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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
妖物たちの世界
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アリスの誘い受け講座

前回の後書きの通りです。いつ次が上げられるかわかりませんが、あしからず。

 アリスの魔力は膨大でありながら、彼女自身の性質上使用分野がひどく限られていた。一般的な魔法がアウトプット、外に放出するタイプのものであるのに対して彼女の魔法は引力に象徴されるような内向きの力なのである。俗に魔法が魔法といわれる所以たる現実離れした現象の顕現は彼女の身の内で須らく起こる。それはある時には快楽、ある時には生命力、また、あるときには存在そのものとして取り込まれ、彼女達は言葉の通り「自身を磨いて」いるのである。それはアリスに限ったことではなくてその他で確認されている女性の性魔導師に共通していることである(男子の性魔導師は限りなく少ないので参考にならない)。

 その要因には諸説あるが、性というものの持つ根本的な性質が深く関わっているのではないだろうか。我々の世界でも、女性が内向き、陰のものであるという世界観がマジカルな古代世界においてポピュラーであったように、本来女性とはそういうものなのかもしれない。

 少なくとも両性の行為における性器の役割や形状を考えてみると、自然と能動と受動や外向き内向きの性質がいやがおうにも想像される。彼女達の魔法は性的であるのと相まってそういった原始的性観念にまで遡ってしまっているのかもしれない。

 それはさておき、のろのろたらたらしているとベクトルがその陰的魔力によって色々と吸い尽くされてしまうかも分からなかった。引力に引っ張られているのであるから、相手に近づけば近づくほど重力場の影響は大きくなり、逃れがたいものへと変貌していくのである。

 しかも、なにも吸い取られるのは魔力や命だけではなく、情報や心までも彼女に引かれてベクトルから離れてしまうことになりかねない。前半の二つは暴力でも奪えるが、後半二つはアリスのようなタイプの精神の暴力でないと容易には奪えない。ベクトルがそんな心の部分の戸締りをきちんとしていたかどうかは甚だ疑問であり、少なくとも大抵の男はコロリとヤられてしまうだろうと想像できる。

 いや、結論から言えば、そもそも引力に対抗する術は何も無いのである。たとえ空を飛ぶ鳥、科学の粋を結集した飛行機であろうと重力を前提にしたものであり、ただ絶対者との距離を上手く調節しているものに過ぎない。

 そして、そのような小賢しい真似も星の重力相手ならそれも通用するだろうが、、ブラックホールを相手取ってはどうなるだろう。もちろん、答えは自明である。

 そして、アリスとは『魅力』という引力のブラックホールであった。無限に奪い続けることが出来る。若さ、力、情報、信仰、愛、財……。数え上げられるような単純な項目だけであっても彼女(達)はこれほど沢山のものを吸い寄せ続けて生きていたのである。

 ベクトルは必死であった。女性、しかも人間の色仕掛けにまんまとはまろうとしている自分を俯瞰することでようやく理性の綱を束ねて心につないでおくことがかろうじて出来ていたわけで、完全に守勢に回った上、効果的な打つ手を考えることも出来ないでいた。

 五感もいつの間にか現実的な部分が麻痺し始め、アリスという快楽への中毒症状に似た渇望の痺れによって支配されかかっており、あらかじめ焚かれて用意されていた媚薬の香や照明の光による催淫的演出装置の存在すらも見抜くことが出来ない。

 対するアリスはベクトルの命綱である思考を、ナイフできりきりと切れ目を入れるようにベクトルの五感を責め上げた。生殺しである。

 ここで重要なのは、未だアリスがベクトルの体そのものに技を繰り出さずに、視線、仕種、魔力、そして言葉によってここまでベクトルの心を引いていたということである。それは優れた武人が敵に手を触れることなく戦いを制するのと同様で、両者のその分野における力量差をありありと示すものであった。

「お兄さん、こういうこと初めて?もっと肩の力を抜いてもいいのよ」

 などとアリスは余裕の笑みを浮かべ、年上のお姉さんに先導されている童貞のような屈辱感(とそれに伴う一種の快感)を、まるでバケツで水を浴びせかけるかのようにじゃんじゃん浴びせかけた。

 ここにはアリスが攻め、ベクトルが受けという関係が擬似的に演出されているのであるが、アリスの目論見はその先にある逆転、いわゆる誘い受け的逆転と、そのムーブメントによるベクトルの理性の完全破壊にあった。つまり、男性側が屈辱と快感に発狂してアリスを無茶苦茶に犯すことをアリス自身が自らのために望んでいるのであり、全てはそのための演出なのである。

 これが達成されれば男性はアリスの前で理性を保つことはかなわず、その上大半の生命力をアリスに捧げる事となる。昨晩も同じ手でナルビナは散々に性格、理性を歪められてしまったことだろう。

 これには男性元来の強く硬く粗暴で大きな性質を表面化させ、支配下におくという魔法という概念を超えた本質的な男性の支配における効果もある(現代女性の誘い受けテクニックを作者は未だ見た事がないが、きっとすごいのだろうと想像して書いている)。

 よって、アリスの甘ったるい罵倒の声にも、

「されるがままでいいのかしら?この意気地なしめ。悔しかったら理性を捨てて獣のように私を犯して御覧なさいよ」

と、相手を快楽の徒に貶めようとする裏の暗示がこめられていたのであった。

 これは一種の戦闘でありながら、演劇のようでもある。アリスという女優が全てを取り仕切る屈辱、快楽の演劇。ほかの役者は盤上の駒であり、アリスがそれを手繰る詰め将棋。

 盤上に立たされた時点で負けが確定する、やくざで独りよがりなゲームなのであった。

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