第十三話 なんてこったい。
魔王はとりあえず四人を後ろに下げ、強盗の様子を伺った。強盗は金を詰めろと指示し、銀行員は指示通りお金を入れる。
「お嬢様。絶対に前に出ないでくださいね」
沙苗も詩織を守ろうと魔王の隣まで出る。二人は銀行強盗の様子をしっかりと警戒し、いつでも動けるように構えていた。
「おい。これで終わりなのか?」
「分かりません。実際こんなことは初めてですからね」
「お、おいおい。隼人。どうするんだ?」
さすがの沙苗もこれは堪えたようだ。その直後、警察がこの銀行を包囲し、強盗に大声で呼びかけていた。
「・・・あれって逆に犯人を煽ってるよね」
「・・・・・・・・」
「燐?」
「こ、怖い・・・」
「あ~・・・大丈夫だ。俺が付いている」
「隼人君・・・」
とは言ってもここから強盗を捕まえることはできない。もし他にも仲間がいれば動いた瞬間にやられる。ならどうするか。しかし、考えている間に強盗は銀行内にいる人たちを縛り上げていく。魔王達もしっかりと縛られた。
「困りましたね。なぜ私が不知火さんと縛られなければいけないんでしょうか」
「仕方がないでしょ。俺の隣にいたんだから・・・それに、もしここで抵抗してお仲間がいたら俺はともかく、君たちは殺されるだろ?」
「そうですが・・・」
全員縛り終えた強盗は近くにいた人を立ち上がらせ、人質を取った。
「おら!立て!」
「ひっ!」
「!しまったな。人質か。ん?うちの高校と同じ制服?」
「あ、あの子は・・・」
「燐?知ってるのか?」
「う、うん。って隼人くんも知ってるはずだよ?同じクラスの島田日向ちゃんだよ。しかも席が斜め後ろなのに」
魔王は考えたが、思いつかなかったので、一応その場凌ぎで答えた。
「・・・・・・・・・ああ。あの子ね」
「忘れてたでしょ」
「まぁ気にするな。さて、どうしたものかな。こっちは縛られているし・・・沙苗ちゃんは抜けられる?」
「残念ながら」
動きを封じられた魔王はどうしようかと考えたが、よく考えてみるとなぜ自分が人間を助けなくちゃいけないんだと思い、
「まぁいいか・・・」
「何がいいんですか?・・・もしかして自分には関係ないとお思いですか?」
「・・・わかったよ。できる限りなんとかする」
別に断っても良かったが、後が怖いのでやることに決めた。現状を確認すると、魔王と沙苗で縛られており、後の三人は一緒に縛られていた。強盗は外を警戒しており、こっちにはあまり見てはいなかった。決心したのか、魔王は沙苗に尋ねる。
「・・・はぁ。沙苗ちゃん。俺の動きについていく自信は?」
「分かりません。ですが、ついていけるようにやってみたいと思います。いや、やります」
「って隼人達、何をやろうとしているんだよ!」
「救出だ」
隼人と沙苗が立った瞬間、隼人の足が浮く。そう。今は背を縮めているため、隼人より沙苗の方が若干大きいのだ。
「・・・ぷっ」
「・・・くそう!くそう!」
魔王は悔しがるが、今はそんなことをしている場合じゃない。すぐに沙苗に指示を出す。
「沙苗ちゃん。俺が合図したらあいつに突っ込んでくれ。仲間がいるかもしれないが・・・まぁなんとかなるだろう。行けるか?もし行けないなら俺だけで行く」
「いえ。私も同行します。これでも二階堂家のメイドですから」
「・・・ん~、本当は俺だけで行きたかったんだが、まぁ仕方がない。作戦は・・・だ」
「な!?そんなことが出来るんですか!?」
「やるしかないだろ」
困惑する沙苗は戸惑ったが、これ以上の作戦は思いつかないので決行することに決めた。強盗はこっちを見ていない。魔王の今だ!という言葉とともに、駆け出し、強盗の懐に入る。それに気づいた犯人だったが、反応が遅く、沙苗の膝が鳩尾に入った。
「がはっ!・・くそ!」
「ちっ!」
甘かったのか、強盗はすぐ復活し、持っている銃を沙苗に向け発砲する。瞬間、魔王が腰を低くしながら回転し、銃弾を避ける。腰を低くしたことにより、沙苗は浮き、そのまま魔王は回転した。ということだ。銃弾は運良く縄をかするだけだった。そのおかげか、縄が解け、沙苗と魔王は離れた。
「・・・やはり君は近接はあまり得意じゃないみたいだな。・・・うん。じゃあの」
「ちょ!」
魔王は回し蹴りで沙苗を三人がいる場所へと蹴った。そのまま強盗へと攻撃しようとしたが、
「そこまでだ」
六人の男に囲まれた。全員片手に銃を持っていて、魔王に向けている。攻撃の意思がないということで魔王は一応両手を上げる。それを見た四人は助けに入ろうとしたが、魔王が静止する。
「おい。お前はあの女をしっかりと拘束していろ」
「動くな。少しでも動けばお前は死ぬぞ?それと、お前の仲間もな」
「ここの警備員は何をやっているのかと思ったら、なるほど。あんたたちの仲間だったか。・・・めんどくせぇ」
警備員は四人に銃を向けている。
「・・・俺の目がおかしくなったのか?警備員が銃を持っているぞ?」
なぜ警備員が銃を持っているかよくわからなかったが、この状況は詰んだな。と諦めかけた途端、
「お、お嬢様!!」
「く、くそ!放せ!」
詩織は警備員の拳銃を抑えていた。警備員は詩織を振りほどこうと暴れ、ようやく振りほどき、追撃とばかりに詩織に拳銃で殴りつけた。
「きゃあ!」
「お前ら・・・殺してやる!」
「くっ!下がっていてください!」
絶体絶命。警備員は前に出た沙苗を撃ち殺そうと引き金に指をかけた。
「・・・ああ、もう!イラつくんだよ!人間風情が!」
ついに堪忍袋の緒が切れた魔王が立ち上がった。囲んでいた人間達は一瞬驚いたが、すぐに発砲した。魔王は腕を振り、魔力を放出して弾丸を上に反らした。
「・・・ああ?テメエら何勝手に撃ってるんだ?」
頭にきている魔王は近くにいた男の腕を蹴り上げた。腕は変な方向に曲がり、男は悲鳴を上げる。その声に強盗全員が反応する。それを無視し、捕まっている女の子を担ぎ、四人がいる方へと走る。
「いやああああ!速い速い!」
「!!なんだ!?」
警備員は後ろを向くが、時すでに遅く、魔王の蹴りが顎に入る。警備員は仰け反るが、追撃とばかりに腹に踵落としを入れる。オーバーキルだ。
「がっ!!」
「うわっ!は、隼人・・・えぐいな」
「白石君!?突っ込むところそこじゃないでしょ!?」
「う、撃て!」
強盗たちはもはや目には四人しか入ってなく、ほかの人間たちには目もくれなかった。その騒ぎがあったおかげか、警察が一気に押し入り、強盗全員を取り押さえた。
「・・・やばいな。警察はめんどい。行くぞ!」
「あ、ちょっと待ってよ!」
五人は警察の目を盗んで銀行から逃げていった。魔王は助けた女の子を抱えながら。
「ふええええ?な、なに?どうなてるの!?」
「少し黙らっしゃい。もうすぐで喫茶店だから」
「あ、はい」
・・・・・・・・・
ようやく喫茶店についた一行は席に着き、一段落。
「あ~・・・疲れた。なんでいきなりあんなことになるのかなぁ・・・」
「不知火さん。謝罪を」
「え?なんで?」
イラッときた沙苗は魔王を一睨みし、
「お腹がすごく痛いんですよね。女の人を蹴るなんて、どんな神経をしているんでしょうか」
「あ、いや、あれはなんていうか、・・・ごめんなさい」
言い訳をしようと沙苗を見たが、ものすごく睨まれたので素直に謝った。ハイライトの消えた詩織並みに怖かった。
「で、島田さんはなんであそこに?」
話が進まないのを見かねて、燐が日向に話を振る。日向は戸惑ったが、なんとか話し始める。
「お、お金を下ろしに行ったんですが・・・」
「ちょうど事件にあった。ということだな」
そんな理由しかないよね。と話し、六人は各々好きなものを頼み、話し始めた。勿論、魔王はちゃんと燐から報酬としてコーヒーを奢ってもらた。
「じゃ、ちゃんと送っていくんだよ?」
「はいはいっと」
「私とお嬢様はこっちですので」
「あ、あの。今日はありがとうございました!」
魔王は日向を家まで連れて帰る。家の場所は知らないのでついていくと言ったほうが正しいが。なぜこうなったかというと、今日の出来事は日向に深いトラウマを植えつけてしまったらしく、一緒に帰ろうと燐が提案した。兼太がいち早く立候補したが、帰る道が正反対だったので却下。燐も逆だったので、消去法ということで魔王になった。最も、兼太はものすごく落ち込んでいたが。
「兼太の落ち込みよう、すごかったな」
「そ、そうですね」
「・・・・」
「・・・・」
気まずい!魔王は心の中で叫ぶが、ここに居るのは自分だけ。どうしようかと思っていたが、ようやく日向の家に着いた。
「あ、あの。ここです」
「・・・ん。そうか。もう大丈夫か?」
「は、はい。あ、あの!」
「ん?」
「今日はありがとうございました」
「・・・ああ。そんなことね。別にいいよ」
手をひらひらさせ、魔王は家へと向かった。




