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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
妖物たちの世界
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意地

 鉄鬼は両腕でイゾウを挟み、放射される斥力を最も苦痛になる形でイゾウに叩き付けた。骨は軋み、筋肉は捻じれ、内臓は歪む。かつては剛健を極めた人斬りも、そうしたダメージの経験などあるわけがない。歯を食いしばることもできず

「アッー!」

とか

「グォー!」

と悶える事しかできない。


 鉄鬼がイゾウを捕らえてから数十秒が経過していた。

 圧倒的な力を見せ付けて勝負を制した鉄鬼であるが、内心不思議でたまらなかった。

「強情なやつめ、このままくたばる気か?」

余裕の表情を見せてはいたが、頬には金属質の汗が伝っている。


 この一見奇妙な焦りは、この強情な魔人がどうしても口を割らないためであった。

 鉄鬼は、生かさず、殺さず、捕縛し、痛めつけるのに最適な力加減の熱波を調整して放っている。最初の格闘でイゾウの頑丈さを肌で感じ取っていたのだ。

 したがって、イゾウはそれをものともしていないわけでも、潰れてしまったわけでもなく、強く恐ろしいその熱波の苦痛をどうにかして耐えているということが分かる。

 鉄鬼はそれがまさかただの気合や根性の類だとも思えない。この刺客にはまだ策があるのかもしれないと思い、力を強めるが、反応は変わらない。

 イゾウはぎらついた目を時折鉄鬼に向け、まるで勝ち誇っているかのように口を曲げる。

 そうするとまた鉄鬼は不思議に思えてきてしまうのである。そんな事のくり返しが、もう4、5回は続いているだろうか。その度に鉄鬼は対処に困るのであった。


 さて、仮にこのことの理由を説明するとすれば、それはイゾウが優秀な刺客であったということだ。

 イゾウは元の世界でも刺客として生きて、死んだ。その名残がここで発露しているのである。それは一つの『道具として』の忠義とでもいえようか。

 イゾウは最後は見捨てられたとはいえ、最後まで刺客、人斬りとしての役目は果たし続けていたのであった。


 では、何故イゾウがそこまで強烈な意思を持ちえたかを考えるとすれば、まずは『人斬り』というものについて考えてみなければならない。

 そもそも、イゾウに冠せられた『人斬り』の称号は、辻斬りのような、強盗や殺人狂の類のことを指してはいない。

 人斬りはもっと組織に取り込まれた殺し屋、いわば、組織の首吊り判事だったのである。彼のいた尊皇攘夷組織は危険な思想の組織ではあったが、暗殺という仕事はごく少数の実行部隊によって行われていた。

 イゾウのように元が浪人崩れであったような男もいれば、イゾウに毒を渡した男のように、仕事単位で契約を結ぶ、現代で言う傭兵のような男もいる。

 後者は完全な仕事をこなすが、その職人芸は高くつく。逆に前者は安いが質が悪い、といった具合であるが、イゾウは組織への忠誠と武者修行により、殺しの職人に劣らない仕事をこなすにいたるのである。

 その過程で、情報管理の術と拷問への対処は教育されていたと見て間違いない。

 そのために、イゾウは死ぬまで最大限に活用された。

 忠誠と実力を兼ね備えた上、常に殺しに奔走している恐怖の首吊り判事。それが人斬りというものであり、イゾウを表す言葉なのである。


 つまりは、そのやせ我慢の理由はプロの意地とでも言えばいいだろうか? とは言え、別にイゾウには隠し通すべき情報も何もなかったので、ただの負けず嫌いな男の意地とも言えるだろう。このときのイゾウはあまりにも無知であった。


 イゾウは単純なだけに心情を理解しにくい男で、鉄鬼にしてみれば何か裏があるのではないか、と邪推してしまうのが心というものである。

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