者ももうこっちではコスプレみたいなものだ。
「・・・はぁ仕方がない。待ってろ」
魔王は携帯を取り出し、亮二に電話をかけ、事情を話す。
「済まないな」
『いやいや。別に大丈夫だよ。服でしょ?一旦アリスに変わるね』
「ん?ああ。お願いするよ」
数分し、アリスが電話に出て魔王に指示を出す。一度三人の写真を携帯で撮り、私に送れと言う。魔王は了承し、電話を切り、三人に事情を話す。
「・・・とりあえずこっち向け。まずは、お前だ」
「なんだ?うわっ!」
戦士を前に出し、写真を撮る。シャッター音に驚いたのか、間抜けな声が出た。魔王はすぐ順番に二人の写真を撮る。
「ひぅ!」
「・・・」
魔法使いは動じず、賢者は動いてしまった。余計に取る羽目になり、魔王は呆れ顔になっていた。
「で、どうすればいい?」
『不知火様はそこで待っていてください。場所はわかりますか?』
「ああ。コンビニが見える」
『・・・・・?すみませんがそれだけだと情報不足でして。出来れば周りの風景も写真で送って頂けませんか?』
指示通り、周りの風景を写真に収め、アリスに送る。アリスは分かったのか、四十分ほどで迎えに行きますと言い、電話を切った。
「魔王、助かった」
「お礼はここに来る人にしろ」
それ以降四人は喋らなかった。魔王は壁に寄りかかり、目を閉じながら車を待つ。アリスの言ったとおり、ジャスト四十分に車が近くに止まり、メイド服を着たアリスが数枚の服を持ちながら近寄ってきた。
「すみません。メイド服とスーツしかなかったんですが、ちゃんとお体に合うものを持ってきたので我慢・し・・て?」
アリスは三人の格好を見て言葉を失った。さすがのメイド長も鎧などは常識外だったので戸惑った。が、すぐに態度を戻し、三人に服を渡した。
「どうします?ここで着替えますか?」
「奥が陰になってるから順番に着替えればいいだろ」
「あ、あの・・・着方が分からないのですが」
「ではお二人は私が。不知火様はあのお方をお願いできますか?」
「・・・・分かった」
女子は陰の方へ向かい、戦士はここで着替えることになった。路地裏なので辛うじて着替えるのに問題はなかった。戦士はなんとか着替え終わる。
「では、揃ったところで車へどうぞ」
四人はアリスに連れられ車に乗り込んだ。終始中がギスギスしていたが、アリスはなんでもない顔をしながら運転していた。家に着いた一行は荷物を降ろし、そのまま客前と向かった。
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