閑話・外道七師、地球に在り
果たしてこれらの閑話で広げた大風呂敷を語りつくすことはできるのか。自分でもわかりません、処女作ですし……。とにかく、勉強させていただきます
バテレンとアリスが通った異世界への歪は、かつてバテレンが所属していた秘密結社の触覚に引っかかった。
文明が築き上げた様々な技術体系(科学や魔術、仙術など)からはみ出た異端の術師たち、彼ら七人は旅の末に出会い、共同体を築き上げた。その名を『外道七師』、バテレン級の術師が寄り集まった地球人類最大の特異点である。彼らは暗躍して力を高め、特に社会に大した干渉するわけでもないながらも人間離れをした存在と化して地球に密かに君臨している。
その七師の一人に『笑いの渦』の『笑星軍』という通り名の邪仙がいた。仙人業界の跳ねっ返りで、興味から仙人共を殺すための様々な霊薬や呪法を編み出した末に仙人たちの私刑に遭って逃走、逃げ延びた先で七師の『皇帝』と出会って七師入りを果たすという何とも情けない経歴を持つ男である(ちなみに、『笑いの渦』という二つ名は自分の名前にこじつけて笑気瓦斯を仙人に吸わせて回った前科があるため)。しかしこの男、バテレンの親友でもあった。これがどれほど恐ろしい事かは想像に容易い。あのバテレンと同列の人間が果たしてどのようにすれば彼と友達になれるものなのか?
……とにかく、すべての七師について語っていたらバテレンについて語る文量が六人分も要るのだから割愛し、閑話としてこの笑星軍を軸にこちらの様子を語っていこうかと思う。
「我が友よ、ああ、どこに消えたんだ!」
バテレンがこの世から姿を消したという報告を受けて笑星軍は悲しみに暮れ、日課であった仙人業界への嫌がらせ(仙山への毒ガス散布や害獣の派遣など)も忘れて日本に飛んだ(当時、日本は鎖国状態でしかも飛行機など無いはずであったが、彼は飛んだ)。
バテレンは日本中で何か探し物をした後に密かに琉球へと渡り、更に船で南下した洋上で姿を消したらしい。しかし船が沈没したのでもないようなのだ。バテレンが使っていたのは七師の仲間内で使う魔法の船であり、その船が無人で漂流していたのが既に回収されていたのである。
「乗っていた人間だけが消えるとは、まるで人を消してしまう魔の海域『バミューダトライアングル』のようではないか」
七師の会議においてある者がそんなことを言った。
この発想自体はそれこそ単なる思い付きだったが、その思い付きは連鎖した。
「む、そういえば聞いたことがある。西欧の魔性の三角形に対応するもう一つの海域が確かあの辺りにあるとか。船を喰らい人を喰う三角、確かその名は『ドラゴントライアングル』。龍の三角、意味有り気ではないか、バテレンが好みそうな眉唾物じゃな」
「まさか、あのバテレンがそんなモノに喰われたとでも?」
「そう、彼は栄えある七師。飲まれたのではなく、彼から飛び込んでいったのではないか?」
「彼、そういうの好きよねぇ」
「そして、どこに消えた?」
「そう言えばその辺りは仙人業界じゃあ有名な『五神山』があるではないか。海中に消えたという二山を除いた三山でできるのもこれまた三角形。……妙な縁を小生は感じるぞ?」
「ならば、ちょうさしましょう。わたしはちきゅうのこういうみすてりーがだいすきです。あまりわたしのほしはなぞ、ないですから」
「よし、この笑星軍がとりあえず三山は案内しよう。興味津々のジェノバラヴォス君は来るとして、他に誰か来る?」
「別に、放っておけばよいではないかと朕は思う。バテレンならば自力で帰ってくるだろう。無論、手を出すなとまでは言わないが。すまん、そろそろ政治が忙しくなる時期でな」
「あ、そろそろお引越しでしたっけ? あれ見てないのって私だけなんですよね、今度見学したいなあ」
「構わんよ」
「……」
笑星軍は別として、『外道七師』の面々はバテレンの心配はあまりしていなかった。彼が通ったであろう時空の歪みとそれにまつわる(かもしれない)いくつかの三角、彼らが異世界の扉を開けるに足る興味はそこにしかなかったのである。
しかし、仮にイゾウの生きた時代に異世界への渡りが付いたならどうなるだろう。従来の世界観の崩壊や魔法と科学の交差など最近よく語られるテーマを総なめにするような事態が起こることは容易に予測できるが、もっと容易に思いつくことは帝国主義の列強と人間帝国とが手を結んで魔界を蹂躙する未来である。魔物の多くは現代兵器の数々によって続々駆逐され、下手をすれば人間界も魔界もろとも植民地化されてしまうかもしれない(これはその時のバテレンの動き方次第だろう)。そして、どちらにしろ後世、
「我々はとんでもないものを欲望に任せて破壊してしまった。これからは文化を大事にしよう」
という世に聞こえた文句で相対主義を展開したインテリの正義の魔手によって、生き残った魔物たちがありがたがられ、標本化され、慌てて研究が始まるのである(その一方でアメリカの大学入試かなんかで魔物用特別入学枠がお試しで導入されたりもするんじゃなかろうか)。そんな漫画的な光景までは幻視した(……この小説を読み返してみてもつくづく感じられるが、乏しい想像力である)。
ともかく、こうして七師たちはバテレンを道しるべに異世界へと少しずつ近づき始めたのである。