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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
魔界入門
64/128

妖怪の山

四月から新しい生活が始まるので、更新ペースが変わる可能性大です。

 ククリは話を続けるよう促す。

「ではネクロ殿、対して妖怪の山とは、白玉狼とはどのようなお方なのでしょうか」

早速だが、ククリのこの態度にネクロは少しばかり違和感を覚えた。妖怪の山と鬼の郷とはかなり古い付き合いであり、他人に聞くよりも多くの情報を鬼は持っているはずなのだ。ましてや、先ほどの言葉通りに郷から出たばかりの者ならば、そんなことを言い出すはずがない。臭い。

 ただし、臭くは感じたが、それがネクロにとってさして重要な事案ではないことは分かりきっている(田舎者だし)。適当に聞き返すぐらいでいいだろう。

「お節介かもしれませんが、妖怪の山勢力についてでしたら、私などよりも鬼の里の出でいらっしゃるあなたの方がお詳しいのでは?」

ネクロはほんの少し鎌がかかった問いかけを返した。別にククリたちを疑っているわけではなく、「突けそうな所は突いておく」程度の好奇心に似た意図である。言葉通り、確かにお節介であった。

 実際のところ、ククリは鬼の郷にいながら通常の鬼たちとは全く異なる生活を強いられていた。予知能力者は囲まれ利用されるのがお決まりであり、ククリもその例を出なかった。驚くべきことだが、ククリはベクトルと出会うまでは予知で得られたもの以外の郷の外に関する知識を有していなかったと言う。それだけ厳重に隔離されており、そんな状況では遠い親戚のことなど知れようはずもない。

 ククリはここで本当のことを言ってもよかったのだが、慌ててとりあえず誤魔化した。ど下手であった。

「それは、あ、あれですよ。連れ(もちろんイゾウのこと)がまだヒヨっこのペーぺーの青二才(実は自分のこと)でして、妖怪の山に関しては私が彼に教えるだけで済ませても良かったんですけど、第三者の方の言葉のほうがいいかなあと思いまして、その、ネクロ殿は凄そう(意味不明)でしたから……」

などと、論のまとまらない意味不明の言い訳である。ククリは途中チラチラとアイコンタクトでイゾウに助け舟を求めたりもしたが、イゾウはヒヨっこらしく、

「ピヨピヨ」

とさえずっていた。知らないうちにヒヨっこの家来にされていた腹いせである。心中では魔剣の精霊と一緒になって大笑いをしていた。剣にはきっと娯楽が少ないのだろう。

 ネクロはこのざまを目の前にして、プチ錯乱に陥って言い訳にあたふたしているククリに申し訳なくなってしまった。

(鎌をかけても仕方がありませんね。かわいそうなことをした)

鎌をかける価値は、ゼロどころか嫌な気分になった分マイナスだったかもしれない。かわいそうな彼は大方鬼の郷に何らかの理由でいられなくなった落伍者か何かなのだろう。かわいそうに。

 同情したネクロが話題を妖怪の山に戻そうと助け舟を出したおかげで、しばらくの緩衝を挟んで何とかククリは平静を取り戻した。

 しかしククリ、未来予知の能力がなくなっただけでこうまで弱るとは情けない。だが、能力にかまけて調子に乗っていたククリだけが悪いとも言い切れず、彼のような心身共に不完全な能力者を作り出し、利用し続けてきた鬼の郷の方が遥かに罪が重い。これの報いかどうかは解釈によるのだが、後のベクトル体制においてククリは鬼氏族の頂点の座を与えられ、かつてククリを道具扱いしていた幹部どもを一人残らず過激な最前線に送り出して(クルセイダーの餌にして)いる。ベクトルがこのような感情的で無意味な人事を許すはずはないのだが、ここにククリとの例の『契約』が働いたらしい。詳しいことはククリが鬼の郷で送った日々と共に後で述べようかと思う。

 さてしかし、我々の目の前にいるのはそんな偉くなってしまったククリではなく、ヒヨっこ無能力者のククリなのである。

 話がそれて誰も得をしなかったが、ネクロは都合よく話を続けてくれた。

「ご存知のこととは思いますが、妖怪の山とは多くの妖怪種族が所属する連合です。妖怪というのは多種かつ一つの種族の個体数がひどく少ないのが特徴ですが、それを補うために大昔に天狗と河童が結んだ同盟が基となって、今では数百もの種族の妖怪たちが集う機関となっています」

 実は、ククリはこれすらよく知らなかった。

「ええと、鬼もその一員でしたっけ?」

これまた怪しい物の聞き方で、ネクロは「お前本当に鬼かよ」と聞きたくなったのをぐっとこらえて答える。

「鬼も妖怪と言えなくもないのですが、独立して妖怪とは少々異なった社会を形成しています。鬼は一つ一つの種族がわりと大きな力を持っていて、妖怪の山とは対等な対外関係をとっているのがほとんどなのです。大黒天殿が率いる吸血鬼氏族や『一種族一妖怪』の方々に至っては、少数ながらほとんど山(妖怪の山のこと)と対等の関係です。鬼の郷は中小勢力の鬼版の妖怪の山みたいなものですね」

「ちょっと待った、『一種族一妖怪』って?」

イゾウが口を挟んだ。好奇心は割と旺盛である。

「おっと、そこもでしたか(お前ら本当に何なのよ)。『一種族一妖怪』とは、正式には妖怪社会の中で何らかの要因によって誕生した超常的個体たちの総称のことですが、一般には彼らの大部分が所属する同盟組織のことを指します。最近そこのリーダーが亡くなってしまったらしくいろいろと立て込んではいるようですが、底知れぬ実力を(たぶん)秘めている謎めいた組織です。こう言っちゃなんですが、構成員の全員が異常者ですから……」

「超常的って、どんな奴らだ?」

「虎の妖怪なのに翼が生えてたりとか、岩鬼なのに鉄を食べたりとか、そういう尋常じゃない方々のことですよ。強力な特徴を持つゆえに元の社会で爪はじきにされたり逆に崇拝されたりと、何とも数奇な方々です」

ネクロの挙げた例のうちの一つは、明らかにこの前ぶち殺した鉄鬼のことである。恐らくその死は既にネクロに知れているだろうが、例えとしてわかりやすかったのだろう。

 また、蛇足であるが『一種族一妖怪』のメンバーの出自で割合が一番多いのが鬼であり、そのことからここで鬼の勢力の一つとしてネクロに紹介されている。後に話に関わってくることもあるだろう(たぶん)から、その時にさらに詳しく述べる。

「で、本題に戻りますが、今妖怪の山出身の魔王候補で有力なのはさっき申し上げた妖怪狼の頭『白玉狼』に加えて山犬族の『狗公方』に『狗夜叉』等が挙がります。ですから、最近の山はイヌ臭いんでしょうな」

最後の言葉には少しばかり侮蔑の念がこもっていた。大黒天サイドの立場であるから仕方ないか。

 ちなみに、上で挙げられた山の有力者三人は当時協力関係にあったが、(ここでは述べられていないことだが)すでに狗夜叉は奇奇怪怪の一部兼下僕ゾンビにさせられてるためこの三人の協力する姿を拝むことは不可能である。

 「まあ、この代の魔王は大黒天殿でなければ妖怪の山勢か何かだとは思いますけど、一応最近台頭している中くらいの勢力の話もしておきましょうか、一応、ね」

 ネクロも、人に物を話すのがあまり嫌いではなかった。

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