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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
妖物たちの世界
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鬼斬り

 舞台はベクトルの魔法研究所から遠く離れた鉱山へと移る。

 その山に住んでいたのは『岩鬼』という鬼たちであった。岩鬼族は鉄鬼という男を筆頭に魔王の座を狙う氏族勢力の一つである。

 さて、鬼といってもそれが持つイメージは数え切れない。トラ柄ぱんつに金棒姿の原始的なファッションの鬼もいれば、夕闇に紛れて処女の血を貪る鬼もいる。それぞれが我々にとって物語の典型的な悪役であり、未知の現象への畏れを象徴していた。

 過去の人間たちが、自分達のロジックで解決しない現象に対しての畏れを人格化して表現して誕生したのが我々の鬼である。

 現在、我々のほとんどはその存在を元の現象から切り離して考えるようになり、怖れるようなこともはやないだろう。しかし、この世界には魔法があるように彼らがいる。誰が鬼と名づけたかは分からないが、人外の化け物でありながら人の形をしているものは大体が鬼と呼ばれていた。


 岩鬼とは岩を食う鬼であり、その多くは魔石を好んで食していた。

 魔石とは魔力を含んだ物質である。種類によって様々な魔法現象を化学反応のように引き起こすことから神聖視されており、上質なものは古くから魔王への重要な献上品とされてきた。

 その中でも純粋な物質に大量の魔力を含有する『魔鉄』という金属系の魔鉱物があるのだが、彼らの首領鉄鬼は唯一岩に加えこの金属を食すことができたという。


 食べるということはそれと同化することに他ならない。魔石と金属の起こす反応が突然変異的に鉄鬼の身体を強化し、彼を岩鬼の頭とするまでに到る。

 魔王を志し、選ばれる者たちというのは基本的にこういった、生物種として異常な立場にある者が多かった。ちなみに、異常であるという点においてベクトルも例外ではないのだが、それが大きく物語を左右するのはずっと先の話である。

 岩鬼たちは自分達の鉱山を城砦に改造していた。

 我々の世界の常識で言うならば、山に砦を建てて拠点にするというのは非合理的である。戦をする上で兵糧や水の調達が困難であるからだ。『泣いて馬謖を斬る』の故事で有名な馬謖将軍が諸葛孔明に斬られることとなったのも、そのこと(水のこと)を度忘れして山の上に陣を置くという大ポカをやったからである。

 通常ならば篭城するのには向かない、逃げ足の速いそこいらの盗賊のようなやり方にも思える。コミュニティをさっさと捨てて逃げるつもりがなければこんなところに拠点はおかないと通常ならば誰もが思う。

 しかし彼らは岩鬼であった。

 彼らには体力があり、また山においては食料である岩に事欠かないため、打って変わって山は篭城にもっとも適した場所へと変貌を遂げる。

 岩鬼族は総兵力千を満たない比較的小さな集団であったが、そのような事情のために力を持った者達にも中々手を出されなかった。費用対効果からして、手を出す旨味が魔界の中で最も低い勢力であったといえる。鬼の郷もバックにあり、なかなかの外交上手だったと言える。


 だが、あえてそこに手を出したのがベクトルであった。

 目的はイゾウの魔人の体のテストに加えてもう一つあるが、伏せておくこととする。

『鉄の体を持つ鬼がいる。首を持ってこい。他は捨て置け』

 それがベクトルの下した指令であった。


「鉄鬼様、敵襲です!」

鉱山の最奥部、鉄鬼の居室に伝令が届く。

「数は?」

鉄の塊にも見える巨体から発せられる言葉は妙な威圧感を放っている。

「それが、襲撃者は一人だと言うのですが、どこから紛れ込んだかわからない上、手に負えない強さでございます」

 鉄鬼はこの時、この襲撃を良い暇つぶしができたぐらいにしか思っていなかった。

「突然現れた、か……。大方魔導師か何かの偵察だろう。おい、警護の奴らを撤退させろ。ワシが行く。そういう訳の分からん奴が直接叩きつぶすが上策」

 鉄鬼はそう言って笑みをこぼした。有り余るエネルギーが標的を常に欲しているのだった。


 もちろん襲撃者とはイゾウのことであった。ベクトルの魔法によってこの山の城砦に侵入したのだ。

「鬼共め、鬼退治だ!」

 イゾウは警護の鬼たちを斬りながら奥へ奥へと突き進む。その動きに無駄はなく、斬られた鬼たちは皆きれいに首筋を裂かれていた。

 こんなにバサバサと鬼どもを斬っていてイゾウは何を考えているのかといえば、

(この体、良い!。鬼たちがこんなにものろく、弱いと思う日が来ようとは!)

と、血に塗れた通路を駆け抜けながら魔人の肉体がもたらすその快感に打ち震えていたのである。

 

 

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