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魔王の懐刀  作者: 節兌見一
妖物たちの世界
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北風と強姦魔

北風と強姦魔が人の服を脱がせる勝負をしたらどっちが勝つんでしょうか

 ベクトルはバテレンの術を感じ取り、術の対象が自分であることを瞬時に見抜いた。それは即ち自分の隠密行動がばれたということを意味しているので、潜入していた兵器研究棟から速やかに脱出しようとした。頃合である。

 この時点でベクトルは研究室からフリントロック式の拳銃二丁と数発分の弾丸を盗み出していた。人間界の最新鋭の兵器、魔界に在る兵器とは全く別の発想で作り上げられた物であることはすぐに見受けられたので、手はじめに二丁懐に収めたところであった。

 さすがはベクトルというべきか。ベクトルの館の数倍はあるような巨大な教会施設内でよくぞこれを探し当てたと思う。

 しかし、ベクトルにはこの兵器がどう作動するかがよく分からなかった。彼にしては間抜けなことに、銃口を覗きながら引き金を引いてしまったりとかしていた。もし実弾が入っていたらベクトルの野望はここで潰えていたかもしれない大ポカである。

 だが、それも仕方のないことではある。魔物は基本的に『機能』を物理的に組み上げるようなことはせず、抽象的な発想のままのそれを魔力によって顕現させることが出来るわけで(魔法)、わざわざ鉄の模型などを作って機構を再現する必要など無いのである。つまり、わざわざ機械などには頼らずに魔法で大体済ませられていたのである。

 例えば、拳銃を用いて弾丸を射出するだけならば、魔法において魔力を込めた物体を魔力ごと弾き飛ばせばそれで同じ効果が得られる。わざわざ弾を鉄の塊に入れ、中で火薬を燃やして弾を飛ばすだなどと言われれば、魔物の多くは大笑いすることであろう。

 もちろん魔界にも魔力を多く持たないが故に独自の機械技術を持つ集団もいなかったわけではないが、実力者たちには中々評価されないでいるせいで長い間不遇の立場にいた。確かに、奇奇怪怪やバグのような妖物たち相手ではその程度の兵器はかなり心もとない気もするのだが……。

 とにかく、魔力の個体保有量が魔物と比べて半分以下しかない人間がそのディスアドバンテージを克服するために高い技術力を持っているだろうことは想像に容易い。それはその一つの成果なのであった。そして、その技術の結晶は必ずしも魔物にとって無益だったとは限らない。

 さて、拳銃の話はまた今度にするとして、敵地、敵の世界にたった一人で潜入していたベクトルは潜入がばれ、位置を捕捉されるという大失敗を犯した。

 原因はよく分からなかった。確かにセキュリティ結界を抜けたり物を盗んだりはしたが、だからといってこんな術(バテレンの例の術)が自分の身に迫るほどのアクションではないつもりだったのである。何か決定的なミスがあったに違いないとベクトルは踏んだ。

 実のところ、確かにベクトルの隠遁術は一部の隙もなかった。しかし、バテレンの術は汎用性に優れすぎており、サーモグラフィの如くベクトルが保有する魔物の血を感じてとったのであった。

 ベクトルには、自分を包む『人間の術』が視線のように痛く感じられた。空気に魔力を含まない謎のエネルギーが満ちていた。

(この術はマズイな。早く抜け出さねば手遅れになる)

ここでベクトルにとって手遅れになるとは、何らかの呪縛を施されてマーキング、または攻撃を受けることを指した。人間とは狡猾な生き物であるから、どのような恐ろしい呪いを受けるかは分かったものではなかった。

 ベクトルはそれまで発動していた消音、透明化の魔法を強化して通路を駆け抜けた。多少手荒でも出来るだけ早く逃げ出さねばならないほどに、ベクトルは未知の術に対する警戒心が強かった。

 見えず、音を発てず。ベクトルは一陣の風と同様になった。屋内で風が吹くという不自然さを除いては、それはほとんど人の知覚に訴えかけることはなく駆け抜け、そして、すれ違う末端の教会構成員にも察知されずにベクトルは地下のセクションを抜け出すことに成功したのであった。

 警備が厳戒な場所を抜けていわゆる一般的な教会の部分にまで出てきたのであったが、ただではやはり逃げ出すことはかなわなかった。バテレンの術もまだ振り切れていない。だだ、出来るだけ遠くへ逃げ延び、身にかけられた魔法を除去しなければなるまい。ベクトルは、とりあえずの追っ手さえ何とかできれば後はどうにでもできるつもりであった。

 だが、そう上手くはいかない。怪物はむしろ表の協会をうろついていた。

 どこからともなく、

「風さん風さん、遊びましょ」

という声が響いたかと思うと、目の前にはいつの間にかによそ行きの服に身を包んだ美少女が立っていた。言わずと知れているが、アリスである。

 児戯か何かに捕まったかと思ったが、そんな生易しいものではない。アリスは突然腕を伸ばしてベクトルの上着の裾を正確につかむと、人間のものとは思えない重機のごとき力でベクトルを引っ張りこみ、瞬く間に近くの空き部屋へと連れ込んでしまったのである。まるで、強姦常習者のような(アリスは実際にそうである)鮮やかな手際を見せ、アリスはベクトルという侵入者を自らの土俵に引きずりこんでしまった。

 そこには文字通り強姦被害者に加えられるような押し付けがましい精神的脅迫がこめられており、ベクトルは一瞬とはいえ、アリスの為すことに飲まれてしまった。そう、飲まれてしまったのだ。

 飲まれることはマジシャンにとって死である。それは、手品師が他人の手品にまんまと魅せられてしまったようなものであり、沽券に関わることである。

 このことにベクトルは一瞬羞恥を覚えた。透明化や消音の魔法も効果が薄れていた。しかし、そういった動揺はおくびにも出さないのが一流の術師の条件であり、たとえその虚勢がアリスに見破られていたとしてもそれだけは意地で通さねばそれこそ本当に終わりである。つまり、ポーカーフェイスを決め込んだ、というやつである。カードで負けても勝負は捨てないという信念はベクトルを一魔導師にとどめなかった要因の一つかも知れない。

 さて、ベクトルの連れ込まれた部屋はほんのりと薄暗い倉庫であった。ちっぽけなランプが天井からぶら下がっていて唯一の光源として部屋を照らしていたが、アリスの体から発せられる魔力がそれを淫猥な怪光線に変えているように感じられる。現代の日本で分かる人がそれを見れば、流行場の周りに堂々と建っているあの淫猥な男女共用(例外あり)施設のいやらしい雰囲気を盛り上げるために用いられる照明のようだ、などと表現するだろうと作者は想像(創造)している。

 セッティングはばっちし。アリスは暗い部屋の中で色気を倍増させ、幼女の形をした淫魔としてベクトルに這いより、その全てをぶち壊しにして手に入れようと手を下半身へと伸ばした。アリスにとって自らの貞操への感覚などは無いに等しいことはいまさら言うまでもないことだろう。

「魔物のお兄さん、あたしとイイ事しない?」

などとお決まりの文句が後からついてくるが、ベクトルの耳にはほとんど入っていなかった。

 ベクトル、貞操の危機である。

 大切なお知らせ(2011年11月6日)

まずいことになりました。何が?と問われれば『受験』のただ一言に尽きます。

 状況を簡単にまとめます。

・作者は受験

・二月まで猛勉強

・この話が上げられているのもほぼ奇跡

 つまり、受験が終わるまでの間、週一更新は更なる予告無しに途絶えてしまう可能性大なのです。というか次回を来週に上げられるかどうかすら不明です。

 ご愛読をいただいている皆様には大変申し訳ないのですがしかし、大学で見聞を広めて小説の質を向上させるためにも必要なことなのです。どうかご理解いただけたらと思います。

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