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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
妖物たちの世界
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ホームレス魔王候補

 魔王の座をかけた戦乱はベクトルの本格始動を待たずして早くも中盤へと差し掛かっていた。

 自宅兼本拠地であるエルフの森の研究所を焼かれ、森を追い出されたホームレス魔王候補ベクトル=モリアであったが、本当は綿密に計画を立てた上で鉄鬼殺害を皮切りに少しずつ魔界の勢力争いに身を投じる算段であった。

 それがどうだ。人間勢力の襲撃を受けるわ化け物じみたダークホースに物資のほとんどを焼き払われるわで乗り遅れまくりなのである。確かに『選定』によって戦いの勝者は滞りなく魔王となることが出来る。しかし、それでは足りないのである。仮にベクトルが単独で暗殺者じみたやり方を用いて最後の一人に勝ちあがったとしても、後の魔王軍の礎をそこ時ゼロから作り上げるのでは人間との戦いが成り立たないのである。

 そして、もしそうなれば確実に魔界は、魔王軍はバテレン達に叩き潰される。ベクトルは他の魔王候補達に先んじて人間界に現れた脅威を知る立場としてそれだけはどうしても出来ないと苦悩しながら、自らの館の焼け跡をうろうろしていたに違いない。

 彼に果たして名案は浮かんだのか。

 ベクトルはしばらくの思案の末、(存在を忘れ去られていた)ベクトル人形の自動操縦機能によって救出、誘導していたイゾウ達と合流し、策を練った結果を話し合うことにした。

 誘導地点、といってもそこは森から少し離れた山中の天然の穴倉に最低限の生活設備とカモフラージュ系の結界を設置しただけのしょっぱい隠れ家であり、たまにエルフに隠れて闇取引の取引場所に使うぐらいのものであった。そんな隠れ家に魔王候補、暗殺者、『神の眼』(笑)、そして魔人が一堂に会し、寄る辺もなく(バグは住処があるが要介護、ククリは鬼の郷から家出している)ウジウジ作戦会議をしているのだから面白さを通り越して情けない。それぞれのお家事情をよく知らないイゾウであってもこの情けなさは身にこたえ、らしくないながらも切腹まで考え出すような始末である。

 また、イゾウの頭の中ではどうしようもない自責の念と半ばイゾウの心中に住み着いてしまった魔剣の精霊とがこちらはこちらで脳内会議を行っており、とにかくもう情けない上に混沌としたベクトル軍(初期)結集の図である。情けない情けないと言っていると彼らが可哀想だが、本当に可哀想である。草葉の陰で大師匠も悲しげに体育座りでもしているに違いない。

 このままではいかん、と一番元気(無傷)なベクトルが切り出した。しかし、いつもの風格がちょっとばかし薄れているような気もする。

『イゾウ、ククリ。私が再起の準備を終えるまで二人には自由(の刑)を与える。お前達はあまりにも魔界の常識が無さ過ぎるからその間に魔界を巡るといい。そして、私の招集がかかるまでこの世界で生き残って見せろ。これは試練であり教育(であり厄介払い)だ。必ず私はお前達を呼ぶから安心して世界を見て来い』

 お前達の面倒を見ている暇は無い、とも意訳できるが、それが分かったとしても仕方のないことである。大師匠が言っていたのはこの事だったのかと一同半分錆び付きかけている思考で納得した。

「分かりましたお師匠様」

 ククリは脳内会議で悶絶しているイゾウの代わりに答えた。

 しかし、いつものように整然と構えている彼ではあったが、内心はイゾウと似たり寄ったりで荒れ狂う大海の如しであった。実を言うとククリ、奇奇怪怪の洗脳を受けてから未来を見る眼が靄がかかったかのように使い物にならなくなっていた。つまり、ただの小鬼に成り下がっていたのである。今までの生涯で築き上げてきたアイデンティティにも近い能力を失うことはかなりのショックであり、よくよく考えてみればそんな状態で世渡りできるような根拠もどこにもなかった。イゾウは頼りにならなさそうだし……。

(生き残れるかなあ)

と、漠然とした不安に苛まれつつも、鬼の郷の幽閉を抜けて以来始めての娑婆でもあるからちょっと楽しみでもあった。

 対してイゾウはベクトルのこの命を聞いて、彼がまだ人間であった頃に『あのお方』に道場の紹介を受け、各地を回って武者修行していた時のことを思い出していた。

(あの時は楽しかったし何も考えていなかったが、今度はどうかな)

イゾウは申し開きも弁明もせず、ざるのようにベクトルの命を承諾した。感想を思いつきはしても脳味噌がROM状態でアウトプットできない、半植物のような虚脱状態であった。

 彼らは考えることをしばらくしてやめた。疲労もさながら、緊張の糸というものが断裂してしまったのである。そして、この魔界一情けない作戦会議は終わった。

 その晩、隠れ家に蓄えられていた低質で少量のよく分からない謎の保存用魔界食品を腹にかきこみ、キャンプに来た子供のように彼らは川の字になって眠った。

 

 こうしてイゾウとククリは修行(魔界散策)へ、ベクトルとバグは新たな拠点作りのための工作へと行動を移したのであるが、このどうにもならなさそうな連中が再び結集する時どのようなことになっているかは後のお楽しみである。

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