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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
妖物たちの世界
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鉄鬼

 いきなりなことだが、鉄鬼は手強かった。

(化け物め!)

 鬼の住処を荒らしに荒らしたイゾウでさえもそう思った。

 

 時計の針を少しだけ戻す。

 奥へと突き進んでいたイゾウは手痛い迎撃をもらった。地中、一つ下の階層から突き上げられた鉄鬼の拳はイゾウの胴をかすめ、周りの岩盤ごとイゾウを下の階に引きずり込んだのである。

 魔人の体は丈夫だった。激しく地面に叩きつけられても意識がぶれない。だが、突然の反撃はイゾウの心を揺さぶりに揺さぶった。

 (何だ、何だ!?)

この世に化け物がいると知らない者は大砲の弾か何かに当たったと錯覚するであろう衝撃であった。

 状況が飲み込めていないイゾウを鉄鬼は確認した。

「お前が曲者か」

声を発したのはイゾウの背丈二人前はあろうかという鉄でできた大鬼である。イゾウには最初、鉄の塊がしゃべっているとしか認識できなかった。

 それが標的であると勘付く前に第二撃目がイゾウを襲う。今度は体勢を立て直してかわそうと試みるが完全に避けきることはかなわず、拳はイゾウを地面に叩き込んだ。

「よくも同胞たちを斬ってくれたな。誰の差し金か、いたぶって吐かせてくれるわ」

 鉄の拳の一撃はこたえた。魔人の体でなかったら四肢が千切れ飛ぶような衝撃。

(殺し合いの次元がこいつに限って全く違う……)

 イゾウは己の体の頑丈さにも、鉄鬼の段違いの攻撃力にも等しく感動を覚えた。日本でやっていた斬り合いが馬鹿らしくもなってくる。

 しかし、そんなものに浸っている暇はなかった。第三撃目がイゾウに追い討ちをかけようとしていたのである。

「当たるモノかよ鈍間め!」

 すんでの所で拳をかわし、例の魔剣をかまえる。

 刺客時代(とは言っても未だ彼は刺客であるが)、チンケな刀の交わりに興じていた頃の癖で剣を構えはしたが、鉄鬼の巨躯の前では木の枝ほどの頼もしさすらないと感じた。

 種族の視点においては同じであるにもかかわらず、ここに至るまでに斬ってきた岩鬼たちと鉄鬼とでは巨大な差があったのだ。

 鉄鬼は魔剣を恐れなかった。

「ふん、そんな針のような剣で私を斬れるかっ。」

 第四撃目。イゾウは振り下ろされた拳をかわし、手の甲を剣で突き刺す。

(むむむ)

 不思議な事に鉄鬼の鋼鉄の皮膚は剣に対抗することができずにブツリと音を発てて裂かれた。

 すると、鉄鬼の表情がほんの少し驚きの色を帯びた。

「貴様、何をした!」

 イゾウは素早く剣と共に飛び退く。

(おお、効いている。不思議な剣だ)

 引き抜いた剣には赤紫の粘液がまとわりつく。重金属の混じったその血液は、イゾウに勝算と畏怖の念を起こさせた。

(よし、次は首だ)

という思惑と、

(これが血なのか!? 化け物め)

という悪寒に似たものが同時に彼を占拠していたのである。

 対する鉄鬼は不思議そうに自らの腕の傷口を見つめる。既に血の一部は鉄のように塊となって傷をふさいでいた。彼自身が溶鉱炉のようなものであるから、この程度でへたばるようなタマではない。

 鉄鬼にとって、傷よりもそれを作った魔剣の方が気になるようであった。

「魔剣か、それも相当な品と見える」

 ポツリとそう言うと彼の体に紅い筋がさっと走り、それは脈動のリズムを刻みながら黒い肉体に溶けてゆく。

「魔力のこもった金属という意味ならば、我が肉体も魔剣と言えよう。魔剣士よ、先のようにはもういかんぞ」

 どうやら彼は体内の魔石、魔鉄の魔力を開放したらしい。機関車に例えれば炉に燃料の薪をくべて燃やしているようなものであるが、鉄鬼のすさまじい熱量は周囲の空気を歪める程であった。

 鉄鬼の体は内から吹き出る熱で膨張し、熱された鉄の赤色も相まって、さらに一回り大きな怪物へと変貌を遂げていた。

 恐らく、彼にとっての戦闘がやっとこさ始まったのである。

 イゾウは動じず鉄鬼の首を落とすべく魔剣を構えていた。短期決戦。刺客の思考と言えよう。

「赤くなろうが何のことかやあらん。覚悟!」

飛び上がったイゾウは鉄鬼の首めがけて剣を突き出した。

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